phase-26 【六家の交渉】
ローズ家に劣らずとも勝らない、建物。林業を司っているレイズ家の建物だ。
違う所は一部木を用いた建物である事か、そう思いながら見ていたら扉の前に30過ぎだろうか、メイド服に身を包んだ女性が立っていた。
「始めまして、私レイズ家メイド長バラナ=ラドナと申します。スオウ=フォールス様と、スゥイ=エルメロイ様、ネロ=パナウェルス様ですね、旦那様がお待ちです、どうぞ此方に」
後ろにある扉を開き先導する。後ろから見ても几帳面な印象を受ける見事なくらいの規律とした歩き方だ。
赤いじゅうたんが敷かれている階段を登り、応接間に通された。
室内に入るとメイド長のバラナ=ラドナはおそらくレイズ家の主人であろう50代くらいの男性の右後ろに控える。
「忙しい所すまないね、好きにかけてくれたまえ、と言ってもそこのソファーしかないのだがな」
目の前にあるソファーを視線で指し、座るように促される。
「お気遣い有難う御座います、では失礼致します」
そう答えて目の前のソファーに座る。
「始めまして、私がレイズ家の現当主であるボルゾ=レイドだ。スオウ=フォールス君が、君、スゥイ=エルメロイ君が君で間違いないかね」
目で示しながら聞いて来る。言いながら後ろの戸棚からバラナさんが出してきた本を受け取り机の上に置く。先月ネロさんに渡した本だ。
「えぇ、間違いありません。それで本日のご用件は何でしょうか?」
嫌味にならない程度に机の上に置かれていた時計を見る。
「なに、時間は取らせんよ、この頂いた本、技術の件で少々聞きたくてね」
机の上に置かれた本を指差し言う。どうやら時計を見た意味を察したようだ、優秀だというのは間違い無い。
「この技術、誰が考えたのかね?」
なるほど、そこからきたか。
「技術の出所は必要ですか? それを教えないと魔木は頂けないのでしょうか?」
「くははは、なに、そう警戒する事も無い、少々興味があってな、この技術おそらく我が国でも考え付くものはおらんだろう、そしてベルフェモッドでは無く、我が家に持ち込んでくれたことに礼を言いたいくらいだ。それで、教えてはくれんのかね?」
此方をまっすぐに見ながら言ってくる、その眼力はナンナ様以上だろう。
「そうですね、隠す様な事でも無いですから、ですが大変申し訳ありません、その本は実は父上が収集した本の中にあった物なのです、父上の趣味でいろいろな国の本を収集する趣味がありまして、どうやら大量に購入した本の束の一つに紛れていたようです」
だが怯む訳にもいかない。商談で一番大事なのははったりと度胸だ。
「ほぉ、なるほどなるほど、その仕入れた商人の名は?」
「すみません、そこまでは、父上に聞いた所帝国の商人のようですが、しかし大量に仕入れたうちの一つですので商人も把握しているかは分かりません」
「ふむ、そうか、そういう事にしておこう」
くっくっく、と笑い葉巻に火をつける。
「ナンナの嬢ちゃんが言ってたことと殆どかわりねぇな、おもしれぇ餓鬼だ」
急に雰囲気が変わるボルゾ=レイズ、ふぅ、と煙を口と鼻から吐き、言う。
「良いだろう、魔木は譲ってやる、が、今は無い、収集できる期間があってな。どうせその辺も調べ済みだろう坊主、来年の頭には用意してやる、で、他に渡せる本とやらはあんのか?」
足を組みながら此方に聞いてくる。
「そうですね、出てきたらまたご紹介しますよ」
にこりと微笑みかけて言う。
「そうかい、じゃぁそん時を楽しみにしとくぜ、ああ、そうだ欲しいものがあったら言いな、俺が用意できるもんなら用意してやる、そうすりゃ本とやらもどこぞの商人から出てくるだろうからな」
ふぅ~と煙を此方に吐きながら言う、煙い、が我慢だ。
「ええ、心配しなくても商人は良く当家に“は”出入りしてますから、手に入ったら直ぐにご連絡します。」
ふん、と鼻を鳴らしレイズ家の当主はメイド長、バラナさんに向かってお客人のお帰りだ、と言う。
「あぁ、坊主、最近くせぇ家がある、気をつけな」
そう言いながら葉巻で窓の外を指す、方向は製造を司るアウロラ家がある方向だ。
「手土産有難う御座います」
頭を下げ部屋を退室する。これは又なんか返さないとならないか、いや、出向いたことに対する礼だろう。どうやら表立ってでは無いが、当家との関係を結んでくれそうだ。
船を作るに当たって木は重要だ、そっち方面でも当家として損は無い。上々の結果だ。
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「やはり、スオウといると飽きませんね」
レイズ家を出、悪かったね、と謝るネロさんと別れた後、ローズ家の自室に戻った後に言われた。
俺は俺で心労が半端ないんですけど、元々技術者だぞ俺は……、精神年齢的に言えば30も超えてるからネロさんとかは平気だけど、さっきのレイズ家の当主は半端なかったぞ、どこのヤクザかと思ったよ……。
まぁ、なんとか無事済ませれたし、良かった。ナンナさんからも口添えが有った様だ、おそらく恩を売られたと考えるべきだろうな。まぁ、ローズ家とは今後も長い付き合いをしていきたい所だし、問題はレイズ家と関係を太くしてどう思われるかだが、今回のレイズ家当主のナンナさんに対する表現の仕方を見ると悪い関係ではないのだろう。
さて、今日は疲れた、もう寝よう。
と、ベットに向かい横になる。と、思ったらスゥイが横に寝てきた。
「なにをしている……」
「いえ、お疲れのようでしたから、添い寝をご希望かと思いまして」
ずりずりと擦り寄ってくるスゥイ、女性としての羞恥とか無いのだろうか、いや、からかって居るんだろうな……。
「いつ誰がそんなことを希望した」
はぁ、とため息をつきながら返す。
「つれないですね、こんな美女が添い寝をして上げると言っているのですよ」
しなを作り言う、が、リーズさんに比べるとまだまだだ。
「良いからさっさと割り当てられた客間に戻って寝ろ、だいたい自分で美女と言うやつに碌なヤツは居ないと思うぞ」
むくり、と上半身を起こしてスゥイに向き直って言う。
「大丈夫です、私は少数派のまともな美女ですから」
同じように上半身を起こして頬に手を当て言ってくる腹黒黒髪美少女スゥイ。
「いいから、客間にもどれ……」
「仕方がありませんね、ではおやすみなさいスオウ、また明日に」
そう言ってベットから降り、部屋を出て行くスゥイ。
「はぁ……、もしかしたら今日で一番疲れたかもしれない」
もう寝る、今日はもう寝る、いや明日も一日中寝てやる。そう心に誓って目を瞑った。
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暫く滞在の後、ブルムさんの所に寄り進捗状況の確認、実家に戻る準備をする。
実家に帰る馬車の中。
「残り部分は魔木が手に入らないことにはどうしようもないな」
出来上がってきた部品をいくつか見比べながら言う、予想以上に出来が良い。魔昌石に関しても試作品が完成している。
「そうですね、それにそろそろ学院の試験期間です、カナディル魔法学院にも出向く必要があるでしょう。アルフとライラの勉強も見てあげる予定だったのではないですか?」
半分忘れていた、そういえば俺学生だった、最近疲れる商談ばっかりで忘れてたよ……。
「まぁ、そうだな、ライラは心配してないがアルフは……な……」
想像するだけで憂鬱だ、ライラがいるからある程度は良いだろうが、今年はスゥイが居ない。酷い状況になってそうだ。
「頑張ってくださいね」
完全に人事だ、本当にやばくなったら手伝ってくれるとは思うのだが。
「手伝ってはくれないのか……」
はい、と笑顔で答えられた。
6日の馬車旅行、ふと思った、スゥイ実家に帰ってないけど大丈夫なのか。
そう聞いた所、問題ありませんと言う、手紙は出しているようだが考えてみれば7歳の頃から今は12歳、凡そ5年間帰っていない状態だ、休み期間は俺の実家にいたし、帰るって言ってたコンフェデルス滞在時もほぼ俺と一緒にいた、あっちこっちの交渉や商談、設計図の修正などで追われ、全然気が回らなかった。
気を使ってるのなら申し訳ないが、そうでも無い様だ、家庭の事情等あるが……。余計な口出しは中途半端な結果を生み出す、が、スゥイとも長い付き合いだ、何か出切る事があるのなら。
しかし魔木の件で施しを受けること、下に見られる(見たつもりはないのだが)事に非常に抵抗を覚えるようだ。特に俺に対しては非常に顕著、理由は想像できる、が。
はぁ、こうやって頭で考えてばっかりと言うのも良くない癖だな、たまにはアルフのように体当たりでぶつかって動いてみるのもいいのかもしれん。
3/24 レイド→レイズに修正