phase-35 【皇女の思い】
第三皇女リリス=アルナス=カナディルは先祖返りである。
祖母がハーフエルフであり、その血を色濃く受け継いだ、第一皇女とも第二皇女とも違う耳の形は幼い彼女に小さくはない疎外感を与えた。
しかし世界は彼女に加護という力を与えた、自分だけの力、自分だけの強さ、それは彼女に自信を与える。その強さゆえに孤立していくことに気が付かず。
8歳で8元素を収め、天才と周囲にもてはやされる彼女は有頂天だった、腫れ物に触るような扱いをされていることに気が付かず彼女は皇女として生きていく。
10歳になる頃、自分の立場の異常に気が付く、同年代の子供はちょっとした事で脅え、何もしていないのに謝り、離れていく。
初めて出来た友達、自慢するつもりで使った力も、ただ離れていくだけだった。
気が付いた時にはもう遅かった、回りには大人しかいない、加護の力だけしか見ない大人だけ。優しかった姉は嫁いで行き、独りぼっちになった彼女は力を求めた、それしか無かったから。
とある日、軍のグラン=ロイルという男に出会った、茶髪で大きな体、最初は煩い男だと思っただけだった。でも彼は私を見てくれた、加護持ちなどではなくリリス=アルナス=カナディル、いやリリスとして。
それから軍の訓練を良く覗きに行くようになる。私が来ると急に礼儀正しくなる大人達の中で彼は私が来るたびに苦笑していた。
なぜ貴方は私を恐れないの?
不思議に思って聞いたことがあった、そうしたら彼の息子も同じく加護持ちだと、そして自分の息子の時一度失敗しそうになった事も。
あんたと同じくらいの餓鬼が居てな、その餓鬼は加護持ちじゃねーんだがよ、うちの息子をボコボコにしちまったんだ、あんときは本当にびっくりしたぜ、そして悩んでた俺がバカみたいだった。
方法はおしえてくれねーんだけどな、と笑いながらしゃべる。
信じられなかった、きっと嘘だ、と。私はこんなに恐れられている、怖がられている、こんなに強い私と同じ加護を持つ者を唯の人間が倒すなんてありえない。
だから私はその加護持ちに会って見たくなった、そしてその加護持ちを倒したという子供にも。
もしかしたら加護と言うのは嘘かもしれない、でも……、私と張り合える人ならそれはそれできっと楽しい。そしてそんな張り合える相手を倒した人、その人もきっと楽しいに違いない。
もしかしたら、もしかしたら私と同じ立場に立っているのなら、友達になってくれるかもしれない、今度こそ、今度こそ。
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14歳になる少し前カナディル魔術学院の編入の話がある、とナンナお姉様から連絡が来る。
カナディル魔術学院といえば私と同じ加護持ちがいる魔術学院だ、前々から行きたかったのだがお父様から止められていた、理由はよく分からない、なんか帝国がどうの、とか言っていた。
ずっとずっと会って見たかったのに駄目だとしか言われない。
だからナンナお姉様のお話は嬉しかった、会える、私と同じ加護持ちに会える、それしか考えられなかった。
ナンナお姉様がお父様とお話をしている。内容は帝国の問題や連合国家の利益、魔術学院に対する事を話していたけど私はそんな事より私と同じ人に会えることが嬉しくてあまり聞いていなかった。
魔術学院は初等部、中等部、高等部、研究部がある。15歳になった私は実力があれば中等部にすぐにはいれる。私と同じ加護持ちは14歳だそうだ、1個下なのが少し残念だったけどそのくらい別に良い。
待ちに待った学院、楽しみで仕方がない、なのに私を見る目は好奇と恐怖の目、ああ、魔術学院でも変わらないのか、でもきっと彼は違うはずだ。
中等部からはチーム分けがされるとの事、彼と一緒のチームになれればいいな、と思いながら部屋で待つ。
帝国の貴族とやらが声を掛けてきた、加護持ちであり、皇女である私と繋がりが欲しいのだろう、学院に来ても皇女だと言うことには変わらない、面倒ではあったがとりあえず対応しておく。
その口から放たれる言葉は城に居た時と変わりはしない、そうだろう、きっとこれが正しい対応なのだろう、そして無難に返答し、好印象を持たせる事が正解の回答、そう、ずっとやって来た事だ。けれど此処は国では無い、私は何のために出てきたのか。
冗談ではない、もう我慢が出来なくなった私は学院長室に向かう。
勢い良く扉を開けると其処には黒髪の男と女、水色の髪の女と茶髪に赤目の男がいた。
いきなり馬鹿にされる、冗談じゃない。先ほどの男もそうだったが、ここの学院の連中は、と思った瞬間その男から加護の力を感じる。
こいつか! 冗談じゃない、わざわざ国から出てきて、ふざけた貴族の相手をして貴様に会いに来たと言うのに。
気づいたら口が勝手に喧嘩を売ってしまっていた。
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「で、まずアルフ、言いたい事はあるか? 聞いてやる」
ぐりぐりとアルフのこめかみに朧を突きつけながら言う。
「あの、スオウさん、朧をこめかみに突きつけながら話すのはちょっと違うと思うんだよなー……」
両手を挙げて降参の姿勢だがやめるつもりは毛頭無い。
「心配要らないぞアルフ、お前ならこの距離で撃っても多少血が出る程度だ」
ニヤリと笑って言ってやる。きっと大丈夫、そう、信じる事は大事なことだ。
「いやいやいやいや、さすがの俺も多少じゃないから! 強化魔術唱えてなおかつ意識しての話だから! 至近距離とか無理、無理っす!」
顔をぷるぷると振りながら答える、む、朧がずれるじゃないか動くなよ。
「大丈夫、俺は信じているぞ」
心の中でサムズアップ、チート具合は知っている、心配していないさ!
「ちょっとっ、話を聞いて! 聞いてっ、ライラっ、ライラ助けて!」
ライラに必死に助けを求めるがそこにはもがもがともがくライラがいる。
「むぐーむむぐーむぐー」
「すみませんアルフ、どうやらライラはお助けできない様子です、本当に残念です」
ライラを羽交い絞めにして口を手で押さえているスゥイ。
「さぁ、辞世の句を読むが良い」
「やーーめーーーてーーーーっ」
部屋に悲鳴が響き渡った。
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「まぁ、さすがに冗談だ、さて、自己紹介がまだったなじゃじゃ馬、スオウ=フォールスだ。残念ながら宜しく頼む」
朧を仕舞い、アルフを解放する、ぐったりとしたアルフを横目に部屋のベットの上でむすっとしている金髪の少女に声を掛ける。
「ふんっ、誰がじゃじゃ馬だっ! 貴様何様のつもりだ!」
案の定怒っているようだ、しかしどこか目が泳いでいる。
「黙れよ、お前のお陰で何人の生徒が迷惑を被ったと思ってやがる、子供だから何でも許されるとでも思っているのか」
ベットの上に座るリリス皇女を睨め付け言う。
「なんだと! そんな事すべて弁償すると言っただろうがっ」
ギッと睨み返され、言い返してくる。
「ほぉ、その弁償する金は何処から出るんだ? お前の金か? まさか父上とか言うわけじゃなかろうな、国民の血税で賄うと? 自分勝手に壊した物を汗水たらして働いた人から巻き上げたお金で直すと? ずいぶん自分勝手なヤツだな、皇女殿下だから何しても良いとでも思っているのか? いや、思っているからこそあの行動なんだろうな」
「き、貴様、私を侮辱するつもりか!」
現状の自分がしたことを話してやる、口では強気で言い返しては来るが、目は泳いでいる。こいつ、もしかして。
「…………あんたは金で全て解決できると思っているのか?」
「なに……っ、誰も全てとは言っておらん!」
やはり最低限の常識的な認識は有るようだ、ではなぜあんな事を、どう考えても自分の立場が悪くなるだけだというのに。
「怪我をした人こそいなかったが、お前らが壊した校舎で行われる予定だった授業は延期になったり、他の教室で行われる事になる、その手間を考えたことはあるか? もしかしたら壊した部屋に誰かの大切なものがあったかもしれない、お前はその思いまで金で買うと言っているんだ」
「そ、そんな事」
「知ったことではないとでも言うのか? ならなぜ困った顔をする、認めたくないのか? お前はいったい何をしたかったんだ?」
「それは……、私は……」
悲しそうな顔で俯くリリス皇女、そんな顔をするなら最初からこんな事をしなければ良い、それだけの話なのだが。
「なぁ、リリスよぅ、別にスオウもお前だけが悪いとは思っちゃいないさ、俺にだって責任はあるんだ」
見かねたアルフが声を掛ける、さすがにフォローしたくなったのか、それとも自分もその片棒を担いでいるのでこの後の攻めを少しでも減らそうとしているのか。
「そうだな、むしろお前が余計なことを言ったのが原因でもある」
せっかくなのでアルフも一緒に攻めることにした。
「そうですね、そう言えばそうでした、アルフあやまってください」
察したのか便乗してくれるスゥイ。
「ちょっとまて! なんでそんな流れになる!」
「うーん、アル君あやまったほうが良いと思うよ?」
ごめんね、と言いながら便乗するライラ。
「ちょっ、ライラまで!」
どうやらアルフ君に味方は居ない様だ。