phase-23 【技術の応用】
深遠暦656年、11歳になり、あと少しで12際となるスオウ=フォールスは大量の魔昌石を前に一つ一つ手にとり残留マナを確認している。
魔昌蒸気船(名前はそのまま採用された、フォールス式とか最初に付いたが)はほぼ骨格は完成、あとは細かい調整だけなので父上に全て投げた。俺はもともとの目的だった魔術銃の作成に取り掛かっている。
隣にはスゥイ、同様に魔昌石のマナ残留量を調べてくれている。
そう、宣言どおり11歳で必要単位を取り終え、当然の如く押しかけてきたスゥイがそこに居た。
「まぁ、助かるから良いんだが……」
その分心労も増えてる気がしなくもない、深く考えないことにしよう。
「しかし、こんな大量の魔昌石を仕分けてどうするのですか? 簡単に話は聞いていますがいまいち想像できません。スオウの事ですからまたなんか碌でも無い事をしそうですが……」
碌でも無い事をするのはお前とアルフだ! と、突っ込みたいのをぐっと我慢し選別に戻る。
大量の魔昌石の内、使えそうな魔昌石が1割ほど選別される。後で分かったことだが加工をしても回路が変化しないことが検証された。
しかしサイズが小さくなればなるほど込めれるマナの量が少なくなる。また込める際も高度な魔術制御が必要なのだ。
直径12mm×9mm凡そライフルの弾と同じ程度の大きさに加工した魔昌石を手に持ちマナを込める。
壊れてしまわない量でなおかつ限界ギリギリにまで込めるのがコツだ。
「こんな小さな魔昌石にマナを込めるなどという信じられないような制御技術はおそらく貴方しかできません」
まじか、いや、そんな事はないと思うのだが。何より俺は君達みたいなチート能力は無いんだ、上級魔術の下位レベルで枯渇してしまう程度なんだ、使えるマナを正確に把握し分量調節して放出、使用するのは当然だろう。
そう言ったら、そうですね、もう良いです。と言われた。
魔昌蒸気船も形が出来たし、銃の弾も目処が付いたので多少早いが、コンフェデルスに向かうことにした。まずは銃本体を作る為の職人探しをしなくてはな。
塩田と菓子部門でかなり名を広めているフォールス家、コンフェデルスでも使えるその名である程度は有利に交渉できるだろう。
そう考え、母上と父上に出発する日程を伝えに行く。もちろんスゥイも付いてくるとの事なのでそれも含めて、だ。
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夕飯時、検討内容を伝える、母上は最後まで渋っていたが仕方がないと許可してくれた。むしろ俺よりスゥイが出て行く事に渋っていた、なぜだ、俺の扱いが段々軽くなっている気がする……。
魔術学院とは違い12歳で外に出ることは問題があるだろう、なによりフォールス家は今やそれなりの商家だ、要らぬトラブルに巻き込まれる可能性もある。その辺の大人が束になってもそうそう負けないのは分かってはいても心配なのが親というもの。
魔昌蒸気船の事もあり、かなり親しくなったローズ家の人間にコンフェデルスでは世話になるように言われた。どうやら優先的にローズ家に船を出すことを約束したようだ。
出立日当日、コンフェデルスから迎えの馬車が来る、ローズ家の家紋が入ったその馬車に乗り込みカナディル連合国家を後にした。
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コンフェデルス連盟は六家たる大商家が取りまとめている国である。
六家の名に商業の神メリクリウスの加護を受けており、六家に名を連ねることで商家としての成功を約束されたような物となる。
国内では六家はほぼ貴族のような上流階級の様に扱われているように思われるが、そんな事は無い。
六家も不正を行うものがいれば普通に逮捕されるし処罰を受ける。また優秀な人間であれば六家を取り仕切っている者を蹴落とし変わりにその部署を納めることも可能だ。
完全な実力主義であり、その切磋琢磨が商業国家として成り立っているのである。
現在の六家は全て優秀であり、そうそう入れ替わりは起きないであろうが……。
今回世話になることになっているローズ家とは漁業を取り仕切っている家だ、またカナディル連合国家の第二皇女ナンナ=アルナス=ローズ、旧名ナンナ=アルナス=カナディルが嫁いだ先である。
当初はその魔昌蒸気船の造船技術が知りたいが為、製造を司るアウロラ家からかなり強いアプローチがあった様だが俺が断った。
話している内容もそうだが、提案内容やこちらに渡す資金も含め不透明な部分が多かった。どうも帝国の匂いがチラつくのだ。父上も同様の点を懸念しており技術の提供は暫く保留とし、船はカナディル連合国家と繋がりの深いローズに売ることとしたのだ。
六家間でも切磋琢磨が行われており、ローズ家がそのまま技術を売り渡すとは思えない上、交渉に来たローズ家の商人もかなり優秀な人間だった、おそらく問題ないだろう。
凡そ6日の馬車の旅、商業国家コンフェデルス連盟の首都コンフェデルスにたどり着いた。
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横を見ても前を見ても後ろ、は、スゥイが居たけど見渡す限りの商店街。さすが商業国物流の中心街である。商人もそうだが沢山の冒険者らしき人も見かける。また、竜族や翼人はもちろん、エルフにドワーフ、獣族が沢山存在し、空には巡回兵だろうかワイバーンが飛んでいる。
店舗におかれている物も多種多様であり、使い道の分からないもの奇妙奇天烈なものが並んでいる。
道は綺麗に舗装されており、町全体を囲むように高い城壁がぐるりと囲んでいる。
中央の広場から6つに分かれた道はそれぞれの六家に繋がっており、区画もそれに沿って六分割。どうやら区画ごとで扱っている技術、商品が違うとの事。担当している六家にそった物を区画ごとに取り扱っているそうだ。
中央は運送の終着、発着点となっている様で探すのが大変な場合、ここの運送にお願いすればその日の内に中央広場まで依頼した商品が届く形になっている。
他の町への配送もここで一括して行っているようだ。
カナディル連合国家では殆ど見ることが出来なかったエルフやドワーフに驚き、その技術に驚いた。エルフの魔術刻印技術は目を見張るものがあり、またドワーフの製鉄技術と加工技術はオーバーテクノロジーじゃないか、と言わんばかりの技術を誇っている。
そういえば魔昌蒸気船の作成するにあたってエルフとドワーフの技術者が何人か家に来ていたな、と思い返す。
やはりコンフェデルスに来て正解だったな、と胸をなでおろし、ローズ家の門をくぐった。
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ナンナ=アルナス=ローズ、若干14歳でローズ家に嫁いだ連合国第二皇女、現在15歳であるその美しい姫君はお淑やかで慎ましく、まさに姫様と表現するのがふさわしい女性であった。
ローズ家の長男、ガウェイン=ローズは若干24歳、若輩でありながら有能な人間であり、六家の中でも一つ頭が抜きん出ていると言われるほど優秀な人間であった。
しかし本人はそれに胡坐をかくことをせず、常に切磋琢磨をし、自分の知識と能力を高めた。
深遠暦653年、コンフェデルスに行われた舞踏会、若干12歳であった第二皇女ナンナ=アルナス=カナディルはそこでガウェイン=ローズと出会う。その優雅な立ち振る舞い、自分を律することが出来る精神と紳士的な対応、ナンナはすぐに恋に落ちた。
ガウェイン=ローズは当時21歳、まだまだ若輩者であり勉強中の身である事を本人は良く理解していた。また、ガウェインとしては相手がまだ12歳であることも問題であった。好意を寄せてくれる事はとても有り難い話である、なにより話していて聡明な事、また自分自身も9歳の差が有るとは思えない程度には楽しめていたのだ。
ロリコン等といった言葉は存在していない世界であるし、政略結婚なら下手したら一桁で結婚する子供もいるような世界だ。世間はさほど騒ぎはしないだろう。
しかしガウェインは12歳であるナンナに対して、夢見がちな少女の言うことだと思い、では後2年待っていただければ姫様の下に馳せ参じましょうと言ってしまう。2年も経てば本人も気の迷いだと考え直すであろうし、私もどちらにせよ自分の立ち居地を確立する必要がある。
そう考えたガウェインは舞踏会を去るナンナに約束をした。2年後本当に馳せ参じなければいけない状況になるとは思わずに。
この話を聞いていた両国の外務官達は帝国アールフォードの対抗も含め、なおかつ両国間の強い繋がりが欲しかった、まさに渡りに船、本人達の意思は別として(ナンナ的にはしてやったりだったかもしれないが)着々と準備が進められ、逃げるに逃げられない状況となってしまったのだ。
深遠暦655年両者は結婚する事になる。しかし結婚した後、カナディル連合国家と強い繋がりを持ち発言権を強めてしまったローズ家は他家から妬みを買うことになる。
味方になってくれる者も居たがしばらく不穏な空気が流れるコンフェデルス連盟、そこでローズ家、当時当主であったザルヴァン=ローズは全ての家業を息子であるガウェイン=ローズに引き継がせることにした。そして自らは経営に口を出さない、と隠居宣言をしたのだ。
周りから見れば唯の青二才が出てきた、実力もあの曲者である父親に比べたら雛に過ぎん、と高をくくった一部の人間は、今の内にとローズ家を引きずり落とし、入れ替わろうとする人間が浮き上がってくる。
しかし予想以上、いや予想外というべきか有能な人間であったガウェイン=ローズは不穏分子をこの騒ぎを逆に利用し一網打尽にした、一部は追放、一部は犯罪歴を調べ上げ投獄した。
この行為から元々優秀な人間には尊敬するべきだとする国風もあり表面上は落ち着く。
スオウ=フォールスとスゥイ=エルメロイが訪問する1年前の話である。
ナンナさんは金髪、巨乳です。
え?聞いてない?