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奇跡が起きるとき

作者: 汐野 夢咲
掲載日:2026/03/07

「いてっ⋯」

「おい!大丈夫か?」

高校サッカー日本一が懸かった試合。1年生ながら

エースと呼ばれていた俺は、その瞬間身体が動かな

くなった。俺が通う流星高校は、毎年、高校サッカ

ーの決勝には進むものの、1度も優勝経験はない。

俺は小学校5年生のときから、親友の柊哉と一緒に

サッカーを始め、この高校に2人とも推薦入学し

た。

今日のために練習してきたのに⋯

相手の月宮高校は、流星高校にとって因縁の相手。

絶対勝たなければならないのだ。


後半25分、ボールを持った俺はタックルをしてきた

相手選手に倒され、動けなくなり退場した。

「岩崎!有馬は?」

監督がベンチに戻った俺に聞いた。

「大きな病院で診てもらった方がいいとのことで、

今、ご家族と連絡を取ってもらってます」

「そうか」


有馬 凌。彼と出会ったのは幼稚園のとき。凌はそ

のときからサッカー選手を目指していた。俺もたま

に練習に協力した。凌にはお姉さんがいて、そのお

姉さんの関係でスポ少に入るのが遅かったけど、入

った初日からズバ抜けて上手くて、凌にはサッカー

の才能があるんだと思った。

天才、有馬 凌がいない試合は勝てるはずがなかった

「有馬がいなくなったぞ〜!総攻撃だ〜!」

残り時間で逆転され、今年も日本一を逃した。


俺は今日が人生で1番悔しかった。

凌がいたら⋯

俺がタックルを受けてなかったら⋯

日本一になれたのに⋯

2人はそれぞれの場所で悔しさを滲ませていた。


試合後、俺は凌が膝のじん帯損傷したことを聞かさ

れ、真っ先に病院に行った。

「凌!」

「柊哉⋯ごめん」

「凌が謝ることじゃねーよ」

「俺のせいで負けたんだろ⋯」

「それは違う」

「そっか。ありがとな」


「ケガは?」

「膝のじん帯損傷。復帰するには、手術してじん帯

の再建が必要だって。だから俺、サッカー辞めよう

と思う」


凌から出た言葉に動揺が隠せない。

「は?そんな簡単に辞めていいのかよ!一緒に日本

一になるって約束したよな?凌は流星高サッカー部

のエースで、やっと月宮に勝てるって言われてたん

だぞ?これじゃいつまで経っても月宮に勝てなく

て、日本一なんて夢のまた夢だぞ?高校は3年しか

ないんだ。わかってるよな?時間は有限なんだ

ぞ?」

言ってしまってから言いすぎたと後悔する。


「俺だって辞めたくねーよ!俺はな小5まで自分の

やりたいことができなかったんだ。ずっと姉ちゃん

のことばっかでやっとできるようになって、父さん

も母さんも嬉しそうにしてた。けど迷惑だけはかけ

たくねんだよ!姉ちゃ んに両親の給料持っていかれ

るからさ」


そう言われて思い出した。凌のお姉さんは身体に障

がいがあることを。

「俺帰るわ。言いすぎてごめん」

「俺の方こそごめん」

柊哉が病室から出ていった。


お姉ちゃんのかりんは産まれつき障がいがあって車

いす生活をしている。姉ちゃんと5つ歳が離れてい

て、姉ちゃんが家から離れた支援学校の高等部に進

学したのを機にやっとスポ少に入ることができた。

今、姉ちゃんは、小説家という夢を追って、親の反

対を押し切り、芸術大学に進学。学費とヘルパーさ

んへ支払うお金が高いため、俺は家族に迷惑をかけ

られない。なので手術は諦めている。本当はしたい

けど。


俺はふと、姉ちゃんに連絡しようと思い立った。

「もしもし?姉ちゃん?」

「おう。凌。調子どう?」

「なんか⋯うん。痛い」

「だよね」

「なあ姉ちゃん。俺、サッカー辞めるわ。手術しな

いから」

「は?そんな簡単に辞めんの?」

「手術代ないって母さん言ってたし」

俺は素直になれなかった。


「凌。姉ちゃんね、高1のとき、思ってた環境と違

って辞めたいってパパとママに何回も言った。その

度にダメって言われて死にたいって思って自殺未遂

もした。そこまでしたら辞めていいよって言っても

らえると思ったから。でもダメだった。逆にコテン

パンに怒られたよ。進路決めるときも大学は学費が

高いし、偏差値も高いし、生活するのも難しいから

無理って言われたけど、必死に勉強して受験だけさ

せてくれって言ったんだ。受験しないで後悔するよ

りいいと思ったから」


「姉ちゃん、せっかく家に帰ってきてるのにスマホ

しないでずっと勉強してたもんな。姉ちゃんにして

は珍しいって思ったもん」

「なに?その言い方」

「思ったことを言ったまでですがなにか?」

「それはさておき、姉ちゃん、小説家デビューする

ことになりました〜!」

「マジで!?おめでとう!」

「だからお金のことは気にしないで。後悔しない人

生を生きなさい。時間は有限なんだからね?」

「うん。ありがとう」


「ねえ、凌。奇跡が起きるとき特定のこと思い出す

とかある?」

「どういうこと?」

「例えばリレーで1位になったときのことを思い出

すとか」

今までそんなことは1度も起こったことはない。特

定のことを思い出すなんて。


「姉ちゃん、大学入ってからたまにあるんだ。デビ

ューが決まった電話がかかってくる直前にもふと思

い出したし。」

「へー。どんなこと?」

「大学に受かったってわかったときのこと」

本当にそんなことが起きるのだろうか。俺には信じ

られなかった。


電話を終えると、外出していた母さんが帰ってき

た。

「着替え持ってきたよ」

「ありがとう。母さん⋯俺、手術受けたい。金が

ないのはわかってる。でも⋯サッカー続けたいん

だ」

俺は勇気を出して伝えた。

「手術受けなさい」

母さんが優しい声で言った。俺はその声を聞いた瞬

間、込み上げてくる何かがあった。初めて俺のこと

を認めてくれた気がした。


母さんは俺に語りかけるように続ける。

「凌が手術しないって言ったとき、母さんたちのこ

と考えてくれたんだなって思ったよ。本当は手術し

たいのにお金がないからしませんって言ったんだな

って。でもね、お金のせいで凌の人生を壊したくは

ないの。姉ちゃんも言ってたかもしれないけど、人

生は1回だから後悔しないように生きて欲しい

の」


母さんは涙をこらえながら話していた。俺は母さん

に誓った。

「絶対日本一になって恩返しするよ」

「母さんも父さんも応援してる」

家族みんな凌の味方だからね」

「ありがとう」


入院してから3日後、手術が行われた。サッカーに

復帰するには、最低でも1年かかること。そして、

次、じん帯損傷したら選手生命はないと医者に告げ

られた。

それから俺は、毎日必死にリハビリした。治さない

といけない理由があるからだ。それは柊哉と約束し

た日本一になることを実現するためだ。

たまに姉ちゃんや柊哉がお見舞いに来てくれた。

リハビリをしていると、姉ちゃんの気持ちがすごく

わかった。


そして1年後、俺はサッカーに復帰する事が出来

た。

あとは日本一に向けて突っ走るのみだ。

俺はケガをする前より、入念にストレッチをするよ

うになった。夢だったキャプテンにもなれた。

今年も俺の高校は全国大会の決勝まで進むことがで

きた。

去年も決勝で月宮と勝負して負けた。今年の決勝の

相手も月宮だ。ここ数年、決勝で同じカードが続い

ている。そのためサッカーファンの間ではもう月宮に勝てる高校はないと噂になっていた。


でも、今年の流星高校サッカー部は違う。なぜな

ら、天才有馬凌が帰ってきたからだ。高校最後の大

会、そして全国大会で勝って絶対柊哉との約束を果

たすんだ。

そしてその日はやってきた。

試合前のロッカールームは、おととし以上にピリピ

リしていた。

俺は気持ちを落ち着かせるため、スマホに入れてい

る家族写真を見ていた。すると、監督から集合がか

かった。


「今日は決勝だ。今年こそ日本一になるために、

日々練習してきた。3年生はこれが最後の大会にな

る。悔いのない試合にしろ」

「はい!」

すると、柊哉が

「円陣組もうぜ!」

と言った。すぐにロッカールームにいた全員が円に

なった。今日のかけ声は、キャプテンである俺だ。


「みんな!今日は全国大会決勝です。俺は1年生の

とき、この場所、この決勝の試合で大ケガをしまし

た。その試合は、あと1歩のところで負けてしまい

ました。今年も同じ相手です。スタンドにいる出ら

れなった選手の分まで、悔いのない試合にしましょ

う!今年の流星高校サッカー部は最強です!絶対日

本一獲るぞ〜!」

「お〜!」


円陣後、俺は柊哉に話しかけられた。

「絶対、約束果たそうな」

「おう!」


そして俺たちは大観衆に迎えられピッチに入場し

た。横一列に整列し、相手チームにあいさつしたあ

と、それぞれのポジションについた。俺と柊哉は同

じフォワードなので連携はバッチリだ。靴紐を結び

なおし、深呼吸をして試合開始のホイッスルが鳴る

のを待った。


ピー!

とうとう試合が始まった。月宮は速攻性とキープ力

が高いのでどれだけボールを奪って、味方にパスで

きるかが勝利の鍵だ。前半は終始月宮のペースで進

んだ。アディショナルタイム3分で月宮に先制点を

許してしまった。前半はそのまま終了した。


ハーフタイムで俺はみんなにこう伝えた。

「点差は1点だ!後半で逆転できる!切り替えてい

こう!」

俺たちは自分たちを信じて後半のピッチに立った。

スタートから集中攻撃をしかけた。後半25分ゴー

ル前でパスをもらった柊哉がそのままゴールを決め

て同点に。その後は一進一退の攻防が続き、アディ

ショナルタイムへ突入。時間は3分だ。このまま点

が入らなければ延長戦になる。つまり次、点を入れ

たチームの優勝だろう。


だんだんボールがゴールに近づいてきた。パスを受

け取ったのは柊哉だった。柊哉は相手に囲まれてい

る。シュートもパスも出せる状況ではない。一方俺

はフリーで相手もついていない。すると柊哉が、

「凌!」

と言ってパスを出した。ボールは俺をめがけて一直

線に飛んできた。俺がボールを持った瞬間、目の前

に光が差した。


目を開けると病院の病室で星を見ている俺がいた。

あの日の俺は、自分を責めていた。自分のせいでチ

ームが負けた。自分がケガさえしなければと。

ふと見上げた星空に、3年生のときの全国大会で優

勝して日本一になれますように。と願った。

姉ちゃんが言ってたことは本当だったんだ。

俺はもう一度目を閉じ、足に力を込めた。すると、

フラッシュバックした記憶から現実に戻った。


必死にドリブルしてゴールキーパーと1対1になっ

た。遠くから、

「有馬!いけ〜!」

という声が聞こえた。俺が決める。強く蹴った。そ

のボールはきれいな放物線を描いてゴールに吸い込

まれた。俺は、

「よっしゃ〜!」

と叫びながらガッツポーズをした。近くにいたチー

ムメイトもかけよってきた。喜びをわかち合い元の

位置に戻った。試合再開後すぐ、

ピッピピー

と試合終了のホイッスルが鳴り響いた。俺たちは月

宮に勝ったのだ。


俺はその瞬間泣き崩れた。柊哉もかけよってきて、

「約束果たせたな。逆転ゴールは凌に決めて欲しか

ったんだ」

と言ってくれた。俺はすごく嬉しかった。

その後一旦ロッカールームに戻った俺たちはみんな

で喜びをわかち合った。昔、姉ちゃんが言っていた

ことは本当に起きるんだ。


いよいよ表彰式だ。2校の選手が1列に並んで大会会

長からメダルを贈呈された。そして流星高校には優

勝トロフィーが贈られた。表彰式後、俺は監督と一

緒にインタビューを受けた。


「お待たせいたしました。優勝校インタビューで

す。流星高校佐藤監督と、逆転ゴールを決めました

有馬 凌選手にきていただきました!優勝おめでと

うございます!」

「ありがとうございます!」

「まずは監督、待ちに待った優勝なのではないでし

ょうか」

「そうですね。この大会で優勝するために頑張って

きたのでやっとって感じですね。努力が報われたと

思います。選手たちや保護者の皆さんが一致団結し

てくださったおかげで優勝できたと思います。応援

ありがとうございました!」


「続いてキャプテン。素晴らしい逆転ゴールでし

た。あのときはどういう気持ちだったんですか?」

「ボールがきたときに、俺が決めてやるっていう気

持ちでボールを蹴りました。おととしも決勝にきた

んですけど試合中にケガをしてしまって1年間試合

に出られなかったんです⋯」

話していたら涙が溢れてきた。涙を拭っていると会

場から大きな拍手が沸き起こった。俺は話を続け

た。


「でも親友と一緒に日本一になるって約束したんで

す。だから今⋯とても嬉しいです!応援ありがと

うございました!」

奇跡が起きるとき、俺はあの夜に願ったことを思い

出すだろう。

               おわり


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