貿易での収支
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秋の80日。貿易船が帰っていき、その取りまとめを行っているのが俺だ。俺の仕事である。収支は大幅な黒字。だが、向こうはこれ以上の黒字を作っていることだろう。石鹸を売り払ったんだから、それらを換金すれば、こっち以上の儲けになることは確定なんだ。石鹸は1つ白金貨2枚。ざっと5000個売り払った。それだけの利益がこちらに圧し掛かる。大金が転がり込んでくるんだ。これを領地発展に使えれば、どれだけ良かったことか。
領地発展には使えない。いや、使い道が無いんだ。だってそうだろう? 買うものが無いんだ。買える場所がない。この領地には、船便が何日かに1度と、年に2度の商人が来るだけなんだ。資材を輸入しようにも、到底無理な話である。
そもそも木材に関しては、自分たちで確保した方がいいのである。そんな状態だからな。資金を使ってどうのこうのするというのは不可能なのだ。精々が鉄や銅のインゴットを買うくらいである。そんな訳で、どれだけ資金を稼ごうとも、領地の発展には使えないのだ。
じゃあ、なんで稼いでいるのかと言われたら、最後の手段を使わないといけない時が来る可能性があるからだな。というか、最後の手段とはいうが、コンラートが準男爵になっても資金の有用性は変わらない。色々と支援を取り付けるにも、資金は必要になってくる。今は貯めておくに限るんだよ。まあ、使わない可能性も無くはないんだけどな。
大黒字を叩きだしたからと言って、油断は出来ないんだが。冬の間もなんだかんだと交易をする予定では居るんだ。その場合、こちらが大赤字を叩きだすことは容易に想像できる。売るものが無いんだからな。石鹸を作れるほどのオリーブを集めて貰っているが、どれだけ集まるのかは不明である。そうなってくると、肉類を売ることになるんだが、肉の相場は、ジャムよりも安い。そんな状態なので、肉をどんどんと輸出するのも躊躇われるんだよな。何かしら、肉を加工できれば良いんだろうが、既に燻製にしてしまっているからな。そこから加工となると、ちょっと難しい。
売り物がないって状態を維持してしまうのはよろしくない訳だ。だから、色々と工夫をしないといけない訳なんだけど、これが中々に難しい。今は黒字で良いんだ。石鹸が売れる内は、黒字が確定しているんだから。石鹸が売れなくなった時だよな。絶対にやってくるとは思うんだ。毎日、1個の石鹸を全部使う様な馬鹿な貴族が居なければ、ある程度は長持ちするのである。
まあ、馬鹿は一定数いるとは思われるんだけどな。どんな高級品も、大量に使う馬鹿が居ると思われる。なんでそんな無駄な事をするのかと言われても、馬鹿はやるんだから仕方がないんだよな。石鹸なんて、毎日使っても20日から30日は持つのだ。それを1日で使い切るなんて、どうかしていると思ってもいいんだけど、絶対にそういう奴は出てくるんだよなあ。なんでなのかは知らないけど。
なお、まだ高級品の石鹸については売っていない。そっちはまだ値段が確定していないので、交易で扱う事が出来ない。向こうが値段を決めてくれない事には、話にならないのである。まあ、何とか値段を付けてくれることを願うしかないんだが、白金貨2枚よりは多くなるのは間違いない。これで値段が下がるようであれば、作らなければいいだけの話ではあるんだ。ちゃんと値段を見て、商品を作るかどうかを決めないとな。それだけの価値があるんだから、という理由で作るべきだ。手間暇かけたのに、安くなるのでは話が違うんだよ。
そんな訳で、報告も兼ねて、夜に話し合いをしていた。俺の方からは、何がどれだけ売れるのかとか、そういう話をしている最中である。無理なく売るには、そのくらいの個数でないといけないとか、そういう感じの事を話していた。
「そんな訳でして、ある程度は売れると思います。けど、最終的には売れなくなっていくでしょうね。そうなった時に、値段を交渉してくるとは思いますが、何処まで値段を下げるのか、そこの判断はコンラート兄さんがしてくれればいいとは思います。まあ、まだ馬鹿な貴族が馬鹿みたいに消費してくれるとも限らないので、何とも言えないんですが。というか、王国の大きさも知らないですし、何処まで需要があるのかって解らないんですけどね。どのくらいの広さがあるんですか?」
「それは僕も知らないね。けど、貴族家が100以上はあるよ。それだけの付き合いが必要になってくるんだし、準男爵になれば、覚えないといけない事もあるとは思うんだけど……。でも、基本はヨナターク子爵家と話が出来れば良いんだけどね。それ以外の貴族とは隣接していないんだし、王城に呼ばれる様な事も無いんだから」
「そもそもですが、準男爵というのは地位が低すぎるのです。王城には呼ばれませんわ。呼ばれるとしても、子爵家からになります。男爵や準男爵はあくまでも貴族の中では下位。立場はそこまで大きくありません。準男爵領というのは、普通は人口が2000人前後です。男爵家でも20000人程度、子爵家になってくると、これが30万人クラスになってくるのです。規模が違いますわ」
「そうだね。そこからはまあまあ人口が増えていくんだけど、特にビューヘルム準男爵家は人口が少ないからね。1500人も居ないんだから。まあ、これから大きくしていくんだけど、それでも限界はあるからね。出来るだけ大きくはしていきたいけど、移民を受け入れるにしても、限界があるし、人口が増えてくれば、今のままじゃあ問題もあるしね」
「そうですね……。人口が増えてくれば、自由主義を取り入れなければならないでしょうし、そうなってくると、貧富の格差が大きくなります。今は村程度の人口でやっているので、問題は起きていないんでしょうけど、これがもっと大きくなってくると、どうしても自由主義でやらないと、歪が大きくなってくるんでしょうね。でも、それだと、こっちの負担も大きくなってくるんですよね」
「そう言う事だね。今のまま大きくはなれないと思うよ。精々、2万人くらいまでだ。子爵領の町1つ分くらいまでなら何とかなるだろうけど、それ以上になってくると、今のままの政治形態では駄目だろうし。上手くいっているのは、今だからって側面は強いだろうね。村の皆が知り合いだから、誰かの為に頑張れるんだろうし。2万人も居たら、今度は他人のために頑張るのかって話になってくるからね。それは難しいんじゃないかって思っているんだよ」
それはそうだろうな。社会主義とは、大きくなればなるほど、地域の繋がりが薄くなっていき、最終的には破綻する。誰かのためにという目標が薄くなっていく。そうなってくると、サボりだし、最終的には労働意欲がなくなってしまう。それは避けたいとは思うが、中々に難しい問題なんだ。
社会主義とは、大きくなればなるほど、維持が難しい制度である。自由主義は、小さいほど維持が難しい。だから、何処かで切り替えないといけないんだが、何処で切り替えるのかという問題は、どうしても付きまとってくるんだよな。簡単に切り替えるというのは不可能だ。お金の価値がある以上、労働に価値を付けなくてはならなくなる。そうなった時に破綻しない様にしなければならない。
だからと言って、今すぐに出来る事なのかと言われると、無理なんだよ。ただまあ、方法がない訳ではないんだけどな。ずっと社会主義で行く方法がない訳ではない。綱渡りになるけど、その方法を採る方がいいのかもしれないな。




