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Moon phase  作者: 檸檬
カルディナ魔術学院中等部
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phase-44 【帝国の双剣】

「ヘイス! ランドル! バッカード! ダンザ! 付いてきてるな! 餓鬼共にあそこまで助けてもらっておいてこのまま家に帰れると思うなよお前らっ!」

 森の中を鎧に身を包んだ男が5人、トロールの集団に向かって走っている。


「当然です! トロール如き、蹴散らしてやりましょう!」


「1匹たりとて通すものかっ」


「隊長の出番が無くならない程度にしてやらねぇとなぁっ!」

 気合一閃、ダンザと呼ばれた男はトロールに切りかかる。強化魔術で青く淡く光る剣をトロールの棍棒が受け止める、瞬間、隙を突き二人の兵士がその緑色の腹に剣を突き刺す。



 倒れこむ前に剣を抜き


「次っ!」

 見事な連携を取り村へ向かう可能性のあるトロールを屠っていく。




 しかし彼らも肩で息をしており疲労が激しい、おそらくそうは長く持たないだろう。

 子供に怪我を負わせてしまった、実力があるからと、自分の半分程の子供に、その恥と気力だけが彼らを戦わせていた。


 相手にも同じような事を思われている、とは思いもしないではあろうが。















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














 リリスの白く細い指の先から先ほどの魔術行使の残留か、パリパリと小さな放電をしている。

 目の前は大量の土煙が舞い、キングを見ることは叶わない。




 はぁはぁと片膝を付き、額には汗が滲み出ている。目は片目が閉じられ残った目で前方を睨む。

 アルフはあまりの閃光と轟音で目を細め、耳を塞いでいる。
















 煙が晴れると其処には、体の半壊したトロールキングが鎮座していた。

















 前方には取っ手の部分しか残っていない大斧、どうやら避雷針代わりにしてダメージを軽減したようだ。





「く……そ、消滅まではいかなかったか」

 汗が頬を伝う、はぁはぁと荒れた息を整えようとするが予想以上の疲労で整わない、しかしキングは左肩から先が消失し、頭は焼けただれ、足も左足は消失、右足は骨が見えている。自分の身体を支えることが出来ず、残った右手を地面に付き、身体を支えている、しかし爛れた左目はともかく、残った右目は此方を見ている、どうやら死んではいない。


 傷口がぼんやりと光っている、しかし再生速度は先ほどの即時回復とは雲泥の差だ、今の内に細切れに切り刻めばっ……!


「十分だっ。一気にケリを……、あ……」

 同じことに思い至ったのか、攻撃を仕掛けようと走りこんだ瞬間、急停止した。


「はぁはぁ……、どうした、さっさと切り刻んでしまえ」

 疑問に思い声を掛ける、それほどゆっくりしている時間は無い。


「いや、その、あのな? 剣を足に刺して足止めしたんだが……」


「ま、まさかお前……」


「ごめん一緒に融けちまったみたいだ……」

 心の底から本当に申し訳なさそうに言っているアルフ。


「お、お、お、お前! ふざけるな! 状況が分かっているのか! この瞬間! 今この瞬間スオウやスゥイがどんな状況にあるか分かっているのか!」

 一瞬何を言っているのか理解が出来なかった、じわじわと脳が言っている内容を理解し、頭に血が昇る。


「分かってるに決まってんだろ! でもあんときゃ避けられるわけにはいかなかっただろうがっ!」


「他にも転ばせるとか方法はあるだろうがっ! 貴様にスオウの1%でも良いから物事を考える脳みそがあればっ!」

 掴みかからんばかりに怒り狂うリリス、しかし足に力が入らない、これでもかと言うほどアルフを睨みつける。


「さすがに1%くらいはあるわっ!」

 見当違いのところに怒るアルフ、この男は現状を理解しているのだろうか……。


「問題はそこじゃないわ! たわけっ!」

 森全体に響き渡るほどの大声で叫ぶ、額には目に見えて青筋が浮かんでいる。













 そんな怒鳴り声が響く中に、軽快で軽やかな、まるで飲み屋の席の様な暢気な声が響き渡った。












「くっくっくっく、あっはっはっはっは、あーっはっはっはっはっは! いやいや、こりゃ傑作だ、面白すぎて死んじまうぜ、なぁ? 加護持ちの餓鬼共?」

 後ろから響く笑い声、戦場とは思えない様な暢気な声が森に響く、声が聞こえた方向を見ると黒い鎧に身を包み、二本の長剣を腰に吊るした男が出てきた。


「誰だっ!?」

 こんな近くに来るまで気が付かないなど考えられない。学院のガルフ先生でも出来るかどうか……、警戒心をむき出しにし男を睨みつける。


「その紋章……、帝国かっ!」

 リリスが鎧に刻まれている刻印を見て気づく、双頭の竜の紋章、帝国アールフォードの国旗にも書かれている国の紋章だ。


「ああ、すまんねぇ、紹介を忘れるとは俺としたことが、いやいや、すまんすまん」

 ぺしっと、額を叩き申し訳なさそうな顔をして此方を見る男。



「帝国強襲突撃部隊ケルベロスの隊長、リューイ=ホーキンスっつーんだ、よろしくな。加護持ちの姫さんと、ナイトさん?」

 自分の名前を一方的に言った後、あぁあぁ、いいぜお前らの紹介は、しってっしな。と手を振り笑いながら話しかけてくる。


「ふん、この件の後始末か? 我らを殺しにきたか?」

 ギロリと睨みつけ、いつでも魔術行使を出来るように構える、しかし足が震え力が入らない、虚勢を張るのが精一杯だ。


「あん? ちげぇよ、俺達は偶々近くで演習してたら鎮圧の任務を受けて此処に着たんだ、あんた等が居るのを知ったのは此処に来て初めてだっつーの」

 首を傾け、なに言ってるんだこいつ、とばかりに此方を見てくる。


「偶々だと? ふざけるなよっ、そんな都合の良い話があるかっ!」

 怒鳴り散らす、そんな都合の良い話があるわけがない、連合もスイルもどちらもまだ増援は来ていないのだ。


「まぁ~、俺も正直そこは思うわけなんだけどもよ、貰ってる任務的にはあんたらの事はなーんも書いてないわけ? おわかり? 思惑があろうが無かろうが俺にはしったこっちゃねーの」


「ぐっ……、黙れ、油断した所で何をされるか分かったものではないな、アルフ気をつけろよっ!」


「あぁ……、わかってる」

 リューイと名乗った男から目を逸らさず、全身に強化魔術を掛けなおし、手を握り締める。


「ま、好きにしてくれればいーけどね、ちっ、暢気に話してる場合じゃなかったな」

 手をひらひらと振り、本当にどうでも良さそうにため息を付いた後、キングの方に向き直ると顔を顰めてそう言った。


 半壊していた体が既に回復を始めている、しかしその体は大分縮んでしまっている。どうやら回復の許容量をオーバーしてしまったため、体を作り変え、動けることを優先したようだ。




『グォォオオ、オノレ、オノレエエ、我が同胞ヨ、ワレヲ守レ! 覚えテイロニンゲン! 必ズ、必ずコロシニイクゾ!』




「はん、逃がすかってーの、おい、魔法部隊いるんだろ、ぶち殺せっ」

 言うと同時に森の中から大量の火の玉がキングに直撃し、表面を焼く、が、そこに助けに着たのか、命令に従っただけなのか大量のトロールが肉の壁となりキングを逃がす。


「あぁ~、おいおい、勘弁してくれよー、ま、いっか。命令は倒せっていわれてねーしな、鎮圧だしぃ? 場を収めりゃいーよな?」

 なぁ、姫さん?と声を掛けてくる帝国の男。


「くっ……」

 眼力で人を殺せるなら最早このリューイと名乗った男は死んでいるだろう、と思われるほどの目で睨みつけるリリス。


「ありゃりゃ、怖いねぇ、こりゃまた嫌われたもんだね。まぁいいさ。とりあえずこの辺のトロールは始末してやるよ、うごけねーんだろ? 腰ぬけちゃって」

 お盛んだねぇ、と言った後ゲラゲラと笑い部下に指示を出す。


「おい、ゴミ処理だ始末しろ」

 そういうと同時に、その軽薄な隊長と同じ黒い鎧に身を包んだ男が数名、そしで火炎魔術がトロールに向かって直撃、ものの1分もかからずに、10匹ほど居たトロールが殲滅された。


「ん? どうやらお仲間の増援も着たようだな。おい、引き上げだ、報告はファング部隊に引き継がせろ」

 森の中にいると思われる彼の部隊に声をかけ、んじゃまったねーん、と手を振り森の中へ消えていった。









 その10分後、二人は救援に来た部隊に救出される。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
















 夜、月が昇り、魔の世界となるその時間、闇夜に一対の赤目が一つの魔獣を見ている。




『グゥウ、オノレ、コロシテヤル、殺シてヤルゾ!』

 ずるずると血にまみれ焼け焦げた身体を引きずりながら森の中を走るトロールキング、身体は当初の3分の1ほどの大きさに成っている。しかしその目は憎悪に満ち溢れている。



「臭い、臭いな、生ゴミの匂いがする」

 凛とした声が響く、横を見ると木の上に誰か立っている。



 月の明かりに照らされてその姿を現す。



 現れるは銀、風に舞う銀髪が月の光を反射させ幻想な雰囲気を醸し出している。

 幼さの残るその顔は整った顔立ちをしているが、その皮膚は透明なほどに白く、目は色素の抜けた赤い目、アルビノだ。



 まさに美女、いやまだ美少女と言ったところか、しかしその顔にも目にも雰囲気にも暖かさなど欠片も無い。




『グ、ナニモのダ! キサッ……』




 銀の閃光が走る、しゃべり終える所か自分の死すら分からぬまま絶命するトロールキング。

 再生すらさせぬ神速の剣閃で数え切れぬ肉の塊に分解され、地面にばら撒かれた。


 チン、と剣を鞘に収める音だけが暗闇に響く。


「所詮雑魚か、そのまま加護持ちを殺してくれれば我等帝国としても良かったが、しかし誰がこの様な事を……」

 バラバラになった肉の塊を一瞥し、顔を顰めて呟く、帝国の過激派の可能性が無いとは言えないが。


「だいたいケルベロスのあの男、何を考えている。明らかにわざと逃がしたな……」

 そもそもあの男は昔から気に入らん、と悪態をつく。



「ラウナ副長、隊長がお呼びです、今回のトロール騒ぎの件、至急報告に戻る、と」


「わかった直ぐに行く」

 報告に来た部下と共に血の匂いが漂うその場を去り、隊が留まってる野営地に戻る。


 彼女の名はラウナ=ルージュ。

 人の手にて作り出された人工の加護持ち、月神ディアナの加護を受ける者。後の帝国最強の騎士、白銀のラウナである。

3/30 の、が抜けてたので修正

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