phase-30 【再開の友人】
朧を左の腰の革製のホルスターに取り付け、湖月を背に横に吊るす。
ホルスターはブルムさんのサービスだそうだ、素材は皮のため濃い目の茶色、特徴的な形をしている朧(トンプソン・コンデンター)を上手く覆い隠し、なおかつ出し入れもしやすい形状になっている。
またベルトに黒魔昌石製の魔弾を入れれる小さなポケットが10個ついている。ネロさんに集めてもらった分だ。マナを篭めるのも最悪ポケットに入れたままできるように上部が少し見えて触れるようになっている。
握りながら篭めたほうがやりやすいので使うことは殆どないとは思うが、と言うより横着して割ったら洒落にならない、1個金貨1枚だ、笑えない。
今まで湖月を左の腰に下げていたが、二つ同じ箇所では取りにくく、なおかつ朧を何度か試射したところ、右手でないと反動を支えきれず照準がぶれることが分かったため、左手に湖月、右手に朧を使う形になりそうだ。
右の腰に付けるのも考えたが剣の長さが短いことも有り背に吊るす。短さから左側にあっても左手で抜ける事を確認し、カナディルに戻る準備を始めた。
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そういえば結局魔弓は作らなかった、時間的な問題も無いわけではなかったがスゥイが遠慮した。自分に使えるだけの力と技術を得たとき、お願いしに来ます。と、そのまま魔木はローズ家に保管する事になる。
練習する場合でもあったほうが良いのでは、と思ったが、中等部から野外実習もある為、学院の魔弓を申請さえ出せば一定期間借りられるそうだ。とりあえずそれで腕を磨くとの事。
別に遠慮する事はないのだが、と思ったが彼女は彼女の考えがあるのだろう、あまり強く言う事でも無い。
さて、カナディルまで6日、学院まで5日か、結構長いな。コンフェデルスで買った本を読むにしてももって2日くらいか。魔術言語の配列検討でもするかな、略式言語が出来て居ないのもいくつかある事だし。
そう考えている所にスゥイから声がかかった。
「そういえばレイド家の当主からお土産を貰ってきました。どうやら例の技術で予想以上に儲けが出そうなご様子で、話していた商人とやらに渡してくれ、との事です」
どうぞ、と渡してきた包みはどこかで良く見たような包みだ
良く見ると、どこかで見たのは当たり前、フォールス製お菓子シリーズだ、皮肉が利いてるじゃないかボルゾさん……。
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一日だけ実家に顔を出し、そのまま学院へ出立。銃についていろいろ聞かれたが当たり障りのない回答をしておき、また外輪船の進捗状況を確認、どうやら来年頭には試作船が出来るそうだ。すごいスピードだ。父上のやる気が垣間見える。
結局13日程要した後、カルディナ魔術学院に到着した。
「久しぶりだな、アルフ。どうだ座学の方は問題ないか?」
開口一番仲良さそうに昼ごはんを食べていたアルフとライラに声を掛ける。途端青褪めるアルフと、申し訳なさそうな顔で此方を見るライラ。
「久しぶりスゥちゃん、スオウ君、ええと、アル君は、なんというか、うん、予想通りだと思うよ……」
はぁ……と、額に手を当ててため息を付く、連動して背中の翼も萎れている。
「大丈夫ですよライラ、その回答ですら予想通りですから、何の問題もありません」
当然です、とばかりに言い返すスゥイ。
「はぁ……、なんかよ、基礎学問ってやつあるじゃねーか、ほら、さんすーとか、あんなんいらねーと思うんだ、1個銅貨1枚のコッタ実が3個あろうが10個あろうが店のおっちゃんが言った銅貨の枚数を出せば良いんだよ、金額がいくらかとかどうでも良いとおもわねぇか? いや、別にその程度は分かるぞ、分かるけどな」
ため息を付きながら話すアルフ、ため息を付きたいのはこっちだ。
「ま、とにかく明日は実技の授業があるしな、それを糧に頑張るぜ、そういやスオウとスゥイはどうすんだ? せっかくだから見てくか? つっても俺の相手はガルフ先生しかやらねぇけどな」
「そうだな、時間があれば見に行くよ、とりあえず寮に戻る。先生にも戻った旨伝えないとならないしな」
またあとで、と告げて寮に戻る。スゥイは少し寄る所がある、との事で夕飯時にまた、と別れた。
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「ここで食べるのも久しぶりだな」
夕飯時、久しぶりに寮の談話室で夕飯を食べる、前はどこぞの誰かの二つ名のせいで殆ど自室で食べていたことを思い出す。さすがにあれから約3年、知らない人も入っており、また居なくなった人も多いようだ。付いていけなくなった子、家庭の事情で帰らないとならなくなった子等々様々だろう。
「とりあえず中等部試験まで居れば良いと思うんだがな」
半分近く知らない人が居る寮を見ながらそう呟く。
「私もそう思います、ですがそれなりに自信を持って来たのにもかかわらず置いていかれる自分、寮生活なので仲間意識が高まるという可能性もありますが、孤立する、という可能性も孕んでいます。馴染めなかった子、自分の限界を知ってしまった子が辞めていくのでしょう」
夕飯のスープを飲みながらしゃべるスゥイ、最近は上品に食べてることが多い、心境の変化でもあったのだろうか。そういえば彼女も13歳、そりゃ気をつけるか。
「限界なんて物は自分で決めることじゃないんだけどな」
まぁ、俺も自分で決めていないのか、と言われると自信は無いな。
「10歳そこらの子供にそれを求めるのは難しいかと」
「お前らも子供だろうが……」
胡乱な目で此方を見てくるアルフ。
「うん、私もそう思う……」
同意を示すライラ。あれ、なんかこんな流れ前もあったような気がする。
夕飯を食べている最中にアルフが良く女の子に声を掛けられている。どうやら同年代で学院最強と言われるガルフ先生との鍛錬を見てファンになった子が多いようだ。
なおかつ加護さえ抜けば面倒見の良いガキ大将みたいな性格のアルフだ、好かれるのもわかる、が。
声を掛けられるたびに隣のライラの機嫌が悪くなっていくのに気づけ、はやく気づけアルフ。
「なんというか、似たもの同士の幼馴染ですね貴方達は、まぁ私のほうが恵まれている……、のでしょうか?」
そう聞いて来るスゥイ、意味深すぎるぞ、触れないからな俺は。
「さぁな……」
とりあえず目の前のスープを平らげて、ライラが爆発する前に自室に戻ろう。そう決めた。
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7月、試験まで後二月、夏休みに入る季節だが俺達は変わらず学院にいた。
理由は言うまでもない、勉強合宿だ、俺とスゥイ、ライラは問題ない、予想外だったのがライラの知識レベルだ、どうやらアルフにどうやって教えれば分かってくれるだろう、と自分で色々勉強していたようだ。愛の力なのか、ただの義務感だったのかは分からないが、お疲れ様、と言ってあげたい。
「燃え尽きた……、真っ白に燃え尽きたぜ……」
まさかこの世界であの有名な台詞を聞けるとは……。机の上にアメーバの如くだれて融けているアルフがぼそぼそと呟いている。
ライラも進級試験が近いため介抱しないで自分の勉強をしている、見ているのはスゥイだ。
進級を控えている生徒は今年は実家に帰らず学院に残っている子が多い。
進学率がここ10年の平均は60%程との事なので1年目は諦めている子もいる、それも一つの手だし中等部は1年、2年上の人は普通に居る。むしろストレートの方が最近は珍しいようだ。
ちなみに昨年の進学率は30%だったとの事。その事も今年諦めて来年に照準を当てている子が要る理由の一つかもしれない。
「スゥイ、そっちはどうだ? 問題なさそうか?」
ライラの勉強を見ていたスゥイに聞く。
「えぇ、今年の中等部試験がどのくらい難しいのかは不明なので確約は出来ませんが、おそらく問題無いでしょう、あとは暗記科目ですが、まぁ後2ヶ月あります、大丈夫でしょう」
「じゃあ、夕方は予定通り実践訓練でもするか、あ、アルフはこいつが終わるまで部屋にいろよ」
実践訓練と聞いて復活したアルフに死刑宣告をする。目に見えて崩れ落ちた。
夕方、アルフが部屋で泣いてる時間、俺とスゥイとライラで実践訓練。ここまでやっている同級生はいないが俺とスゥイは学院外に出ているときもこれだけは欠かさなかった為もはや習慣となっている、早朝と夕方、最低でもどちらかやらないと気持ちが悪いくらいだ。
「私もアル君と毎日組み手やってたからね、去年よりは腕があがってるとおもうよ!」
えっへん、と胸を張るライラ。む、これはスゥイ負け気味じゃないか
と、思ったら睨まれた、心を読まれたか……?
「せめて男性的な視線で見たらどうですか、商店街に並んでる果物の大きさを比べているのではないのですから」
いや、それはそれでまずいんじゃないだろうか……。
「あれ、スオウ君その左腰に吊ってるのは? 始めてみるけど?」
左の腰に吊ってある朧に気づいたようだ、装備が変わったので慣れる為、付けっぱなしにしている。
「あぁ、これは秘密兵器? かな、訓練は剣と魔術しか使わないから気にしなくて良いよ」
なにより魔弾は全てマナを満タンに溜めてしまっている、この状態で使ったら確実に重症だ。
「えぇ~気になるよ~、なになに、なんなの? 短剣? でも変な形状だよね」
「そうですね、簡単に言えばスオウですから、です」
いや、それは説明になってないだろ納得しないだろう絶対に。
「ああー、なるほど……」
納得するのかよ。
「兎に角始めようか、中等部試験には実技試験もある、まぁ俺らの技術で落ちることはまず無い、が、念には念を、溺れない限りは能力が高いに越したことはないからな」
そう言って木剣を構えた。