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Moon phase  作者: 檸檬
カルディナ魔術学院
18/123

phase-15 【無敵の親友】

「ぎゃぁぁああああぁぁぁあああ!」

 格闘講義中に響く絶叫、キランッと空に消えるほどではないが、おそらく3階立ての建物並みの高い(ソラ)を舞う。


「とんでるな」


「とんでますね」


「人ってあんなに飛べるものなんですね……」



 必修科目の格闘講義、その実技でアルフの相手を受けた結果である。

 上からスオウ、スゥイ、ライラの感想である。


 周囲にいた教員があわてて風の魔術を使い、着地点もとい落下点に走り出す。


 いやぁ、手加減したんだけどなぁ、と頭をがりがりとかきながら申し訳なさそうにしているアルフ。

 たしかに思っていたよりずっと錬度は高かったが、アルフ基準だとやはりどうしても劣ってしまう。


 自慢ではないが俺基準でも格闘における錬度が低いだろう。もちろん他の部門で能力が高い場合が殆どであるが格闘技術はやはり年相応な人が多い、たしかに魔術学院といっている以上魔術が中心なのかもしれないがそれじゃ駄目だろうと思う。


「まぁ、まだ7.8歳だしな……」

 しょうがない、こればっかりはしょうがないだろう。

 どうやら無事怪我も無く哀れな生徒は救助されたようだ。


 今後のアルフの相手は教員か高等部の人間がする事になったようだ。

 それでも相手が務まるが疑問だが。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















 夏、休み期間中殆どの生徒が実家に戻っている間。






―――――ギンッ、ヒュッ、ガイン、ギンギン







 朝日が昇る薄暗い早朝、剣を打ち鳴らす音が聞こえる。


 残像しか見えない二人の男が寮の庭を縦横無尽に駆け巡り、衝突する。


 鍔迫り合いからこのままでは力負けすると思い、高速で離脱。


 加速したスピードのまま傍にあった木を駆け上り空中へと躍り出る。

 眼下に納めた茶髪のチート野郎に向けて魔術を行使する。




【Rassemblez-vous】《集え》



【Une salve】《一斉射撃(フル・バースト)





 略式高速言語で放たれた風魔術は寸分狂いもなくアルフに向かって突き進む。



「はぁっ!」



 気合一発、全身に纏った強化魔術にマナを注ぎ込んだだけ。

 たったのそれだけで直撃した魔術を無傷で霧散させた。



「そのくらいは予想済みっ」


湖月(コゲツ)を水平に構え、落下の速度に加え、風魔術を纏い一つの弾丸と化して突撃する。


「おりゃぁっ!」



 庭全域に響くような声を張り上げたかと思えば、剣を構えず左手を振り下ろす。

 ガシッ視界には信じられないような光景が起きた。

 もはや常人には視認すら不可能な速度で突き刺した湖月(コゲツ)を何と左手で掴んだのだ。


 瞬間硬直、下から振り上げるように切り上げられた剣、あわてて防御魔術を行使する。





【Vent Rassemblez-vous JE Défense Formez-le】《風よ我が守りと成せ》





 言い終わると同時にズドンと言う鈍い音。

 衝撃までは吸収できなかったか、思わず掴んでいた剣を離してしまった。




 チャキッ




 首筋に添えられる剣、どうやらまた連敗記録を更新したようだ。




「出鱈目具合もここまでくるともはや嫉妬すら起きませんね」

 腰に手を当てながらため息をつくスゥイ、入学してから1週間、早朝鍛錬のことを知ったスゥイが同席を求めて今に至る。

 その手に持つのは弓、正確には魔弓と言われるものだ。

 矢が存在せず、魔術によって作り出した矢を魔弓によって増幅、補正され射出される魔術礼装の一つ。

 本来であればバカみたいな金額がかかる代物であるが、さすが魔術学院、学生には無料で貸し出ししているとの事。


 もともと剣も使えるスゥイだったが、貴方達相手に同じ土俵で戦う気は起きません、と憮然とした顔で言われた。

 どうやら弓の適正もあったようでなかなかの腕前を見せる。というか嫌らしい位置に打ち込んでくる為、単体なら問題ないが誰かと組んだときはこれ以上無いほど面倒である。


 ちなみにライラは就寝中、たまに来るが朝には勝てないらしい。仲間はずれにされる事に最初不満だったが布団の誘惑には勝てなかったようだ。


「さて、次は私とスオウ対アルフですか」

 黒い笑みを浮かべながらアルフに告げるスゥイ。

 

 引き攣った笑顔で笑うアルフ、さて、先ほどの仕返しといこうか。












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・













 秋、年に一度の試験日を控え、生徒達が慌しくなる季節。



「なんだって……! 初年度は試験が受けれないなんて聞いてない!」

 驚愕の事実に驚いたが、頭のどこかでそりゃそうだろうと思う。


「申し訳御座いません、まさか初年度から試験をお受けになられる方がいるとは此方も考えておりませんでしたので、また必修単位の試験は1年間講習を受けなければなりませんから、どちらにせよ1年は学院にいる必要があります」

 申し訳なさそうに言う、学院事務局のお姉さん。最初に聞いたときはまさか初年度で全て受けるつもりだったとは思わなかったようだ。まぁ、たしかに当然だ、彼女は悪くない。


「しかたがない、か……」

 となると9歳までは学院にいる必要があるということだ。10,11,12,13と4年間か、12歳はコンフェデルスで例の物を作るのに丸1年必要だろう、また学んだ項目の復習も必要だから13歳には学院に戻るべきだろう。

 2年か、2年で必要な材料と理論を構築といったところか。十分だとは思うが予定より1年短くなるとは。


 スゥイあたりに話したら当たり前です、とか言われそうだな、そう思いつつ次の授業の部屋に向かった。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・













 試験期間も終わり、少し落ち着いた学院、屋台で昼ごはんを買う



「ライラって風魔術を使わなくても飛べるんか?」

 そういえば、と思い出したかのようにライラに聞くアルフ。

 翼人は背中に生えている羽を羽ばたかせて飛ぶことが出来る。魔術を行使しないで飛ぶ事が出来る為空中戦では無類の強さを誇る。


「ええと、飛べるといいますか、少し違ってですね。正確には風魔術を常時纏っている翼で空を飛ぶんです。なので魔術行使が必要無いことは無いのですが、魔術を使っていないわけではないのです。」


「ふーん、よくわかんねぇな! とりあえず飛べるってことか」

 どうやら考えることを放棄したようだ。


「そうですよね、そうでした、アル君だもん、しょうがないか」

 最近ため息が多いライラ、幸せが逃げていくぞ。


 大丈夫だろうか、格闘技関連の単位は確実に問題ないが魔術理論などといった分野は全滅じゃないだろうか。無事進級できなかったらどうするんだこいつ……。


 まぁ、ライラが傍にいるから大丈夫だろう、手に持ったケバブに齧り付きながら俺も考えることを放棄した。










 




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




   










「今日は4元素について講義を行う。これは全ての魔術の基礎となる事であり、原点でもある。心して聞くように」

 魔術基礎の講義の時間、俺にとってはいまさらの話を聞き流し、昨日の夜から考えている風の防御魔術の略式理論を検討する。

 同じ防御力を維持した性能のままで言語を減らすのは予想以上に難しく、スゥイから当たり前ですと良く言われる。しかしこのままではアルフの攻撃に耐え切れない為改良が必要なのだ。


 強力な防御魔術なら言語を長くすればそれで済む話だが、だらだらと詠唱していればものの数秒で決着が付いてしまう。不意打ちならともかく……。


 隣を見ると一生懸命講義を聴いているライラ、眠そうに舟を漕いでるアルフを肘で小突いて起こしているようだ。

 スゥイを見るとなにかを一生懸命書いている。隣には8元素教本、どうやら本気で俺に付いて来るつもりのようだ。予定では来年の選択科目でとる教科だったはず。


 休み期間も図書館に出入りしてたらしいからな……。

 毎晩アルフへの魔術講義もとい復習の時、一緒に勉強を見ているのだが油断していると俺でも知らないようなことを稀に聞いてくる。何がこの子を此処まで頑張らせるのかは分からないが知識を得て困ることは無い。無理しない程度であれば良いだろう。


「元素を理解する事により次のステップに進むことが出来る、魔術言語には元素を含めて行使する事が基本だ、能力がある魔術師は元素言語を含めなくても行使してしまうが、これは例外だ、君達の年齢ならまだ覚えなくても宜しい」

 板書を棒で叩きながらしゃべる教師。

 うーん、風については元素を含めなくても行使できるようになってしまっている。

 これは聞かなかったことにしておこう、うんそれがいい。


 アルフとライラが呆れた目で此方を見てくる。そんな目で見るなよ俺は悪くないぞ

 結局防御魔術の改善点も見つからず今日の授業が終了した。















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















「弟が生まれたらしい」

 ちょっと忘れ気味だった件、寮、寝る前に父上から届いた手紙にそう書かれていた。


「おお! おめでとう、ってことは冬の休みには実家に帰るのか?」

 自分のことのように喜んでくれる。持つべきものは親友か、バカだけど。


「まぁ、そうなるな。ついでだから来年必要単位とる予定と言う事とコンフェデルスに行く事を伝えておく」


「そーか、俺はどうすっかなー。帰ってもそんな暇あったら勉強してこい、とか言われそうだし」


「夏帰っていない事だし、もどったらどうだ?年明けくらいは実家にいたほうが良いだろう?」


「それもそうか、んじゃ俺も帰るわ」

 お土産は買っていくべきかなー酒でいいだろ、と言いながら嬉しそうに話す。やはりまだ8歳なんだ、親も恋しくなるだろう。


 そんな中俺はまったく違うことを考えていた。

 弟か、中身が心配だな。今までいろんな人に会ってきたが俺のような憑依か転生などといった不可思議な経験をしている人は居なかった。世界中を探し回ったわけではないから絶対ではないが各国に出向いている商人や漁師、塩田の関係から運送系の人に聞いた限りだとその様な人間はいなそうだ。


 となると家系的なものも考えられる。父上と母上は優秀な人間だが俺のような不可思議な経験に触れたことは無いだろう、弟ももし俺のような人間だったら母上はまた知らぬ所で心労をかけるだろう。

 

 原因が分からないというのはままならんな……。

 とりあえず注意深く行動を見てみるか。自分が赤ん坊だった頃の行動を思い出しながら考えるのであった。

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