どんぶらこっこ
面食らった村人さんたちはそれでもヒトがよろしかった。
すぐに船を出してくれた。
といっても、吹けば飛びそうな小船。
それで、まっっったく見えない本土に行こうというのだから、恐ろしい。
普通は1ヶ月に一回の定期船を待つらしいのだが、あと8日は先らしい。
8日…ものすごく微妙な日数だと思わないか。
仕方なく、船を出してもらうことにしたわけだが。
「…なんで、あなたなんですか…?」
「んー?」
もじゃもじゃ星人再び。
「おらが一番船がうまいからだべ」
船がうまいって何語だ。
まさか船まで食うのか!?このひと。
「本土じゃあ、ちょっと遠すぎんべ。おらなら、泳いでも渡れるでの」
泳いで…泳いで!?
どんな化け物ですか、あんた。
「ロボさん、頼んだよー」
「嬢ちゃん、気をつけていっといで」
いや、あの、この人肉食だよね…?
船の上で、食べられたり…。
「船なら魚も釣れる。食いもんには困らん。嬢ちゃんは水だけはしっかりもっていきな」
…まさか、3食生魚とか言わないよね。
刺身食になれた日本人といえど、ほかほかご飯も醤油もなしに生魚頭からばりばり食べられないんですけど。
「1日あればつくべ」
よくわからないまま、おそるおそる船に乗り込む。
薄い板は俺の体重程度でもぎしぎしいった。
もじゃもじゃが乗るとさらにぎしぎしいってる。
おいおい、大丈夫か。
木製の頑丈そうなオールが船の底からやったら太い腕に拾われて、ちょこんと真ん中あたりに腰を下ろした俺を両足で挟むようにもじゃもじゃが座った。
鞄をしっかり握りしめて、言われるがままに板の上にしっかりと捕まって座る。
あれだ。どんな舟かというと公園のデートコースの代表作、恋人用ボートってのが正確だと思う。
大きくはないし、どこまでもシンプル。
で、これで外洋渡ろうとしてる俺ってなに。
だからといって、あと8日も待つなんて、無理。
「お、お願いします・・・」
「おう」
ぐいっとオールを動かした瞬間、えらい勢いで舟が進み始めた。
「ひぃっ」
なんだこれ。なんだこのスピード!
ありえないし!!
壊れる。舟壊れる!
ぎしぎしいってるし、水しぶきすごいし…!
「うわっぷ…!」
げほげほ、みず、水飲んだ…。
「べっぴんさんは水あびてもべっぴんさんだなあ」
あははとか笑うなー!このもじゃもじゃ星人!!
これに1日!?1日乗るとかありえないから!!
ほんっと無理!!
「お、べっぴんさん、そこに魚がいるからうけとってけれ」
「は!?」
思った瞬間に、魚が頭から落ちてきた。
ど、どっから落ちてきたんだよ!
「ほーれもう一匹!」
オールか。オールですくいあげてんのか。
なんかもう、色々突っ込みどころありすぎで突っ込めねえ!
どうなってんだ、このもじゃもじゃ星人!
「なかなかうまいぞー、べっぴんさん」
なんかもう、水はかぶるわ、魚は落ちてくるわ、舟は早いわ、酔いそうだわ、どうしろってんだ。
ああ、いっそキレてえ。
こんな衝動、中坊のとき以来だ。
くらくらするほど脳に血が集まってるのがわかる。
あ、やべ。気絶するかも。
これってどうなんだ。気絶したらやっぱり舟から落ちるのか。
そんなことを思いながら、真っ暗になっていく視界にしょうがねえ、と目を閉じる。
こんなんで気を失える俺の身体ってほんとどうなってんだろうな。