3.お忙しいところ恐れ入ります。
まさか異世界に召喚されるなんて夢にも思わなかった。
異世界召喚なんて物語の中にある世界の話だ。アニメや漫画、ラノベを読んでいたら、誰だって一度は夢想し、憧れるシチュエーション。
まだ信じ難いという思いもある裏腹で、自身のあらゆる感覚器官が「ここは紛れもなく現実世界だ」と訴えかけており、胸中には喜びと高揚感が湧き出していた。
しかしだ。
もう間違いはないと思うが、異世界召喚なり転生なりが起きた時は、その召喚を行ったどこかの国の王様や姫様か、神様か、ゲームのシステム音声みたいなのから、ここはどんな世界なのかとか、どうして呼び出されたのかとか、何をして欲しいのかとか、何らか説明が為される場合が多い。
もちろん、何の説明も無く、いきなりイベントが発生したり、斬り掛かかられたり、といったハードなパターンもあるが、可能ならそういったパターンは避けたいところ。
穏便に、平和的に交流を深める所存だ。
それに、説明が無いなら無いでこちらから求めればいい。
丁度近くに人?が2人もいるのだから声を掛ければそれで済む話だ。
「ーーーアダン。あなた、これで何回目かしら?」
「……さ、3回目、です」
「ええ。今日呼び出したのは3回目ね。でもこの1週間で呼び出した回数は16回よ」
「…も、申し訳ありません……」
絶賛、説教中である。
アダンが入室してから暫くこの調子だ。これでは声が掛けづらい。
どうやらアダンは同じようなミスを何度も繰り返してしまっているらしい。
そのことでヒルデから指摘を受けている訳だが、ミスを繰り返してしまったせいか、アダンはすっかり意気消沈してしまっている。
なんだか可哀想に思えてくるが、この感じだとまた同じようにミスをして呼び出される未来が見えてしまう。
「アダン、あなたに任せている仕事は地味で目立たない仕事かもしれないけれど、とても大切な仕事よ。だから、しっかりして貰わなくては困るわ。……私の言っていることはわかるかしら?」
「は、はい!もちろんです!」
ヒルデもそれが分かっているのだろう。
頭ごなしに責めるのではなく、仕事を任せている意味を説いてモチベーションの維持を図ろうとしている。
ただ、無意識なのか、ヒルデの口調は淡々としているので相手には冷たく聞こえてしまう。
実際、アダンの返事は声こそ出ていたが、身体は緊張でカチコチに固まり、今にも泣きそうな表情で、
「あ……」
そこで初めてアダンと目が合った。
ーーーやっと気づいてもらえた…!
アダンは周の存在にとても驚き、困惑している様子だ。
目を丸くして、目線をヒルデと周の間で行ったり来たりさせている。
このまま放っておかれるんじゃないかと少し不安だったが、とりあえず『現地人』、もとい『現地エルフ』に気づいてもらうことには成功した。ーーーナイスだ、アダン!
ただ、アダンの様子を見るに、彼は周の異世界召喚には関わりが無さそうだ。
目線は行き来しているが、どちらかと言うとヒルデの方を見ている回数が多い。
今までのやり取りからしてヒルデはアダンの上司のようだし、アダンが部屋に入った時には既に周とヒルデが部屋の中に居たので、誰とも知れない人間に対する説明が欲しいのだろう。
あるいは、書類に視線を落としたまま未だ懇々と説教を続けるヒルデを怪訝そうに見ているので、アダンの中でヒルデが周の存在に気づいていない疑惑が浮上しているのかもしれない。
ーーーま、疑惑じゃなくて正しく気づいてないんだけどね!
しかし、ここまで気づかれないとなると、もしかしたら、周がこの部屋に召喚されたのは偶然で、ヒルデも異世界召喚について何も知らないのかもしれない。
そうなると、ヒルデも同じように驚かせてしまうかもしれない。
ただでさえ忙殺されている彼女にこれ以上の心労を掛けるのは何だか申し訳なく感じる。
「ーーーでは、すぐに書類を作り直してもらえるかしら?」
と、手前勝手にヒルデの心身を案じている内に、アダンへの説教と指示を終えたようだ。
「……あ、あの…えと、」
「アダン、私は『すぐに』と言ったはずよ。聞こえなかったかしら?」
「し、失礼しましたっ!すぐに直してきます!」
怯えた彼は素早く礼だけ行うと、脱兎のような速さで扉を開いて部屋を後にした。
淡々としていて冷たく聞こえるヒルデの口調が、さらにもう1℃冷たくなったのが周にも分かった。
横で聞いていた周にも分かるくらいだから、正面から受けていたアダンには尚のことだ。
ーーーしかし、すごい勢いで出て行ったな……
周のことを伝えるべきか最後まで迷っていたアダンだったが、結局は伝えられないままヒルデに追い出されるような形で部屋を出て行ってしまった。
説明を求めるチャンスかとも思ったが、色々と間が悪かったと言わざるを得ない。
それに、チャンスと言えば、アダンが立ち去り、再びヒルデと二人きりになった今こそ絶好の機会と言えるのではなかろうか。
アダンが入る前も二人きりだったが、召喚の直後で頭が混乱していたのと、話し掛けたら殺すオーラが出ている彼女に気後れしていたせいで声を掛けられずにいたのだ。
しかし、いつまでもこうして立ち尽くしているわけにもいかない。そろそろ足が痺れて腰も痛くなってきたので行動を開始しよう。
遅まきながらようやく決心して声を掛けることにした周は、軽く深呼吸を1回してから、口をひら、
「ばば~~ん!!ヒルデちゃ~~んっ!あっそぼ~~っ!!」
口を開きかけた瞬間、新たな来訪者が甲高い元気な声と共に現れた。
ーーーあれは、ひょっとして……
勢いよく開かれた扉、そこから入ってきた来訪者の姿は特異なものだった。
空色の髪に、同じくキラキラと輝く空色の瞳。
彼女の背中からは薄く透明な羽が2対伸びているが、どういう原理なのか、羽が動いている様子が見られないにもかかわらず、彼女の身体は空中に浮かんでいた。
彼女の周りには燐光が瞬いていて、淡く儚いその輝きが幻想的な雰囲気を醸し出している。
そして、空中に浮かぶ彼女の身体はとても小さい。
手のひらの上に乗るくらいの小さな身体で、羽があり、幻想的な燐光を纏いつつも、対照的に底抜けに明るい快活な笑顔を浮かべる彼女は、ーーー『妖精』だ。
「……リル、私は今忙しいの。特に用事がないなら、他の人に遊んでもらいなさい」
妖精の名はリルと言うらしい。
部屋に入ってきて早々、ヒルデに遊んでほしいとねだり、すげなく一蹴されたリルは分かりやすく頬を膨らませて不満を示している。
「ぶ~~~。いっつもそうやって言って遊んでくれないじゃん」
今回たまたま間が悪かっただけかと思ったが、こうしてヒルデが断るのはいつもの事らしい。
リルもいつものことだとぶぅぶぅと一頻りぶう垂れた後で、「あ、そうそう」と笑顔に切り替わって、
「用事ならあるよ!ご飯が出来てるから呼んできてって言われてるの!」
リルがこの部屋に来た本当の理由は夕飯に呼ぶためだったようだ。
ーーーそういえば、もう夕飯時か。腕時計は……19時12分。スマホも……同じか。
周が召喚前に最後に時間を確認したのは怪しげな番号に発信した時だ。
そこからの時間経過的にも腕時計とスマホの時計機能は壊れていないようだ。
もっとも、腕時計やスマホが示している時間は日本時間だと思うので、こっちの世界の時間とはまた別だとは思うが、19時過ぎで夕飯時ならそれ程乖離は無さそうだ。
ちなみに、スマホは圏外になっているし、時間は腕時計で確認すればいいから、ライトくらいの用途しかなさそうだ。
しかも充電器や充電ケーブルなども持ってきていないので、それも電池切れになるまでの間だけだ。
ーーーもう19時過ぎてるし、なんか俺もお腹空いてきたな。
時間を確認した途端、空腹を感じるお腹をさすっていると、
「そう。でも、まだ手が離せそうにないから、もう少し後で食べるわ。自分で温め直して食べるから、悪いけど私の分を取っておいてもらうよう伝えてくれるかしら?」
「むぅ。出来たてのご飯をみんなで食べるのが一番おいしくて楽しいのに」
予想はしていたが、ヒルデは仕事を優先するつもりのようだ。
リルもそう言われるのがわかっていたのだろう。
不満そうにはしているものの、諦め半分で小さく愚痴をこぼすだけだ。
すると、ヒルデは作業する手は動かしたまま、「それに…」と苦笑を浮かべると、
「少しポーションを飲み過ぎたせいかお腹はいっぱいなのよね」
自分のことを想って言ってくれているリルに配慮しているつもりなのか、言い訳じみたことをヒルデは言う。
しかし、リルは『ポーション』という単語に分かりやすく嫌そうな顔で舌を出し、
「うぇ。それってあのガイコツが作った『栄養ポーション』のこと?ヒルデちゃんよく飲めるね、あんなまっずいの」
リルはギュッと目を瞑りながら「うぅ……思い出しただけでベロが痺れるぅぅ……」と苦悶している。ーーーよっぽと不味いんだろうな、『栄養ポーション』
「不味くても効果があればそれでいいのよ。でも、このごろ効きが悪くなってきてる気がするから、ラヒムに頼んで新しいのを作ってもらおうかしら」
しかし、リルの反応とは裏腹にヒルデは味よりも効能の方が大事だと、あまり気にしていない様子だ。
もっとも、不味いことは否定していないので、もしかしたら我慢しているだけなのかもしれないが。
そして、その不味い栄養ポーションを作っているのはリルが『ガイコツ』と呼んでいるラヒムという人物らしい。
机の上に黄色い液体が入っている瓶と空になっている瓶が数本ずつ置いてあるが、恐らくあれが件の栄養ポーションなのだろう。
思えば、部屋に立ち篭めるこの薬品のような匂いは栄養ポーションが原因のようだ。
色的には元の世界の栄養ドリンクと似ているが、飲みやすいように甘い香料が使われている栄養ドリンクとは違い、栄養ポーションからは美味しそうな、飲みたくなるような香りは一切していない。
どちらかと言うと、薬に近いものなのかもしれない。
とすれば、薬も過ぎたるは毒なので、効果を強めるのは良くなさそうだ。
「違うよ~!ポーションの効果が悪いんじゃなくて、ヒルデちゃんが飲み過ぎなのっ!『飲み過ぎたら、ダメ!ぜったい!』ってラヒムも言ってたし、ちゃんと休まなきゃダメだよ~!」
案の定、リルもヒルデの不摂生を咎めている。
仕事熱心なのはいいが、ポーションとやらで不調を誤魔化して、結果的に体を壊してしまっては元も子もない。
「分かってるわ、リル。一区切りついたら、一旦終わりにしてちゃんと休むわ」
リルの説得が効いたのかヒルデはやれやれと言わんばかりに嘆息してから、休憩を取ると約束した。
しかし、その反応にリルは未だ訝しげだ。
「ほんとかな~?前もそう言って夜中まで仕事続けてたよね〜」
「…………前は火急の案件が溜まってたから、結果的にそうなってしまっただけで、今回は前ほどではないから大丈夫。ええ、大丈夫よ」
常に淡々と応答していたヒルデだが痛い所を突かれたのか、今回ばかりは歯切れが悪い。この様子だとまだまだ仕事を終わらせるのに時間が掛かりそうだ。
そう思ってリルの表情を観察していると、今度はリルと目が合った。
「……!……??」
目が合った直後は驚き、それから周とヒルデを交互に見回す。
ここまでは先程のアダンと同じ反応。
しかし、
「にひっ」
何かに気づいた彼女は笑った。
そしてそのニヤついた笑みは何か悪巧みを思いついたときのそれだ。ーーーどことなく嫌な予感を感じる。
『し~~っ』
顔の前に人差し指を一本立てたリルは、声を出さないように口の形だけで、静かにするよう求めると、顔の前に立てた人差し指をそのまま周に向ける。
ーーーえ…?
すると、周の身体に得体の知れない浮遊感が広がり、足が地面から離れて、身体が中空に、
ーーーう、浮かんでる!?
驚きのあまり声を上げそうになるところを咄嗟に両手で口を塞いで我慢する。ーーーいや、別に塞がなくてもいいはずなのだが。
ーーーそれよりも、これは……いや、これが、魔法か…!
自分の身に起きている異常な現象に、しかし、周は書類が浮遊して飛んでいく先程の光景を思い出してすぐに納得した。
先程ヒルデが書類に対してやったのと同じように、今度はリルが魔法の力で周に同じことをやっているのだろう。
しかし、なぜリルは周に魔法を掛けたのか。
その答えはすぐに分かった。
「ね、ねえ。ところで、『召喚』はどんな感じなの?まだ来てないのかなー?」
「ええ。ーーーまだ来ていないわ」
ここに来て初めてヒルデが左側を振り向いて周が召喚された場所を目視した。
ようやく、ヒルデにも気づいてもらえる。
と思ったら、残念。
もうそこに周はいない。
宙をふよふよと浮かびながら、ヒルデの後方へぐるりと回り込み、今はヒルデの頭上1mくらいの中空でヒルデの頭頂部を眺めながら待機させられている。
どうやらリルは周をダシにしてヒルデを驚かせたいらしい。
ヒルデに左側を振り向かせたのも、誰もいないことを一度確認させた上で、後で天井を見上げさせて驚かせる、というような流れなのだろう。
「そ、そっかぁー。まだ来てないかー。左にも右にもいないもんねー」
少々棒読みなのが気になるが、ぎこちなく左右を見回してみたりして上に意識が向かないようにはしている。
しかし、そんなリルの拙い企みはヒルデの鋭い洞察によってすぐに危機を迎える。
「……ところで、リル。さっきから魔力の流れを感じるのだけど、いったい何をやっているのかしら?」
これはまずいことになった。
リルは視線誘導を必死に頑張っていたが、そもそも魔法の使用を疑われてしまっては元も子もない。
リルも「ギクッ」とうっかり口を滑らせ、「な、なんのことかなぁ~?ヒュー、ヒュー」と目を泳がせながら下手な口笛を吹く、古典的な自白をしてしまうくらい動揺していた。
これは万事休すかと、宙に浮いている周も浮かせたリルも覚悟するが、ここでヒルデは意外な推理を口にする。
「どうせまたここにあるお菓子でもくすねようと思ったんでしょ?」
ーーーお菓子?
何の事かと周の頭の中で疑問符が浮かんでいると、
「前にもこの引き出しの中に入ってるお菓子がいくつか減っていたわ。別に言ってくれれば普通にあげるけど、今回はダメよ。あなた、言ったわよね?もうご飯ができてるって」
どうもリルはヒルデのお菓子を盗んだ前科があるらしく、ヒルデはそれと勘違いしているようだ。それが分かった当のリルも微妙な表情を浮かべており、
「あ、あー……そ、それはそのですねー…記憶にござらん、こともない、といいましょうか…え、えーと、今回は、ちがうともちがわないとも、いえるといいましょうかー」
もはや何を言っているか分からないが、辛うじて分かるのは、リルはこの期に及んでまだドッキリの実行を諦めていないことだ。
しかし、ヒルデはリルの言い訳に溜め息を吐き、無慈悲な宣告を行う。
「くどいわよ、リル。ーーー『マジックキャンセル』」
「あ…」
ーーーへ?
ヒルデが右手を前に出して『マジックキャンセル』と唱えた途端、リルが呆気にとられた顔で息を漏らし、そして周の身体を支配していた浮遊感が消え去る。
つまりは、重力に引かれた自由落下が始まる。
「ーーーえ?……っ!」
異変に気づいたヒルデが見上げるが、少し遅かった。
ーーー!!
大きく物音を立てて周とヒルデの二人は折り重なるように倒れた。
「……づぅぅぅ、いってぇ……」
腰と背中、それから後頭部の鈍痛に周は呻き声を漏らした。
身体の後ろ側ばかりが痛いのは腰から落ちてそのまま仰向けに倒れてしまったからだ。
幸い、痛い事は痛いが骨折とか骨にヒビが入るとかそういった大きな怪我をしている感じはない。
大した高さじゃないから当然と思われるかもしれないが、鉄棒くらいの高さでも頭から落ちれば命に関わる危険性があるので、大したことにならなくてよかったと素直に安心することにした。
身体の前側は、腹部から股にかけては椅子の背もたれ、胸の辺りにヒルデの後頭部が当たっている。
椅子ごとヒルデの身体を引き倒してしまったために、このような状態になってしまったのだ。
ーーーおも…くはない。少しだけ圧迫感を感じるくらい。あと、良い匂いがする。
背もたれを間に挟んでいるとはいえ、これ程女性の身体が密着している状態は小学生の頃の運動会の綱引き以来だ。
そして、こんな風にヒルデと密着する状態を作ってしまった原因は、落下の際にもがいた手が偶然にもヒルデの身体のある部位を掴み、そのまま引き倒してしまったからだ。
では、周はヒルデの身体のどこを掴んでしまったのか。
そこは均整のとれた美しさを誇るヒルデの身体的特徴の中でも、とりわけ曲線的な美しさを持つ象徴的な場所だ。
そしてその感触たるや、これまで女っ気のない人生を送ってきた周にとっては経験のない感触であった。
まるでその手にぴったりと馴染んでいるかのようなフィット感。
掌を通して伝わる極上の質感と滑らかな肌触り。
円を描く根元から、先端にかけて先細り、尖りを見せる造形的な美しさーーーああ、女性の身体とはかくも男を幸福で充実した気持ちにしてくれるものか。
思いがけず手に掴んでしまってから今なお、離せないでいるのは、その手を離した途端に、幸福な気持ちさえも手の内からするりと抜けて消えてしまうことを惜しむからだ。
だが、いつまでも女性の身体をべたべたと触っているわけにはいかない。
周は手の内に残る幸せな感触と別れを惜しみながら、ヒルデの頭の角から手を離した。
「お~~い、大丈夫ぅ〜?」
すると、机の陰に隠れて見えない二人を心配して、リルが机の向こうから声を掛けてくる。
「あ、だ、大丈夫。やくと…じゃなくて、ちょっと身体が痛いだけだから!」
危うく思ってもみないことを口にするところだったが、どうにか堪えて心配してくれたリルにこちらの無事を伝える。
「あ!君は異世界からの召喚者だね!ごめんね~。ちょっとヒルデちゃんを驚かせたかっただけなんだけど、こんなことになっちゃって」
すると、リルは周に気づいて簡単にだが謝った。
痛い思いはしたが、怒るほどのことでもない。
「いいよいいよ」と声を掛けると、「あ、そうだ!」とリルが声を高くして、
「君の名前は?名前はなんて言うの~?」
「おび…いや、シュウ。俺は、シュウ・オビカワ!」
少し迷ってファーストネームから名乗ることにした。
この世界の命名則はまだ知らないが、『オビカワ』よりも『シュウ』の方が音感的に呼びやすくて覚えやすそうな気がするので、そちらから名乗った方がいいと思ったのだ。
「ーーーシュウ!よろしくね~」と返してくれたリルの反応を見る限りはそれで問題なさそうだ。
それから「リルは、リルだよ~!」と元気よく名乗り、お互いに名前を知ったところで「……あ、あの〜」と今度はそわそわした様子になり、
「……さっきからヒルデちゃんの声が聞こえないんだけど~。…そ、その、ヒルデちゃんは怒ってたりするのかな~……?」
リルとはここまで机を挟んだ形で顔も合わさず会話を続けているのだが、これはたぶんリルがヒルデに怒られるのが怖くてこちらに近づいてこないからだ。
ヒルデを驚かせたいとは思っていたが、まさかシュウを落っことしてまで驚かせようとは思っていない。
しかもその際、ヒルデとシュウは接触し、大きな物音を立てて床に倒れるまでしたのだ。
さすがにやり過ぎたとリルも反省しているのだろう。
ーーーん?ちょっと待てよ……
リルに言われるまで気が付かなかったが、先程からヒルデは無言を貫いたままだ。
リルはヒルデが黙りこくってしまうほど怒っていると考えているようだが、それにしてはあまりに反応がなさすぎるというか、先程からそもそも身動ぎ一つしていないのは変ではないか。
「……もしかして」
床に仰向けで倒れている男。
何かに気づいて冷や汗を垂らし、顔が引き攣っている仰向けの男。
その男の身体の上には、
驚愕の表情のまま、白目を剥いて意識を手放した妙齢の女性が仲良く折り重なっていたのだった。
別作品をなろうで初投稿してから、はや3年。
ついに、念願の異世界モノを投稿できました。
さて、こちらの作品について、
一応連載形式を取っていて、最初に3話まで投稿はしましたが、もうこの時点でストックはありません笑
ゼロストック作戦(無謀)で進めてまいります。
よって投稿は不定期です。
どれくらい続きをお待たせする事になるのかも分かりませんが、書き続けはしますのでいつかは投稿できる日が来ます笑
気長に、気長に、気長に、暖かく見守っていただけるとうれしいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




