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Moon phase  作者: 檸檬
蠢く世界
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phase-49 【武器の材料】

 冬、雪が降り始める前、学院を後にする。

 帰省の季節だ、しかし今回はアルフの剣を作れる職人を探す目的もある。


 そのため帰省は数日、後はコンフェデルスに向かう。


 予想通りと言うか予定通りと言うかリリスはやはり行けなかった。


 正確に言うと行けない訳では無い、しかし仮にも1国の皇女が出向くとなると、相手側にもそれなりの対応を求められてしまう。さらに彼女は加護持ちだ、アルフ一人だけではなく二人も加護持ちが動くとなると何が起こるか分からないだろう、との事。


 学院で留守番となったわけだが、ライラも思うところがあったのか一緒に残ると言ってきた。



 そんな訳でコンフェデルスに向かうのは俺とアルフ、そしてスゥイの3人だ。










「懐かしいな、2年ぶり、か」

 始めてあったときを思い出す、結局なんだかんだであの人とも濃い付き合いをした、その出会いで出来たこの武器にも何度も助けられた。トロールの騒ぎでは特に大活躍してくれた。


「そうですね、ブルムさん元気にしてますでしょうか」

 スゥイが声をかけてくる。あの人が元気じゃない所が想像できない、まず確実に元気にやっているだろう。


「そのブルムって人が、スオウの話してた凄腕の鍛冶職人か?」

 スゥイの話にアルフが入ってくる、そういえば名前は話していなかったな。


「あぁ、まぁ他の職人を知らないから絶対とは言わないが、この(オボロ)を作ってくれた一人だ」

 左脇に吊るしている(オボロ)を軽く叩き、返事を返す。そうだ、折角だからこいつも結構酷使したことだし調節、メンテをしてもらおう。


「へぇ~、そいつは間違い無いんじゃないか? 今から会うのが楽しみだぜ」

 楽しそうに笑うアルフ、学院の授業でもそうだったが、使い慣れた剣が無くなって貸し出しの武器では使い難そうだった、自分用の武器が手に入る事が嬉しいのだろう。まだ手に入ると決まった訳ではないのだが。


「気難しい人ですから言動に注意してくださいねアルフ、いえ、貴方の存在に注意してください」

 額に手を当て、はぁ……と、ため息を付きながら言うスゥイ。確かに余計なことを言いそうな気はする、でも意外と気が合いそうな気もしているが。


「なんだよそれ! 存在ってどうやって注意するんだよ!」



 馬車は走る、コンフェデルスに向かって。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














「おばあ様、加護持ちのアルフロッド=ロイルが連盟に入国しました、また例のスオウ=フォールスも一緒の様です」

 薄い金髪を肩より下で切りそろえ、眼鏡をかけた女性エイリーン=ベルフェモッドが当主の部屋で報告をする。


「ほぉ、何しに来たのかね、探りは入れてるんだろうね?」

 目を細め、此方を見てくるはローザ=ベルフェモッド、いまだ眼光は衰えず、六家の一つベルフェモッドを仕切っている女当主だ。


 アルフロッド=ロイルよりスオウ=フォールスの名前に反応を示す


「はい、どうやらアルフロッドの武器作りが目的の様子です、カナディル連合国家でも出来なくは無いのでしょうが、前回こちらに来たときに出会った職人を頼る様です」

 御者より仕入れた情報だ、確実に正しいと裏を取った訳ではないが、六家に嘘を付くほど愚かではないだろう。


「前回って言うとローズ家絡みだね、ちっ、またあそこかい、エイリーン、アンタ適当に人見繕って、正確な目的を調べ恩を売れそうな内容持ってきな」

 他の家に悟られるんじゃないよ、後レイズ家も顔を出してくる可能性があるからね、そこにもばれんじゃないよ。と続ける。


 これ以上増長させる訳には行かない、フォールス家も今や、カナディルとコンフェデルスで船を買うならあの家が関わっていない物は無い、とまで言われている。

 また、娯楽の少ないこの世界、菓子市場を殆ど牛耳っているあの家は厄介だ、手を組めるなら組んだほうが良い。


「ふん、例の本の件もあるしね、あの餓鬼だけでも関係を作っときたい所だが」

 その餓鬼いくつだったかい? とエイリーンに聞く。


「はい、今15歳、今年で16歳です、年齢には相応しくない言動、またローズ家に訪れた職人と交渉したのも彼個人です、年齢はあまり気にされないほうが宜しいかと」


「まぁ頭は切れるようだね、エイリーン、なんだったら女を使いな、そろそろ色を覚える年頃だろ。金には困ってないだろうし権力も興味がなさそうだ、金と女と権力、この3つで靡かないようなら……」

 心の中で呟く、私が出向くしかないかねぇ……、と。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















「おお! 坊主じゃねぇか、久しぶりだな! 元気にしてたか!」

 作業場に入ると同時に目が合ったブルムさんから声をかけられる。見た感じどうやら変わり無く元気の様だ、あえて言うなら少し髭が伸びただろうか。


「ええ、ブルムさんもお元気そうで何よりです」

 握手をしながら答える、手の平が荒れてタコだらけである。金槌を使い続けている職人の手だ。

 

「がっはっは、職人は体が資本だからな! 軟弱な奴らと一緒にされちゃ困るぜ! っと、嬢ちゃんも一緒か、知らん奴が一人居るな?」

 笑いながら答えてくる、と同時に後ろにいるスゥイに気づいたようだ。スゥイも後ろで頭を下げているのがわかる、その横のアルフに目が行き、訝しげな顔になる。


「はい、実は今日お伺いしたのはお願いがありまして、彼はアルフロッド=ロイル、彼の使える武器を作って頂きたいのです」

 アルフの紹介をし、今日此処に来た理由を話す。しかし、ブルムさんの顔は訝しげなままだ。


「あん? 鼻垂れ坊主にはその辺の武器屋で買ってあげりゃー良いだろうが、坊主がそんな事も分からない訳じゃないだろう?」

 変なものでも喰ったのか? とばかりに声をかけてくるブルムさん、変なものは食べてません、変な体験は生まれて直ぐにしましたが。


「まぁ、実は彼加護持ちでして、その辺の武器じゃ彼に付いて行けないんですよ」

 理由を話す、加護持ち、の所で少し眉を潜めたが、あまり信じてはいなそうだ。


「ほぉ……、加護持ちか、始めてみるな……。なるほどなるほど、鼻垂れの餓鬼にしか見えんが。まぁ坊主が言うならそうなんだろう。で、何すりゃー良いんだ?」

 アルフをじろじろ見ながら言う、が、彼から見ればただの鼻垂れの餓鬼らしい。一応トロールキングと戦っていた奴なんだが……。


「アルレ鋼の大剣を作って頂きたい、長さは……、アルフ?」

 長さまでは聞いていなかったので後ろにいたアルフに話を引き継ぐ。


「あ、あぁ、ええと、アルフロッド=ロイルだ、宜しく頼む。長さは出来ることなら2mは欲しい」

 話を振られたアルフが前に出てきて、ブルムさんに挨拶をする。そして身振り手振りを加え、長さを伝える。


「おいおい、2mだぁ? そんなもん振り回せるのかよ? アルレ鋼つったら重さも相当だぜ?」

 馬鹿じゃないのかこいつ? とばかりにアルフを見るブルムさん、確かに気持ちは分からないでもない。現に彼、馬鹿だし。


「あぁ、問題無い」

 大仰に頷き返すアルフ、その顔は自信に満ち溢れている。


「ふん、いいだろ、本当に振り回せなかったらその頭かち割ってやるぜ。だが、悪いな鼻垂れ、2m分のアルレ鋼となるとかなりの量だ、金の心配ってわけじゃねぇ、材料そのものがねぇ」

 その顔に思うところが合ったのか了承するブルムさん、しかし申し訳なさそう、というよりは仕方が無い、といった顔で此方を向き話してくる。内容は予想通りではあった。

 

「うーん、やはりそうですか、仕入れは?」

 おそらくネロさんが確実だろうが、念のために聞いて見る。


「ネロに言えば何とかなんだろ、だが高いぜ」

 予想通りだった、高いのもまた予想通りだ。フォールス家で買えば買えない事もないだろうがアルフが嫌がるだろうし、しかし武器が無ければ何かあったときに困る。


「直接取りに行くのは?」

 アルレ山はコンフェデルスの領地に殆ど存在している。おそらく管理している家があるはずだ。


「あそこはアウロラ家の管轄だからな、生憎俺は力に成れんな、ローズのナンナ嬢ちゃんに聞いて見たらどうだ?」

 うーん、と考えた後答えてくる。アウロラ家か……、レイド家の当主からも言われたがあそこは臭いという話だったな、不確定な情報がある現状では出来れば関りたく無い。

 ローズ家にお願いするにしても同じだろう、彼らとて借りを作る可能性があるのなら避けたいはずだ。


「そうですか……、分かりました有難う御座います。では材料が揃い次第、またお伺い致します」

 お礼を述べ頭を下げる、難にせよ材料がなければどうしようもない。


「おう! 楽しみにしてるぜ、材料さえあるなら最高の物をつくってやらぁ!」

 手を振り答えてくる、その顔は自信に満ち溢れた職人、プロの顔だ。やはり彼にお願いしに来て良かった。


「あ、忘れていましたが作成に掛かる期間は?」

 そういえば、と思い出し聞いて見る。


「あん? そうだな、1ヶ月か……、いや、1ヶ月半は欲しいな。坊主の頼みだ、刻印も入れてやったほうが良いだろう。俺からリーズの姉ちゃんにも声かけといてやる」

 少し考えた後答えた後、すぐに訂正して伝えてくる。髭を撫でながら刻印の話をする。どうやら気を使ってくれたようだ、まぁその分料金はかかりそうだが……。


「有難う御座います」

 お礼を言い、作業場を出る。中途半端なものを作るよりはきちんとしたものを作ったほうが良いだろう。安物買いの銭失いではないが、ケチって死んだのでは笑えない。
















「スオウ良いのか? こう言っちゃなんだが材料はともかくとして作業料は掛かるだろ?」

 作業場を出た後、アルフが心配そうに言ってくる。


「あぁ、そうだな、と、言う訳でこれ、持ってけ」

 そう言って紙を数枚アルフに渡す、コンフェデルスに来たときに寄った冒険者ギルドで手に入れといた手配書だ。


「んが、これは……? って、おい!」

 意味に気づいたのか驚いた顔で此方を見、話してくる。


「最近近くの森や、離れてはいるが村の近くで魔獣が出るそうだ、トロール騒ぎに関係しているかもしれんが討伐依頼が大量に出ててな、頑張って稼げ」

 金がないのなら稼ぐ、当然の真理である。


「ぐぅ……、わかったよっ! んじゃぁ俺はちょっくら稼いでくる! 戻るのはいつ頃だ?」

 仕方が無い、と諦めたのか、納得したのか走り出す。と、思ったら直ぐに止まり此方に振り返って聞いてくる。


「一応1週間程滞在する予定だ、それまでに稼げるだけ稼いどけ」

 ローズ家との交渉や、場合によってはアウロラ家とも交渉しなくてはならない、1週間で足りれば良いが。


「あんまり時間もねぇな、しゃーねぇ、じゃあ早速出るぜ。1週間後此処で集合で良いか?」

 少し考えて答えてくる、まぁ、彼ならそれだけあれば十分だろう。

 

「あぁ、構わん。それまでに俺は材料のほうを何とかしておこう」

 材料がなくてはどんなに腕の良い職人でも作れない、しかし、あんまり恩を作ってしまうような事になるのも困る。俺としてはこの件を使って関係を深めれれば言う事無しなんだが。


「すまねぇ、恩に着る! じゃあ1週間後に!」

 手を振り走り出すアルフ、どうやら強化魔術を掛けたようだ、疾風の如く町を走り抜けていく。


「頑張って来い」

 聞こえてはいないとは思うが声をかける。



 カナディルとスイルでも同じように手配書を渡すか、実践訓練にもなるし良い事だろう。俺も時間があれば経験を積みたい所だが、俺の今の仕事は其れでは無い。

 さて、ローズ家と、そして場合によってはアウロラ家との交渉に行きますかね。




 俺は俺の戦場に向かう事にした。

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