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Moon phase  作者: 檸檬
カルディナ魔術学院中等部
38/123

phase-34α(幕間)

「大変ですね、学院長も」

 スオウ=フォールスが部屋を出て行った後一人の男が入ってきた。腰に長剣を吊るした、ガルフ=ティファナスである。


「ガルフ君かの、まったく君も人が悪いのぅ、聞いていたのなら仲裁に入ってくれてもええじゃろうに。」

 ふぅ……、とため息を付き、恨みがましそうな目で入ってきた先生を見る。


「不満を受けるのも仕事のひとつですよ学院長」

 くっくっと笑いながら答える。二人の喧嘩を仲裁し、現場の後始末の後此処に来たのだ。


「そうじゃがのぅ、老体には堪えるわい。それで二人の容態はどうじゃ?」


「さすが加護持ちと言ったところでしょうか、治癒魔術をかけ回復しています。多少傷は残るでしょうが、1,2ヶ月もすれば分からなくなるでしょう」


「そうかそれならよかったわい、大事な預かり物じゃからのぅ」

 ほっ、と目に見えて安心する学院長、この辺の苦労が重なって髪がなくなったのかも知れない。


「しかし学院長、よくカナディル連合国家が加護持ち、しかも皇女を学院に寄越しましたね。いくら中立のスイル国といえど帝国の属国です。我ら学院も中立の立場ではありますが土地はスイル国の物です、強く出られた場合断れない場合もありえます」

 心配な顔で問いただす。所詮、国と言う相手には対抗できるような存在ではないのだ。


「それがのぅ、今回の件、ローズ家が絡んでおる様での、あの姫君の姉のナンナ=アルナス=ローズが国に裏で手を回したようじゃ」

 額に皺を作り、ううむ、と唸る学院長。


「どういうことですか、余計解せません、彼女の立ち居地もコンフェデルス連盟側のはずです、場合によってはカナディルより帝国を危険視しております。その状態で表立って敵対していないとはいえ、敵国に強力な兵器となりえる加護持ちを渡すなどと」

 加護持ちは一騎当千となりうる人材である。戦力を変動させ、町一つ一人で滅ぼしてしまう可能性を持っている。


「わからんのぅ、もともとアルフロッド君の件ですらいろいろ裏で言われたようじゃからの、今回のリリス皇女で帝国側も何かしてくるかもしれん」


「まったく、面倒なことになりましたね、しかしそれならば断ればよかったのでは?」


「まぁの、それも考えたのじゃが、箔が付くというのも一つじゃ、それとスオウ=フォールス、彼に少し期待してみようかとも思っての」


「多少頭は回りますがまだ14歳の子供ですよ、何を期待するというのですか、将来性はありそうですが……。」


「ほっほっほ、唯の14歳の子供が大人二人に向かって吼えるものか、なかなかの迫力じゃったぞい。」

 ほっほっほ、と心底楽しそうに笑う学院長、楽しい楽しいおもちゃを見つけた子供の様だ


「その程度で学院ごとリスクにかけるのはどうかと思われますが」

 我々まで巻き込まないで下さい、と目で訴えるガルフ先生。


「ほっほ、やっぱりそうかの……?」


「えぇ、そうです」

 大仰にうなずくガルフ先生。


「まぁ、しかたがないの、今回の件ローズ家が裏で手を回している事がわかっとる、いや、わからされとる。学院としては受けるしかなかろうて」

 スオウ達も辞めさせる訳にはいかない、フォールス家を敵に回さない状態で穏便に辞める形になったとしても今度はリリス皇女と組める人間がいない、特例を認める手もあるが異例を作る必要がないのならそれに越したことは無い。


「学院長がそう決めたのでしたら……。ですがこれ以上学院を壊されるわけにもいきません、その辺はどう考えておられるので?」


「スオウ君次第じゃの、うまく抑えられるのなら野外活動を少し多めに、もし駄目なようなら殆ど野外活動にして単位を取得する形にするしかあるまいて」


「対外的な評価が問題になるかと思いますが、先で問題を起こす場合もあります」


「ほっほっほ、外での問題はリーダーが責任を取ることになっとる、それで済ませばよいじゃろ」

 表立っては何も言うつもりは無い、喧嘩を売ると被害が大きそうだ。こちらの手を増やしておくに越した事は無い。


「怒られるのはおそらく学院長ですよ」


「ほっほ、老体に堪えるのぅ……」

 腰を叩きながらため息を付く、しかし目は笑っていなかった。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














 六家の一つ、ベルフェモッド、居間で二人の女性が話をしている。


「どういうこったい、その情報に間違いはないんだろうねっ」

 飲んでいたワインを机の上に乱暴に置き、報告に来た女性を睨みつける。


「ええ、ローザおばあ様、リリス皇女がカルディナ魔術学院に編入したようです」

 薄い金の髪を肩より下で切りそろえた女性、眼鏡をかけており知的な雰囲気を醸し出している。

 彼女はエイリーン=ベルフェモッド。ベルフェモッド家当主、ローザ=ベルフェモッドの孫である。


「カナディルの連中はなにをやっとるんだい、無能のでくの坊どもがっ、帝国に餌をやるってぇどういう了見だぃ!」

 老体とは思えない声量で怒鳴る婦人、その目はとても70を迎えた女性の目ではない。


「不明です、というより曲がりなりにも五国最高峰の学院です。単純に魔術の制御技術と精神の向上を期待して、とかじゃないでしょうか」

 まぁ、予想に過ぎませんが、さすがに稚拙すぎますかね、と返す。


「ふんっ、その程度の考えしか出来ないような愚図ならさっさと首吊っちまいなっ」

 まるで汚物を想像したかの様に顔を顰めて言い放つ。


「それと、これは裏は取れていませんが、今回の件ローズ家が関わっているそうです」

 目を細めて資料を見ながら伝える。資料を1枚束から取り、ローズに渡す。


「なんだって? ローズ家が、まさかあの女狐かい?」

 顔を顰め、資料を受け取りながら答える。


「はい、ナンナ=アルナス=ローズ、ガウェイン殿の奥様です。ですが情報が手に入るのが早すぎます、おそらく意図的に流されている可能性があります」


「何考えてるんだろうねぇ、そういやあのレイズの悪餓鬼がもってきた資料、あれもローズ家関係だったねぇ」

 ふぅむ、と顎に手を当てる、その手は年齢通り皺が刻まれている。


「えぇ、正確にはここ数年でカナディル連合国家有数の造船会社となったフォールス家からの出物だったようです」


「外輪船の件からあの辺は臭いね、なんかわかったのかい?」


「いえ、まだ何も、優秀な技術者か開発者がいるであろう事は間違い無いとは思うのですが」


「ふん、まぁいい、それよりもあの女狐が何企んでるかのが重要だねぇ、例の件進める為にもこっちから下手に手を出すつもりはなかったが、どうしたもんかねぇ」

 パンッと資料の束を机の上に投げる。


「ディルス家かアウロラ家もしくはスーリ家と連絡を取りましょうか」


「ふん、鼻垂れ坊主どもに興味は無いね、レイドの悪餓鬼に誰か付かせな、外輪船とやらの件で騒いでないのはうちを除いてあそこだけだからね」


「わかりました、ではその様に」

 頭を下げ、横にいた男性に何かを言伝する、伝え終わった後、男性は礼をし下がって行く。




「それともう一つご報告が」

 資料を脇に抱え、胸元から折りたたまれた紙切れを取り出す。どうやら情報を資料に纏めた後に届いた情報の様だ。


 唯伝える為だけに書かれた殴り書きの紙切れを開く。


「なんだい? 今度は良い話なんだろうね」


「いえ、残念ながら良い話ではありません。ローズ家から外輪船を購入する為だとは思われますが、リメルカ王国の人間がコンフェデルスに入ったようです」


「ちっ、売ると思うかい?」

 悪態をつきながら聞き返す。その顔は苦渋に満ちている。


「おそらくは、しかし通常価格では無いでしょう、ローズ家もその辺は理解しているかと。また搾り取れるときに絞るのが商人です」


「となるとトルコ湖の状況もかわるね、カナディルにも隣接してるんだ人事じゃないだろう」


「ええ、今直ぐにという事は無いかと思いますが、ある程度の常備軍は必要になるかと」


「幸いにもあそこにゃ火山がある、そうそう問題にはならんと思うが、あの国には幻像種の竜がいるからねぇ」

 トルロ湖はリメルカ王国の領土であり、東は自国の領土が続き深遠の森がある、南はアルレ火山が聳え立ちトルロ湖に流れ込む滝と川になっている。

 また、幻像種たる竜を使役するリメルカ王国の竜騎兵は他国の兵の10倍の戦力を有しているといわれる。幻像種のため数が少ないとの事だが、そこは内情不明な国、正確な数はどこも把握していない。


「えぇ、楽観視するのは危険かと」


「ふん、まぁそのくらいならアウロラのぼっちゃんでも出来るだろっ、一応誰か見に行かせときな」

 しっしっ、と手の甲で振り払う、目はさっさと出ていきなと語っているかの様だ。


「わかりましたおばあ様、では失礼いたします」

 深々と礼をして下がっていく孫娘を見、考える。


 アウロラがキナ臭いのはここ最近の話だ、しかし自国の不利益になるような事まではしないだろう、しかしあそこの当主はともかく長男は愚図だ、何を考え出すか分からない、見に行かせる人員も選んどいたほうが良いかもしれんね、そう思いながら残ったワインを飲み干した。


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