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Moon phase  作者: 檸檬
混乱と平穏と
111/123

New moon vol.26 【嘲笑の帝王】

「副長、お疲れ様です」

 ガチャリ、と音を鳴らし開く扉、そこから室内に入ってきた一人の女性に向かって頭を下げる。


「なんだ、まだ残っていたのか」

 後ろ手に扉を閉めながらしかめっ面でこちらを見てくる。顔から見るにおそらく無事任務は完了したようだ。ほっと一息ため息を付いた後声をかける。


「帝王の勅命ですし、事情が事情ですから」


「過保護だなお主も。心配要らないさ、むしろ今回の件は帝王の温情に近い物もある。失敗が許され無いと言う理由も含まれるだろうがな」

 ふ、と笑ったその横顔はどこか憑き物が落ちたかのようにも見える。いつもと変わらぬ彼女の強さに本当に頭が下がる。だが人はけして完璧ではない、そして完全ではない。そう思える人でもけしてそんな事は無い。


 椅子を引き、彼女に座るように促す。自分の背が高いのもあるが、顎ほどにしかない身長、丸みを帯びた体。その顔も仕草は、ちょっと粗暴だが、知らぬ人が見れば立派な淑女である。息抜きと気分転換にどうですか、と机の上に置いてあったチェスボードを指差して彼女に微笑みかけた。


「ついに王位を譲渡しましたね」

 トン、と置かれる小型の盤の上に置かれる多種多様な形をした駒。各々が役割を果す盤上の戦場、その上の駒が一つ動く。


「これで少しでもカナディルが落ち着いてくれれば良いのだが」

 対面するは銀髪の美女、凛とした空気を纏いその白く細い指で駒を動かす。


「それは、無いでしょう。連合国は民衆の支持は別として、かの王はまだ軍部を押さえていられました。新しく付いたあの女王では手に余るでしょう。フォールス家のお陰でいまだ問題が浮き彫りにされていないだけの話です」


「戦争になるか? しかし帝国とてあの忌々しい独立魔術強化部隊ナイトウォーカーも居るのだし、そうそう攻めてくることは無いだろう」


「だと良いのですがね、コンフェデルスは戦って欲しいのかもしれません。両国の戦力削減が図れますから、あの国はリメルカに近いですし動くことは難しいと思いますが。問題は彼らの理由です、スイル国を奪還し、自立させると言う目的ならば民衆の指示を得ることが出来る。ですがあの土地を占領は出来ないはずです、それは帝国と同様の行為、コンフェデルスから横槍が入るでしょう。もしかしたらカナディルとコンフェデルス両国で分割する可能性もありますが……」


「やってることは変わらんな。で、どう出る?」


「援助を理由に手を入れていくのが無難でしょうが、アーノルド辺境伯の動きも気になるところです」


「彼がどうかしたのか?」


「裏切ることは無いと思いますが、帝国からの援助、支援も行えると言う事ですよあの土地の位置は」


「見返りはスイルの恩恵か?」


「どうでしょうか、彼はフォールス家の援助。まぁ証拠は有りませんでしたが、そのお陰で帝国内部でもかなりの経済水準を持っています。いまさらその程度で動くのは考えにくい、とは思います。しかし、流通ルートを一端に引き受ければその恩恵は大きいでしょうね。北部はまだ支援を必要としていますし、ですがそれをすれば北部と南部の亀裂は高まります。あるいは北部と南部の橋渡し存在になるつもりでしょうか? 何を考えているのやら……」


「ふぅむ」


「それに、彼らも黙っているとは思えませんしね」


「ふん、あの犯罪者連中か。カナディルに付くと思うか?」


「難しいでしょうね。カナディルが受け入れれないでしょう対面的に、コンフェデルスに喧嘩を売るようなものです」


「だがあの船はコンフェデルスの物だろう?」


「誰もそれを明言していない以上無理ですよ。なによりコンフェデルスが明言していないのですから」


「しかし傍観しているとは思えない、か」


「……帝国に付くのもありえますね」


「なに?」


「可能性としては低いですが、彼らは帝国の民衆にとっては一部で英雄です。ただ、彼らは犯罪者、犯罪者を許せばそれに付随して治安が落ちる。犯罪を起こしても問題が無いと取られるわけですから、ですから組むとしても裏でですが」


「なるほど、ありえるか」


「ですが私はこれは無いと思います。なぜなら彼らにメリットが無いからです。いえ、あるのですが、それならここまで事を大きくする前に手を組めばよかった。まぁ、以前も話した通り自分の価値を上げる為にやった可能性もありますが、我々と手を組むなら他にやり様がありますので。貴族勢を敵に回す方法は取らないでしょう、なにせあの男ですから。帝国は丁度良かったのでしょう、敵として、名を上げる為の道具として。


 そこから考えるに彼らは帝国の敵、もしくはそういった立場に居ることが望ましいと考えていると言う事です。しかし民衆の支持はあるに越したことは無い、と言った所でしょうか。そしてスイル国の傍にいる辺境伯を押さえた、ここまでならカナディルに組して有利な手を使えますが、それは無い。となると……」


「まさか……?」


「彼らは帝国ではなく、スイル国に付くつもりかもしれませんよ。帝国・・ではなくスイル国・・・に、最終的な絵をどう描いているのかは不明ですけどね」

 コン、と駒が倒れる。そこには一つの駒が敵陣のキングの真横に立っている。盤上最強の駒、クイーンが。



◇◇◇◇◇


「ちっ、予定よりずいぶんと早い。押さえられなかったのか?」

 腰まで伸びる金色の髪を揺らし、報告にきた部下に答える女性。リリス=アルナス=カナディル。報告内容は先日の一番上の姉が即位した件。予定より1年程早い、確かに予想していたことでは有るが、それにしても早い。これで国は傾くだろう、外面的にはそうでなくても内面的に、押さえつけられなくなった軍部を中心として。


 少しだけ嘆く、自分が育った国、自分の為に自分の地位を代償としてまで守ってくれた父、私は友の為にそれをすべて捨て去った。それに後悔は無い、そう、無い、あの時あの行動を取らなければ私は一生後悔していた。国の皇女としては失格だろう、最低の部類にあるのだろう、だが、だがそれでも私は私の思うままに動いたのだ。


「私はスオウに報告に戻る、引き続き潜入を頼んだ」

 受け取った書類を懐に、数名の部下を連れてその場を後にする。


 海に浮かぶ一隻の船、カナディルに点在するいくつもの島の一つにある空飛ぶ船、移動式空中要塞(オーディンの発着場に向けて船を進めた。



 この時期、一つの事件が帝国でも起こっていた。帝王の相談役、元老院が暗殺されたと言う情報が流れたのだ。犯人は不明、ただ、一刀の元に殺されていたとの事。一部の貴族は【Crimeクライム】の仕業だと声高々に叫んだが、その証拠はなく、また帝国のトップもそれを正式な回答とはしなかった。当然違うとも言わなかったのだが。


 どちらにせよこれで帝国のトップは実質的に帝王たる彼、グリフィス=ロンド=アールフォードに集約される。理由は明確な相手に手を下したからだ、分かる物は分かる、知る物は知る。帝王が明言しなかったとしても禁忌と言われる名誉職、元老院を殺害したのだ。その懐に有余っていた金を公表し、貴族体制の改革に乗り出した。


 リリスの対と成る存在、時代を紡ぐ者が生まれる時産まれるもの、そして彼が産まれたからこそリリスが産まれたのか、卵が先か、鶏が先か、すでに記憶の彼方となってしまった過去の繰り返し。


 運命の神アトロポスの加護持ち 時代を絶つ者である。


 彼はずっと牙を研いでいた、目の上の瘤であった元老院は綺麗に処分できた。ラウナ=ルージュにそれ相応の理由を儲けて。カナディルは勝手に自滅しかかっている、後問題とするべきはコンフェデルス、だがそれも後回しで良い。


 彼は五国統一を目標としていた。だがそれは私利私欲のためではない、それなりの理由があった。この世界は敵対する世界があるからこそ争う、ならば一つに纏めてしまえば良い、そういった考えが原点にあった。これで彼が無能であれば良かったのかもしれない、だが彼は有能で優秀で、そして努力を忘れない人間だった。加護持ちであるにも拘らず、それに驕らず、それに頼らず、戦う術を身に付けていったのだ。


 国内の貴族は既にあの自称正義の味方のお陰で大分処分できた。自分の手を汚さず、そして入り込みにくい連中を潰してくれた。元老院を生贄と捧げる事で民衆の支持も回復している。


 魔術研究所ではこちらの指示で用意しておいたルージュの過去資料を確認させることが出来た。そもそもあんな反逆されてもおかしくない資料を残しておくわけが無いのに、見事に確認してくれた。


 そしてカナディルから攻めてきてくれれば、今現状戦争に否定的な民衆も協力的になる。カナディルでは王位を譲った今、軍部の増長は激しい、なんらかの刺激を加えてやれば直ぐだろう。問題は彼らクライムだが、彼らで出来ることなどたかが知れている。アーノルド辺境伯に手を出している事からスイルで何らかの方法を取るつもりなのだろう。ならば動かなければ良い、勝手にカナディルが暴走すればこちらに大義名分が付く。彼らが何をしたところでこちらには問題は起きない。


 まぁ、他にも色々と可能性は孕んでいるのだが、彼らは敵にするべきではない、味方として利用するべきなのだよ。ラウナ=ルージュもしかり、スオウ=フォールスも、スゥイ=フォールスも、ライラ=ノートランドも、リリス=アルナス=カナディルも、アルフロッド=ロイルも、だ。


 あらゆる物事はそれに流れが付随する、流れに逆らってはいけない、流れに対抗してはいけない。流れは緩やかに動かすもの、緩やかに示すもの、そうすればおのずと己の望む形に流れていく。


 敵は作ってはならない、敵を作るならばその敵を殺してからにするべきである。もしくは、敵になれない状況にしてから敵として扱うべきである。そう呟いた男は一人部屋の中で笑う、研いだ牙を使うタイミングを今か今かと待ちながら。 




 深遠暦664年冬 カナディル連合国家王位継承より数ヵ月後。

 そして彼らは世界に宣言する。

 

 傭兵団の名を、契約に基づき契約を履行し代金を求めそれに基づき動く集団。傭兵団【Crimeクライム】の名を。

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