商人がやってきた
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夏の26日の夕方、商人がやってきた。護衛の冒険者を20人ほど連れながらの来訪となる。良かった。遂に来てくれたか。今日は夕方なので、食事と軽い話をして終わりにするんだけど、食事も豪勢にしないといけない。と言う事で、今日の食事はいつもよりも豪華である。まあ、町では普通の食事なのかもしれないが。
「それでは、レイミール商会のダンレム殿の来訪を喜び、食事としようか」
「いやー、素晴らしいですな。黒パンではありますが、ここまで豪勢にもてなしてくれるとは。……正直、ここが1番なのではないですか? 去年までとは全然違いますね」
「多少は見栄を張りましたが、食事内容はそれ程変わりませんよ。精々肉が豪華になった程度の話ではあります」
「いやいや、ご謙遜を。……ここだけの話、既に2つの村を回ってきましたが、卵はおろか、肉さえも出てきませんでしたからな。ただ、去年はここも同じような内容でした。……と言う事は、統治者が変わって変化が訪れたと言う事でしょう。今はなんでも次期準男爵を決める段階にあるとか。これはもう決まった様なものではありませんか?」
「そこまでの差があるのは認めますが、父が何と判断するかでしょうね。次期準男爵に相応しいのは誰なのか、それを見ていただければ、非常に解りやすい結果になるとは思いますが」
「……まあ、長男が次代になることは往々にしてありますからな。ですが、ここまでの差があれば、何も長男でなくても良いのでは無いかとは思ってしまいます」
「ありがとうございます。是非とも父に口添えをお願いできればなと思います」
そんな感じで、食事を進めていった。冒険者たちにも同じような食事を出している。まあ、食べ盛りの冒険者には厳しいだろうからな。卵も無ければ、肉も無い食事が続くんだから。出てくるのは、非常に硬い黒パンと、野菜と塩のスープのみ。それでは冒険者の腹を満たすことは出来ないだろう。肉があれば、多少のやる気は出るのではないか。そう思う。
「……黒パンですが、小麦を使っていますか? ここまで柔らかい黒パンは食べたことがありませんが」
「そうなのですか? 町で普通に売っている黒パンと同じなのではないのですか? 多少は改良を加えましたが、町ではこのレベルの黒パンを普通に売っているものだと思っていたのですが」
「……いえ、普通ではありませんね。黒パンは硬いもの。白パンは柔らかいもの。そう決まっておりますから。ここの黒パンは白パンに迫る程柔らかい。何か使っておりますか?」
「酒の素を使っております。酒は作っておりませんが、酒を作る素は既に出来ております。それを混ぜてパンを焼くと、柔らかくなるのですよ」
「……ほう。酒を作る技術はあると仰りたいので?」
「ええ、作れと言われれば作れるようにはしておりますね」
「なるほどなるほど。……法を逸脱してはおりませんな?」
「それは勿論。酒の素は使っておりますが、酒を作っている訳ではありません」
一応、詳しい話はしておいてある。天然酵母は、酒の素であると。まあ、あとちょっと手を加えれば、酒になるというところまでは作ってしまっている訳なんだが。でも、断じて酒ではない。これをちょっと工夫すれば、酒になるところまで作れますよという感じなんだよ。断じて酒ではない。まだ酒ではないのだよ。
「しかもこのジャムは……クイーンベリーを使っておりますね。高級品ではありますが、まあ、何処からというのもおかしな話ですか」
「お察しの通りですね。グロドツギの森に自生しておりますので。冬は無理でしょうが、その他の季節であれば、クイーンベリーのジャムは幾らでも作れるとは思いますよ。その他のジャムも作ってありますが、それはまた商売の話の時にでも」
「なるほどなるほど。しかし、よくもまあ森の中に入ろうと思いましたなあ。多少危険では無いですか?」
「その点に関しましては、魔族の方々は、当初のメンバーでもありましたからね。それに、オーガやリザードマンは人間よりも力が強いですから。魔物でも動物でも狩れてしまうのですよ」
「ああ、人間よりも魔族の方が向いておりますからな」
「後は、最近になっての話ではありますが、町に行った際に、速やかに冒険者の活動が出来る様に、と言う事で、子供たちを武装させて狩りにも向かわせております。多少は危険でしょうが、この森は植物型の魔物が多いですからね。動物のような魔物に比べれば、安全ではあります」
「ほう、子供たちに冒険者の様な事をやらせているのですか。……何故だかお聞きしても?」
「町に向かった子供たちが、まず初めに直面する事は、仕事がないって事ですからね。それを避けるためには、冒険者にならなければならない。十分に支度金を用意できたとしても、どんどんと目減りしていってしまう」
「それは確かにそうですな。なりたくなくても冒険者にならざるを得ない」
「そういう時、初めて戦闘が出来るかどうかを試すのでは命が幾らあっても足りないと考えました。では、どうするべきか。ある程度こちらで準備をしてやり、パーティーを組ませ、あらかじめ魔物との対峙の方法を学んでおけば、町に行ってからも困らないでしょう?」
「となると、武器を与えて、ある程度安全なこの森で修練すると、そう言う事ですか」
「そう言う事ですね。この辺りはこちらで狩りをしている関係上、比較的魔物も少ないのですよ。ですから、修練する場には丁度いい。怪我をして冒険者にならないという道を選ぶ子供も居るでしょう。……ですので、お願いがあるのですが?」
「おや? 珍しいですね。なんでしょうか?」
「明日1日、冒険者を貸してほしいのです。子供たちや狩りを担当している者たちに、薬草がどれなのかを教えたいのですよ。薬草が手に入れば、戦闘をしなくても大丈夫でしょう?」
これも考えていたことなんだよな。どうしても冒険者適性がある子供だけじゃない事は明白なんだ。そういう子供は村に居てくれてもいい訳なんだけど、それでも出て行かなければならない時、薬草採取が出来るだけでも話は変わってくるんだよ。比較的安全な場所で、薬草を採取するだけでも何とか食べていけるらしいからな。まあ、それで食いつないで仕事を見つけて欲しいとは思うんだけど。でも、選択肢として採れないようでは問題なんだよな。
「なるほどなるほど。明日は冒険者も休暇ですし、構わないとは思いますよ? それなりの報酬を支払う事になるとは思いますが?」
「それに関してなのですが、取引で得た利益の一部を冒険者に支払ってもらう事は可能ですか?」
「……なるほど。そう来ますか。お代はジャムでよろしいですか?」
「ええ、そうしてくれると助かります」
「そうですか。それならこちらから話を通しておきましょう。報酬が確約されるのであれば、彼らも冒険者です。教えてくれるとは思いますよ」
「ありがとうございます。それと、薬草の買い取りは可能ですか? 勿論、きちんと乾燥させたものとはなりますが」
「それも問題ありません。薬草程度の荷物であれば、どれだけ乗せても軽いものですから」
良かった。これで薬草の販路も確保した訳だ。薬草がない訳がない。最低でも1種類は存在するだろう。それを狙って行けばいい。出来れば汎用的な薬草が手に入るのが一番いいんだが、贅沢は言わないので、売れる物であれば何でも良い。とにかく、子供でも採取が出来て、冒険者ギルドで売れれば良い訳だ。そうすれば金になる。町に出たとしても、困ることは少ないはずだ。




