表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Moon phase  作者: 檸檬
次の名はスオウ
5/123

phase-3 【魔術の基礎】

 授乳を受ける。


 どうやらこの黒髪美人がこの体の母親のようだ。


 中身が別の人間だと知ったらこの人はどういう顔をするのだろうか、怒るのだろうか、悲しむのだろうか、少なくともまともな対応をしてくれる可能性は低いか。


 自分の知識流出や行動の制限が必要だろう、中世ヨーロッパと同じ治安かどうかは分からないがこの年齢で放り出されたら死しか無い。


 まぁ、ある程度の知識であれば天才児程度で住む可能性が高いか、リスクを負えど、得るメリットが高ければ要検討だな。


 しかし授乳を受けながらこんなことを考えてる赤ん坊など居ないだろうな。



 体に精神が引っ張られているのが感情の起伏が激しい、俺、坂上 奏としての人生経験もあり無理やり抑えているが食欲と睡眠欲が並大抵じゃないくらい高い。


 ある程度は我慢できたので最初のうちは限界まで我慢していたが、赤ん坊の状態で出来ることも少なく、そもそもその行動が赤ん坊”らしく”無い可能性が高い為、ここ最近は感情優先だ。


 若いメイドにおむつ(らしき物)を交換される時はなんともいえない気分になるが、仕方が無い割り切ろう。



 そして時代は確実に俺が生きていたころより昔なのが確定した。

 母親に連れられて少しだけ外に出たとき馬車が走っているのが見え、車など陰も形も見えなかったのだ。


 その上空には月が二つ。


 これは確定だ、間違いなく俺が住んでいた世界では無い。


 そこから考えるに俺が住んでいた日本ほど治安が良いとは思われない、これはますます放逐されるわけにはいかなくなった。


 まずはこの世界の知識、状況、情勢、使える力と手に入れる事の出きる力。

 最悪放逐されても生きていける状況下に持っていかなくてはならない。


 元の世界にさほど愛着も無い、この世界で生きていくことには不満は無いが殺されるわけにはいかない。


 死んで前の世界に戻れるなら考えないでもないが、保障が出来ないのでやるつもりは毛頭無い。


 まずは言語の習得だな、お尻を若いメイドに布でふき取られながら考えるのであった。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














 母の私室を訪ねる。用件は2年ほど前から続けている事だ。



「あら、どうしたのスオウ?」

 家業の事務処理をしていたのか机に向かっていた顔を此方に向ける。

 整った顔立ち、大きな目に黒い髪と目、背はさほど高くなく150といったところか、胸もそれほど大きいわけではないが括れた腰と長い足のお陰か背が低くともスレンダーな印象を受ける。

 名はサラ=フォールス俺の此方の世界の母親だ。


「母上、魔術言語を教えて頂きたいのですがお時間宜しいでしょうか」

 この世界には魔術と言われるものがある、存在を知ったのは3歳の時か、俺が町に出かけた時まだ前の体と今の体の差異に慣れず転んで怪我をしたとき、母上が治癒魔術をかけてくれたのだ。

 魔術など本の中の話だ、存在していることがすでに奇跡、怪我の痛みなど忘れ呆然としてしまった。


 母上が言うには、ほぼ全ての人間が魔術を使えるそうだ。しかし、ごくまれに魔術要素を持たない人間が生まれるらしい。その人間は悪魔憑きとして迫害されるようだ。

 今では原因がわかっており、誕生する際、魔術の行使に必要とされるマナを取り込むことが出来ず、マナを意識下で認識することが出来なくなるからだそうだ。

 後天的にマナの存在を知覚することが出来魔術を行使することが出来るようになる場合もあるそうだが、運によるところが大きいらしい。


 3歳まで分からなかったのはこれもある。俺の世話をしてくれていたメイドのルナがその魔術を使えない人間だったのだ。そのため魔術に触れる機会がなく(もしくは見逃しており)3歳になるまで気づけなかった。


「あらあら、もうそんな時間だったかしら、でももう私に教えられる範囲を超えてしまっているのよねぇ、どこか優秀な家庭教師でも呼びましょうか」

 時計を見てから少し驚いたように此方を見る、どうやら仕事が予定以上に溜まってしまっているようだ。


「いえ、そこまでには及びません、父上の書斎にある書物でもある程度は把握できますし、なにより母上の説明が一番分かりやすいので」

 家の家業は造船業だ。船を作る会社で俺は社長の息子といった所。

 造船業をやってることから船乗りとの知り合いも多く、父上が、自国、他国問わず書物を集めるのが趣味なのもあり、いろんな国の本が家にあるのだ。その中に魔術言語に関わる書物も大量にある。


 これは嬉しい誤算でもあった、本で習得できるものならそれに越したことは無い。自分の異常性を知る人間は少ないに越したことは無いのだ。


「うれしい事言ってくれるわね、さすが私の息子。しかしまだ7歳にもならないのに基礎魔術言語を習得した上、高等言語である複合魔術まで使うのだからもはや天才としか言いようが無いわ」

 あきれたように言う母上はどこか嬉しそうだ。


「まさか、第三皇女であるリリス皇女様は私の一つ上ではありますが、もはや複合魔術どころか基礎元素たる4属性だけではなく上位属性も含めた8属性まで収めたと聞きます、私などまだまだですよ」

 そう、カナディル連合国家の3女、リリス=アルナス=カナディル、天才、鬼才、魔術の申し子等の異名を持ち、若干8歳でありながら五国内でも指折りの魔術師である。城の外壁をぶち抜いたという話もある。

 8歳でそれとか絶対お近づきになりたくない人間だ。


「うーん、まぁ皇女様はなんというか比べちゃ駄目な気もするのだけど」

 遠い目をして言う母上、戻ってきてください母上、仕事終わりませんよ。


「それに私は所詮魔術だけです、アルフを見てください同い年なのにも関わらず先日グリズリーを倒してきたではないですか、それも素手で」

 今度は俺が遠い目をする。あぁ、昔の俺は馬鹿だった、自重とか本当に馬鹿だった、この世界は転生程度じゃ覆せないチート野郎が溢れ返っていやがる。


「スオウ、いいかしら、あの子はおかしい、絶対おかしいの、たしかに竜族の血が流れているからそんじょそこらの大人では太刀打ちできないのは仕方が無いわ、でもあの子は桁が違う、あの子は軍神の加護を受けているといっても良い、それも最上級である軍神グラディーウスの加護付よ」

 真剣な目をして俺を見る。その目はどこか哀しげでもあった。


「ですね、チートですね、わかります、わかってますよ母上」

 軍神の加護とかもうなんだよそれ、というか俺には加護は無いのか、転生限定の加護とかくれよまじで。


「ちーと? 何の事かしら?」

 首をすこし傾けて聞いてくる。あ、かわいい母親だけど


「いえ、こちらの話です」


「あら、そう? まぁいいわ、魔術言語の書物についてはお父様に話しておくから好きなだけ読んでおきなさい。ちゃんと元の棚に戻しておくのよ。あと夕飯の時間には戻ってらっしゃいな、今日は旬のサシル魚が取れたとルナが言っていたからね」


「ありがとう御座います母上、サシル魚ですか、楽しみですね。では失礼致します」

 礼をし部屋を去る、さて、楽しい楽しい読書の時間だ




 魔術とは簡単に言えば超常現象を起こす力のことである。


 基礎魔術とはいわゆる生活をするうえで必要となるであろう魔術であり、長く多く使われてきた為か行使言語も短く、誰にでも使えるように簡単に行使できるようになっている。過去の偉人の苦労が垣間見える。


 光を出す【Lumière】

 火を灯す【Je l'allume】


 等である。



 一度出現した魔術言語による魔術は各個人の能力によって持続時間、威力などが変化する。

 生活で使われる【Je l'allume】は所詮小さな火を灯すに過ぎないが、おそらく第三皇女たるリリス様が使えば人を焼き殺せるかもしれない、しないと思うが。


 また基礎となる元素が存在し


 風の【Vent】


 火の【Feu】


 水の【Eau】


 地の【La terre】


 の4属性である。


 普通に生活している分には4属性を習得する必要は無い、生活魔術と言われる4属性に属してはいるが過去の偉人が改変し使いやすくしたものだけで十分なのだ。


 4属性とは基礎である。魔術の基礎であるがゆえにそれを覚えることにより新たな魔術を作り出すことが出来る。

 火と水をあわせ、風により打ち出すことで熱湯の射出。

 火と風をあわせ、火の玉を叩きつける等だ。


 いわゆるこれが複合魔術である。

 基礎を知り複合を覚え魔術師に至る。


 皇女様のような桁違いはともかく、複合魔術までは使えないと戦闘等といった臨機応変の対応が必要な状況では役に立たないのだ。


 俺が今使えるのは風と水、若干ではあるが火である。4属性全てを扱えるまでには到ってはいないがその3つを駆使した形で複合魔術まで使えるといったところだ。


 取り急ぎ収めるべくは地、元素たる属性が一つ増えるだけで戦術の幅が広がるのだ、早急に覚えるに越したことは無い。





 俺は足早に書庫へ向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ