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Moon phase  作者: 檸檬
カルディナ魔術学院中等部
52/123

phase-47α(幕間)

 水晶が一つ、空中に浮かんでいる。その水晶には今は唯の空、青い空が写っている。

 流れていく景色はまるで鳥の視界の様だ。







「ふむ、天然物はこの程度か、成長率は著しいのか? いまいち分からんな、が、こちらの物の方が品質は良いな」

 豪華絢爛な部屋の中には二人、男が居る。


 一人は恰幅の良い40代半場程度の男、髪は薄い茶色であり、目は同じ茶だが鋭く鷹の様だ。

 もう一人は痩せ気味の男、しかし見る人が見れば分かるだろうしなやかな筋肉が付いており、金の髪を短く刈り上げている。


 おそらく部下であろう、恰幅の良い男は机を前にし椅子に座り、痩せ気味の男は机を挟んで立っている。


「とはいえ向こうには2体、帝国は完成形が1体のみです、あまり楽観視されるのもどうかと」

 痩せ気味の男が話す、その内容は先ほどまで見ていたトロールキングとの戦いの内容だ。


「ふん、わかっている。ケルベロスからの報告はどうした」

 当然だ、とばかりに返し、渡された報告書に目を通しながら部下に声をかける。


「はっ……、それがファング部隊と合同で出てきてまして……」

 そちらの報告書と一緒になっていますので確認してください、と伝える。

 はぁ……、とため息を付きそうな様子からいつもの事なのだろう。


「またか、あの男はもう少し規律と常識を教え込むべきではないのか」

 ふんっ、と鼻を鳴らし言う、前々から言っている事だが変わらない。もはや上層部も諦めているようだ。

 結果を出している間は問題ないだろうが……。


「ええ、まぁ、そうですが実力は間違いありませんので」


「当たり前だ、これで実力も無い無能ならば即刻首を刎ねてやる所だ」

 実力がある、それは間違いない、これで態度もまともなら今頃突撃部隊などではなく中央に組み込まれていただろうに、いや、それが狙いなのかもしれないな。


「ファングの隊長からは、何か言っていたか?」

 報告を引き継いだ部隊の隊長の確認も取る。


「特に何も、結果だけ見れば我らとしては利益だけでしたが」

 逆にそれが不可思議、いえ、懸念ではありますが、と、続ける。


「そうだな、では量産型の作成に入れ、戦力は大いに越した事は無い」


「派手にやりすぎると上に目を付けられますが」


「構わん、あまり言ってくるようなら今回のこの件を使え」

 指を指しながら話す、指し示す方向は先ほど部下から提出された報告書だ。


「材料はいかが致しますか?」

 内容は問いかけだが目は任せてくれと訴えている、其方の方がやりやすいのはわかる、が……。仕方が無いだろう。


「任せる」

 少し悩んだ後、答える。此処で留まるわけにはいかないのだから。


「はっ!」

 敬礼をして部屋を出て行く部下を見送り、一人呟く。






「さて、誰の仕業だか知らんが有効活用させてもらおうか」

 水晶を見上げる。


 水晶はいまだ空を映していた。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・













「あん? お咎め無し? だと?」

 カナディル連合国家首都オールド、軍本部一室で牢屋に入れられていた二人が数日振りに外に出た後、上官の部屋にて報告を受けている。

 その顔は訝しげで納得がいっていない、なぜならば、先日のトロール騒ぎの件、あれだけ怒鳴られていたにもかかわらず、お咎め無し、との報告が来たからだ。


「どう言う事ですか、意味が分かりません」

 同席した副官のクローナ=ハナウェスが、疑問に思い質問する。


「ふん、勘違いするなお咎め無しではない、クローナ、貴様は西部へ異動だ。コンフェデルスの軟弱共と仲良くやって来い。ブルーム、おめでとう。貴様は元の国境警備隊に隊長として戻るだけだ、良かったな」

 手に持っている書類の束で、ポンポンと頭を叩きながら馬鹿にしたように言う。さらに内容は納得の行く話では無い。クローナはまだ異動、という処罰ではあるが、ブルームはまさにお咎め無しなのだ。


「なっ……、そんな馬鹿な話があるかっ!」

 明らかにおかしい辞令に思わず怒鳴る。


「黙れっ! 上官への話し方もまともに出来んのかっ!」

 それ以上の怒声、廊下にまで響いたであろう怒鳴り声で黙らされる。


「ぐっ……」


「も、申し訳ありません、ですがこれでは、飛ばされる程でもありませんし……、いえ、不満が有る訳では無いのですが……」

 同様に疑問に思ったクローナ、辺境地に飛ばされるわけでもない、むしろコンフェデルスの国境付近なら安全と言っても良いくらいだ。出世は厳しいではあろうが……。


「これが辞令書だ、持ってけ、それとブルーム、こいつも追加だ、持ってけ」

 そんな事はどうでも良い、とばかりに手に丸めて持っていた、先ほど自分達を叩いていた書類を渡してくる。そして、ブルームには机の引き出しから出した、一枚の紙を追加で渡す。


「なんだ……、これ……、は……、なんだこれは! どういうことだ!」

 渡された紙を読んでいる内に、段々と怒りに顔が染まっていくブルーム、そしてその勢いのまま怒鳴り散らす。









―――――ガッ








「黙れと言っているだろうがっ! 貴様っ! 一度ならず二度までも、貴様の脳はどうやら猿以下の様だなっ!」

 今度は怒声だけではなく拳も飛んできた、目の前で怒鳴り散らす上官の唾が飛ぶ、この理不尽な辞令、殴り殺してやりたいくらいだ。


「ぐっ……、しかしっ……! 国境警備隊を150名まで減らすとはいったいどう言うっ……!」


「ふん、上の指示だ、わしが知るかっ! 今回の件、貴様ら国境警備隊が役に立たないことがよく分かったからな、殆どを中央に戻して鍛えなおすとの事だ、どうせトロールごときで泣きべそをかくようなスイルの国境だ、十分だろう」

 子供に頼るような雑魚共を鍛えなおしてやる、と言っているんだ、感謝してほしいくらいだな猿がっ! と、言ってくる。


 なおかつ国境の事などまったく考えていないようだ、あそこはスイルの国境では無い、帝国との国境なのだ。コンフェデルスと違い、陸続きであるカナディルとスイルの国境の方が危険度が高いことなど分かりきっているだろうに。


「なっ……、あそこは帝国との境界線でもあるんだぞ!」

 理解していないわけないだろうが、何を考えているんだ、これだから中央の豚共はっ、思わず喉まで出かかる。

 部下を馬鹿にされたことも腹が立つ、だがしかし国境の問題、これを蔑ろにする等と……!


「なにかあれば中央から軍が出ることになっている、喚くな、黙れ、軍人なら上の指示に従え猿がっ!」


「ぐっ……」

 中央からどれだけの距離があるとっ……、と言おうとしたが隣のクローナから止められる。


「隊長……、ここは黙っていたほうが……」

 首を振り小声で話してくる。その目は真剣で、これ以上は無駄だろう、と語ってくる。


「だがっ……!」


「おい、いつまで突っ立ってる、さっさと出て行け猿共が、部屋が臭くなるわっ!」

 眉を顰め手を追い払うかのように払う、目はまるで害虫を見ているかの様だ。



「こ……、の……っ……!」


「隊長っ……!」

 ぐっと肩を掴まれ止められる、その手には力が入っている、そして目にも。




「失礼……、しましたっ……」


「失礼致しました……」

 搾り出すかのような声を出し、退室した。
























―――――ガンッ






「どうなってやがる……、この辞令明らかにおかしいだろうっ……!」

 退室後、壁を殴りつけて搾り出すように言うブルーム。


「ええ……、おかしすぎます、あれほど騒いでいたフォールス家の件は何もありませんでしたし、そして人員を此処まで落とすなどと……」

 こちらも手を顎に当て考え込む、しかし考え付かない、何かが起こっている、何か、おぞましい事が。


「国を滅ぼすつもりかっ……!」

 ガンッ、とさらに壁を殴りつける。驚いたほかの職員が此方を見るが、怒りの形相の隊長を見てそそくさと離れていく。


「まさか……、あくまで我等の位置だけではないでしょうか、ベルフェルスも後いくつか国境警備隊が配置されていますし」

 帝国との国境なのだ、一つの隊だけ配属されているわけではない、またベルフェルスは横に広がる長い山脈だ、全部を監視は出来ないにしても一定の間隔で部隊が配置されている。


「だが攻め込むとしたら俺らの所だ、西は深遠の森が近い、中央は山越えがきつい、となると迂回ルートで東の森を抜けるのが一番だ」

 お前だってそれは分かっているだろう、と目で語る。


「ええ……、それは分かってはいますが……」

 当然だ、そのため我等は錬度を高めてきたのだ、調査と言う名目の討伐も数少ない実戦経験として新人に積ませてきたのだ。もしも、の為に。


「くそがっ……、たかが150人で何をしろとっ、軍が攻めてきたら何も出来ないぞ!」

 悪態をつく、その顔は怒りを通り越して絶望の色が見える。


「私のほうでもいろいろ調べてみます、今回のトロールの件と良い、最近何かおかしいです」

 だがここで絶望しても、怒鳴り散らしても状況は変わらない、何が起こっているのか調べなくてはならない、手遅れになる前に。


「あぁ、すまねぇ、頼む、俺も他の国境警備隊に聞いて見る、人数変動が有るか無いかをな」


「ええ、わかりました」





「隊長」

 声をかける、思えば色々あった、最初配属された時はまだ隊長は結婚していなかった、結婚式もあの隊長が照れている姿を見れる、なんて思っていなかったから、とても新鮮だったのを覚えている。


「なんだ」

 2次会は酷かった、隊員全員で飲み比べをして吐瀉物の海と化していた、一番最初に軍を辞めようと思った日でもあった。


「今まで有難う御座いました、そして、また何時か宜しくお願いいたします」

 自分も体験した新人歓迎会と言う名の実践訓練、思うように動けず先輩に馬鹿にされたが隊長だけは何も言わなかった。



「どうせなら俺の上に立って楽させてくれ」

 くっくっく、と笑いながら頭に手を置いてくる。困ったものだ僕ももう30近いんだけどな……。


「そうですね、ではそれも考えておきます、では」

 頭を下げ、辞令書を持ち、人事部へ行く、確認と必要書類を取りに行かなくてはならない。


「あぁ」

 手を振り、返事を返してくる。




 上官の評価は最悪だったようだが、いや、日常態度は僕にとっても最悪だったけど、最高の隊長だった。

 また、必ず会えることを願って。











 ここで二人は分かれる事になる、その後二人が会うのは深遠暦667年、この時から7年も先である。



 一人は土の上、一人は土の下で再開する事となる。

4/2 感覚→間隔に修正

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