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チャルラタン島

 チャルラタンは小さな島だ。

 ひなびた田舎で何もない。

 けれどそこには、昔、父に仕えていたという引退した騎士が住んでいるはずだった。

 彼が安全なところまで連れて行ってくれる。

 父はそう言い残した。




 船の中はしごく快適だった。

 12歳の少年は基本、同年代の少女たちより身体が小さいし発達も遅い。

 だから俺は10歳という設定にしてもぐりこんだ。

 これでも相当な無理な年だが…やむを得ない。

 だが、迎えにも来てもらえなかったかわいそうな娘という触れ込みは思った以上に効力を発揮し、船にのって2日で俺はあちこちのおじちゃんおばちゃんにいちゃんねえちゃんばあちゃんじいちゃんのアイドルとなり、山のようなお菓子と食事を貢いでもらえるようになった。

 楽だ。

 もちろん、この美少女な外見が手伝っていたのは言うまでもない。

 船のコックなどは俺を手伝いと称して厨房に置きながら、いろんなものをつまみ食いさせてくれたし、船長も色々と声をかけてくれた。

 ありがたいありがたい。




 色んな話を聞きつつ、たどり着いた先の島は…本当に小さかった。

 大丈夫かこれ。波きたら飲み込まれんじゃないのか。

「さ、島の南側に港がある。そこで君をおろすよ」

「ありがとう、船長さん」

 かわいく笑うとでれっと顔が崩れる。

 気持ち悪い。

 いや、これが本当に10歳の少女だったらさして問題はないんだ。

 中身が40の親父だからなぁ・・・

 身体も男だし。



「気をつけて。気を落とさずにがんばってな」

「はい、船長さん。ありがとうございました。みなさんにありがとうって伝えてください」

「おう」

 涙をにじませながら手をふりつつ去っていった船長さんはやっぱり見込んだとおりいい人だった。

 おかげでわずかとはいえ財産も奪われず、そのまま。

 正体がバレて殺されることも免れた。

 ふっと脳裏に地面に転がった父の顔がよみがえり、振り払うように首を振る。

 うなされたのは、一度や二度じゃない。

 傷ついたのは、死に顔だけじゃない。

 転がった首に悲鳴をあげて遠ざかりながら、興味深々に覗き込んでいた人々も、だ。

 そして…それをなれた手つきで扱う首切り役人と…まるで、おもちゃのように串刺して笑った兵士の、顔。

 人間はあんなにも残酷になれる。

 その相手が自分の両親だっただけに、この傷は当分なくなりそうもなかった。

 こんなとき、大人でよかったと思う。

 本当に子どもだったらトラウマ決定だ。

 あの場で泣き叫んで一緒に仲良く殺されていただろう。

 少なくとも…自分は、時間が解決してくれることを知っている。



 吹き付けてきた風にぶるりと震えてから、ずいぶんぼんやりとここにたっていたのだと気づく。

 沖にあった乗ってきた船の姿はすっかり消えていた。

「…いくか」

 もう慣れたふわふわのペチコートを揺らしながら、よいせっと立ち上がった。

 父の知り合いだという騎士に無事に会えることを願いながら、港がずいぶんと豪華な作りであることに気づいた。

 大型の船が3隻は泊まれる。

 さっきもボートできたのは一人しか降りない港に停泊するのが面倒だっただけで本当は近くによることもできたのだろう。

 ボートの発着場もあるし、小さな島のわりに裕福なのかと思うぐらい豪華だった。

「なんか無駄にきれいな飾り彫りもあるし」

 だが、港はどこか閑散としていて、色々なものが古びて見える。

 放置された木箱も明らかに腐っているし、綱もぼろぼろだ。

 なんだかちぐはぐで首を傾げたくなる。

 この港は決して古くない。あちこちの金メッキもやや黒ずんではいるものの、ぴかぴかしてる。

 なのに転がっているものはぼろぼろ…人はいない。

「なんか…嫌な予感がするなあ…」

 決して平穏な日々は待っていなさそうだ。

 とりあえずは尋ね人を探そう、と足を進めるしかなかった。




「道、ないし…」

 ふつう、港から町までは道があるだろう。

 なきゃおかしいだろう。

 そう思うぐらい唐突に、道がなくなった。

 しばらくは続いていた石畳がなくなると同時に、きれいに道がなくなったのだ。

 父よ。いざというとき頼る相手の所在ぐらいちゃんと確認しておいてくれよ。

「やばい…まさか無人島とか…」

 このまま野宿か。そうなのか。

 前は草木の生い茂った森。

 後ろはだだっ広い海風も吹きすさぶ港。

 どうしようもない。

 ここまできて八方塞とは。

「おんやぁ?」

「えっ」

 人がいた!とばかりに振り返った俺の目に映ったのは…。

 目が、点になった。





「べっぴんさんが一人でこんなとこにどうした?」

「っきゃああああああああああ!!!!!!!!」

 手に血まみれの蛮刀を握り締めた上半身裸のもじゃもじゃ男だった。


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