phase-32 【六家の思惑】
年も明け、外輪船が完成した。
もっぱらこの船はカナディル連合国家内で使われることが多いだろう、しかしレイズ家にも1隻売ることが確定している。もちろん直接ではなく、どこかを経由して販売する予定ではあるが。
レイズ家が管理する魔木が存在する森はブルド島に存在している。その島はコンフェデレス連盟の西に位置する島だがトルロ湖から流れ出る川と北にいくつか位置する小島、そして連盟そのものの大陸で丁度十字の形を描いている。
流れ出る川が島に当たり、寄り戻してきた所で又大陸に当たり、そこは荒れた魔海となっている。
また、北から吹き上げる風が大陸によって急激に収束され、殆ど一定方向からの風しか吹かないのだ。
そのためブルド島に渡るためには南からぐるりと回るルートしか取ることができなかった。
しかし今回外輪船が出来ることにより、隣接している大陸から直接行くことが可能となる。
航海時間にして5分の1だ、これは驚異的な差である。
持って行く食料から、人件費の削減、なにより風に頼る必要がないため、毎回同じ時間で付くことが可能となる。
最初は魔昌蒸気船を検討していたが、北に位置する小島の事を考え、小回りの利く外輪船を求めてきた。
もちろんこれでもか、と、ぼった食った価格から交渉を始め、いくつかの条件を代わりに飲ませた後、販売を決定したそうだ。
また、この外輪船が完成したことにより、元々魔昌蒸気船で名を上げていたダールトン=フォールス、名実供にカナディル連合国家有数の造船会社の社長となる。
ちなみに菓子部門は既にカナディル連合国家のトップだ、なぜ、なぜこっちの部門が先に……と、落ち込んでいたと後日母上から聞いた。
まだまだトップには立てては居ないが、ローズ家とレイズ家以外の六家は勿論、その急激な成長に帝国も目を向け始めた。
しかしフォールス家はこの技術、船はすべてローズ家を通さない限り他国には販売しないと宣言する。
ローズ家の力添えの上でできた為だから、と。
ローズ家の増長を防ぎたい、レイズ家とベルフェモッド家以外の3家は裏で色々と動き出す。
レイズ家は事情を知っている、静観を保っていた。
ベルフェモッド家は不明だ、何を考えているかは分からないが、この件では特に触れてこなかった、グランドマザーと言われる狡猾な女主人であるローザ=ベルフェモッド、唯で黙っているとは思えない。
とくにレイズ家、もといスオウのお陰で大分辛酸を舐めたはずだ、情報はかなり制限させたが、あの魔女の事だ、フォールス家が一枚噛んでいる事は掴んでいるはず。
しかし、表立っては何も動いていない、裏の情報も特に無し、だ。不気味な沈黙を保ったまま、外輪船が市場に出る事となる。
また、フォールス家の船は、カナディル国内では国相手に限り、通常に販売をしている。態々利益が出ることが分かっている商品をローズ家を経由して売る。この発展はローズ家のお陰か、と思う人が大半であった。
もちろん分かっている人間には分かってはいたが。
「というより、大抵の人間は裏があると思うでしょうね、利益をどぶに捨てているようなものですから」
ナンナ=アルナス=ローズ 17歳になり、ますます美しさに磨きをかけたナンナが窓際でフォールス家の従業員が外で船の搬入をしている所を見ながら言う。
「ローズ家にレイズ家、そしてフォールス家、さて、世界は何処まで読みきれるかしら」
ふふふ、と笑うナンナ、その笑顔は何処までも美しかった。
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「深遠暦659年、中等部入学式を始める」
初等部と同じくガルフ=ティファナス先生が進行を進める。
「全員、起立。
まずは中等部進級おめでとう、君達のますますの躍進を期待する。中等部からは一人の魔術師として扱われる、もちろん私達が助けることもまだまだ多いだろう、君達はもう卵の殻が付いた雛ではない。
だが、殻が取れた程度にすぎん、慢心せず常に切磋琢磨し成長していきなさい」
「学院長先生、どうぞ」
「ほっほっほ、さて、今日から君達は中等部の学生じゃ、中等部から野外授業があるのは知っておるな?学院は14歳以上で登録できるギルドと提携を結んでおる、そちらに登録して必要なクエストを処理してもらうぞい、なに、そう難しいことでもないぞい、日々鍛錬を忘れていなければ、じゃがな。
また、今年からチーム制となる、5人一組となり、それぞれ任務に当たるのじゃ」
ふむ、5人一組か、となるとスゥイ、アルフ、ライラ、俺、と後一人か、まぁアルフとライラで別にチームを作るかもしれないし、3人集める必要もあるかもしれんな。
学院長が簡単な中等部の心意気みたいなものをしゃべった後、壇上から降りる。
ティファナス先生が壇上に上がる。
「これで中等部入学式を終了する。後、スオウ=フォールス、スゥイ=エルメロイ、アルフロッド=ロイル、ライラ=ノートランドは後で私のところへ来るように」
ざわざわと周りが煩くなる。スゥイと顔を見合わせた後、一緒にアルフを見る。アルフは俺は何もやってない、とばかりに首を振る。
「信用できませんね、無意識でもやらかしている可能性があります」
「たしかに否定できない、が、なんか違う気がするんだよな、いやーな予感がする」
嫌な予感がする、特にアルフ繋がりで。
「貴方の予感は当てになりますからね、聞かなかったことにします」
顔をしかめて話すスゥイ。
頼むから犠牲になるのはアルフだけにして欲しい。信じてもいない神に祈りたい気分だった。
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入学式の後、ガルフ=ティファナス先生の部屋へ向かう。
「あぁ、すまんな、良くきてくれた」
壇上でしゃべっていたような雄々しさは控え、どこか疲れた顔をしている。
「まず今年度から5人で一つのチームを組むことは聞いたな?これは寮生活で培った集団行動を元に、軍で良く活用されるチーム編成を使い、パーティーでの動きを学ぶことを含んでいる。
リーダー、サブリーダーを決め、班員の把握も行う、そういう意味合いがあるのだが……」
バサッと机の上に資料が投げられる。
「まずスオウ=フォールス、お前の知識レベルは既に高等部に行っても可笑しくない。なにより冷静沈着、状況の把握に優れ、自分に出来ることと出来ない事の把握が完璧だ。
スゥイ=エルメロイ、その年で上級魔術を使いこなす水の魔術適性は脅威であり、スオウ=フォールスと同じく冷静沈着、状況の把握に優れている。
そしてライラ=ノートランド、火と水の相反する属性というハンデを持ちながら、両属性を使い、また飛びぬけた槍術を持ち、種族特性である翼を使った空中戦は同年代ではアルフしか相手が務まらない。
最後にお前が一番問題だ、アルフロッド=ロイル、加護持ちである上に強化魔術をある程度使いこなせるようになったお前はもはや高等部でも上位3人くらいだお前の相手が出来るやつは。
まさか此処まで化けるとは、、、いや可能性はあった、俺が甘く見ていた」
くそう、こんなことなら、と頭を抱えているティファナス先生。
「ようするに、組める相手がいないということですか?」
「まぁ、そうだ、お前らの中の誰か一人でもどこかのチームにはいると、中等部のレベルのクエストでは他の子の授業にならない、というのがまぁ、理由のひとつだ……」
「ひとつ、ですか?」
「そうだ、一つだ、重要な問題がもう一つあってだな……、いや、これは本当に君らには申し訳ないとは思うのだが、釣り合いが取れるのが君らしかいなくてな……」
「なにを……?」
言って、と言おうとした時、後ろにある扉がバンッと開かれた。
「いつまでぐだぐだぐだぐだやっておるのだっ、そんなに決まらないのなら一人づつ私が吹き飛ばしてくれる、立ち上がれたヤツで組めばよかろうっ、なんなら教室ごと吹き飛ばしてもかまわん! 弁償は私がするっ」
どう考えても理不尽すぎる事を叫びながら部屋に突然一人の女性が入ってきた。
長いストレートの金髪は腰まで届き、目の色も金、その美しい金の髪から覗く耳は三角形にとがっている、上に吊りあがっていない事からおそらくハーフエルフだろう、同い年だろうか、とても同い年とは思えない様な体つきをしている、と思ったとき誰かに似ているような……。
エルフで知り合いと言えば銃作成のときお世話になったリーズさんくらいだ、しかし彼女とは似ても似つかない……。
ふと、隣を見てみるとスゥイが唖然としてその女性を見ている。
ライラが、あ、あ、あ、あああああと叫びだした。
「なんだ? このむちゃくちゃなバカ女の知り合いか?」
アルフがライラに聞いている、お前にバカとは言われたくないだろうなぁ、と女性に向き直ると、ひくひくと口角が吊りあがり、目尻がピクピクと動いている。
「ほぉ、貴様いい度胸だ、黒焦げに……、む? 貴様、加護持ちか、そうかそうか、貴様がそうか」
くく、くくくくと笑い出した金髪美女。ふぁさり、と長い髪を右手で後ろに流す。そしてアルフを睨み。
「私の名はリリス=アルナス=カナディル、貴様と同じ加護持ち、運命の女神クロトの守護を持つ者だ、貴様がアルフロッド=ロイルだな、表に出ろ、消し炭にしてくれるわ」
そう言い放った。
ようやくリリス皇女殿下が出ました。
アルフの死亡フラグが立ちました。
アルフ、君のことは忘れない。
3/24 各所名前修正
3/24 皇女殿下名前変更。というか戻しました