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落書き

作者: 通りすがり
掲載日:2025/08/31

退屈な授業中、いつものように自分の机に落書きをしていた。教師に見つからないよう、鉛筆の芯を少し寝かせて、薄く、だがはっきりと分かるように。小さなキャラクターや意味のない言葉。それは山崎勇人にとって、誰にも知られてはならない密かな楽しみだった。

ある日のこと、いつものように落書きをしていた勇人は、自身が描いた覚えのない文字が机に刻まれているのを見つけた。

『↓これ書いたの、誰?』

(どういう意味だ)と勇人は思った。これを書いたのは隣の席のやつか?それとも後ろの席のやつ? だが、その独特の癖のある字は、勇人が知るクラスメイトの誰とも違うように思えた。



その日から、その机を通した奇妙なやり取りが始まった。

『お前こそ誰だ』

『あなたこそ誰よ』

最初は相手を警戒した文章が続いたが、その状態に段々と慣れてくると、気楽な内容になっていった。そして、勇人が書き込むと、次の日には必ず返事が返ってくる。それにまた勇人が返事する。そんな交換日記のようなやり取りが続いた。

勇人は次第にこのやり取りに夢中になってくると、相手の素性を探ろうと問いかけた。

『君は誰?』

しかし、その問いに返事はなかった。相手はただ、こちらの言葉に答えるようでいて、決して名前など個人を特定できるような情報を明かそうとはしない。その不気味さすらも、勇人にとってはスリルと好奇心に変わっていった。



そんなことがひと月ほど続いたある日のことだった。担任が勇人の机に書かれた大量の落書きに気づいた。

「山崎、この机の落書きはなんだ。机は学校の備品でお前のものじゃないんだぞ!それをこんなにして!」

勇人はクラスの皆の前で強く叱責され、雑巾で落書きをすべて消すよう命じられた。自分が描いたものも、そしてもう一人の"誰か"の言葉も、すべて擦り消さなければならなかった。

ゴシゴシと力任せに机を拭いていくと、やがて机の木目が露わになり、元のただの木の板に戻った。まるで、最初から何もなかったかのように。

もう、あの奇妙なやり取りは終わってしまった。そう勇人は思っていた。



しかし、数日後の夜。 自室で明日の試験勉強をしていたときのこと。ノートをめくる手がふと止まる。

ふと目を向けると、机の表面に、鉛筆の灰色の線が浮かび上がっているのが見えた。

『勝手に消さないでよ』

勇人は息を呑んだ。 その机は、学校の机ではない。勇人が自宅で使っている、今まで一度も落書きなどしたことのないはずの机だった。

『消したって、関係ない』

浮かぶように文字が机の表面に現れる。ひんやりとした空気が部屋の中を包み込み、背後から突き刺さるような視線を感じた。咄嗟に振り返るが、そこには誰もいなかった。 だが、机の表面を這う灰色の線が、まるで意志を持っているかのようにゆっくりと伸びていく。

『次は、もっと面白い話を、しよう』

その言葉に、勇人はゾクリと背筋が凍りついた。その鉛筆の線が描く歪んだ文字の羅列が、自身の日常を侵食していたことに勇人はそのとき初めて気づいた。そしてそれはもう取り返しがつかないことになっていることにも。

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