phase-29 【武器の完成】
「いててて……、最近なんか扱いが酷い、この立場はアルフの立場だったはずだ。最近アルフが一緒に居ないから俺にお鉢が回ってきたとでも言うのか……」
回復魔術を使いながら愚痴る、殴られた場所より引きずられた場所のほうがダメージが大きい。
目の前には楽しそうに服を選んでいるスゥイがいる、これと、あれと、それと、と沢山の服を持ち、着替えては見せ、の繰り返しだ。店にとっては良い迷惑ではないだろうか……。
たまに感想を言ってあげないと水の魔術が飛んできそうになる。
返答には気を抜けない、おもにその後水浸しになった服の弁償金額の為に。
ある程度着てから気が済んだのか全部店員に返した後店を後にする。
店員が半泣きだったのは気のせいでは無い絶対。
12歳、もう少しで13歳だが、小さな(といったら怒るが)子が着る服は少ない、しかしさすがはコンフェデルス、服の種類も多く、本人にとっては飽きない程度の量だった様だ。
「ありがとうございますスオウ、付き合って頂いて」
無理やり、って言葉が前に付くけどな、と思ったが言わないでおく、わざわざ自分から死地に行く必要は無い。
「スオウ、貴方の夢は何ですか?」
ふと、そんな事を聞かれる、さてはて、俺の夢か、とりあえず両親に恩返しだろうか?
口からは白い息が出る、寒さは又一段と深くなり、昼の時間が短くなる。
「そうですね、スオウの両親はとても暖かい、尊敬できるご両親です。ですがそれは貴方の夢なのでしょうか?」
じゃあ、そうだな一日中だらだらして過したいな、なーんも考えないでごろごろだらだらと。
「何も考えないで、ですか? 無理ですね、スオウがそんな生活をしている所が想像できません。常に何か人を驚かせるような事を考えていると思います」
今回の魔銃もそうですしね、と言うスゥイ。
あくまでも引き出しを増やしたかっただけなのだが、そんなに色々考えて行動している訳ではないぞ。
そう言うと、ではそういう事にして置きます。と言われた。
「そういうスゥイはどうなんだ? 夢はあるのか?」
聞かれてばかりもなんなので聞き返してみる。
「そうですね、夢はあります。いえ、出来ました」
「ふむ、お聞かせ願えますか? お姫様」
恭しく右手を差し出し片膝を付く。
「お断りします」
笑いながら言われた。残念、ふざけすぎたか。
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2月頭、寒さが一段と深くなるその季節。
魔木の加工が終了したと連絡が来た。
必要な部材を全てあわせて組み立てる。待っている間に黒魔昌石の弾、魔弾にマナは篭め済みだ。
金属製で魔術刻印が刻まれている、バレルとトリガー、トリガーガード、ハンマーにコッキングレバー等。
そして魔木で作成された銃把、バレルカバーを組み立てる。
装填できる弾は1発、カチンとトリガーの上の部分から中折れさせ、バレル側に弾を装填する。
クッと上に手首を振る、そのまま勢いでカシン、と元の形に戻す。
作り上げたのは予定通りのトンプソン・コンテンダー
マガジンもなければボルトも無い、拳銃と言うよりは小型のライフルといった形状だ、その一番の特徴は弾の装填・排莢(薬莢は無いが)も、一発ずつ手で行うという方法にある。
不必要な構造を一切省き、単純な構造だけ残した単発式の銃。その銃は簡易的な構造から強度が高く、もし交換が必要になる部分といえばバレルと中折れのギミック部分程度だ。それも魔術刻印のお陰も有りそうそう壊れることは無い。
グリップの上の部分にはブルムさんの遊び心だろう、銀の鷹の文様が取り付けられている。
カナディル連合国家の金鷹を皮肉ったか、苦笑する。金鷹の剣に銀鷹の銃か、これはこれで面白いかもしれないな。
両手でトンプソン・コンデンターを支え庭に立てた目標を狙う。
庭には既にスゥイはもちろん、ナンナ様とレイド家のメイド、バラナさん、後当然ネロさん、リーズさん、ブルムさんも同席している。
溜め込んだマナは黒魔昌石限界の半分程度だ、実際にバレルと魔木で増幅射出されるのは初めてだが、そこまで大きな威力では無いだろう。
トリガーに人差し指をかける、そのまま指を引き絞った。
―――――パァンッ
甲高い黒魔昌石を叩くハンマーの音が庭に響き、瞬間魔木とバレルに魔術刻印の文様が浮き出たかと思うと同時にバレルから高速で射出されるマナの弾丸、得意とする風魔術を含めてあるその弾は高速回転しながら突き進み、目標の的を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「がっはっはっはっ、聞いてはいたが実際に見てみるととんでもねぇ、代物だ、まぁ使えることが出来るのは坊主だけだろうが、こいつを大型化してやれば城壁攻略様の兵器などに使えちまうぜ、とんでもねぇ物をつくっちまったな坊主。ま、心配いらんさ、技術を流す気はさらさらねぇ、久しぶりにおもしれぇ仕事が出来たからな」
完成祝いなのか、エールを飲みながら言ってくるブルムさん、その顔は誇らしげで一仕事終えた男の顔をしている。
「恐ろしい、とまでは行きませんが、これが流用されると大変面倒な事になりますね。黒魔昌石にマナを篭められる人さえ居れば大量に弾を作成し、悪用する事が可能でしょう。しかしその様な技術を持つ人間をただの弾作りに使う人はまず居ないとは思いますが」
考えられる危険性を検討しているナンナ様、たしかにそんな技術がある魔術師なら普通に前線に出したほうが戦果を期待できる、俺みたいに特殊な人間なぞそうは居ないだろう。
「私としてはこのまま旦那様にお伝えするまでです。正直な所おもちゃ程度のイメージですね。今放たれたのも下級魔術、いえ、中級魔術の下位と言った所でしょうか。詠唱無しでの発動こそ脅威ですがマナを篭める弾が限られており、その弾も溜め込むのに時間がかかる、人を選ぶのでは所詮一発勝負の武器ですね。防御魔術を常に唱えていれば問題ないでしょう、暗殺などに使うにも発動時の音が大きいですし、それ以上威力があるとしたら活用方法がありますが、それでも作成する為の時間や魔木の金額を照らし合わせると微妙ですね」
そう答えるのはバラナさん、ではこれで失礼いたします、と庭を去っていく。
「ブルムのおっさんが言ったようにでけぇサイズでつくれば良いのかも知れないね、けどそんなでかい黒魔昌石と魔木なんかで作ったら正直、破産しかないね。ま、強力なのは認めるよ、けど本当スオウ専用って感じだね」
ネロが尻尾で頭をかきながら言ってくる。
「なんでぇなんでぇ、おもしれぇ物を作れたことにはちげぇねぇだろう!? 新しい技術なんだ職人として商人として喜ぶべき所だろうがよっ!」
どこから持ってきたのかエールが入った樽から次のエールを注ぎ飲んでいるブルムさん。
「勿論当然、喜んでいますわ、ですがその商品の利点、欠点、販売における利益の換算までするのが商人です。私は職人ではありませんので」
当然の事です、と答えるナンナ様、表面上はああ言ってはいるが、活用方法がないかいろいろ頭の中で検討していそうだ。
その後何度か試し打ちをした後、若干の修正を加え魔術礼装の魔術銃、トンプソン・コンデンターが完成した。
「そういやぁ、坊主、そいつの名前はなんつーんだ?」
がぶがぶとエールを飲みながら聞いて来る。隣にはネロさんも座り一緒にがぶがぶと飲んでいる。
「そうですね……」
トンプソン・コンデンターでも良いが、そのままと言うのもな、さて、どんな名前にしようか。
「朧」
スゥイが言う。
「湖月はそもそも湖に浮かぶ月、消して触れられぬ幻の事。でしたらそれの対となるスオウの武器、同じように掴めぬ物が、合うのではないでしょうか」
そう赤い顔をして言う。そうか朧か、どうもかっこつけすぎの様な気もするが、まぁ、いいだろ。
ん、赤い……、え…………?
はっとしてスゥイを見るとネロさんにお酌されてがぶがぶとエールを飲んでいるスゥイ。
こ、これはまさか、学院入学前の悪夢が……まさかの5年、いや6年ぶりにっ……!
に、にげっ……!
がしっ
強化魔術によって強化されたその細い指は、常識では考えられないくらいギチギチと俺の腕に食い込む光景が見える。
「どこへ行かれるのですかスオウ、そう言えば最近魔術行使の練習をしていませんでしたね、いろいろ勉強させて頂きたいことがありました、是非ご指導お願いします。ええ、是非、座れ、教えろ」
アルフっ! アルフっ! お前が必要だ! このポジションにはお前が必要だあぁぁぁああぁぁあぁぁぁああ
ずるずると引きずられていくスオウ、どうやらまた回復魔法の出番があるようだ。
この魔術銃の特性は唯純粋な力の塊であるマナを弾に刻印した属性を纏い射出します。
つまり刻印次第で射出される属性が変わるという便利機能付。主人公のチートが始まったっ
でもアルフ君には効きません、むしろ素手で叩き落されます。だってチートだもの