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たどりついた港町

 いやはや、えらい目にあった。うん。

 あの後、目を覚ましたときには岸だった。

 夜もとっぷり暮れていて、どうやらぐっすり眠ったらしい。

 目の前にはもじゃもじゃ星人がでかいいびきでひっくりがえってる。

 舟の中で眠ったせいで身体ががちがちだった。

 ぐーっと身体を伸ばして吸い込んだ空気は・・・なんだかよどんでいる。

 そりゃそうかもしれない。すぐそばに見える街の空はやや曇っているし、水路は汚いし・・・。

 そこはかとなく漂う悪臭に顔をしかめて、とりあえず潮でべたべたしている髪や服をささっと整えた。

「あの、ええと・・・」

 なんて名前だけっか。このもじゃもじゃ星人。

「ロボ、さん?」

 じゃなかったっけか。たしか。

「んあ?おー、目が覚めただな」

「はい。ありがとうございました。私、行ってこようと思います」

「行ってらっしゃい。ここで待ってるからな」

「はい」

 帰りもこの舟かと思うとげんなりしたが、ここまで運んできてもらっておいて文句はいえない。

 ぺこりと頭を下げて鞄を握りしめて歩き出した。

 目指すところなんて決まっている。領主の館だ。

 間違いなくこの街で一番でかくて目立つ建物を探せばいいのだから楽勝。

 街の入り口でパンを買って間に具材を挟んでもらって簡単な朝ご飯を終える。

 うわ、この焼き魚と葉っぱにソースかけたやつ、うま。

 ちょっとぶりみたいな油ののった魚をちっちゃくていい香りの葉っぱをいっぱいしきつめた上にのせて酢みたいのをかけてある。酢っていっても酸味はあるけど酸っぱくない。パンも塩味がきいててうまー!

 なんか、俺この世界にきて初めてうまい食べ物と出会ったかもってぐらいうまいぞ。

 この世界、パンもちょっと堅めでしっとりしてんだよな。そこにソースと魚の肉汁がしみこんでいてこれまたうまい。

 まぐまぐと最後まで食べきったら気合いも入ろうってもんだ。

「あのね、おじさん」

「なんだい、お嬢ちゃん」

「この街の領主様のお城を教えてくれる?」

「領主様?ああ、そこの高台にある赤レンガでできたでっかい建物だよ」

「ありがとう」

 ぺこんと頭をさげて、うう我ながら気持ち悪、と心の中でつぶやきながら小走りに階段を駆け上がった。

 きょろきょろと見渡す街は色あせた壁に彩られて少しくすんで見える。その中に時折、まだ塗られたばかりの鮮やかな色がまじって、まるでポスターや絵はがきを見ているような気分だった。


――――――大きな通りが多いのは新しい街だ。戦争に備えなくていい頃に発展した街だよ。逆に細い路地が多い街は戦争のために作られた都市だ。細い路地は兵士がたくさん通れない。両脇に高い建物があればその上から熱湯や石で攻撃できる。


 そう教えてくれたのは父だった。

 こっちの、フロルの父。

 溺愛する妻にそっくりの息子を本当に可愛がってくれた。

 けれど、それは母親のようにべたべたに甘やかすのではなく、社会の中で生きていけるように育てようという意志を感じた。

 仮にも王族である以上、立場を考えて行動できるようにという願いがそこにはあった。



 そんなことを思い出しながら高い建物を見上げる。

 すくなくとも、本拠地を守らなければならない街ではあったらしい。

 だが、それもここ最近は平和で流通のための大きな通りを造り始めた。そんな印象を受ける。

 さらに街のそこここに休憩できるような広場や屋台があるのだ。

 領民の心もがっちりつかんでいるとは・・・やりての領主だなあ。



 さて。ここからが勝負だ。

 身なりを確かめる。うん。汚い。けどまあ仕方ない。

 手持ちの札・・・大丈夫。鞄のすぐそこに父の手紙が入っているし、印章は右手にはめた。

 戦闘準備は完了。

 思わずネクタイを締める手が伸びたけれど、そこにはリボンがあるだ・・・け・・・・・・うれしくない。

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