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Moon phase  作者: 檸檬
カルディナ魔術学院中等部
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phase-47 【親友の関係】

「さて、どう落とし前を付けられるおつもりでしょうか?」


 と、まぁ、開幕一撃目で学院長にかましてくれた母上。

 どこぞのヤクザじゃないんだから、と思わなくも無い。



 結局学院を辞める、とかそう言った事はなかった。学院長の胃薬の増量と体重の減少はあったかもしれないが、表面上は特に変わり無しだ。


 母上に関しては俺から色々言ったのも有り、抗議はとりあえず取り下げることになった、学院長のすまんかったのぅ、がいつもより思いが篭っていたのが感じれた。母上も本気ではなかったようだ、俺が辞めると他の面子にも影響が出るだろうし、まぁ、母上なりにいろいろ考えているようで、頭が下がる思いだ。


 アルフの父親は良い修行になっただろ、で済んだ様で、まぁグランさんらしいなぁ、と思わないでもなかった。


 ライラの両親は学院に来て少し話していたようだがライラの仲裁と無傷だったことも有り大事にはなっていない。


 スゥイの両親は不明だ、結局一度も見れなかった、入院中に来たのかもしれない、まぁ今も入院中だが。






 俺は結局3ヶ月入院となった、母上が完治するまで出すな!とフォールス家の力で病院に命じたらしい、使い方間違ってる気がしなくも無い。

 もちろん3ヶ月は暇すぎるので本を読んだりしているが、今回の事もあり父上に頼んで魔術書以外の本を取り寄せた。








 戦術等の本、そして歴史書だ。








 友を信じることは大事な事だ、そんな事は分かっている。だがしかしアルフとリリスは今後国の単位で揉め事に巻き込まれる可能性が高い、その際、友として守るには力では彼らには意味がない、知識だ、知識が必要だ。特に日本と言う平和な世界では知る機会も無かった戦術における知識。これを収めなければならない。


 そして科学技術を適切に流用し、力となる、それが俺に出来る事だ。


 もう、無様に寝ているだけなんて出来ない。



 問題は、そう……、スゥイとライラだ、彼らまで巻き込むわけには。




「いかない、なんて思ってますかスオウ」

 突然声をかけられた。


「むぐっ、げふげふっ、ごほっ……っ」

 驚きで思わず飲んでいた水を噴出す、一部気管に入り苦しい、死ぬ、助けて。


「い、いつのまに来たんだスゥイ……、というか何で……」


「顔に出ていますよ、私達に迷惑をかけるわけにはいかない、と」

 腰に手を当て、何を言ってるのやら、と見てくるスゥイ


「いや、そんな事は……」


「スオウ? 信じることは大事なことではなかったのですか?」

 大丈夫ですか? もう忘れたんですか? 頭大丈夫ですか? と聞いて来る、この野郎……!


「ぐっ……、誰からそれを……!」


「お義母様です」

 当然、とばかりに返される。


「くそったれ……」


「スオウ、あまり抱え込まないで下さい、私が、私が傍に居ます、しかたがないので」


「え、あ、ああ、うん? まぁ、いや、うん……。そう、だな、すまないが巻き込むよ」

 思うところは多分にあるが突っ込まないほうが良いだろう……、お互いの為に。


「えぇ、望む所です」

 ライラにも伝えておきます、まぁ彼女はアルフが居る限りは、と思いますけどね。と付け足すスゥイ。
















「あ、そうそう、スオウの留年が決まりました、それで私達も試験を見送ることにしましたのでそれをお伝えに」

 ああ、忘れる所だった、と言いそうな位の軽い流れで言い放つ。


「ずいぶん軽く言いやがったなこの野郎!」

 思わず怒鳴った俺は悪くない、きっと、たぶん。


















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

















 どうやら話を聞く所によると、野外活動に関してはトロールの襲撃によってうやむやになってしまった。

 が、結果から言うと野外活動の単位は貰えるとの事、しかし3ヶ月も休んでしまう為必修の座学の単位が取れない。


 そもそもが学院のミスなんだから何とかしろ、という話でもあるが。どうやら学院長としても1年欲しいとの事、どうやら別途のカリキュラムを作ってくれるそうだ。


 どちらにせよ高等部はストレートでいける人は5%も居ないとの事だし、母上の交渉もありこの1年学費は免除だそうだ。


 金の問題ではなくプライドや面子の問題だ。まぁ、学院側にも内々にという話にはした、探ろうと思えば分かるだろうが、そんな事ばれた所で然程問題は無い。

 

 ちなみにそのカリキュラム、その名も『1年間これで君も英雄だ!』思わず無言で切りかかりに行きそうになったのは此処だけの話にしておこう。







 主軸となるのはアルフとリリス、あとの俺達は希望すれば、との事だったが全員希望した、というか半強制だよな、これ。





 はぁ……、あの狸じじいめ、何を考えていることやら。













 とにもかくにも15歳、中等部2年目の夏が始まった。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・













「ううむ、本来であれば試験勉強をしている時期なのだろうが、何もしていないと暇でしょうがないな……」

 無事退院を果たし、夏休み。実家に帰省するのを少し遅らせて寮の部屋に5人全員集まっている。

 俺以外の人間は机に向かい一心不乱に何かを書いている、ご苦労なことだ。


「てめぇ、スオウこの野郎、嫌味かっ!」

 青筋を立てながら怒鳴る、どうやら限界に達したようだ。まぁ、きっかけが欲しかったのかもしれないが。


「アルフ煩いです、口では無く、手を動かしてください」

 ちらりとアルフの方を見た後、すぐに手元の紙に目を落とし言うスゥイ。


「そうだよー、アル君。早く終わらせないと一緒に帰省できないよー」

 こちらは困った顔をしながらアルフを見ているライラ、本当に彼女は苦労性かもしれない。


「そもそもアルフに静かにする事を求める時点で間違っていたのかもしれんがの」

 お前に言われたくは無いぞリリス……。まぁ、最近大人しいけど……。


「ぐぅぅ……っ……! おぼえてろよっ……!」

 ちきしょーと言いながら、また書き始めるアルフ。






 そう彼らはいわゆる、夏休みの宿題と言うやつをやっているのである。


 折角だから皆でやろうと俺とアルフの部屋に集まったのだが、正直、中等部程度、前の世界で言えば中学生レベルの宿題なんて1日で終わる。むしろ技術レベルで言えばレベルの低いこの世界、簡単すぎて困るくらいだ。


 また、入院中に歴史書もそうだがこの国の成り立ちや、他国との関係など調べ直し、また小さな頃から学んだ魔術知識もある。正直、配られたその日に終わってしまっていた。


 そんな状態だったので、勉強会を開こう! というアルフの提案、というか教えてください! という提案も、正直終わってるので別にいい。と言ったら泣きそうになっていたのでとりあえず開催したのだ。


 初っ端いきなり見せてくれ、と言って来たがライラとリリスから、「自分の為にならない!」と言われ、というか殴られ、しぶしぶ机に向かったと言う訳だ。







 まぁ、なんというか平和である。















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














「許してくれ、すまねぇ……。俺は、俺は力を持っているくせに、こんなザマだ、お前に怪我を負わせちまった……」

 母上のお説教の後、母上と学院で一悶着起きている間、アルフが病室に尋ねてきた。入るなりいきなり頭を下げ謝罪をするアルフ、その顔は珍しく真剣で泣きそうな顔をしている。



「スオウ、これも剥いて下さい、食べてみたいので」

 ロロの実と一緒にお見舞いの籠に入っていた別の果物をナイフと共に渡してくるスゥイ。


「おい、お前、俺一応怪我人なんだが……」

 無駄だと分かっている、分かってはいるんだ!でも言わずにはいられない、そうだろう!


「あ、これもお願いします」

 もう1個追加してきた……。

 


「本当に……、何と言っていい……か…………」

 俯いたまましゃべるアルフ、今にも泣きそうだ。



「大丈夫じゃないですか、しかし左手が使えなくても出来るものなのですね」

 するすると皮を剥くのを横に座り見ているスゥイ、一人暮らしをしていたからこういった事は普通に出来る。


「まぁ、抑えてるだけだからな、練習だよ練習」

 右手が怪我してたらさすがに難しかったかもしれないがな、と話す。



「その……、な……、あの……、えーと……」

 どうやら話を全く聞いて無いことに気づいたアルフ。



「あ、こら、そーいうのは俺が先に食うもんじゃないのか?」

 剥き終わり、何個か切り分けた所で横からひょい、とスゥイに取られる。


「良いじゃないですか、まだ沢山あるのですし」

 悪びれも無く食べるスゥイ、どうやら美味しかったようだ、もう1個と皿から持っていった。


「でも剥くのは俺なんだよな」

 まぁ、別にいいけど、と2個目を剥き始める。


「ええ、大丈夫です、そのうち私もやります」

 3つ目を皿からとりながら言うスゥイ。


「いつだよそれ……」

 本当にくるのだろうか、いや彼女はやると言ったら1.5倍くらいにしてやりそうだ。皮むき1.5倍ってなんだ……。



「あのー……、そのー……」



「努力はしてます、ええ、いつか唸らせて見ますよ」

 ぐっ、と手に力を入れて力説する、どうやらやる気はあるようだ。


「皮むきで唸らされる日が来るのか……、それは想像できそうにないな……」

 それはそれで凄いよなぁ、素直に感心できる日を楽しみにしておこう。



「お前……、お前らあああああっ! 聞けよ! てか聞いてくださいお願いします!」

 ついに変な所でお願いしだしたアルフ、なんか必死だ。



「煩いですよアルフ、その謝罪場面とか感動的瞬間みたいな物はもう終わったのです」

 はぁ、まったくこの子はもう、とでも言いそうな雰囲気のスゥイ。


「はぁ!? なんだよそれ! もういいから謝らせろよ!」


「まぁ、なんというかすまんなアルフ。朝、実はリリスとライラにも謝られてな、正直お腹一杯なんだわ」

 うん、本当にお腹一杯、それにリリスとライラに頼まれたしな。


「てめぇ、この野郎! なんで俺だけそんな扱いだ!」

 さっきまでの顔は何処へやら、いつもどおりのアルフがそこに居る。


「いやー、まぁ、なんてか俺とアルフの仲だし? いいんじゃね?」


「お前この野郎っ! 一生入院してやがれ!」


「くっくっく、すまんな」

 思わず笑いがこみ上げる、なんというか、やっぱり、アルフだなぁ。


「うるせぇっ!」

 怒鳴られる、しかし今はそれもまた心地良い。


「アルフ」


「なんだよ!」


「ありがとうな」


「あん? なんだよそりゃ……、謝ったことに対してかよ?」

 首をかしげ此方を見ている、理解していないようだ、まぁ理解できるとは思っていないが。


「くっくっく、まぁ、アルフだしな」

 しかたがないよな、とスゥイに聞く。


「そうですね、アルフですしね」

 しかたがありません、と同意するスゥイ。


「てめぇらあぁああぁあっ!」

 病室に叫び声が響く。








 本当に平和だ。

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