拝啓、君は笑うだろうか
拝啓、君は笑うだろうか。
それとも、悲しむだろうか。
甲斐性なしだと呆れるだろうか。
冬の朝。
頬をかすめる冷気が、どうにも心地よく感じた頃合い。
カーテンの隙間から差した陽光で目を覚ます。鳴り響く目覚ましを止めて、ベットから体を起した。低血糖で視界が歪むのを無視して、寝室をあとにした。
「おはよう。いい天気だね。」
半分欠けた無機質な部屋で一人、無機質なリビングにいる妻の遺影に話しかける。カーテンを開け、陽の光を見せてやる。寒がりな彼女の事だ、陽光を見たら率先して日向ぼっこでもしだすだろう。あいも変わらず、写真の中の妻は笑顔だ。
「……そろそろ、ごわついてきたかな。」
彼女の遺影の隣に置いてある遺髪に目を向ける。
陽光に照らされる黒髪は、いつもよりも艶がかすれて見えた。
最近は外出することが多かったから、いつも一緒に持ち出す遺髪が傷んでしまうのも無理ないのかもしれない。やはり、毎日洗うほうが良いのだろうか。逆に傷んでしまう気もするけれど。
(トリートメント買ってこようかな)
彼女を一番に感じられる遺髪が自分自身の生きる糧だ。最後に残された、生きる意味だ。この黒髪の艶めかしさを保つためならば、幾分もの大金であっても支払えるだろう。
◇
「今から、朝食作るね。」
誰にも返されない言葉を発すると、足早にキッチンに向かう。スリッパ越しに伝わる何とも言えない冷たさが、足取りを軽くさせた。
リビングに続く狭いキッチンでは、あまり多くのものは置けない。けれども暖色系の色合いのダイニングには思い入れがあり、よく彼女に料理を教わったことを思い出す。
ふつふつと、湧き上がるお湯を見つめながら、物思いにふける。
(壊滅的に料理ができない俺に根気よく教えてくれた彼女には、感謝しきれないなぁ)
かつては、お湯を沸かす行為でさえも命がけだった。突沸させてコンロを浸水させてしまった時は流石に焦ったことを昨日のことのように覚えている。そんな料理の才能という概念がない自分に、彼女は何度も何度でも技術を施してくれた。そして今では、煮物もじゃがいもが煮崩れせずにできる程度にはマシになった。
◇
食事をする時は、必ず妻の遺影を目の前に置く。彼女が座っていた席に、彼女の分の食事とともに置く。
向いの席について、箸を持つと、ふと前をみあげる。陽炎が揺れる視界の先には、妻の笑顔があった。
(一緒に、食べている気分になれる。)
自分自身でも、異常だとは思っている。けれど、それでも、辞められない。
たとえ、虚しい行為だとしても、辞める気はない。彼女のぬくもりを、少しでも感じていたいのだ。
再婚などする気はないし、君がいればどうでも良い。同僚、友人、両親、多くの人が見合いを勧めてくるけれど、どれを受ける気はない。なぜならまだ自分は、彼女の夫だからだ。そして永遠にそれは変わることはない。
こんな自分を、君は嗤うだろうか。
初めて小説書きました。
閲覧してくれた方、ありがとうございます。




