phase-33 【最強の皇女】
雷光が走る、地面を溶かし、煙とスパークを撒き散らしながら直進するその雷光は一人の男に向かってまさに光速で着弾する。
―――――ドォオオォオン
一際大きな音を立てて土煙を立てたその場所から無傷で飛び出してくるのは茶髪に赤目の大剣を持った男、アルフロッド=ロイル。
神速のごとき踏み込みで金髪の美少女に切りかかる。
【Une fracture】《断絶》
瞬時に展開される魔術結界、淡いピンク色の薄い膜にぶつかる大剣。
バリバリとスパークを放ち、結界を侵食する。
―――――パリィィイイン
3秒ともたなかったその魔術結界は崩壊し、剣を振り下ろすが、間一髪で避ける金髪の美少女、リリス=アルナス=カナディル、その顔は愉悦で歪んでいる。
振り下ろした勢いのまま蹴りを入れようとするアルフ、しかしその足に向かって拳を振り抜こうとするリリス皇女。どう考えても打ち負けると思った瞬間、魔術言語が詠唱される。
【Tonnerre Un poing】《雷撃》
青白い雷を纏ったその拳はアルフの足を吹き飛ばす、アルフは勢いを殺せず、軸足で地面を蹴り、その場から離脱。
リリス皇女はそのまま左手に右手を重ね再度魔術詠唱。
【Rassemblez-vous Venez Mon épée】《集え、出でよ、我が剣》
【Tonnerre Une épée】《雷光剣》
両手を閃光が包み、バチバチと放電をしている雷の剣が出現する。
ぐっと、しゃがみ込んだと思った瞬間、地面スレスレを滑るように飛んでくるリリス皇女。
アルフは地面に大剣を叩きつけ、そこに1m程のクレーターを作ると同時に大量の土埃を上げ身を隠す。
―――――ブォンッ
瞬間切り裂かれる空間、バチバチと音を鳴らせながら切り裂くその雷の剣が通った先は焦げ付いた匂いが残る。
しかしすでにアルフはいない、良く見ると地面に小さな影、瞬間気づき上を見上げると空高く飛び上がるアルフ。
ぐるりと空中で方向を変えて眼下を見下ろす。眼下に居るのは金髪の美少女、そして同じ加護持ち。油断はいらない、遠慮も要らない、欲しいのは全力、必要なのは力だけ。
大剣を広げ、空中を蹴り上げ疾走する。その姿はまるで戦闘機の如く空気を切り裂き、地面のリリスに向かって突撃する。
突撃してくるアルフに対して既に詠唱が済んだ魔術を行使する。
優雅に、美しく、そして威風堂々とアルフを見、右手の人差指と中指を立て、アルフに向ける。
【Un éclat de lumière】《閃光》
たなびく金髪は魔術の光か日の光か、きらきらと反射をしまるで一つの絵の様だ。
―――――バシュッ
―――――バシュッ
―――――バシュッ
指から光速で連射される高熱閃、それを空中でかわし、剣を振りかぶる。
かわし切れなかった熱閃が皮膚を焼く、アルフの強化魔術の上から焼き切るその収束力は驚嘆の一言だ、直撃したらおそらく唯では済まない。
直前に迫り剣を振り上げると略式詠唱の上位、瞬間詠唱で結界魔術が張られる。
しかし今度はアルフも馬鹿じゃない、剣に強化魔術を施す、剣が淡い青色に染まり、結界に叩きつける。
―――――ガァァァアアアアン
一撃で崩壊した結界、衝撃がリリスに届き、吹き飛ばされる。
おそらく同時に後ろに飛んだのか衝撃を大分吸収しているようだが、ドンッ、ドンッと地面を撥ねて転がっている。
勢いが弱まったあたりでバチッ、と全身に雷光が走り、急停止。
金の長い髪が顔の前に流れ落ちる、その髪を掻き揚げて後ろに流す。
どうやら額の一部を切ったようだ、顔の一部が血で隠れている。
その血をペロリと舐めて。
「ふはははは、さすがだアルフロッド! ここまで私と張り合える男がいるとはなっ、いいぞ、もっと私を楽しませろ!」
左手を前に雷球を生み出す。
右手を振りかぶり、雷球を打ち抜き、放つ。
【Tonnerre Une balle Un pistolet】《雷弾砲》
雷の道が出来上がる、通る箇所は全て焼けただれ、消失していく。
同じく満身創痍のアルフ、所々が焼け焦げ、ぷすぷすと音が鳴っている。
「けっ、同い年でここまでやるやつが居るとは思わなかったがよ、売られた喧嘩、負けるつもりはねぇっ!」
ぶったぎれっ、所詮は雷、俺に切れない物は無いっ
《斬光剣》
空間すら切り裂くような一撃が放たれた。
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「人外魔界大決戦ってかー……」
なんか映画みたいだなこれ、いやハリウッドもびっくりだぜこれ。
「スオウ、このままでは学院の校庭が使い物になりません、いえ、既に手遅れですね」
庭を見ながら顔を顰めて言ってくるスゥイ。
「あーまぁ、いいんじゃねぇの、俺退学届けとか書いてくるかな」
そんな話をしている間も彼らの喧嘩、というか人外魔界大決戦は続いている。
リリス皇女がアルフの蹴りを食らい空中に吹き飛ばされるが全身をスパークさせ、アルフにもダメージを与え吹き飛ばす。
「それも良い考えですね、私もお付き合いしますよ」
むしろ是非お願い致します。とばかりに話してくる。
「あ、教室が半壊したな、人いなかっただろうか」
ズドンッと、物凄い勢いでアルフが教室に突っ込み、壁を崩壊させたかと思ったら直ぐにその場から射出するかの如くリリス皇女に向かって行く。
「さきほど学院長が退避連絡していましたから大丈夫でしょう」
「なにを暢気に話してるのスゥちゃん! スオウ君! このままじゃ学院がなくなっちゃうよ!」
顔を真っ赤にして怒るライラ、元がかわいいだけあってなかなかに迫力がある。
「はっはっは、何を言っているんだライラ、だから退学届けを書くと言う話をだな」
「そうじゃないでしょっ!」
キーン、と耳に響くほど大声を張り上げるライラ
「うーん、まぁ、先ほどティファナス先生が、研究部の人間何人か連れてくるって言ってたからそれを待つしかないわな、あれを止める気はないぞ俺は」
「そうですね、あ、そういえばスオウ、おそらく彼女を5人目に加えろっていう話になるかと思いますがどうしますか?」
「ん? あぁ、そうだろうね、自分達の不甲斐無さを棚に上げて生徒に押し付けるとは、なかなか面白い考えだよね、さて如何してやろうか、まずは学院長の髭毟り取る所から始めるのなんか良いと思うんだがどう思う?」
「そうですね、ついでに眉毛も剃り落としてみましょうか、大丈夫です道具は此方で揃えますので」
「スゥちゃんスオウ君もどってきて! もどってきてよーーー!」
黒い笑顔で二人で笑い出している所にライラが半泣きで訴えてくる。
とりあえず金を払っている以上は教師としての仕事をしてもらわないと困る、押し付けてくるなら授業料を回収してやろう、そう心に決めて、人外魔界大決戦リアル生放送中の視聴に戻ることにした。
その後駆けつけた教員と研究部の人間総出で二人を取り押さえ戦闘は停止される。正直両者が潰し合い体力が消耗していなかったら止められたかどうかは定かではない。