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Moon phase  作者: 檸檬
混乱と平穏と
118/123

New moon vol.33 【連盟の大商】

 カナディル連合国家 フォールス家執務室


「ここまで、コケにされるとはな……」

 執務室の一つ、もはやカナディルでは知らぬものは居ない男、ダールトン=フォールス。茶髪の髪は疲れためか垂れ下がり、いつもかけている眼鏡は外している。


 先日行われた会議に含め、各所から送られてきた状況報告書。それに目を通して何度目か分からないため息を吐いた。


 先月の商会会議では軍部の増長含め、再度国内の引き締めと政策転換を謳ったが、受け入れてもらえなかった。むしろ弱腰だと、スイルを見捨てる外道だと罵られる始末だ。彼らは結局の所フォールス家に嫉妬しているのだ。ここ数年で一気に勢力を伸ばした我が家をなんとしても引き摺り下ろし、力を削ごうと考えている。


 おそらくこのままではスイルに手を入れることすら非難されるだろう。そうして始まるのは帝国が連合国家に変わるだけの搾取だ。下手をすればより酷い状況になるかもしれない。面倒なのは国民感情もそれに靡き始めている事だ。属国であるスイルの開放と、慈愛の手を、と。スイルがいつそんな事を求めたというのか、ただ、そこに金があるから動いているだけだという事を理解していない。


 慈愛なんて言葉は国を動かすに当たって一番相応しくない言葉なのだ。


 新しく着任したルナリア女王では力量不足、軍部を抑えきれずもはや操り人形だ。彼女は彼女なりに懸命に動こうとしているようでは有るのだが、随分と息子頼りになってしまっている。良くない兆候だ。


「さらにこれ、か」

 国から正式に通知された書類、スオウ=フォールスの責任追及だ。突っぱねる事は出来るが面倒事も増える。変わりに武器資源を売れ、との通達、つまり魔昌蒸気船等を含めた兵器売買を言われるのは目に見えている。極力抑えて抑えて押さえつけていたが限界が近い。


「スオウ、早くスイルを立たせなければまずいぞ」

 状況が予想以上に早く動いていることに焦りを感じる。ここまで早いとなると帝国の雑草を引き抜いているのはまずかった。とはいえ、帝国の膿を出しておかなければ後々禍根を残すことになる。曲がりなりにも五国最強と謳っているだけの力は持っているのだ。


 コンフェデルスも戦争には消極的とは良いにくい、あの国は儲けが出るならそれを優先するだろう。当然当人達(六家)の趣味ではないので避けれるに越したことは無いと思うだろうが、利益が出るなら絶対にそうする。私が逆の立場ならそうするからだ。となるとフォールス家が武器類を抑えられるのもそろそろ限界が近い、痺れを切らしてコンフェデルスから購入の上、スオウ=フォールスの事を理由に軍事行為を取られたら困る。


 空飛ぶ船の件で牽制は効いているが、国民感情が此処まで傾いてしまっている状況だとどうなるか分からない。一応カナディルでも帝国、憎き敵に痛手を与えている味方という認識だからいいのだが。


「それが余計煽ることになっているのだが、当然そこも予想済みだった。だが、此処まで早いとは思わなかった。ロロゾ=ブロッサム、少々侮りすぎたか」

 典型的な軍人、剣しかしらぬ軍人と侮っていた。スオウもその点十分に警戒し、注意し、周辺を探らせ、諜報部隊を支配下に置いたのだが。前国王が退陣するのが早すぎたのだ、内務省や、法務等々、気が付いたら一気にロロゾに掌握されてしまっていた。これはスオウがスイルに交渉に行っており、こちらに気を回す余裕が無かったせいでもある。


「だからこその私達だったのだが、これでは息子に顔向けできん」

 くっ、と拳を握り締める。だがしかし彼も十分に仕事はしていた、その名と権力と金を使って十分に押さえつけていた。しかし此処まで肥大したその力が弊害を生んだ。飛び出すぎた杭は打たれる、吸収合併していった会社以外の会社が団結し、対抗するようになったのだ。力が一つに集中するのはよく無いと言う名目の元に。フォールス家にしてみたらふざけるなと言いたい話だ。スオウもその辺は懸念しており、会社内部、いやいまや複合企業とでも言えようか。その中で切磋琢磨し、対抗できる形にしていたのだ。


 だが、この世界の人間はそんな知識も無ければ発想も無い、ただ、盲目となった目で足を引っ張り潰しにかかってきたのだ。進みすぎたシステムの弊害である。


 悩む、カナディルが勝つとなるとコンフェデルスから横槍が入る。そしてスイルに禍根が残る。


 帝国が勝った場合カナディルの損害は計り知れない、この場合カナディルが悪いので問題無いとも言えるが、それではスオウ達の目的が達すことが困難だ。


 スイルの一人勝ちもまたまずい、カナディルとの関係に禍根を残したままになる。


「此処まで愚かだとは。なぜそこまで戦争をしたがる、自国を発展させていけば自ずと幸せになれると言うのに」

 この国は王制が残っているが、半民主主義国家の様な形だ、愚かな貴族が居なく、能力のある物は上に行け、そして最低限の生活が保障される。このまま発展していけば情報の流布で勝手に国内から崩れて行くのだ。愚かな貴族に支配されているこの仕組みが悪いのではないか、と、そして内乱、革命、なぜそれが分からないのだ。その時に少しだけ手を出してやれば良いだけの物を、己の欲の為に奪い取ろうとするのか、まさに帝国の愚かな貴族と同じ所業ではないか。


 それはそれで大分人死にが起こることは違いないのだが、自国の被害を最小限に、そういう意味では間違っては居ないだろう。その種まきとして技術流出と引き上げと、と行っていたのだが。予想以上に暴走が早くなりそうだ。


「ルナ、いるか?」


「はい、ここに」


「すまないがスオウに手紙を、猶予はあまり無い、このまま戦端を開くのはまずい。スイルの独立を促せと伝えてくれ。期間は1ヶ月、それ以上は抑えられん」


「分かりました、早急に」

 深く頭を下げたルナ、ダールトンから渡された手紙を受け取り、扉から出て行く。

 そしてダールトンは矢継ぎ早に催促されている手紙を見つめ、どんな良いわけをするか頭を悩ませた。


「テロリストに武器工場が破壊されたとでも言おうか……」

 ため息を付く、そんな事をしてカナディルがボロ負けしても困るのだ、本当にさじ加減が面倒この上ない。


「コンフェデルスの兵器が出てこられると面倒だ。あの国は実験場を探している、他のどの国も代理戦争による利益にばかり目が行っているが、コンフェデルスが求めているのは実験場だ。確かに利益も重要視しているだろうが。彼らは求めている、圧倒的アドバンテージをさらに得る為に、都合良く新たな兵器を使える場所を。スオウ、さすがに今度ばかりは渡した餌、まずかったかもしれんぞ」

 今頃スイルで奮闘している息子の渡した技術を懸念する、たしかに圧倒的優位に立つ為にはあの船は必要だった、その為の対価としては仕方が無かったかもしれない。あれがなければ結局は加護持ちによる制圧と言う結果しか残らないのだから、それでは意味が無いのだ。だがしかし、今回ばかりは少々渡した餌は大きすぎたかもしれない。


「力を持つ者はその力に溺れる傾向がある。ローズ家、レイズ家、ベルフェモッド家、たしかに自制の効く素晴らしい人達なのは間違いない。だがしかし、国を動かすという意味では、有効なカードであれば躊躇い無く切る者達だ」

 悩みが増えて行く事に頭が痛い、確かに力を持ちすぎた我々を守るためには一つの方法としては良かった。そしてリリス君とアルフ君を守る意味でも、妻は初めてできた娘であるスゥイ君を守るためならもっとやれと言っていたが、さすがにやりすぎだ。血気盛んなのが良いところでは有るのだが、いささか突出しすぎている。


「まさかとは思うが、帝国に勝ってスイルを隷属化させた場合、コンフェデルスが攻めてくるなんて事は、ないだろうな?」

 ありえる予想を思いつき、さらに頭を悩ませる。


 まずい、これは非常にまずい。カナディルは今や導火線に火が付いた状況だ、スオウ、なんとしてもスイルの独立を、そうすればコンフェデルスと帝国のアーノルド伯爵の力で何とか持ってける。コンフェデルスが支持すればカナディルも下手なことは出来ん、きっと、たぶん……。


 いや、やっぱりカナディルの軍部から潰した方が、いやいや、そんな事をしたら帝国がどう出るか分からん。散々挑発していたカナディルに対して南部貴族がこれ幸いと潰しにこられても困る。軍部の連中はスイルの独立で大人しく引き下がるような奴等か? コンフェデルスに牙剥く様なことはしないよな?

 

「私は商人じゃなかったのかっ!」

 うおお、と頭を抱えて机に蹲るダールトン。その苦労は計り知れない、だがしかし。


「だが、だがしかし! 息子がっ、息子がここまでやっているのに黙っているわけにはいかん。そしてなにより娘の為に! 負けんぞ、私は負けんぞ!」

 ふふ、ふはははは。と、とてもではないがシリアスな現状の反応とは思えない笑い声を上げるダールトン。彼もまた始めて出来た娘の為に、国相手に喧嘩を売るのもやぶさかではないと考えている男であった。

 

 このテンションはスオウを学院に強制入学させた時以来かもしれないが、結局人というのは何年たっても大本は変わらないのかもしれない。


 親子そろって似たもの同士である。

 


「はぁっくしゅんっ!」


「どうしましたかスオウ?」


「いや、誰かが噂を……。というかこれ前も同じようなことが会ったような」


「先日行った学院ではないですか?」


「あー、だが見つからないように細心の注意を払ったつもりだったが。会ったのもティファナス先生と、学院長だけだったしな」

 首を捻って空を見る、移動式空中要塞(オーディン)から見上げる夜空は美しく、しかし何処か憂いでいた。これから始まる傲慢な者たちによる、殺戮と、虐殺、血の饗宴を夢に見て。


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