phase-20 【武器の考察】
「では、次は来年の8月に戻ってくるよ、スゥイとアルフは冬に会えるか?」
10月の終わり、試験結果も確認出来、結果は上々、対応もしてくれるとの事なので何の憂いもなく実家に帰省する。
「ええ、宜しくお願い致します。11月の頭にはお伺い致します」
頭を軽く下げながら言ってくるスゥイ、実家に戻ったときその旨も母上に伝えておこう
「あーすまん、俺は今年帰らんと思う」
申し訳なさそうに言ってくるアルフ
「む、珍しく勉学に励むことにしたのか?」
「いや、まぁ、そうじゃないと願いたい所ではあるんだが……」
青い顔をして呟くアルフ、どうやら帰らないのは本位ではないようだ。
「アル君はこのままじゃ魔術系の単位が危ないので私と居残りで勉強です!」
かなり決意が込められた目で宣言する、隣のアルフは既にグロッキーだ。
「ライラ、任せた! 土産もスゥイに沢山持たせるから期待してるぞ!」
くっ、と目尻を押さえライラの肩を叩く。焼け石に水でなければ良いのですが、と呟くスゥイ。不吉な事言うなよ。
じゃぁな、と手を振って馬車に乗り込む。
実家まで約5日、まずは魔術刻印の原理を調べるか、と、学院で購入したいくつかの本から1冊抜き出し読み始める。
魔術刻印の原理と方法、また、発動原理も調べないとならない、あとは魔昌石について、だな。
やることが一杯ある、さーて頑張るぞ、気合をいれて本を読み出した。
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世界は広い、学院内でもいろいろと認識しなおした所ではあるが、やはりそれなりの隠し玉は持っておいたほうが良いだろう。アルフに勝ってしまう人間がいる上、聞く所によると彼より強い人間も居るそうだ。
もちろん上には上がいる、上を見るときりがないのは分かるが予想以上であったことには変わりない。
そのため前々から検討はしていたが、悪用を恐れて実行していなかった事に取り掛かることにした。
俺の他より優れている部分は知識だ、しかもこの時代の500年は進んでいると思われる科学技術の知識、これが俺の一番の強みだ。また、小さい頃から父上のお陰で学ぶことが出来た魔術に関する知識。
行使できる魔術は中級程度で収まってしまっているのが現状。
同じ年で上級魔術を行使してしまったスゥイを考えると俺の魔術適正は標準かあるいは若干上程度だろう。あくまで予め勉強していたから知識があり、行使できる魔術があるだけで後10年もしたら精々多少強い魔術師程度で終わる可能性が高い。
もちろん鍛錬を続け、その程度で終わらせる気も無いが自分だけの強みで得られる隠し玉を持っておくに越したことはない。
「強力な武器として思い浮かべるのは銃、だろうな、火の魔術があることから火薬の生成はほぼ無い、むしろ銃を撃つより魔術を放ったほうが弾切れも無いし、何より唯の鉄の弾なんか防御魔術で防がれてしまう可能性が高い。
しかし銃のメリットは詠唱が必要なく、シングルアクションで攻撃が可能なところだ、不意打ちならそのままでも使えるが常に強化魔術がかかっているような加護持ちの事を考えると不十分。
システムは銃を基準に弾と射出性能の改良だな。」
その為には弾の元となる可能性のある魔昌石と、放つのは魔術が基本となる以上、ライフリングでは無く魔術刻印での射出性能の改良を検討する必要がある。
「しかも時間は3年、あるように見えて無い様な気もするな」
うーむ、と唸り、持ってきた本を読みながら考える。
素材は鉄で良さそうだが、加工技術が、な……。コンフェデルスに行けば技術者も多いはず、ある程度部分は木で代用すれば良いとしてバレルとトリガー、トリガーガード、ハンマーにコッキングレバーなんかは鉄製でないと困る。
「やはりトンプソン・コンテンダーを土台にするのが無難か、単発式だが込められる弾もサイズを大きく出来る、刻印も大きいほうが刻みやすいだろう。」
機関銃のような細かい機械的な構造があるのは無理としてせめてリボルバーくらいは作りたかったが仕方が無い。なにより隠し玉の意味合いが強い、そこまでこだわる必要も無いし、あまりオーバーテクノロジー過ぎると悪用されたとき対応できない。単発式から始めるのが妥当だろう。
ある程度のイメージは出来上がった。まずは弾を完成させるか。
そう考えていた所で見慣れた景色が流れてきた。どうやら実家がある街に着いたようだ。
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「予定通り戻りました」
玄関の扉を開けて声をかける。ルナが出迎えに出てきており、2階から弟のロイドを抱えた母上が降りてくる。
「おかえりなさいスオウ、疲れたでしょう、湯浴み場も用意出来てるし、最近出来たお菓子も用意しているわ」
どうする? と聞いて来る母上、ロイドは誰が来たのか良く分かって居ないようだ、約1年ぶりであるし前にあったときは4ヶ月だ、覚えて居ないのも仕方が無い。
母上がにぃにですよーと声をかけている。
「では先に湯浴みを、自室に荷物を置いてきます」
「荷物を持ちますスオウ様」
ルナが荷物を持とうとするがやんわりと断る、女性に荷物を持たせるのもなんだか申し訳ない。それがルナの仕事なのは分かっているのだがどうも慣れない、と思ったら無理やり奪われた。
さすがルナだ変わらない様で何より……。
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湯浴みを終えた後、新商品として出す予定とのお菓子をいくつか食べる。
水羊羹らしきものが出来ていたのはびっくりした、優秀だなうちの菓子職人……。
どうやら最近は母上も菓子部門に嵌り気味の様だ、しばらくは弟が落ち着くまでは片手間のようだが落ち着いたら本格的にやるとの事。
一応その時を目安に菓子部門を一つの子会社として設立する予定とのこと。ルナを副社長、母上が社長をする予定だ。
菓子作りに専念したいからルナ社長やってよ、と言っていたが、いやです。の一点張りで未だ平行線のようだ。
「お父様の造船業もかなり軌道に乗っているみたいでね、塩田の方はもう完全に秘書さんに任せちゃってるみたいなの。カナディルで一番の造船業社になるぞ!って息巻いてたから本当にするかもしれないわね」
この世界は帆船が主流、というかほぼ全てだ、他にガレー船があるが一部でしか使って居ない。小回りが利くガレー船は沢山の島があるカナディルではわりかし重要なのだが帆船技術が高い為帆船でも十分賄える事と、オールを漕ぐ為の労働力が、多く必要なガレー船は不人気なのだ。奴隷がいるのなら使えるのかもしれないがカナディルでは奴隷制度は厳しく取り締まられている。
もう少ししたら外輪船、蒸気船の仕組みでも教えるべきか……。スクリューは無理でも蒸気システムを使えば魔術でも代用できるし、まぁこれは作るにしてもかなりの研究費がかかるだろうし後回しだな。
そんな事を考えながら羊羹に舌鼓をうつ。まさか異世界に来て羊羹が食べられるとは思わなかった。やはり緑茶は探さなければならないな。と、心に決めるのであった。
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冬、11月の頭、予定通りスゥイが家に訪ねてきた。
どうやら試験の時の魔術行使からかなり注目を浴びているようでいらぬ厄介も招いたようだ。
殆どアルフを使って上手く対処している所を見ると問題なさそうだ。
さっさと学院を出たいです。と言っていたからストレスは溜まっている様だが自業自得だしょうがない。
「そうはいってもまだ初等部だ、中等部、高等部とまだまだ学院との付き合いは長いだろ」
分かって居ないわけじゃないだろう? とばかりに言い返す。
「そうですが、中等部や高等部になれば馬鹿みたいに騒ぐ人も減るでしょうし、何より12歳で一度学院を出ますから、1年程間が開きますので騒ぎも収まるでしょう。今の目標は11歳までに必要単位を取ることですけども」
むしろ11歳までに全部とってやるとばかりに意気込むスゥイ、本当にやりそうな気もする所が怖い。
「さて、じゃあ複合魔術の勉強でもするか?教材は父上の本で良いだろう、いくつか見繕ってくる」
椅子を立ち上がりながら言う、俺が勉強で使った本もあるし、それなら上手く教えれるだろう。
「有難う御座います、それとお願いが他にもありまして……」
上目遣いでお願いしてくる、そーいうのはもうちょっと若い子にやると良い。30も過ぎてると9歳相手だとかわいいなぁ、程度しか思えん。
「む? なんだ? 急に畏まって言われても困るのだが」
めんどくさそうに答える、どうせ断った所で言うんだろう。
「ええとですね、たしかスオウは作りたいものがあるとおっしゃってたかと思うのですが、実は私も作りたいものがありまして、その材料が手に入れればと思いまして」
チッ効かなかったか、と小声で言う、やはり狙っていたのか、というか聞こえないように言えよ。
「なんだ? まぁ、家の仕事柄物は手に入れやすいから大抵の物は手に入ると思うが」
「ええ、それを見越したお願いなのですが、払えるお金は正直ありません、その為何処で手に入るか、という情報がほしいのです。情報料が必要だといわれてしまえば仕方がありません、諦めます」
「いや、さすがにそんな事は言わないが、物は何だ?」
「魔木、長い間高濃度のマナに晒され変質した木、魔弓の元となる木です」
たしかにそれを買うのはそうそう出来そうに無いな、と思った。