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Moon phase  作者: 檸檬
カルディナ魔術学院
20/123

phase-17 【学院の最強】

―――――ドギャッ、ギンッ、カンッ




 剣を打ち鳴らす音が聞こえる、生徒はもちろんのこと教師もその光景に唖然として見ている。


 同様に俺も驚きと供に世界の広さを噛み締める。

 目の前では同年代では勝負にすらならないアルフと一人の教員が剣で応酬をしている。


 正直な所、剣の軌道が殆ど見えない、加速魔術を使えば辛うじて分かるかもしれないが、それにしたって辛うじて、程度のものだろう。


 だがしかし驚くべき所はそんな所ではない、押されているのだあのアルフが。

 たしかに世界は広い、アルフの父親であるグランもアルフに勝てる唯一の男でもあるが、彼は連合国家の第一部隊副隊長、実力は隊長と遜色無いとまで言われているのだ。

 つまりカルディナ連合国家でも最高峰の実力を持っている人間でないと勝てないという事でもある。


 それを教師が上回っているというのか、カナディル魔法学院を少々嘗めていた、これは考え直す必要があるかもしれん。が、しかし学院内最強とも言われてる先生だ、あまりこれが当たり前と思うのも問題かもしれんな。


 アルフの相手をしているのはガルフ=ティファナス、剣術指南役であり、火の魔術教師である先生だ。


 俺はアルフを追い込むティファナス先生に驚き、他の人はティファナス先生相手に此処まで渡り合えるアルフに驚いているのだろう。



 ガインッ、一際甲高い音がした後、アルフの剣が弾き飛ばされた。

 瞬間ティファナス先生の剣がアルフの首に添えられる。どうやら決着が付いたようだ。



 おおおおぉぉ! と周りの生徒や教師から歓声が上がる。

 確かに今の応酬は剣術大会の決勝戦レベルだろう、十分に魅了するだけの光景だった。


 ティファナス先生から手を差し伸べられ立ち上がるアルフ、その顔は何処となく嬉しそうだ。父親に加えてまだまだ強い人がいる、まだまだ越えるべき壁がある、それが心底楽しいといった顔だ。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・













「いやはやその年でここまで出来るとはね、高等部でも上位の人間か、あとは研究部にいる者でないと相手にならないだろう、しかし技術がまだまだ荒削りな上に魔術行使が杜撰この上無い、強化魔術とて加護だけに頼っている形だろう。まずは座学を優先するべきだな」

しかし加護をこの年でコントロールできている時点で十分脅威なのだがな。そう思いつつ昨年入学した加護持ちの生徒アルフを見る。


「うへぇ、座学っすか、勉強はどうも嫌いなんすよねー」


「しかしそのままでは上にいけんぞ、強化魔術は戦士の最低条件だ、天賦の才たる加護と自身の強化魔術を使いこなせればそうそう負けはしないだろう、何よりいつも一緒にいるスオウ君やスゥイ君、ライラ君は3名とも座学も優秀ではないか、教えてもらえば良いのではないか?」

 1人得体の知れない人間がいるが、3人とも優秀との報告を受けている、稀に貴族の子供となにか揉めている様だが上手く切り抜け、もといばれない様に殲滅しているようだ。昨年に髪の毛が全て剃られて泣いているバーウィン家の子供がいた、本人も何もしゃべらない、周りも何もしゃべらないで結局何があったのか不明だが彼らが関わっているのは間違いないだろう。


「すでに教えてもらってはいるんですけど、正直頭で考えるよりぶった切った方が楽なんすよ」

 暢気に勉強とかどうでもいいっす、とばかりに言うアルフ。


「はぁ……、では仕方があるまい、君の実技は全て中止だ、その時間すべて座学に当てよう、なに心配するな学院長には私から上手く話しておこう」

 このままでは進級に響く上に彼にとっては才能を潰すような事でもある、仕方がないと思いアルフにとっての死刑宣告に近い宣言が成された。


「えぇえ! そ、それは勘弁してください、わかりました! 頑張ります!」

 急に直立し、敬礼をしだした、そんなに座学が嫌なのだろうか、今後はこの方法で発破をかける事にするか。

 アルフにとっては不幸この上ないことを考えながら、先ほどの実技において気づいた他の欠点を述べていった。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















 講義の無い休日、昨日の夜から降っていたのだろう、朝起きると一面銀世界が広がっていた。


 スイル国には雪が降る、南に位置するコンフェデルス連盟|(アールフォードに隣接している半島は別)やカナディル連合国家ではお目にかかることが出来ない雪である。


 元日本人であるスオウは北国生まれであり、さほど珍しさも感じず、久しぶりに見るな、程度であったが、雪を始めてみるアルフやライラ、珍しいことにスゥイも興奮気味で外に駆け出していった。


 まぁ、始めてみるならある程度はしょうがないと思い付いて行く。外に出た途端超高速で飛んできた雪玉を間一髪で避けた。


「あぶねぇっ」

 間一髪で雪玉を避けた後、投げたであろうアルフに向かって怒鳴る。


「おぉ、さすがスオウ、あれを避けるか」


「アル君さすがに今のは危ないよ」

 最近はアルフのストッパーであるライラがアルフを嗜める。そうだそうだもっと言ってやれと思ったが。


「大丈夫ですよライラ、スオウ相手ですから、なんなら強化魔術を使った状態で投げてもきっと避けますよ」

 冷徹な女神様が爆弾を投下した。


 気づいたら強化魔術を使い、雪玉には風の魔術を纏い高速で射出するとても子供同士の雪合戦とは思えない雪合戦が始まった。


 女性相手には本気で投げられないアルフが最後は集中的にぼこぼこにされ雪達磨と化したあたりで雪合戦は終了した。



「ひでぇよ皆、3対1って虐めだよ」

 雪まみれのまま言ってくる、しかし同情してはならない、3対1でも拮抗どころか押されていたのだ、ライラを盾にして攻めたのが勝因だろう。盾にされたことにライラは未だに不満げだが、使えるものは使うべきなのだ。


 ぱんぱんと雪を払ってあげているライラ、ごめんね、と言いながら払っているが最後はかなりノリノリだったのは言うまでもない。普段からアルフの無茶に付き合わされているのだ、無意識下で鬱憤を晴らしたかったのかもしれない。


 先週は勢い余ってぶち破った教室の扉の補修、先日は10mほどぶっ飛ばしてしまった実技練習の相手に二人で謝りに行っていた様だ。相手は怒っていなかったので特に問題にはならなかった様だが。

 後始末する仲間が増えたことは喜ばしいことだ、しかし教師からのお小言を貰うのは俺だ、なぜだ、俺が何をした。


 仲良く雪を払いあう二人を睨め付けるくらいは許されるだろう。


「どうしましたスオウ、羨ましいのですか? 男の嫉妬は醜いですよ?」


「なんでそうなるっ」

 そういやスゥイ……、お前のポジションが一番楽だよな、と思った。





 服に付いていた雪を払い終わった後、かまくらを作り、中でお昼ご飯とする。


「たまにはこういうのも良いですね」

 スゥイが部屋から持ってきた紅茶を飲みながら言う。


「たまには、な。ここで餅があればよかったんだが……、やはり材料探しの旅に出るべきか、いやしかし実家の事もあるし、だが弟も出来た、多少なら自由に動いても……、いや、しかし、でも……」

 ぶつぶつと悩みだすスオウ、また始まったか、とばかりにスオウを見るアルフとライラ、スゥイだけは変わらず紅茶を飲んでいた。





 お昼ご飯を食べ終え、アルフとライラが寮に戻った後、かまくらにスオウとスゥイだけが残っていた。


「さて、わざわざ説明するまでもないとは思うが、やるか?」

 一応確認の為スゥイに向かって聞いて見る。


「えぇ、当然です。こんな面白そうな可能性がある事、やらないわけにはいきません」

 ふふふ、と黒い笑顔で笑うスゥイ。


「んじゃ、やりますか。悪いけど見張っててくれるか?直ぐ済むとは思うけど念のため、な」


「えぇ、わかりました、先ほど見た感じでは既に寮に戻ったようですが何処から見ているか分かりませんからね。一応この周辺も確認してきます」

 そう言って加速魔術と強化魔術をかけ、予想できる地点を確認しにいった。


 さぁ、て、やりますかね。そう言って作ったかまくらの周りを掘り返していく、ぐるりと一周、綺麗に掘った後、分からないように綺麗に蓋をし、雪をかぶせた。










 夕方、ぎゃああぁああああぁああああ、という悲鳴が聞こえた。

 最近よく聞くバーウィン家、グラン君の声だろう。


 窓から覗くと、かまくらが壊されていた、が、同時に泥まみれで半泣きのグラン君が居たので良しとする。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















 夏、休みに入る前、アルフと帰省するか相談していた所、スゥイが部屋に尋ねてきた。


「スオウ、アルフ、今年は実家に帰られますか?」

 部屋に入りベットに腰掛けながら聞いてきた。


「あぁ、丁度今その話をしていて、俺はどちらでもいいんだ、アルフ次第といった所だ」


「んー、じゃあ今年はいいんじゃねぇか?どうせお前9月の試験で単位全部取るつもりなんだろ?結果が出るのは10月だとしてそこから帰っても良いだろう。なんなら冬まで居て一緒に帰っても良いし」


「じゃあ、そうするか、手紙出しとくか、と、いうわけだスゥイ」

 と、スゥイに向き直って言う。


「そうですか、でしたらスオウにお願いが一つあるのですが宜しいですか?」

 珍しく申し訳なさそうに聞いてくる。なんか嫌な予感がする。


「む? 構わんが、スゥイも帰らないのか?」


「はい、以前もお話しましたが12歳で帰りますので、それより内容なのですが、夏の間魔術言語の勉強を教えて欲しいのです」


「今も毎日教えてるじゃないか、別に休みだからと言ってお互い学院にいるのなら問題無いだろう、いつもの時間に教えるよ」

 むしろ休み期間だから時間を増やせということだろうか、まぁそのくらいなら問題は無いが。


「いえ、そうではなく、今年スオウが学院を出られるのでしたら年に数回此方に来られると言えど回数は限られてますので、12歳までの分全てを本として頂けるか、全て教えて頂きたいのです。本来であれば自分の努力で得るべきこととは思いますがご協力頂ければと思いまして。」


「なるほど……、しかし本気だったのか、正直途中で諦める気もしていたんだが……。わかった、ただ一気に教えても頭に入らないだろうし、分かりやすくまとめた本を作るとしよう。

 あと夏と冬はなんだったら家にくればいい、俺も居る様にするから」

 本にしておけばアルフやライラも使えるだろう、様子見で何度か来るのもそうだが本として残しておけば上手く活用してくれそうだ。これは良いかもしれないなと思い、頭の中で必要だろう項目を検討する。

 夏も冬も長期期間の休みも活用すれば抜けも補えるだろうし、母上に話しておかないとな。


「当然です。すでにお義母様とルナさんには許可を取ってありますので」

既に先手を打たれていた。どうやら嫌な予感は此処で当たったようだった……。


「その呼び方は続けるのね……」

はぁ……、とため息を付き、にやにやと笑うアルフに近くにあった枕を投げつけた。

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