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Moon phase  作者: 檸檬
カルディナ魔術学院
24/123

phase-21 【魔木の在処】

 魔木、それは通常ではありえないほどの高密度のマナを長期間浴びることにより変質した木。

 黒く染まるその木は、その黒の深さによって価値が変わる。


 魔術礼装として用いられることが多いその木を手に入れることは難しく、ほぼ国で管理をしているため一般に出回ることはほぼ無い。


 まれに出回るが、目が飛び出るような価格が殆どであるのだ。


 生息地として有名なのは迷いの森、悪魔の住む地と言われる霊森、深遠の森。スイル国の西に位置し、リメルカ王国との国境代わりにもなっている森である。


 その森は一度奥地に入ったが最後、二度と出てくることが出来ないと言われる。

 森は国で管理しており、魔木の採取は国の軍で採取してくる程だ。


 他には帝国アールフォードのフォド雪原に若干数、これも国で管理している為そうそう取りに行くのは無理。


 コンフェデルス連盟のブルド島にも存在しているが此方は六家の一つ林業のレイズが管理しているとの事。可能性があるとしたら此処だけだろう。


 しかしここからブルド島までは馬車を乗り継ぎ、船に乗り凡そ15日以上はかかる。スゥイの実家がコンフェデルスとの事だから本人はさほど問題としないだろうが往復で1ヶ月だ、さすがに厳しい。


 飛竜種たるワイバーンを使えば3日で済むだろうが、その分金銭もかかるしスゥイも遠慮するだろう。


「そうですか、やはりブルド島しかありませんか……」

 予想通りだったのか、若干落胆しつつ答えてくる。


「その様子だと予想済みと言ったところか、まぁ調べようと思えば個人でも調べられる内容にしかならなかったからな。後嘘か誠かリメルカ王国が管理しているトルロ湖、その湖底に生えているマングローブも魔木って話もあるそうだ」


「ですがそこも本当だとして国が管理している可能性が高いですね、正直リメルカと帝国相手に交渉するのは時間の無駄でしょう。それでしたら大人しくコンフェデルスに行く方が良いです」


「まぁ、そうだろうな」


「わかりました、ではスオウと供にコンフェデルスに行った際、私はそちらの方で動きます」

 どうやら今直ぐ手に入れたいといった事ではなかった様だ。まぁ、まだ9歳やそこらだ言っても話にならないだろうが。かといって12歳で通るかと言ったらそれもまた難しいだろう。


 しかし魔木か、それを使うのも一つの手だな。思わぬところで使えそうな知識を得、コンフェデルスに行った際代案が浮かばなかった場合は俺も一緒に探すか、と考えた。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・













 冬の休みも終わり、スゥイは学院に戻っていった。

 今は春、日差しも暖かくなり眠気を誘う季節でもある。そんな中本をタワーの如く積み上げて机に向かい一心不乱に何かを書き込んでいる子供が居た。






 かりかり



 かりかりかりかりかり




 かりかりかりかり



 かりかり





 かりかりかりかりがりがりがり……ぐしゃっ






 書き連ねていた紙を急にぐしゃぐしゃと丸め後ろに放る。


「ぐぁー、まとまんねぇ! 射出における刻印は粗方纏まったけど魔昌石がわからん! なんだあの不可思議石は! 放出される物はまばら、永遠に出るものもあれば、1回こっきりのものもあるしどーなってんじゃ! もーしるかあぁぁぁぁああぁっ」

 頭をぐしゃぐしゃとかき回しながら咆哮する。もはや大分人格が崩壊してきたようだ。


「材料の再検討をするべきか……、普通に鉄で銃弾を作りそれに刻印を……。いや、そんな手間のかかることをしていたら時間がいくつあっても足りない。前の世界と同じ原理では弾は使い捨てだ。できれば射出するのは魔術で都度弾に溜め込むような形が良い」

 が……、この魔昌石込めたマナによって放出される物が違う上、常に一定に放出してくれるわけでは無いのだ。方向性や威力向上はバレル等に刻印した魔術刻印で補正が可能だとしても出力が一定しないことにはどうしようもない。

 打ったと思ったら全然予想外に弱かったり、強すぎてバレル崩壊など笑い事にすらならない。


「発動は刻印を施したハンマーで叩けば発動する事が分かったからな……、あと銃に装填できるように加工技術も確立せねば……」


「最後の詰めはコンフェデルスの職人に協力を願うとしても概案と設計図が無いと所詮12歳の子供、相手にもしてくれないだろう」

 3年でおわるかな、いやおわるよね、終わってください。完全に手詰まり状態だった。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














 夏、スゥイが長期休暇に入った為、また家に訪ねてきた。

 今度はアルフも一緒に帰ってきたと思ったらライラも一緒に付いて来ていた。


「おや、ライラも一緒だったのか、どうせ試験前には一度学院に戻るつもりだったのだがなんかあったのか?」


「えぇ、とても重要なことがありまして、ええ、ええ、とても重要なことです」

 神妙な顔で言ってくるスゥイ、なんだトラブルか?


「そうなのスオウ君! アル君なんだけど、試験の1ヶ月前にスオウ君が来るって言ってたけど1ヶ月前じゃ絶対足りないの! このままじゃ試験おっこっちゃうよ!」

 泣きそうな顔で言ってくるライラ、どうやらライラの手には負えない領域になっているようだ。


「私もいろいろ手伝ったのですが……実は、魔術の授業中に些細なことで同級生と喧嘩をしてしまい思わずアルフがぶちのめしたのです。相手にも非があったので大きな問題にはならなかったのですが、その相手は天井に大穴を明けて突き刺さる上、殴る際、踏み込んだ右足で教室の床は陥没。さすがに怒った教師がアルフだけ課題を増やしのです。まぁ、自業自得と言えばそれまでなのですが……」

 はぁ……、とため息をつきながら言ってくるスゥイ、手に負えない領域になったのでは無く、手に負えない領域にした、様だ。


 じと目でアルフを見てやるとぴゅーひゅーと口笛を吹きながらそっぽを向く。いや口笛吹けてないからお前。

 聞く所によると、武のアルフに術のスゥイ、いつも一緒にいるライラに対しての嫌がらせが起き、腰ぎんちゃくと言った事が喧嘩の原因の様だ。


 それも相手は5人、女の子相手に5人がかりでどうなんだ、とも思うが全員天井に突き刺したアルフもどうなんだ……。

 理由が理由なだけにあまり怒ることもできん、しかたがないか、と思い休み期間は全てアルフにつぎ込むことも検討した。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














 庭にはスゥイとライラが一緒に魔術行使の練習をしている。

 横には母上が付いている。水魔術の勉強中だ。


 ロイルは今ルナが面倒を見ている。







【Eau Rassemblez-vous】《親愛なる水のマナよ集え》




【Déchargez-le】《放出せよ》







 ぱしゅん、と放たれる水の玉、略式言語の練習だ、想像が足りないのか込めるマナが足りないのか全然実用的でない威力だ、用練習だな。

 スゥイは水の特化型、ライラも水の適正がある。学院ほどではないと思うが良い勉強になるだろう。




 問題はこいつだ

「ええと、魔術における理論とは……、4元素はわかってる、わかってるぞ、で、発生原理がーああ、うん、あれだな、よし」

 必死に俺が作った問題集を解いている。及第点は十分取れているが追加で出された課題を処理しなければならない。俺がやってもよかったのだが将来的なことを考えると自分でやらせるべきだろう。


 課題を見た後それが分かるようになるための一つ前のレベルの問題集を作り解かせている。

 これが一通りできれば課題も問題なく解けるだろう。


 どうやら学院にいなくても俺の苦労は続くようだ。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・













 いつぞやの夜と同じように夕食後庭で剣を手に模擬訓練を行う。

 今回はアルフにライラもいるため4人での戦闘訓練だ。


 ちなみにライラは槍を使う。翼人の特徴である羽を使い、空中からの刺突はなかなかに脅威だ。

 どこのヴァルキュリー?と思ったのは俺だけだろう。


 組み合わせは俺とライラとスゥイ対アルフだ。卑怯というなかれ、これでようやく対等なのだ。

 相変わらずのチート振りである。


 使うのは木剣、木槍というのはないのでライラには棒を渡す、棒術になる気もするがまぁいいだろ。


「じゃ、始めようか」

 宣言後、強化魔術をかけ、加速魔術を全員にかける。瞬間ライラが空中に飛び上がり、俺とスゥイがアルフに向かって突撃した。


 横薙ぎに切りつけるがすでにそこにはアルフは居ない、予想済みの結果であり、ワンテンポ遅らせたスゥイがアルフが避けた方に剣を振るう。


 ガンッ、と音がしてアルフとスゥイが停止する。瞬間俺が切りかかる、スゥイでは速攻で力負けする事は分かっている。もって2秒下手したら1秒だ。


 剣を振りかぶり、切りかかろうとした所、スゥイが力負けして横を飛んでいく、空中で姿勢を整えているのが分かる。


 ブンッと剣が空を切る。同時にタンッと後ろでスゥイが着地した音と魔術言語の詠唱が聞こえる。

 横で俺に切りかかろうとしていたアルフが、そのまま体当たりに変更、若干隙間が開いたところでスゥイに向かって爆走した。







【Ma chère eau Rassemblez-vous】《我が親愛なる水のマナよ集え》




【Ce que vous devriez couvrir Le monde】《その手で覆うは広がる大地》







 詠唱中のスゥイに向かい詠唱の邪魔をしようとしたところ、空中から高速で突き進んできた棒を間一髪で回避する。よけ切れなかった服の一部が千切れて舞う。


 棒を突き刺したライラはそのまま旋廻し、急上昇。しようとした所でアルフに足首を掴まれて放り投げられる。


「きゃぁぁああっ」

 悲鳴をあげてすっとんでいくライラ。羽を使って飛ばされていくスピードを減速している、あれなら大丈夫だろう、横目で確認しながら風の魔術を行使する。







【Durcissez Rassemblez-vous】《固まれ、集え》




【Une salve】《一斉射撃(フル・バースト)







 アルフがスゥイに向き直り攻撃を加えようとした所でスゥイの魔術行使が発動。







【Le vague qui enveloppe le monde】《世界を覆うは我が水息》




【Un dragon vague】《竜の津波(ドラゴン・ウェイブ)







 俺の風の魔術も同時に発動、突然空間に出現した大量の水に飲み込まれるアルフ。追い討ちのように俺の風の魔弾が直撃した。


離れていたライラが一緒にドラゴン・ウェイブに巻き込まれてヌレヌレシーンなんてものはありません。残念っ!

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