phase-22 【学院の状況】
結果から言うと負けた。
あの後津波を剣で切り裂き、俺の魔弾はなんのその、突っ込んできたアルフに吹き飛ばされるスゥイ。
そのまま俺のほうに突撃、復活したライラと俺で持ち直し、同じく復活したスゥイとしばらく膠着状態が続いたが、緊張が切れたライラが撃墜、そのままなし崩し的に負けてしまった。
スゥイとライラが軽症なのに比べ、俺はあちこち打ち身だらけなのはご愛嬌だろう、特にライラの怪我が少ない、アルフめ、いつか見てろよ。
汗を流した後、就寝前に欠点を各々述べ復習、改善点も各自述べた後一日が終わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「俺も一緒に出る事にした」
休み期間が終わり、学院に戻る季節俺達も皆10歳となり、2度目の試験期間である。
もう少し遅く出てもよかったのだがさほど代わりがないし、学院の図書館で調べたいこともあった。
「おう、でも馬車の中でまで勉強はしねーからな!」
よっぽど休み期間中の勉強がトラウマなのだろうが、ぶるぶると震えながら言ってくる。そういえば戦闘訓練等の実践はいつも以上に張り切ってたな、鬱憤を晴らす意味もあったのだろう。
「残念だ、いろいろと考えていたのだがな」
ふふふ、と黒い笑みでアルフに言う、もちろん冗談だ。
4人馬車に乗り込む、結局ライラも最終日まで家に居た、というかアルフも家に居た、まさに勉強合宿だ。もちろん偶には息抜きに街に出たが。
どうも精神年齢的に30過ぎたのもあるのかどうやって遊べば良いのか、何が普通の子供が楽しめるのかよく分からない。むしろ俺は工業大学生だったのもあったせいか物造りや検討をしているときが何より楽しい、むしろそれが俺にとって遊んでいるような事だ。
前そんな事をスゥイに話したら、さすがスオウですね、と言われた。褒められてる気がしないのは気のせいではないだろう。
スゥイも元々そんなにはしゃいで遊ぶタイプでも無く、アルフとライラで外に遊びに行き、俺とスゥイが中で本を読むか、鍛錬をしている事が多かった。もちろん一緒に外に行くこともあるが。
結局魔昌石に関しては放置のままだ、学院で使えそうな本が見つかれば良いが。
学院までの道のりは5日、とりあえず今日は寝ることにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
馬車を乗り継ぎ5日目、学院に到着、久しぶりの学院はあいも変わらずで活気がある。
同じく久しぶりの寮。気楽な一人部屋も終わりか~と隣でアルフが呟く。あの大きさで一人は贅沢だ、我侭言うなといいたい。
部屋に荷物を置き、スゥイとライラと合流、昼ご飯を食べに外に出た。
外に出るとあちらこちらでひそひそと噂話、あぁ、スゥイとアルフの事か、と思っていたらどうやら違うようだ。
(あの黒髪の男か?あの術のスゥイ様の旦那とやらは)
(らしいぜ、本人も明言してるらしい。噂だけど超天才児らしい)
(まじかよ、あぁ、俺の姫様が、黒髪美人なんてそうは居ないのに)
(お前本気だったのかよ、まだ10歳だろあの子)
(ばっか、今のうちに手をつけておけば……!)
(それより俺は翼人の子のが……)
(そっちのがだめだろ、あの加護持ちが傍にいるんだから、聞いたか?休み前にあの子を口説いた男が天井に突き刺さったらしいぜ)
(うわ、まじか、触らぬ加護に祟り無しってか)
どこから突っ込めば良いのだろう……。
なぜだなぜこうなった、そもそも口説いた男じゃなくて絡んだ男じゃなかったのか、つーか旦那ってなんだ旦那って、どうなってる俺が居ない1年にこの学院はどうなってしまったんだっ……!
つーかスゥイ様ってなんだ! 様ってなんだ! もうだめだ突っ込む気力も起きない、誰か俺の骨を拾ってくれ……。
スゥイを見ると何か? と見てくる、この野郎……。
ライラは真っ赤になってるが、アルフは何の事やらさっぱりだ。今はお前のその気楽さが羨ましい。
ええい、学院にいる間は外に出ない、絶対外に出ないぞ、食料は夜に買いだめして、本は必要分借りて自室に篭ろう。
スオウ=フォールス若干10歳、ニート宣言をするのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
試験期間も終わり燃え尽きたアルフを介抱するライラ、仲良いなホント。
どうやら彼の強さと愚直なまでの性格が好評の様で、同学年やお姉様あたりに人気な様だ、本人自覚は無いがライラは気が気ではないようで。なんとまぁ、チート能力にもてもてポジションなんて何処の主人公だよ、と言いたくもなる。
そんな事より魔昌石の改良だ、学院の本を調べた所、魔昌石は込められた魔術を放出するときに通過する魔石回路というものがあり、放出量の差はその回路がまちまちであることが上げられるそうだ。回路も複数ある物もあれば少数しかないものもある。
太い回路があれば細い回路もある。そのため石によって出力が変わったり、出力できる限界値があるようだ。
太い回路であれば放出量も多いが、細い回路でも回路数が多ければ大きな放出が可能となる。
「安定しないのは、これが理由だろう」
学院図書館から借りてきた本、魔石放出量と回路の関係と銘打っている本を見る。
魔石に込められたマナは時間と供に空気中に放出される、それは回路本数が少なければ放出量が少なく、多ければ放出量が多い、考えている銃の弾は長時間マナを保持しているのが望ましい、となると回路本数が少なく、なおかつ放出量が多い太い回路を持つ魔昌石が望ましい。
「しかし見た目じゃわからんってどうなのよ……」
そう、回路は見た目では分からなく試してみるまでは不明のままなのだ。
沢山の魔昌石を集めマナを入れ、長期保管した後残留マナを調べ、あとは放出量を調べて選別、か。
めんどうだ、めんどうだがある程度光明が見えたことだしやるしかあるまい。
しかし……、加工した後も回路が同様に保持しているか不明だ……、前途多難だな。
はぁ……。とため息をつく、まぁ、だからこそ楽しいのだがな、と思い机に向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10月頭、分割された単位を取得している事を確認、帰省の準備をする。
アルフもライラも無事単位を取得したようだ。スゥイにいたっては2年上の単位も取得。本当にこのペースだと11歳で必要単位が揃いそうだ。
そんなに早く単位をとってどうするんだ?学院にいるのか?と聞いたところ
スオウの実家にお邪魔します、ご心配なく既にお義母様とお義父様には許可を取ってありますので。
oh...どうやら俺に逃げ場はないようだ。
同様に5日程馬車に揺られ帰省する。
今年の冬はアルフは戻らないそうだ、たしかに片道5日の旅、そのくらいの移動時間なら普通、と言われるこの世界でもさすがに毎年は2回は避けたかったのだろう。
ライラと一緒にいたかったんじゃないか、とも思ったがそんな事考える奴じゃなかったな、と考え直す。
実家に帰ると同時に父上に大量の魔昌石が手に入らないか相談。そうすると船の動力として検討中だったのか小さい魔昌石なら腐るほど余ってるから持って行けと言われた。
なるほど魔昌石を使った動力船か。しかし船を動かせるだけの大量の魔昌石なんか使ったら、同考えても採算が合わないと思うのだが、と聞いたところ、同じことを考えていたようで、まだまだ改良が必要なんだよな、と笑っていた。
魔昌石と蒸気船を併用したらどうだろう、と、銃作りの片手間に検討する事にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
銃そっちのけで、魔昌蒸気船(仮称)のほうがメインになってしまった……。
いや、俺は悪くない、なんかこう魔改造方法とかいろいろ思いついてしまって考えているうちに1ヶ月ほど経ってしまっていたとか、スゥイが来た事でそれだけ時間が経っていた事に気づいたとかそんな事は無い、ないんだ絶対!
一心不乱に机に向かって設計図と概略を書き込んでいる時、後ろからスゥイに声を掛けられて漸く気付いた。
此れはなんですか?と聞かれ、言うべきか悩んだが、スゥイだから問題ないだろうと答えた所、手を顎に当てうんうん、と悩んだ後、まぁ、スオウですから、ね。と、どこか諦めた目で見られた。
理解できた君も相当だと思うよ……。
悪用される問題は多分にあるため、まだ外には出せない、が、しかしこのまま放置していても近いものが他国で出来るかもしれない、父上が近い原理を思いついたのだ、他国でも同様に考えてる人間が居ても可笑しくない。
となると最大限の利益を得られる時に技術は放出したほうが良い、今晩父上と相談だな。概案を纏めどう話そうか考えた。
ここでスオウが考え出した魔昌蒸気船は基本的なベースは蒸気船と同様である。
この世界で主流となっている帆船のような帆は必要とせず、スクリューで動く船だ。
蒸気船は石炭を燃料として動く船だが、今回スオウは石炭ではなく魔昌石に目を付けた。
事前にマナを込めておけば魔力放出は簡単、また父上が考えていたように大きな魔昌石で、それそのものを動力とするのでは無く、燃料とする事で小さな魔昌石が大量にあれば問題ない形にしたのだ。
また、この船が出来上がることにより外輪船も作ることが出来るだろうし、島が多いカナディルではそちらのほうが重要視されるかもしれない。ガレー船とは違い労働力が必要ないのだ。
蒸気のシステムが構築されると、蒸気機関車とかも出来る可能性があるが……。線路を引く必要がある上、車輪を作る技術も無い、しばらくは大丈夫だろう。
まぁ、技術を家だけで納めるようにするのは当然だが蒸気船が出来たらコンフェデルスのローズ家辺りがうるさそうだな。
この技術を元に魔木の交渉に使うのもあり、か。
起こり得る可能性を検討し、メリットとデメリットを天秤にかける。進みすぎた技術による弊害は避けるに越したことは無い。