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Moon phase  作者: 檸檬
カルディナ魔術学院中等部
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phase-38 【組合の登録】

 背に湖月(コゲツ)を吊るし、左の腰には(オボロ)を吊るす。


 背も少し伸びてきた、なんだかんだで気づいたらもう14歳も過ぎ来年は15歳だ、ほぼ確実にストレートでは行けないと言われている高等部試験を控えている。


「早いものだな、学院にきて7年も経つのか、今年の夏に実家に戻ったときロイドが6歳になって、勉強をしていたからな、いやはや、本当に月日が経つのは早い」


「そうですね、ロイドも学院に入ると言っていましたが、貴方の弟とは思えないくらい素直な子でしたね。」


「それはどういう意味だ……」


 弟のロイド、懸念していた憑依現象とでも言うべき事は起こっていなかった、いや、絶対では無いがここまで騙し通せたのならそれはそれで脅威だ、なんにせよ俺と違い普通の子供だろう。懸念の一つが消えたことは嬉しい限りだ、しかし血筋や、生まれなども関係ないとなると、なぜ俺はこの世界に・・・


 考えても仕方が無いか、直ぐに答えが出るものでも無い。


 母上の負担が増えなくて何よりだ、それが一番心配だった。

 夏に帰った際、ロイドに手がかからなくなったのもあるのか菓子部門に力を注いでいた、もともと社長の立場だったが、全てルナに丸投げし、開発にのめり込んでいる様だ。どこぞのドーナッツを教えたら今や大繁盛している。うろ覚えの味で何度か指示しただけだったのだが……。


 ルナはルナで最初は嫌がっていたが、どうやら適正があったようで上手く会社を回しているようだ、いまや造船会社のフォールス家というより菓子部門が有名でもある。もちろん造船会社もカナディル連合国家で造船会社と言えばフォールス家とまで名が売れた。お陰でいらぬ問題も多々呼び込んでいるようではあるが……。


 裏のほうはレイズ家が主に、あと全体的にはローズ家がフォローしている、もちろん父上も優秀だ、まぁ優秀ではなかったらローズ家に乗っ取られていたかも知れない、が。


 弟も生まれたこともあり、家業はやはりきちんとした子供であるロイドが継ぐべきだろう、もちろん最大限で助けるつもりではあるが、所詮俺は本当の子供では無い、いくら両親がどう言おうとなかなか割り切れる物でもない。


 割り切るつもりも、無いしな……。





「さて、行こうかスゥイ、まずはギルドに登録だ」

 俺の準備を扉の近くで待っていたスゥイに声をかける。


「ええ、アルフとライラ、リリスは既に外に出ています、活動期間提出の書類は持ちましたか?」

 学院に活動期間の報告をする為の書類の有無を確認してくる、これが無いとあとでこってり絞られるだろう、特にアルフとリリスという二人の加護持ちが同時に外に出るのだ、過敏になるのも仕方が無い。


「あぁ、持っている、しかし一度戻ることになるのだから依頼内容を確認後、全員で行っても良かったのに」

 斜めに肩に掛けた皮製の鞄を叩いて見せる。先ほど机から取り、入れたばかりだ。


「皆外に出るのが楽しみなんでしょう、それにギルドは14歳にならないと登録が出来ませんから、アルフなんかはずっと登録したかったみたいで昨日の晩からうずうずしていましたよ」

 くすくすと笑いながら言ってくる、彼女とも7歳からの付き合い、もう7年の付き合いになる。


「あいつは親父さんみたいに軍人に興味があったと思ったんだが」

 子供の頃の会話を思い出しながら言う、そういえばアルフはあの頃からあまり変わってないな、むしろ少し退化したんじゃ……。


「年を重ねれば考えも変わりますから」


「まぁ、そうかもしれんな」

 そう返して門を潜る、目の前にはいつもの3人が待っていた。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














「へっへ、なにやらされるんだろうなー竜とかと戦えるんかな?」

 首をこきっと鳴らしながら此方に聞いて来る、顔は満面の笑顔だ。


「あほか、誰が学院の中等部程度の人間にそんなAランク並みの仕事を任せるんだ、大体竜種なんぞさすがのお前でも歯が立たないだろ」

 冗談じゃない、そんなのに出会ったら命がいくつあっても足りない。


「俺一人ならそうだがリリスもいるし、いけるんじゃねぇか?」

 気楽に言うアルフ、もし出会ったら俺たち3人はお前ら二人を置いて逃げるからな。


「ふむ、竜種か、一度戦っては見たかったがの。もし会うならリメルカ王国が一番手っ取り早いぞ、後は帝国の北の雪に閉ざされたフォド雪原に白竜が住んでいるとも言われておるな」

 冷静に答えているが目は爛々と輝いているリリス、戦ってみたいのが見え見えだ。どうやら動きやすいように長い金髪をポニーテールにしてきている。


「だまらんか脳筋共、俺達はスイル国から出れないからどっちも却下だ、それに仕事内容であまり下手なことを言うな、なんか本当にそうなりそうでやってられん……」

 こういうのを前フリって言ったんだよな、なんかもう気にしないことにした方が精神衛生上いいのかもしれない。なんか負けた気がするのは納得行かないが。


「スオウ君……、そう言うと余計なりそうなんだけど……」

 はぁ……、と今にもため息を付きそうなライラ、わかる、わかるよ君の今の気持ちが手に取るように分かる。


「ご心配なく、カルディナ魔術学院に対する今までのギルド依頼内容はそれぞれの力量に合わせた形になっているそうです、なので竜が来る可能性もありますね」

 よかったですねスオウ、と微笑むスゥイ。


「どこがよかったんだっ!」

 思わず怒鳴ってしまった。















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















 馬車に揺られること30分、学院から少しはなれた町に来る、連合国に近い国境付近の町で、物資の流通が盛んである。もちろんコンフェデレスの首都程ではないのだが。


 御者に運賃を払い外に出る、コンフェデルスと違い豊かな森の国とも言われるスイル国は木とレンガを流用した家屋が立ち並ぶ、カナディル連合国家に近いせいか、カナディルの潮風に強い建築方法が用いられている家もある、ここは潮風が吹かない、おそらくデザイン的な所で取り入れたのだろう。


 良く見ると所々に日本の木造建築技術が使われてると思わしき箇所がある、おそらくベルフェモッド家が関わった家だろう、その独特な美しさを持った建物は一際目立っている、もしかしたら個人的な哀愁もあるのかもしれないが。


「スオウ、行きますよ?学院へ書類を提出に戻る必要があります、あまり時間はありませんよ」

 スゥイに声を掛けられ、返事の代わりに手を上げ答える。



 5分程歩いた後、鳥の絵が描かれた木製の看板がかかった家に入る。誰にも束縛されない大空を飛ぶ鳥から、誰にも束縛されず、自分の意思で世界を回る、だそうだ、俺に言わせて見ればギルドに所属するという行為がすでに束縛の意味を持つと思うのだが。


 尚、蛇足ではあるが商人ギルドは天秤、傭兵ギルドは剣の看板がぶら下がっている。



「カルディナ魔術学院から来たスオウ=フォールスだ、連絡は着ていると思う、依頼内容と冒険者登録を済ませたい、お願いできるだろうか?」

 受付の女性に向かって言う、コンフェデルスで会った魔術刻印の技術者リーズさんと同じエルフの女性だ。


「はい、ご連絡は既に届いております、少々お待ちください」

 そう言って横にある棚から書類をいくつか取り渡してきた。


「こちらにお名前を、あと両手の文様を取りますので、この墨をお使いください、裏面に押し付ける箇所がありますのでご確認ください。記載が終わりましたらこちらに書類を持ってお戻り下さい」

 まさかこの時代に指紋認証があるとは思わなかった、いや指紋とは違うのか、この墨、マナが篭められてる感じがある。

 

「ああ、そうでしたねそういえばそんなお話しをした事はありませんでした、そちらは黒魔昌石を磨り潰し粉状にし、ギルドで開発した特殊な液を混合した物らしいです、各個人のマナの波長を保存できるらしいですよ、今後本人認証が必要な場合この墨を押し付けた手形に手を合わせるとマナの波長があう場合淡く光る為、確認が取れるそうです。まぁ、それ以外にも認証方法はあるのですが、魔術を使える人間は全てこれです、使える人が殆どですのでこれ以外の方法は殆ど見られませんが」

 疑問の目で墨を見ていた俺にスゥイが内容を教えてくれる、なるほどギルドの特殊技術なんてものは覚えなかったからな、まさか冒険者になるとは思っていなかったし。


「なるほどな、じゃあさっさと済ませてしまおうか」

 そう言って全員に書類を配る、そういえばリリスは大丈夫なのだろうか?曲がりなりにも皇女だ、騒ぎになるのでは……、念の為に対策は取って置くか。


「スゥイ、これは偽名で登録した場合どうなる?」


「偽名、ですか? あぁ、リリスの事ですか、そうですね偽名は問題があります、本人認証の際、ばれた時面倒です、また後で再度登録するにしても同様の手形がある事が発覚すると面倒です、カナディル国内ならある程度何とかなるかもしれませんがここはスイル国ですからね」


「となると、多少騒ぎになったとしても仕方が無い、か」


「ですね、しかし窓口では受付をした人が名前を呼ばれますからスオウが前に立てば問題ないでしょう。それにギルド自体には学院から既に話が行ってるはずです、問題が起きる可能性は低いかと」


「まぁ、そうだろうが……どうもな、あいつらと一緒にいると心配性になってしまう」


「わからなくもないですが……、程々にしておいたほうが良いかと思いますよ」

 心配そうな目で見てくるスゥイ、どうやら本当に心配してくれている様だ。


「わかってはいるさ、頭ではな」

長年の習慣かもはや条件反射になってしまっている。もはや年齢的に30代後半だ、お父さん的思考になりそうになる、いかんいかん。


「溜まったら言ってください、発散させてあげますから」

ニヤリと笑いしなを作るスゥイ、彼女も14歳、来年は15歳だ、そろそろ真面目に注意した方が良いかもしれない。


「ううん、その言い回し、分かって言っているだろうお前……」

はぁ……、とため息を付きながら返事をする。


「ええ、もちろんです」

笑いながら言ってくるその顔は年相応だ、再度ため息を付き全員分の書類を受け取り受付に持っていった。

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