phase-12 【未来の副官】
「スゥイお前見張ってたんじゃないだろうな……」
もはや体面何もない、試験の後散々な目に合わされたのだ、もうどうでもいい。
「失礼な事を、唯の偶然ですよ。だいたいそんな暇があるわけがないでしょう」
初等部に向かいながらスゥイと話す。まさかとは思ったが偶然だったようだ、完全に信じたわけではないが。
「ね、ねぇスゥちゃんその人達と知り合い? 奥の茶髪の人ってたしか加護持ちの人じゃ……」
びくびくしながらスゥイの後ろで此方を伺っている女の子。
髪の色は薄い青、翼人の証である白い翼が背でパタパタと動いている。
「そうですよライラ、前に話した人たちです。ほら試験のときに知り合ったと言ったじゃないですか」
ライラと呼ばれた少女はそれを聞いて合点がいった様に此方を見る。
「あぁ! 貴方達がスゥちゃんが言ってた変態野郎さんですね!」
「「誰が変態野郎だ!」」
思わずアルフと声が重なった。
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「ご、ごめんなさいっ!」
翼をこれでもかと萎らせて謝ってくる青髪の少女、名はライラ=ノートランド。
どうやらあることないこと吹き込まれた様だ、そもそも変態の意味をきちんと理解していなかった。スゥイがそう言う様に言ったようだ、覚えてろよスゥイ……。
お互いに誤解を解いた後、意味を理解したライラは顔を真っ赤にして謝ってきた。
また同様にアルフに対する恐怖心も和らいだようでこの辺も考えて言わせたのだろうか……。
いや、ないなスゥイだし、絶対自分が楽しむ為だ。
実際二日しか付き合いがないスゥイだがなんとなく予想できた。
「ま、まぁ誤解が解けて何よりだ、むしろそんなに謝られると逆になんか悪いよ」
頭をがりがりとかきながら答えるアルフ、ああいう大人しい系の女の子は初めてなのだろう、どことなくそわそわしている。
なんか初心な小学生の初恋みたいだぞ、がんばれアルフ、負けるなアルフ
翼人は巨乳率が高いからな、いまのうちにツバ付けとけ!
どーでもいいことを考えながらアルフを見る。
スゥイにライラと学院にきてからアルフにも友達が出来たようで何よりだ、スゥイはまぁ、性格に難があるが、あのライラって子は良い子だ。たぶん、きっと。
「おーい、いつまでやってんだ、さっさと入寮確認済ませに行くぞ」
遂にお互いぺこぺこ謝りだした二人に声をかけ初等部に入っていく。
スゥイもそれに無言で付いてくる。いや、お前も少しは止めようとかしようよ……。
胡乱な目で見ると、何か? と言わんばかりの目で返された。
入寮確認を済ませた後、寮に戻る。入学式は明日10時からだ。
寮では朝食と夕食事前にお願いしておくと出てくる。
自室で食べても構わないが団欒室で食べる人もいるようだ。
寮には約180人ほど住んでいる様だ。
1階に20人、2階に40、3階に40、4階に40、5階に40人ほど。
1回は団欒室の部分があるため部屋が少ない。2人部屋と4人部屋があるそうで、角部屋が2人部屋となっている、他の部屋も少し見せてもらったが角部屋がいわゆる当たり部屋と言われる部屋で他の4人部屋は角部屋より若干大きい程度で自室を見てからだと窮屈感が否めなかった。
3000人近くいる内初等部寮にいる人が180人、初等部、中等部、高等部、研究部で4倍しても800人にいかないのでは? と思ったが進学できない人や、働いてる人も含めた数字であり、特に研究部は就職しているような物でもあるので多く在籍しているとの事。
「実際ストレートでの進学率は40%程度、この中の何人かも進学できない人がいるんだろうな」
実際初等部寮には15か16歳くらいの人も何人か見かける。
わりかし居る様なのでそう珍しいことでもないのだろう。
「となると実際の新入生は50人くらいか?」
正面で夕飯を食べてるスゥイに問いかける。
「正確には64人です、スオウ。実質寮の約三分の二ほどが留年生です。初等部は研究部を別にしても中等部や高等部に比べると滞在年度も長いですから。ストレートで上がれる確率を考えると妥当な所でしょう」
骨付き肉を頑張って切り分けながら食べているスゥイ。あ、手で掴んで齧り付いた、めんどくさくなったか。
「上品さとは無縁だな、個人的には好ましい部類だが……」
呆れながら見る、口の周りが肉の脂と香辛料でべとべとである。
「お腹に入れば同じことです」
元貴族の家系だったとはとても思えない発言をした。
スゥイ=エルメロイはスイル国の元貴族である。
祖父が当時帝国に属国にされる前子爵の階級を持ち国に仕えていた。
しかし帝国により属国にされる際、城伯以下全ての階級貴族を解体したのだ。
変わりに帝国からきた貴族が土地を治め、スゥイの祖父は場所を追われた。
そのままコンフェデルス連盟に亡命、その地で息子夫婦は子を生みスゥイが生まれたのである。
既に貴族で無いのにもかかわらず貴族としての生活を求める祖父、貴族でもないのに色眼鏡で見てくる周りの人。すでに貴族で無くなったにも関わらず貴族が付いて回ってくる生活がそこにはあった。
帝国の貴族(だったらしい)ゼロール=ザンフル=アルバートン君、既にゲロ君としか覚えていなかったのはご愛嬌。
スゥイの名前を見たとき落ちこぼれのエルメロイ家が何の様だといちゃもんを付けられたそうだ。相手は帝国の貴族、下手に手を出した場合没落した元貴族のエルメロイ家と知れたら確実に面倒な事になる。こみ上げる怒りを抑え、なんて返すか考えていた時、加護付がどうのこうの、との声が聞こえてきたのだ。あっさりとそちらに興味を移したアルバートン卿はその数分後ものの見事に問答無用でぶちのめされる事になる。
それを聞いた後、あー帝国の貴族だったのね、まぁそんな事より寝かしてくれないかと言ったら笑われた。
そうですね、所詮そんな事に過ぎない。そんな事は分かっていたのですが、ね……。
どこか悲しげな目で呟いてはいたが眠さに負けてそのまま寝てしまった。
「今8歳だから中等部にあがれるのは後6年後か長いなぁ……、長すぎる。飛び級したいよ」
ため息を吐く、6年とかもーむりっ、ながいっ、気が遠くなるっ
「試験は1年前に行われますから5年後に決まりますね。ストレートで行ければの話ではありますが。常識の教育や道徳観念の教育、また中等部と違って休みも多いですからね。1年の三分の一は休みがあるそうですよ。もちろん学院に残っていても良いそうですが」
「常識の教育ね、たしかにあの辺の奴らには必要だろうな……」
まるで公園のように団欒室で走り回って遊んでいる同級生と思われる子供たち、さきほど年上の同期から怒られたにもかかわらず1時間程でまた始めだした様だ。
「普通の7歳や8歳というのはああいうものですよスオウ。失礼ながら貴方が変なんです」
「あぁ、まぁ自覚してるさ……」
そりゃそうだよ中身そろそろ30だぜ、いまさらかけっこなんかしないって。
「俺からみりゃ、お前ら二人共変だよ……」
はぁ……。と、隣に座ったアルフから諦めが入ったため息を付かれる。
「う、うん。私もそう思う」
アルフの正面に座っているライラ、こちらはナイフとフォークを使って綺麗に切り分けて食べている。
というか、なんか仲良いなお前ら、ここは年齢にそったような冷やかしとかするべきか?
ひゅーひゅーとか言うべきか? いや、むしろ俺らの方が言われそうだ止めておこう。
「ふん、没落した人間らしい汚らしい食べ方だなエルメロイ! 同じ空気を吸っていると思うと吐き気がする」
急に後ろから大声で叫ぶ子供の声、あきらかに回りに聞こえるように言っているのがよく分かる。
どうやらゼロール=ザンフル=アルバートンもといゲロ君が無事受かっていたようだ。
前に座るスゥイから表情が消え、右手を握り締めて僅かに震えている。怒りを耐えているのだろう。
はぁ、とため息を付いて後ろを振り返った瞬間ゲロ君の顔が一気に青褪めた。
「ひっ! き、き、きさま、な、なぜ、こ、こ、こここに!」
急にがくがくと震え震える手で此方を指して来る。
「何故と言われましても、俺も無事試験に受かったので、それより体調が悪いようですがどうかされましたか?」
まだ何もしてないのになんでこんなに脅えられなければならんのだ、俺が何をした、あ、いややらかしたか。
「い、いい、いや、なんでもない、し、失礼するよ……」
逃げるように走り去っていくゲロ君、なんだろう無性に悪いことをした気がする。ごめんよゲロ君、君のことは忘れない、10秒くらいは。
「まったく、なんだったんだ、何もやってないのにあんなに脅えられるなんて酷くないか……?」
まったく、といかにも不満げに呟く。
「いや、何もやってないって事はないだろ……」
「そうですね、何もやって無いという事は無いかと思いますよスオウ」
さっきまでの怒りは何処に行ったのか食事を続けるスゥイ。もはや何も言わんとばかりに同様に食事を続けるアルフ。
お前ら、なんだその目は、俺は悪くないぞ! 悪くないぞ絶対に!
「道徳の授業はスオウに必要かもしれませんね」
にっこりと笑いかけながら言われる。
「ああ、俺もそう思う」
大仰にうなずくアルフ、お前ら二人に言われるとは思わなかったぞ。
「あの、先ほどの方はいったい……?」
唯一ライラが何が起こったのか分かっていなかった。