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Moon phase  作者: 檸檬
prologue
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phase-0 【大陸の戦争】

 それは一人の少年が青年となり世界を動かす物語。








 深遠暦669年


 目の前には5000近い敵兵、相対するはおよそ2メートル近い大剣を振り回すフルプレートの騎士。まるで紙のごとく蹴散らし、蹂躙していく幼馴染を遠めに、策を練る。

 圧倒的有利ではあるが、相手がこのまま黙っているとは思えない。


 いずれ白銀のラウナや双剣のリューイ、知将ゼウルスが出てくれば戦況が変わる可能性がある。それまでに挽回が出来ないほど相手を追い込むか、此処で引いて体勢を整えるか、決断しなくてはならない。

 いくら五国最強のアルフと言えどすでに連戦に連戦。だが、人がまるでゴミのようだー、と言ってみたくなるほど敵兵が吹き飛んでいる光景を見ると、大丈夫なんじゃねぇか? とか思わないでもない。しかしこんなところで死なれては困る。頑張ろう。



 閃光が走る、山一つ向こうなのにも関わらず、光がこちらまで届く。遅れて魔昌石を通じて作戦成功の通達。ようやくか、と湧き上がる興奮とアドレナリンを押さえつけ先頭を走る親衛隊に指示を飛ばす。

 続いての通達、どうやら敵国拠点の砦を半壊させたようだ、奪う予定だった武器ごと。


「フン、私の前に立つのがわるい」との事だ。


 いやいや、砦なんだから立つとか、そもそも初めからそこにあっただろ。つーか人じゃねぇし、いや、うん、もういい……。







 まったく、後先考えないバカばっかりでやってられん、アルフに限らずあのじゃじゃ馬の馬鹿具合も良い勝負だなと苦笑する。


「スオウ、リリスへの指示と第二魔道部隊の転進命令を頂きたいのですが」

 肩で切りそろえた黒髪の剣士が此方に指示を求めて来る。


「あぁ、スゥイか。リリスの馬鹿には勝手にやってろと伝えとけ。第二魔道部隊の転進は至急伝えてくれ、第三魔道部隊の消耗具合はどうだ」

 付き合い長いせいか勝手にやってもらったほうが予想がつく。いや、それもどうなんだろうな……。


「作戦通り進行、ほぼ無傷ですね。また、先行してかけた罠に敵軍補給部隊がかかったとの事。こちらで武器の補給が出来そうです」


「なんとか帳尻が合わせられたか……、胃が痛い。まったく思う様に行かないものだな」


「思うように行かないのは当然です、すべてが思うように行くと思うものから死んでいく、そういうものでしょう?」

 そうだ、常に試行錯誤を重ね、検討し、考察し、悩み、そして解を出す。そうしてやってきた、そしてそうしてやっていく。変わらない、それだけは変えれない、自分の手に掴むものを手放さない為に必要なのだから。



 さて、魔道部隊の調整と騎兵隊の突撃指示。リリスの尻拭いをしますか。

 まぁ、昔から後始末と誤魔化しは俺の仕事だ。


 俺は俺らしく俺なりの戦い方をしようかね。



 つか、アルフとリリスいるなら策とかいらねぇんじゃねぇのか……、と思ったり思わなかったり。







 深遠暦667年より続く長い戦争、最初は二国間の小競り合いから始まった。

 原因はスイル国の外交官が殺されたことから始まる。

 犯人は未だ不明、しかしスイル国を属国とする帝国アールフォードは、カナディル連合国家の仕業だと決め付け、スイル国に大量の物資と軍を送り援助した。

 すぐにカナディル連合国家は無実を主張。コンフェデルス連盟もそれを支援したが、帝国アールフォードは殺害現場に残されていた、血に塗れた短刀にカナディル王家の紋章が入っており、それを理由に開戦を宣言した。


 短刀は確かに本物であり、犯人不明のまま、帝国アールフォードとカナディル連合国家の戦争が始まる。


 帝国アールフォードは五国統一を目標としており、誰の目から見てもでっち上げの開戦理由だったが、短剣が本物である以上犯人を見つけ出さない限り対応が出来ない。なにより相手は理由など関係ないのだ、唯単にこちらに攻め込む理由が欲しかっただけなのだろう。

 おそらく犯人は帝国アールフォードの者、もしくは傭兵か、暗殺者か、どちらにせよ始末されているだろう。





 国境付近で国境警備隊と帝国軍が小競り合いを始める。先行してきた隊だ、騎兵が中心となっている。

 炎術魔法が放たれ守護結界に阻まれるが長くは持たない、いずれ基点となっている結界石が壊れるだろう。

 敵が500程とはいえ、国境警備隊は200も居ない、属国とはいえ中立に近い立場であったスイル国に接していたのもあるが、緩んでいたのだ、弛んでいたのだ。長い平和で帝国がいまだ統一を考えているなどと思いもしなかったのだ。

 軍事国家であるにもかかわらず、国の仕組みが変わっていないのは明らかなのに油断していたのだ。

 結界石に皹が入る音を聞きながら若い部下に伝える、至急報告を、と。剣を持つ、思い浮かべるのは2日前に避難させた妻と娘。


「行け! 至急敵国の数と状況を伝えに行け! それがお前の仕事だ!」


 剣を抜き放ち前を見る、敵は直ぐそこだ。


「ブルーム隊長、お供いたします」


 身長より長く無骨な杖をもつ20代ほどの女性、私にはもったいないくらいの副官だ。


「すまんな」

「いえ、これも仕事ですから」


 少し小馬鹿にしたように笑われた。





 続々と帝国の軍が到着、その数およそ10万、あっという間に国境警備隊を蹴散らし殲滅、国境付近の町を蹂躙し、近くの砦付近まで進軍してきた。

 この状況にカナディル連合国家の国民は憤慨、またコンフェデルス連盟もその開戦理由の理不尽さにカナディル連合国家に付いた。

 物資の流通を司る六家がこちらに付けば負けは無い、と、国王は即刻12万の陸軍と5万の海軍を、我が国を不当に蹂躙した愚か者どもを撃退する為出陣させた。


 数はおよそ倍、負けることは無いと確信して進軍したのもつかの間、なんと六家の内二家スーリ家とアウロラ家が裏切ったのだ。


 いや、裏切ったというよりは傍観に徹したというべきか。


 理由は不明、原因も不明、この時点での裏切りなど不利益しかなく、利益など不明。しかし連盟からの連絡ではたしかにそう綴られていた。


 農業を取りまとめているスーリ家と製造を取りまとめているアウロラ家の裏切りは食料と武器の流通が滞るということだ。すべてがすべて連盟に依存しているわけではないが、これは大きな痛手となった。

 その上アールフォードには国力がある、10万の敵兵を退けたところですぐに同数近い数を送ってくるだろう。


 そもそもが可笑しかった、明らかにでっち上げた理由、開戦してから直ぐに裏切った二家、傍観を貫くリメルカ王国。

 此処に来て嵌められた事に気づく愚かな宰相達だった。そうして先の見えない戦いが始まった。


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