phase-42 【万雷の蹂躙】
【Tonnerre Une balle Un pistolet】《雷弾砲》
―――――ヒュゴッ
―――――ドォォオオオオオン
開幕一閃、トロールが視界に見えた瞬間放たれるリリスの雷撃、その一撃は大地を抉り、前にいたトロールを3匹ほど焼き切り、轟音を立てて爆発した。
土埃が巻き上がるその場所へ切り込んでいくアルフ、土埃が晴れると同時に棍棒が振り下ろされてくる。しかし止まらないアルフ、棍棒に向けて剣を振りかぶり。
「おらああぁぁっ!」
棍棒ごとトロールの腕を切り落とす。
『ギャオオォォオオオオッ』
悲鳴を上げ、切り落とされた腕を押さえて暴れまわるトロール。
【Une lance du feu】《火槍斬撃》
途端火炎と轟音を振り撒きトロールの顔面に直撃する火槍、火槍が刺さったトロールの肩に空からトン、と火槍を放ったライラが舞い降りる、刺さっている槍を抜き、崩れ落ちる前にまた空へ舞い上がる。
瞬時に4匹のトロールを始末した。
「アル君、リリちゃん、キングは此処から後800mほど、途中にトロールが何匹かいるけども!」
眼下には木の間を縫う様に高速で走る二人、声を張り上げ二人に報告する、スオウとスゥイとは既に別行動を取っている。おそらく後方で警備隊の人と零れたトロールを処理しているはずだ。
「ああ、ここからもあのでけぇ頭が見えてるぜ、一気に突き進むぞ、途中のは通過する箇所だけ蹴散らしてく!」
上 空に叫びながら目の前のトロールを両断、そして蹴りを加え吹き飛ばす。
「まかせろ! そこをどけアルフっ、私の道に立ちふさがる愚かな行為、トロールごときが身を持って思い知らせてくれるわ!」
後ろを走るリリスから声が掛かる、瞬間傍にあった木に飛び乗り、太い枝に着地。ぐっと足に力を入れ一気に空へ飛び上がる。
アルフの行動に目を向けず、眼前にうごめくトロールの群れを睨みつけ、高速で走っていた所を、ドガンッ、と地面を抉りながら急停止した後、詠唱を開始する。
足を肩幅に広げ、目を閉じ、両手を上に掲げる、それはまるで天上の神から力を与えて貰っているかのごとく荘厳だ。
【Le nom est Lilith Der Zweck rottet es aus】《我が名はリリス、願うは殲滅、勝利也》
【Protection Dieu Pour changer le monde】《我に宿りし神の加護、世界を変える雷と成せ》
【Raggruppi Rassemblez-vous Meine Macht】《集え、降ろせ、我が力》
【Mon chemin Foi Je l'ai coupé Un éclat de lumière】《我が信念を貫く閃光よ、眼下の敵を殲滅せよ》
大気中にマナを使い尽くすかと思われるようなマナがリリスの頭上に掲げた両手に収束していく。
最早スパークでは無い、放たれるのを待ちきれないかのごとく頭上に集まる雷と化したマナはバリバリと閃光を放ち、リリスの周囲に小さな落雷を落とす。
カッと目を開き、両手を前に突き出し最後の魔術言語を紡ぐ。
【Tonnerre Une infraction】《万雷の蹂躙》
視野は閃光、視界に映るは数えることすら馬鹿馬鹿しい万の雷が世界を浸食する。
木々は焼け、消失し、一つの道が出来上がる。
おそらくかなりの体力を消耗したのだろう、はぁはぁとリリスが肩を動かし息をしている。
しかし一瞬で消失したその木々はもはや存在すら疑わしい程に何も無い、途中に存在していたトロールは骨まで焼き尽くされ、もはや居た証拠すら無い。
しかし
しかしだ
木々が消失し、見通しがよくなったその道の先に。
無傷で此方を睨んでいる巨人、トロールキング、不死の巨人がそこに居た。
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「ちっ、距離があったとはいえあれで無傷とはな」
空中から降りてきてリリスの横に着地、悠々と立つそのトロールキングを眺め、隣で息を整えているリリスに声を掛ける。
「いや、そうではない、おそらくあの大斧、あれで切り裂いたのだろう、あのキングを中心に周りが焼けていることから見るに可能性は高い」
はぁはぁ、と息を荒げて応えるリリス、ふぅ、と一息つき落ち着かせたようだ。
「ばかな、唯の大斧がお前の一撃を防げるわけが無い、まさか魔具か?」
「可能性としては高いだろうな、どうやらスオウの予感が当たったようだ、あちらさんは私達の全力を見たい様だぞ」
「けっ、帝国が、ってか? 上等だ、その程度で俺達の全力を見れると思うなよっ!」
そう言ってキングに向かって走り出した。
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『リリスとアルフの戦闘が始まったら上空から監視している人間がいないか調べてくれ、もちろん優先順位でいけば一番最後だ、キングの殲滅を最優先としてくれ』
トロールキングに向かう前にスオウ君から言われた件だ、今回は明らかに異例な状況であり、おそらくなんらかの工作の可能性が高いとの事。
ライラは頭の片隅にそれを留め、空を舞う、眼下ではリリスが魔術詠唱を唱えている。強大なマナが凝縮しており、周囲の木々がざわめいている。
周囲を空から見渡すが誰もいない、隠れている可能性もあるが、さすがに其処までは見つけることは難しい。
「しかたない、か。まずはあれを倒さないと不味い事になっちゃう」
監視者の捜索はとりあえず打ち切り、眼下を見ると目を覆うような閃光と、蹂躙する雷が見える。
「うわぁ、りりちゃん派手にやったなー」
とても戦闘中とは思えない暢気な声を出した後、キッと目を細め意識を切り替える。
「駄目だ、たぶんアル君とリリちゃんは見えてないけど此処からだとキングが立っているのが見える。私じゃきっとダメージを与えられないし……、当初の予定通り二人の露払いをするのが一番だね」
そう言い、槍を構え羽をふぁさりと一際大きく広げた後、ギュンッ、とアルフ達の所に飛んでいった。
そしてライラが去った後、ライラが舞っていた空のさらに上、一匹の鷹が飛んでいた。
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「はぁぁぁああっ」
大声を張り上げて切り付けるアルフ、同時に自分の身長の3倍もあろうかという大斧が振り下ろされてくる。
【Tonnerre Un poing】《雷撃》
―――――ズドォォオオン
大斧が爆発を起こし、狙いが逸れる。横からリリスが大斧目掛けて青白い雷を足に纏い、とび蹴りをかましたようだ。
その隙を逃さない、一気に飛び上がったアルフは、大斧を持っている腕の関節部を狙い、切り付ける。
「はぁっ!」
太すぎるその腕は剣を根元から使って切りつけても三分の一が精々だ、しかし強化魔術によって青く淡く光るその大剣は、その自身の刃よりも多くの箇所を切り裂いた。
―――――ブシャアアッ
腕の半ばまで切り裂き、大量の青い血が撒き散らかり地面が青に染まる。
『グオォォオオ、人間ゴトキがヤッテくレルワ! アノ腐っタ臭イノスルゴミ虫メが、我を当テ馬に使いオッタカ、オノレ人間ごトキガ、殺シテクレル、皆殺シニシテクれるワぁぁアアァッ!』
切り裂かれた腕を押さえ叫ぶ、その声は大気を震わせ、大地を揺るがせる。
「ちっ、てめぇ! どう言う事だ!」
トロールキングが放つ言葉にやはり帝国の手があったのか、と確信し聞き返すアルフ
『オロカナ人間ドモなどト話すコトナドないワ! 元ヨりコノ世界はワレラノモノダ、神々に祝福サレタテイドで調子ニノリおっテ! 死ヌがイイ!』
怒鳴り散らし、切り落とされかかっている右腕の事などまるで影響が無いかのごとく突撃してくる。
「よけろアルフッ」
射線上にいるアルフに声をかけ魔術行使を行うリリス
【Un éclat de lumière】《閃光》
瞬時に避けたアルフの横を閃光が走り、トロールキングの皮膚を焼く、しかしその程度では無意味なのか怯まずにアルフに向かって持ち替えた大斧を振り下ろす。
『シネエエエエェエ!』
回避しようとするが間に合わない、大剣を前に、全力で強化魔術を掛けて襲い来る衝撃に耐える。
―――――ドガァァアッ
真っ二つにはされなかったが衝撃を食らい空中に吹き飛ばされるアルフ。
ぐるりと空中で姿勢を整え、空間を蹴り飛ばしトロールキングに切りかかる。
「はっ、人間ごときの一撃をくらっときなっ」
―――――ガァァァン
大斧と大剣が打ち合う、空中から重力も味方に振り下ろした斬撃はトロールキングの足下の地面を陥没させる。
「私を忘れてもらっては困るなデカブツ」
高速で足元に走りこんでいたリリスがトロールキングに声を掛ける。右手と左手を脇に構え、そして続く魔術詠唱。
【Rassemblez-vous Venez Mon épée】《集え、出でよ、我が剣》
【Tonnerre Une épée】《雷光剣》
走る閃光、リリスの手に雷の剣が握られる。
―――――ブォン
陥没した足に向かって振りぬかれる雷剣は表面の皮膚をブスブスと焼き尽くし蒸発させ消失させる、しかしさすがはトロールキング、切り落とすことは叶わない。
『グオオォォオオオオ』
唸り声を上げて地面ごと振り抜かれる足、雷剣では防御は出来ない、切るだけだ。
瞬時に放棄、防御魔術を唱える。
【Une fracture】《断絶》
瞬時にリリスの前面に薄いピンクの膜が張られる。
―――――ドガァアアン
土埃が舞い轟音が響く、其処には無傷のリリスがいた。
「残念だったな、どうやら貴様よりアルフのほうが強力な一撃を放てるようだぞ」
風でたなびく金髪をファサリと後ろに払い、腰に手を当て言い放った。
3/27 ちょっと詠唱変えました