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Moon phase  作者: 檸檬
次の名はスオウ
12/123

phase-10 【学院の試験】

「リン=レンレン、ベルード=フォログラス、サナ=ステファン、スオウ=フォールス入りなさい」

 20台後半のメガネをかけた女性に名前を呼ばれる。

 緊張しているのだろう、呼ばれた子供たちは何処か落ち着かない様子で部屋に入って行く。


 部屋はおよそ30畳くらいの大きな部屋、奥に試験官と思われる先生が3人座っている。

 真ん中の先生はダンブルド○もとい学院長、左には赤い髪をオールバックにまとめ、細長い眼鏡をかけている男性だ。どことなく神経質そうな顔をしており、書類を片手に此方を見てくる。右側に座るのは60は超えていると思われる女性、白髪なのか銀髪なのか流い白髪で穏やかな笑顔を浮かべておりどこか安心感を与えてくれるような顔つきだ。


「良く来てくれたのう、じゃあそこの椅子に座ってくれるかの、いくつかの質問の後簡単な魔術行使をしてもらうぞい、大丈夫緊張なぞ不要じゃ、君たちならきっと実力を発揮出来るじゃろう」

 中央に座る学院長から座るように促される、他の子供たちもその柔らかな声から少し落ち着いたのか、緊張が和らいでおり、それぞれ椅子に座りだす。


「さて、知っているとは思うがのう、私がこの学院の院長ゼノ=カルディナじゃ、君たちから見て右に座るのが水の魔術を担当しておるダーナ=マナスス教師、左におるのが地を担当しておるデュート=ロンドラルじゃ、二人ともとても優秀な教師じゃからの、入学後はいろいろと教えてもらうといいぞい」

 ほっほっほ、と自慢? なのだろうか、その長い白髭を撫でながら話しかけてくる、内心どう考えてるのかは知らないが、さっきから此方を見て来る目が鋭い気がする、控え室の魔術行使に気づかれたか、他の学生のレベルを見ていて十分隠しきれる気もしたが、さすがは学院長といったところか。



「では、こちらから質問をいくつかする、多くてもせいぜい5個程度の物だ、直接入学に関係するわけではないがまったく意味が無いわけでも無いので真面目に答えるように」

 先ほど院長から紹介されたデュート先生が話す。どうやら此処からは彼が進行する様だ。



 質問内容はそれぞれ個人で内容が違った、内容も簡単な生活魔術の魔術言語から、効果の説明程度、入学後寮に住むか家から通うか程度の事だった。

 俺の前の緑の髪の女の子、おそらくサナ=ステファンと呼ばれていた子だ、緑の髪の毛だと何処と無く恐怖を感じるのは絶対にルナのせいだろう、トラウマになってる気がするぞこれ……。


 そうして俺の番が来た。


「スオウ=フォールス君で間違いないね」

 デュート先生が書類を見ながら此方に聞いて来る。


「はい、間違い御座いません」


「では、生活魔術である火を灯す魔術言語を答えてくれたまえ」


「【Je l'allume】です」


「よろしい、次はゼルロース大陸に存在している五国全てを答えてくれたまえ」


「帝国アールフォード、スイル国、リメルカ王国、カナディル連合国家、コンフェデルス連盟。以上です」


「ふむふむ、次は4元素を答えてくれたまえ」


「風の【Vent】、火の【Feu】、水の【Eau】、地の【La terre】、以上4つです」


「うん、素晴らしい。あぁ、最後に君が得意とする元素を教えてくれるかな?まだ分からない場合は分からないで構わないよ」

 得意な元素か、これはどうしたものか、大人しく風と答えておくべきか、試験のことを考えて火と答えておくべきか、やはり手の内を全て明かすのも不安が残るしな、火にしておくか。


「【Feu】《火》です」

 そう言った瞬間、学院長の目が細まる。面白そうな者を見つけた時の目だ。


「ちょっといいかのデュート君」

 学院長がデュート先生に声をかける。その顔は笑っているが目は見透かすような視線だ。


「はい、どうぞ学院長、何か問題でも?」

 少しずり落ちてきた眼鏡を元の位置に戻しながら学院長に向き直るデュート先生。


「ほっほ、大した事ではないんじゃがの、スオウ君とやら、得意な元素は火で間違い無いのかの?」


「はい、私としてはそう思っています。何分未熟な身ですから自分の実力も完全に把握して居ない部分もありますが」

 まずったか、やはり先ほどの控え室での事は完全にバレている可能性が高いな。さすがは学院長といったところか。


「ほっほ、まぁ、よいじゃろ、入学後は寮生活でよかったかの?」


「はい、そのつもりです」


「ほっほっほ、すまんかったのデュート君、話を続けてくれんかの」


「は、はぁ、まぁ、先ほどの寮の件も確認できましたので終わりですよ。後は各個人の魔術行使を見て終わりです。では、リン=レンレン君から」

 は、はい! とがちがちになって席から立つ、横の子、サナ=ステファンもすごい真剣な目をしている。別にこれで死ぬわけでもないのだから、とも思ったが最高峰の魔術学院、家での期待も高くされているのかもしれないな、この子も服装から見て良い所の子供みたいだし、控え室みたいな貴族じゃなければいいけどなー。

 欠伸の一つでもしそうになりながら一番目に指名されたリン=レンレンの魔術行使を見ることにした。



 困った、これは困ったな……。

 行使された魔術は下級魔術、それも複合ではなく単属性だった。

 一人だけ複合魔術を使った子が居たが、先生方が驚かれていたので複合が使えるだけで上位に位置される可能性が高い。

 これは順番が最後だったのを感謝するしかないな、ここは下級魔術の火を使い、なおかつ複合までは行かないけどもう少しで使える程度のレベル、で良さそうだ。


 となるとあれかな。


「次、スオウ君」

 名前を呼ばれる、返事をして椅子を立ち、魔術言語を唱える。






【Feu Retournez】《火よ回れ》






 下級魔術でありファイヤーボールの基本でもある火球、直径20cm程度の火の玉を出した。


 デュート先生は書類になにか書き込んでいる、と、思ったら学院長の細い目がさらに細まり、ほとんどしゃべっていないおばぁちゃん先生が驚愕の目で此方を見ていた。


 やばい、みすったか、いやしかしさほど難しいこともしていないはずだ、なにを間違えた。


「うん、宜しい、もう座って良いよ。お疲れ様。追って学院から合格通知が行くと思うけどこのグループはなかなかに優秀だったからね大丈夫だろう」

 デュート先生が皆に向かってそう言う、聞いた子供たちは一気に緊張が抜けたのか皆笑顔だ、実質内定を貰ったようなものだ喜ぶのも分からないでもない。


「ほっほ、帰り道気をつけるんじゃぞ、来年入学式で会えるのを楽しみにしとるぞい」

 ほっほっほ、と笑いながら、いや、目が笑っていない、明らかに此方を見ている。くそうまずったな、何が悪かったんだ、面倒な事になりそうだ。


 合格通知が貰えた様な状況にもかかわらず、憂鬱な気分で控え室に戻るのであった。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















「おう、戻ったかスオウ、どうだった? まぁ、お前の事だ心配しちゃいねーがな」

 暢気に声をかけてくるアルフ、俺の苦労もしらないで、と思わないでも無い。

 と、思ったらアルフの横に立つ女性、黒髪で肩の所で切りそろえている少女、目はきりりと鋭く凛とした雰囲気を醸し出している。

 傍から見ても鍛えているだろう身体、女性だと見ていたら痛い目に合いそうな気がする。なんかルナを思い出すな……、と思いつつもアルフに聞く。


「まぁ、なんとか大丈夫だと思うよ、それよりアルフその子は? 早速友達でも出来たのか?」

 俺と違い加護持ちというのを別にすれば十分に友達を沢山できるであろうアルフ、特に此処は最高峰の魔術学院だ、加護程度で騒ぐ人間も少ないだろう。どこか嬉しいような寂しい様な気持ちで聞いて見る。


「あぁ、いや、うーん、友達っちゃ友達かな、一応俺はもうそう思ってるんだけど。用件はお前だよ、どうやらお前への用件がメインだったようだぞ」

 む、俺への用事……、そっちの方は予想外だったな、なんだろう、またなんか知らない間にやらかしたか。

 疑問顔全開でその少女に向き直る、こうして見ると美人だな、これは絶対将来引く手数多の美人になる気がする。美人センサーとか無いけど


「始めまして、スオウ=フォールス。私はスゥイ=エルメロイと申します。本来であればもっと早くお声をかけたかったのですが、直ぐに試験となってしまわれたのでこのような時間になってしまいました。先ほどの風魔術行使、見事でした、なによりあのゴミを処理して頂けたこと感謝いたします」

 おぅふ……、あの魔術行使を理解できたやつがいるとは……。

 にやにやと此方を見てくるアルフ、どうやらこの子から待合であった事を聞いたようだ。


「目立つつもりはなかったんじゃねぇのか? のっけから派手にやらかしたらしいじゃねぇか、まぁ大部分は何が起こったか分からなかったみたいだけどな」

 むしろなんで俺も混ぜてくれなかったとばかりに肩を組んでくる。馬鹿言うな、お前まで加わったらもはやブラックリスト一直線だ。


「あぁ、ええとよろしく、スゥイさん、スオウ=フォールスだ、こいつから変なこと聞いてるかもしれないけど一般人だからね俺」

 はぁ……、とため息を付ながらスゥイと名乗った少女を見る、微笑ましそうに此方を見る顔は同年代とは思えないくらい落ち着いている。


「スゥイでかまいません。その代わりこちらもスオウ、とお呼びしてもよろしいですか?」


「あ、あぁ、それは別に構わないけども……」


「そうですか、ではスオウちょっと付き合ってください、先ほどの言語理論を教えてください、今直ぐに」

 言い終わる前に腕を捕まれ引っ張られる、とても6,7歳の力とは思えない、と思ったら強化魔術つかってやがるこいつ。


「え、いや、ちょっと、あれ、まって!」

 アルフに助けを求めようと振り返るとそこには誰も居ない、あわてて前を見ると、さーて俺も聞きたいことがあるんだよなーと薄情にも既に裏切り済みのアルフがそこに居た。


「時間はたっぷりありますから、なんでしたら一晩泊まれる程度の路銀もありますのでご心配なく」

 振り返りながら笑顔で言ってくる。ああ、こいつ鬼だ、絶対鬼だ、かかわっちゃいけない人に入学前にかかわってしまった……。


 未来副官、神弓の担い手、そして後に覚醒する医術・託宣の神 アポロの加護者、スゥイ=エルメロイとの出会いであった。

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