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Moon phase  作者: 檸檬
カルディナ魔術学院中等部
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phase-37 【野外の許可】

 中等部からは通常の授業に野外活動が追加される。


 野外活動とはその名の通り野外、つまり学院の外で活動する授業である。

 一定の実力を所持し、中等部で認められた者が野外活動に移行する。


 学院と連携を取っている冒険者ギルド、そこで仕事を請け、成果を報告し評価を得る。


 一チーム5人編成だが、5人全員が認められない限りは外に出ることは出来ない。

 この時点で団結力と連帯感を生み出すのだ、互いの欠点を補い合いチームとして成り立たせる。それが中等部で重要としている項目の一つである。





 ギルド、これは五国全てにある商業ギルド、傭兵ギルド、冒険者ギルドを総称してそう言われる。

 リメルカ王国には一部規制された状態で存在している為、入国、出国は厳しい審査が必要とされるが、基本ギルドに属している人間は五国全てに出入りできる。


 当然資格を有する為に必要な書類や審査はあるが資格さえ有していればそれに沿った権限が与えられる。

 

 尚、商業ギルドは首都コンフェデルスに本拠を構え、六家の庇護下に存在、上場、証券取引所の様な物である。


 傭兵ギルドは帝国アールフォードの首都アールフォード、そしてカナディル連合国家の首都オールドに存在している。傭兵ギルドは現在戦争も無く、30年の平和が流れたことも有り、在籍している人は大分減ったようだ。稀に魔獣の討伐などで呼ばれることもあるが元々冒険者ギルドに話が行く事が多く、在籍者も冒険者ギルドに移籍してるものが多い。


 傭兵ギルドは元々は戦争が終わった後、食って行く事ができない、また腕や足を損失しほかの仕事ができなくなる人を救済する為に作られた組織である。


 死亡後の家族の保障や、その後の生活保障をする代わりにギルドから命を対価に戦争に出向く、ギルドは腕の立つ戦士を売り込み、国からお金を得る、国は農民などを徴兵するより上等な戦力を得ることが出来る、と言うわけだ。





 最後に冒険者ギルド、これが今回の舞台でもある。





 その名の通り世界を回り手助けを糧に生活する人たちの事だ。それならギルドに在籍する必要は無いかと思われるが、ギルドは情報の入手と仕事の斡旋を行っている。前の世界で言う職安だろうか。ギルドに所属しているほうが効率が良いのだ。


 いなくなった猫を探してくれ、から、薬草を取ってきてくれ、店の材料が足りないから今日中に魚を何匹か持ってきてくれ、等々。お使いの様な仕事がメインであった。


 そして冒険者ギルドは魔獣の討伐も行う、腕の立つ人間が多い傭兵ギルドと連携を取ることもあったが、主に傭兵は人を殺し、冒険者は人を守る。そう言われている世論。


 勿論そんな事はない、どんな世界でもどんな場所にも悪人も善人もいるだから。


 しかし今は、戦争を知らない人間が中心となって来た。傭兵ギルドの人数が減って行くのは止められ様が無かった。そして冒険者ギルドの質が落ちていくのも。優秀な者ほど安定した生活を望む傾向が強いのかもしれない。





 最後の戦争が終わって5年、傭兵は人を殺して金を得る、魔獣を殺して金を得る。そこは純粋な力だけを求められており、他に求められるものは少なかった。当然例外はある、軍師となる人も居れば、頭の切れる魔術師も居た、しかしそういった人間は他に職を持つことが出来る、危険性の高い傭兵ギルドに何時までも在籍している必要は無い。



 残ったのは粗暴で、野蛮な人間か戦いを忘れられない人間だった。



 そういった人間が人の手伝いを主とする冒険者ギルドで上手くいく筈が無い、しかし世論は傭兵を毛嫌いする。


 そうして冒険者ギルドに移っていく彼ら、腕っ節は間違いないのだ、しかし合わない人間というのは出てくる。全員が全員では無い、全体的に見てしまえば少数かもしれない。

 

 しかし無視できる数では無いその一部の彼らに冒険者ギルドは打開策を検討する、力を主として必要とされる仕事を与えれば良い、と。



 元々そういった彼らを救う為の傭兵ギルドであったのに、一体どんな皮肉であろうか。



 そして彼らは討伐系と言われる魔獣の討伐や、盗賊の制圧等に借り出されることになる。


 そして最後の戦争から10年、所詮冒険者ギルド、依頼をするのは個人であり、稀に商人がいたとしても国から依頼を受けていた傭兵ギルドより金銭は劣る。


 仕事の品質が落ちているならば、と納得する者も居たが、そうは思わない人間もいる。

 日々溜まって行く鬱憤、此処は傭兵ギルドほどの保障はしてくれない


 そういった人間達は傭兵ギルドの復活を望むようになる、今はまだ、しかしいずれいつの日か、と。








 そう、戦争を、と。















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
















「ほっほ、よくきたのぅ、今日で君らのチーム全員野外活動の許可を与えるぞい、さすが、と言った所かのぅ、半年で中等部主席、そして許可取得とは歴代でダントツじゃ」

 ほっほっほ、と笑う学院長、重要な話があると学院長室に呼ばれた俺は正面に立ち、学院長の話を聞く。


「これ以上学院の損失を防ぐ為には良い判断と思いますよ学院長、あの時被害の負担をお願いして本当に良かったです、また抑止力として用意いただいた研究部の方も逞しくなられた様で本当に良かったと思います」

 日に日に傷だらけになっていく研究部の彼らを見てそう思う、すくなくとも実力の向上に成っただろう、本人が望む、望まないに関わらず。


「ほっほっほ……、本当にの……、おかげさまで学院そのものの実力も上がった気がするのぅ……」

 はぁ……と、窓の外を見て話す学院長。


「危機管理能力の充実は果ては学院の為になります、お力になれて何よりです」

 恭しく頭を下げる、やはり年長者には感謝と礼節を忘れないようにしなければな。


「くっくっく、その掛け合いももはや見慣れてしまったな」

 声をかけてくるのはガルフ=ティファナス、あの後、色々な面でフォローしてくれた先生でもある。この先生には純粋に感謝しても良い。


「まぁ、今、学院長も言ったが、君らは異例とも言える速度で許可を得た、本来なら1年は必要なのだが、予想通りとも言えるな。


 しかしだ、学院としては一定の年齢に行かない限り進級が出来ないのは知っているな? また、お前の事だからわかっているとは思うが、実際の所、課外活動の許可も時期尚早だ。


 今回の件は学院内でもいろいろ意見が出てな、最後は結局学院長が押したのだが、理由はわかるな?」


「学院の被害状況が予想以上でしたか?」


「まぁ、、な、正直に話すが国に支援を願い出たいくらいだ、それを理由にリリス皇女に圧力をかけようと考えた者もいるくらいでな。お前のお陰か自分のやっている事をちゃんと理解して行動しているようだから。が、しかし、余計な入れ知恵をしてくれたなスオウ=フォールス……」

 この野郎、と恨みがましく此方を見てくる。


「なんの事でしょうか」


「はぁ……、アルフロッドとリリス皇女の模擬戦の被害が酷すぎる、抑えてやれといっているのにもかかわらずだ……」


「先生すみません、それは私も注意をしたのです、ですが他の生徒にまで迷惑をかける程の被害は一度だけだった筈です、その後アルフには良く注意しておきましたから、ええ、本当に。」

 初回二人でそろって仲良く壊した訓練場はライラと二人でのお説教となった、正直リリスはかなり反省していたのでよかったがアルフが不満顔だったのでライラの怒りが炸裂し、まぁ、うん、悲惨な事になった。


「そこは良い……、お前その模擬戦中にやるなら抑止力で控えている研究生を偶然を装って倒すように戦え、とか言っただろう……」


「ええ、もちろん、彼ら役に立たないものですから、すこし状況を教え込んだほうが良いかと思いまして」

 抑止力としてお願いをした研究部の人間、たしかに居ないよりは良い、が、使えない事この上無い。


 まぁ加護持ち二人相手だ、ある程度は仕方が無いしお互い切磋琢磨している事もあり実力の向上が激しい、抑えられなくても彼らは悪くはないだろう、が、学院長は約束したのだ。ならばそれだけの実力を持ってもらうよう愛の鞭を与えることにしただけの話である。


「まぁ……、もういい。今回の件だが、正直な所厄介払いだ。スイル国の冒険者ギルドには既に話を通している。わかって居るとは思うが外ではお前が責任者だ、何かあった場合責任を負うのはお前だからな」

 もはや言っても無駄だと思ったか、話を変えるティファナス先生。


「つまり学院は知らぬ存ぜぬを通すと?」


「そういうつもりは無い、周りにも言わせるつもりも無い、が、それぞれの立場がある、あまり手間をかけさせるな」

 お前なら意味は分かるな、と話すティファナス先生、この半年でかなり親密になれた気がする。主に学院長への不満と言う共通点で。


「まぁ、ティファナス先生には恩がありますからね、ある程度は聞きましょう」


「それと……」

 一旦区切り、神妙な顔をして話しだす。


「加護持ちの重要性はわかっているな? カルディナ魔術学院の息がかかってる場所からは決して出るな、野外活動の活動期間提出書の内容は必ず守れ、提出した期間内に戻ってこなかった場合面倒事になる。もちろん所詮研修だ、こちらでも把握している内容を斡旋するように言ってはいるが、な」

 ギルドにて仕事を斡旋して貰った後、仕事の内容とそれにかかる期間を学院側に提出しなくてはならない、また、行く可能性のある場所、予想される費用も提出すれば、妥当だと判断された場合、必要経費が下りる。


「わかりました、まぁ、彼女も自分の立場と立ち居地と、それに付随ずる可能性をみっちりと聞かせましたので、無謀な行動はしないでしょう、だからと言ってコントロールできるわけではありませんが。」

 半泣きの彼女を思い出す、別にそんな性癖はないので思うところは無い、また散々な目にあったので、これでチャラだろう程度だ。甘いかもしれんな、とは思う。


 そもそも彼女をなんとかしようとするには一個大隊を連れて来なくてはならない、さすがにそれに気づかないという事は無いだろう、あとは騙して、あたりだがこればかりは気を付けるしかないな。


 予想されるのは帝国が何か手を出して来る事くらいだが、此処で手を出してきても然程メリットは無いだろう。おそらく、ではあるのだが……。





「まぁ、アルフとじゃじゃ馬がいる以上そうそうな事にはならん、むしろこの面子でどんな仕事をさせられるかの方が心配だ」

 先生との話が終わった後、部屋を退室してそう呟く。面倒ごとを押し付けられなければ良いが……。

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