phase-43 【不死の巨人】
「アルフっ、一気に畳み掛けるぞ!」
とん、と横に飛び降りたアルフに声を掛ける
「あぁ、急がねぇと他の奴らがもたねぇ、1匹や2匹ならまだしも大勢だ、さっさと始末するぞ」
そう言って剣を構えるアルフ。
しかし、目の前には信じられないような光景が起きていた。
『グハ、グハハ、グフフフ、ミゴトダ神の恩恵ヲ受ケシ者よ、我が此処までキヅツく等何年ブリか、ヨカロう、ニンゲンよ全力を持ッテ、コロシテヤル!』
ボコボコと音を立てて巻き戻るかの様に傷が回復していく。
左手に持っていた大斧を傷が治った右手に持ち変えて構える、やはり魔具であったのだろう、淡く光るその大斧は禍々しく夕日を照り返す。
「ちっ、これが不死の巨人の不死たる所以か」
「不味い事になったぞ、これでは予想以上に時間が掛かる。このままではスオウとスゥイ、国境警備隊の人達が持たん」
「アル君、りりちゃん!」
空から舞い降りたライラが声を掛ける。
「ライラか! すまん至急スオウに状況を伝えてくれ、手が回せそうに無い。最悪俺達二人を置いて逃げろ、俺達二人なら死にはしない、お前も向こうに助力しに行ってくれ!」
「馬鹿者! それでは麓の村は如何なる! さすがに我々だけで全てを網羅はできんぞ!」
「そうかもしんねーがよ! わりぃが俺は知らん人よりはダチを取る! 優先順位を決めておけリリス! 俺の親父も良く言っていた、自分の中で優先順位を付けろと、俺達は加護持ちだ、人より圧倒的に優れた力を持っている、だからって何でも出来るわけじゃねぇんだ!」
「ぐっ……、しかし……!」
「喧嘩してる場合じゃないよ二人とも、私は至急スオウ君と警備隊の人に状況を伝えに行く、軍が来ればなんとかなるよ、それまでなんとかお願いっ!」
それと置いていくなんてふざけた事二度といわないでっ! そう言って空に舞い上がり後方へ下がるライラ、アルフの前には迫り来るトロールキングが居た。
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【Durcissez Rassemblez-vous】《固まれ、集え》
【Une salve】《一斉射撃》
詠唱と同時に朧を構え射撃
―――――パァン
放つと同時に瞬時に銃身を二つに折り、黒魔昌石を反動で抜き、左手を使い空中で取る、そのままもう一つ持っていた黒魔昌石の弾を装填、疾走。
顔面に風の魔術と朧の直撃を食らい、防御した手の腕ごと打ち抜き絶命したトロールを飛び越え後ろに居たトロールに狙いを定める。
―――――ブォン
空気を切り裂き棍棒が振られる、間一髪のところでかわしながら銃身をカシン、と元の形に戻す。
巨体のトロールの足の間に飛び込むように滑り込み、付け根に射撃する。
―――――パァン
ドンッと地面に背中から着地、ザザァァッと、地面と体が擦れる、目に見えるのは足の肉が弾け、膝を付くトロール。
止めを刺そうと魔術詠唱を開始、しかし横から来た次のトロールが攻撃を加えてくる。
詠唱を中断、弾は後1発だ、こいつを殺せば6匹目、上々の結果だ。あとは警備隊の人の処に戻って連携をっ!
―――――ヒュンヒュン、ヒュン
魔矢が横から来たトロールに刺さる、どうやら頭は腕で防いだようだ。
「スオウ! 下がってください、突出しすぎています!」
後ろに付いて来たスゥイから声が掛かる。
声に焦りが見える、どうやら引き際を見誤ったようだ。
「ああ……っ、わかった! 丁度弾が切れる頃だった、一度下がってクローナさんと陣形を組みなおす」
若干突出しすぎたスオウがスゥイに返事をする、一気に数を減らし警備隊の人と連携をとる予定だったので出し惜しみをせず朧を使用し突撃したのだ。
朧は集団戦で初めて組む相手にはやりにくい可能性がある、詠唱も無しでタイミングが分からない射撃が後ろから飛んでくるのでは誤射の可能性もある、しかし強力な武器である事には変わりない、先に使い切って数を減らそうと考えたのだ。
明らかに自分の実力を測り損ねてしまっている事に気が付かずに。
「わかりました、っ、スオウ! 横にっ!」
木の間から飛来する棍棒、疲れで散漫となっていた集中力の隙を突きスオウ目掛けて飛んでくる。
―――――ゴシャッ!!
「がっ…………!」
飛来してきた棍棒を避け切れず肩に当たる、攻撃に全力を注いでいた為、防御魔術が疎かになっていた、いやむしろ全力で戦ってきたのだ、マナの余裕が既に無かった。
ボキボキと骨が折れる音がする。
当たったのは肩なのに全身が自分の身体ではないかのように急速に冷たく震える
感覚はもう無い、衝撃で意識が無くなりそうになる
重い目蓋を意志でこじ開け、倒れまいと踏ん張ろうとするが足に力が入らない、吐き気がする。
眩暈がする、地面がまるで泥の上の様だ。
「スオウっ!」
魔弓を構え牽制、直ぐにスオウを引きずり離脱する。
「クローナさんっ!!」
「スゥイ君か! 無事だったか、っ……! スオウ君!」
「すみません突出しすぎました、至急私が治療しますので前線の維持を!」
スオウを横に寝かせ治癒魔術を掛ける。
「わかったっ、そもそも我等大人が本来やるべき仕事だったのだ、貴様ら行くぞ、遅れるなっ!!」
その顔には苦渋が見て取れる、1ヶ月共にした事による実力と信頼が裏目に出てしまった。
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がふっ……。
胃液を吐く、気持ち悪い。頭がガンガンする。
血が出ていない事から内臓はやられていなそうだ。
「スオウ! しっかりしてください、無茶しすぎです、普段の貴方らしく無い!」
スゥイが珍しく怒鳴っている、あぁ、怒鳴っているスゥイなんて始めて見るかもしれない。
「あ、ああ……、すま……ん」
頭が重い、目蓋が重い、スゥイがぼやけて見える。
「スオウ君っ!!」
大声を上げて空から舞い降りるライラ
「け、怪我を……っ」
左腕がありえない方向に曲がり、肩が潰れている、衝撃で転んだせいか顔にも切り傷がいくつか見える。
「い……、いか……ら、ほ……うこく…………をっ」
顔からするにどうやら良い話では無い様だ。意識を失いそうになる所を必死に堪える。
「うっ……、アル君と……、りりちゃんがっ、予想以上に時間が掛かる、って、期待しないでって……!キングの再生能力が予想以上で時間の見通しが付かないのっ!」
「く……、そっ」
どうする……、どうする…………! 考えろ、目的は倒すことじゃない。トロールを麓の村に行かせない事、そして俺たち全員が生き残ることだ。
その二つを達成させる為には何をすれば良い、何が使える、何が出来る、考えろ、俺にはその為の脳みそが付いてるだろっ!
痛い、痛い、痛い
トロールキングを倒すのには時間が掛かる、しかしアルフとリリスはトロール相手なら問題は無いはずだ、つまりキングさえ如何にかしてしまえば良い、ライラとスゥイを向かわせるか?
痛い、痛い、痛い、痛い
失敗だったか、最初から5人で当たるべきだったか、一瞬後悔が過ぎる。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い
駄目だそんな事は後で良い、現状を理解し、対策を考え、最善を実行しろ。
思いつかないっ、思いつかない!! 何の為の頭なんだっ……!
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い
うるさいっ!
痛みが邪魔だ、なんだっていうんだ、ふざけるな、ふざけるなよっ。
俺は、俺はもう36年生きてきた、36年生きてきたんだ、それなのに14歳、14歳だ、俺の半分も生きていない子供を一番強い敵に当てた、それが一番勝率が高かったから、半分も生きていない子供にだっ!!
文句一つ言わないでしたがってくれたのに、なにも質問もなかったのに、なんで俺がこんな所で寝ているんだっ!
警備隊の人だって30手前だ、俺より、俺より生きていない人達だ。
連携で言えば彼らのほうが上だろう、しかし個の力で言えば自惚れじゃなければ俺のほうが上だ、なのに俺は何をしている、調子に乗って、実力を見誤って、寝ているだけかっ!
動け、起きろ、スオウ=フォールスっ! お前の今までの努力は守る為のものだろうっ!
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「おらああぁぁぁああっっ!」
―――――ガァァアアアンッ
―――――ギュン
―――――ドゴッッ!
空中から切りかかる、大斧で防がれるがそのまま斧と剣がぶつかった部分を支点にキングの顔面に向かってとび蹴りを食らわせる。
堪えきれずに轟音を立てて倒れるキング。
「ちぃ、切った所から再生してやがる、国で当たる割には大した事無い、と思ってたさっきまでの俺をぶちのめしたい気分だぜ」
既に何度か切り付けた所も再生が始まり、ほぼ終わっている。永久的に再生能力が維持されるとは思えないが、見た限りでは速度は変わらず、だ。
「まさか此処までの耐久力を持っているとはな、負けはしないが千日手だ、いや、疲労を考えると楽観視もできんか」
「一撃で消滅させれるようなヤツはあるか?」
「【Tonnerre Une infraction】《万雷の蹂躙》ならいけるだろう、しかし」
「詠唱する暇がない、か。俺が時間を稼ぐか?」
「外したときの消耗が激しいが、しかしこのままでは時間だけが過ぎてしまう、か」
「やるしかないな」
「あぁ、まかせたぞっ」
「まかせろっ!」
答えると同時に駆け出す、その速度は弾丸の如く一つの弾となりキングに突撃する。
詠唱が始まる。
最強の一撃を。
今、この身で使える最強の一撃を。
【Le nom est Lilith Der Zweck rottet es aus】《我が名はリリス、願うは殲滅、勝利也》
大斧をかわし、腕を切りつけ、刺し、そしてその腕を駆け上る。
【Protection Dieu Pour changer le monde】《我に宿りし神の加護、世界を変える雷と成せ》
勢い良く振り上げアルフを振り落とそうとするが、間に合わず顔面を切り裂かれ右目が地面に落ちる。
【Raggruppi Rassemblez-vous Meine Macht】《集え、降ろせ、我が力》
しかし、アルフが地面に落ちる前に再生が終了し、そこには変わらぬ右目がある。
【Mon chemin Foi Je l'ai coupé Un éclat de lumière】《我が信念を貫く閃光よ、眼下の敵を殲滅せよ》
キングがリリスの方を見る、どうやら狙いに気づいたようだがもう遅い。
ドンッ、と大剣をキングの足の甲に地面ごと突き刺し縫い付ける。
「アルフっどけええぇぇぇっ!」
リリスの叫び声が森に響き渡り……。
【Tonnerre Une infraction】《万雷の蹂躙》
閃光と雷が森を埋め尽くした。