phase-34 【学院の立場】
「ふぅ……、はぁ…………、ふーむ……どうしたもんかのぅ……」
目の前に座っているのはカルディナ魔術学院学院長ゼノ=カルディナ、額を人差指と親指でもみもみしている。
皺だらけの顔がさらに皺だらけになりそうな位苦悶の表情を浮かべている。
「それを決めるのが学院長のお仕事です」
相対するのはスオウ=フォールス、若干キレ気味バージョンである。
「そう怒らんでくれんかの、わしもまさかあんな状況になるとは」
「ほう、それはそれは、魔術学院の長たる者にも分からないことがあるとは、さすが世界は広いですね。」
「スオウ=フォールス、誰に口を利いているのか分かっているのか、どういう意味だそれは!」
横から口を出してくるのは研究部で取り押さえに協力した一人、フォド=ランドルス、右腕に包帯、顔の一部に擦り傷があるその姿は痛々しい。
「これは失礼致しましたランドルスさん、五国の中でも5本の指に入るとまで言われている第三皇女殿下がなぜこの学院にいるのか、その辺もお聞きしたいのですが、喧嘩一つ取り押さえることが出来ない無能な研究部とやらには何をしていたのかもお聞きしたい、ああ、意味でしたね、この危機管理の無さを学院のトップたる方が予想できないとは思わなかったもので、少々驚いたまでです」
「くっ……、どういう立場か分かっているのかスオウ=フォールス! そもそも我々はきちんと取り押さえただろうが!」
「ええ、庭が半壊した後にですがね、立場? 立場ですか、えぇ、なぜか、なぜか呼ばれ怒鳴られている、何もしていない私がなぜか怒られている? はてさて立場ですか? そうですね本日、中等部に入学した立場ですが何か間違いでも?」
「貴様はアルフロッドの押さえ役だろ! なぜああなる前に止めなかった!」
「なにを言っているのやら、いつから私が押さえ役になったので? そんな契約書でも結びましたか? そもそも喧嘩を売ってきたのは皇女殿下です、皇女殿下を止められなかった学院側に問題があるのでは?
大体……
言いがかりも良いところだっ、ふざけるなよ! てめぇらの尻拭いを学生にさせてるんじゃねぇっ! 金を払ってるのはてめぇらのケツ拭う為じゃねぇんだぞっ!」
怒鳴り散らす。
「ぐっ……」
「そもそもだ、まず皇女殿下がなぜこの学院にいる、そしてなぜ私がここに呼ばれている、さらに、このふざけた時間に対する対価は払ってもらえるんだろうな」
「くっ、こちらに非があったことは認める、すぐに取り押さえれなかった事も、だ。しかし喧嘩を買わなければ良かっただけではないのか」
「つまり学院の体面の為に理不尽を飲めと、さすがさすがすばらしい、ではこんな学院は今直ぐ辞めさせて頂きます。ええ、ご心配なくローズ家とフォールス家の力を全力に活用してこの件は世間に公開させて頂きますので。喜んで手伝ってくれると思いますよ」
「ちょっとそれはまってくれんかの……、さすがにお主も国相手に喧嘩を売るつもりは無いのじゃろ?」
「ええもちろん、国相手に喧嘩を売るわけないじゃないですか、この件というのは今までの件ですよ、2年で初等部を卒業できる程度のしょぼい学院で教師は生徒一人取り押さえられない無能の集まり、そうですね、理不尽さも素晴らしい、まさか私が今まで黙って怒られていたとでも? 全て覚えていますよ、1年目の6月アルフの件で最初に呼び出しをされましたね、次は8月にバーウィン家の件、何もやっていないのに呼び出しを受けました、9月と11月も同様ですね」
「ふざけるな、それは明らかにお前らの仕業だろう!」
「では証拠は? どこに証拠があるのですか?」
「そういう問題ではない!」
「証拠がないならでっちあげますか?ええ、構いませんよどうぞご自由に、あぁ、そういえば言語応用の先生なんていいましたっけ、ああ、ケルナ先生、学生と仲が良かったですね、なぜが学生と一緒に学院から姿を消しましたけど、それにゴーロズ先生、お孫さんが病気だそうで、いやはや大変ですね当家の魔昌蒸気船のお陰で薬が安く手に入るようですが、今後高くなる可能性が無ければ良いですね」
「な、おま、おまえ…………!」
「ふぅ……、わかった、望みは何じゃ、ある程度は何とかしよう」
「ああ、いえ、すみません、私も少し頭に血が上ってしまいまして、まずお聞きしたいのはリリス皇女殿下ですが、なぜ学院に居るのですか? また我々とチームを組ます予定、だったことに相違ありませんか?」
「ふぅ、そうじゃの、チームの件はその通りじゃ、学院にいる理由じゃがの、アルフロッド君の件でもあるのじゃよ、自分と同じ位置にいる人間にあってみたかったそうでの、カナディル連合国家からの依頼で断りきれんかったのじゃ」
「ふん、断り切れ無いわけがないだろう、五国でも指折りの皇女殿下を入学させることによる箔と、いくらか金を掴まされたって所か?」
「貴様! 侮辱するのもほどほど……」
「フォド君、すこしだまっててくれんかの」
「はい……、申し訳ありません」
ぎりぎりとこちらを睨みつけながら黙る、拳が震えている所を見るといつ爆発するかわからんな。
「退室してもらったほうが良いんじゃないですか?」
が、正直俺には関係ない。
「きさっ……!」
ギロリと学院長に睨まれるフォド=ランドルス
「すまんが退室してくれんかの」
「しかし学院長!」
無言で圧力をかける学院長、しぶしぶと退席して行った。
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「さて、まぁ私としても今回の件はアルフも関わっていますので、アルフを売るような真似をする気はありません。学院を辞めるつもりも今の所ありません、ですがチームの件は受け入れられません」
「ふぅ……、なんとかならんかのぅ」
「なりません、と言いたい所ですが学院長のお立場もよく分かります、そのためいくつか条件を飲んでいただけるのならば了承しましょう。スゥイとアルフ、ライラにも私から説明します」
「なんじゃね」
「まず一つ、今後アルフとリリス皇女両者における闘争の抑止力を用意する事、またそれによって起きた被害に当方は関知せず、すべて学院側で負担する。
二つ、俺および班員のリリス皇女に対する無礼を一切不問とする。
三つ、二度と俺をこんなふざけた場に呼ぶな」
「しかしじゃな、今回アルフ君の失言もあったわけでじゃな……」
黙って学院長を睨みつける
「わかった、なんとかするぞい……」
はぁ、とため息を付き返事をする学院長。
「正直な所アルフとの戦闘中に話している内容、戦闘狂の気はありますが、皇族を鼻にかけていると言うよりは自分の実力に自信を持っているタイプでしょう、まぁ上手くやります。今後学院の都合で学生を振り回すことのないようにお願いしますよ。こちらは金を払っているのです、そちらが此方に対応するのは当然ですが、こちらが其方に対応する必要は無いのですから、文句があるなら私の入学前に学院規則をもっと細かく決めておく事でしたね」
「ふぅ、肝に銘じておこう、下がってよいぞ」
「失礼致しました」
礼をし部屋を退室、扉が閉まる瞬間学院長がため息を付いているのが見えた。
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「どうでしたかスオウ?」
学院長室を出ると、スゥイが廊下で待っていた。
「まぁ結局は飲んだ、おそらく断ったら学生に働きかけてチームを作れなくされる可能性もあったしな、辞めるという手もあるにはあるが俺達が辞めると皇女殿下と組める人間がいなくなる、何らかの手を出してくるとは思うが」
辞める場合はデメリットの方が多いしな、と思う。まだ14歳にしか過ぎないのだ俺達は。
「そうですか、まぁ妥当な所ですね、元々ストレス発散に使う程度の考えだったのでしょう」
「まぁ、な。金を払ってるとはいえ学生の立場は低い、学院長がその気になれば俺達なんてどうとでもなる。今回此方の条件を飲んだのは、余計な手間を増やしたくなかった、ってところが大きいだろうな」
実際に金を払っているのは俺達ではなく親だ、まぁ、俺は自分で出してるような感じでもあるが。
「予定通りの条件を?」
「あぁ、あんまり無理強いしてもあれだしな、目の敵にされるとまずい。在籍してることに得があり、あまり意見を無視すると損害が大きい、という程度の認識をしてくれるのが一番良い。条件も元々言わなくても学院で対応しそうな内容を確約させただけにしておいた」
学院長もその辺は理解しているだろう、俺なんかよりずっと狡猾な性格をしている可能性が高い。
交渉は落とし所が必要だ、今回俺を敵に回すとどういった可能性があるか、を知らせただけで目的は達している。
「では次はリリス皇女とお話ですか」
「そうだな、今は何処に?」
「中等部の寮の私の部屋です」
「また2人部屋か?」
「いえ、4人部屋です、しかし、ライラとリリス皇女の3人で使うことになってます。おそらく学院側の配慮でしょうね」
「余計な揉め事を起こさないように、とも言えるがな」
もしくはチーム後のことを考えて、か、どうだろうな。
「しゃべってみるとまともでしたよ、かなり血気盛んではありましたが」
ふふっと笑いながら言う、どうやら話は通じる相手の様だ。
「あんだけ暴れて反省しなかったら最早どうしようもないがな」
「まぁ、そうですね」
うなずくスゥイ、目の前には中等部寮が見えてきた。