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ベリーベリーベリー  作者: ルケア


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命名、マチラセ村

OFUSE始めました。

https://ofuse.me/rukea


ついでにブログも始めました。好きなことをつらつらと書いていく予定。

https://rukeanote.hatenablog.com/


さらについでにTwitterも始めました。変なこともつぶやく可能性があります。関係ないことも沢山つぶやきます。

https://twitter.com/rukeanote

 秋の35日。今日はマチラセ村の村長の家が出来て、次の日だ。コンラートが演説をする日だ。演説作家は居ない。そんな職業は存在しない。だから、全部、コンラートが決めて、コンラートが話したいことを話す場となる。それを聞きに来たのは、俺とカタリーナ。期待しているぞって感じで見ているが、コンラートは期待するなって感じの顔で、困った顔をしている。


「さて、それじゃあ始めましょうか。コンラート」


「うん。解っているよ。皆、聞いてくれ。昨日のうちに、この村の村長の家が出来た。皆が待ちに待った瞬間だ。そう、この村に家が出来たのだ。それは皆が、雨や風に吹かれながら、耐えてきた証でもある。今日を境に、この村には家が立ち並ぶことだろう。農業をする人、狩りをする人、木を伐る人、誰がかけても、この結果は得られなかったとは思う。そして――」


 ほう、中々にいい出だしだ。まあ、良し悪しなんて解らないんだけどな。けど、解ることはある。全員がこっちの方を向いている。全員が聞いている。その状況で、コンラートが自信たっぷりに告げている。ここは自分たちで作った村なのだと言う事を。皆が頑張ってきた成果が、この村長の家なのだと。そして、恩恵は皆が受けられるのだと。理想が現実になった瞬間なのだ。それを聞き逃すほど、この村の人たちは、悪い人たちではない。多少は異常者だとは思うぞ。色々と指示待ちでしか出来ないことが多くあるのも知っている。それでも、何とかしてここまでやってきたのだ。長かったと思うのか、案外短かったと思うのか。それは個人の感想だ。だが、これからは、テント暮らしを卒業し、屋根のある家で暮らせるようになるのだ。今までスラムでしか生活していなかった人たちにとっては、それが大変な事だと言う事は解るだろう。


 コンラートの演説が、日々の辛さを語っていく。こんなに平地があるのに、まだ家が建たないのかと苛立ちもあったのかもしれない。住むだけなら、直ぐにでも出来るんじゃないかと思ったのかもしれない。けど、まずは食料の確保をしなければならなかった。そして、後続を受け入れる準備も必要だった。自分たちで開拓した場所を、自分たちで使うのだ。それは悪い事じゃない。だけど、その次の移民たちの為にも、色々とやらなければならなかった訳だ。だから、ここまで住宅の建設が遅れた。それは素直に詫びないといけない事でもある。しかし、今日からは違う。順次家が建っていく。順番ではあるが、皆が家に入れるようになるのだ。待ちに待った自分たちの家に。


 移民で来た当初は、そんな夢物語だと思ったかもしれない。無茶な事を言ってくれるんじゃないと思ったのかもしれない。希望を与えないでくれと思ったのかもしれない。しかし、1日が過ぎ、10日が過ぎ、100日が過ぎた時、何を思っただろうか。自分たちが住む場所が出来ていったのではないか。広がる平地、切り倒される木、倒される魔物、運び込まれる動物の肉。全てが現実のものであると、何時悟った。何時乞うた。何時希望を持った。そこからが始まりだ。皆の希望の先にあるものを掴みたいと、何時渇望した。今までどれだけ虐げられてきた。希望なんてなく、未来も暗い。そんな世界から、望めば得られる。行動すれば与えられる。そんな現実、誰が見ていた。誰もが夢で見ていたんじゃないか。そう思いつつも、やっぱり駄目なんじゃないかと、諦めはしなかったか?


 今までだってそうじゃなかったのか。日々の糧が何とか得られても、明日の事は解らない。未来の事なんて解らない。それが現実。それこそが現実。今までどれだけの希望を打ち砕かれてきた。今までどれだけの夢を壊されてきた。スラムに住むというだけで、魔族というだけで、どれだけ苦しい時を過ごしてきたと思っているのか。時には理不尽に殴られ、時には無情にも蹴り飛ばされ、時には容赦なく踏みつぶされ。そうやって生きてきたんじゃないのか。それでも、歯を食いしばり、血反吐を吐き捨て、しがみついてでも生きてきたんじゃないのか。その成果が、今、こうやって目の前に存在する。住居という形によって。皆の希望が形になって。


 来た当初、何を思った。また代り映えの無い日々を過ごすのかと思ったんじゃないのか? 前はスラムで、今後は森。しかも、魔物の脅威がある外周部分。ああ、やっぱり駄目だったんじゃないか。選択は失敗だったんじゃないか。これでは、スラムの時の方が良かったのではないか。そう思っただろう。それで? 今はどうだ? スラムと一緒か? これが? これが今までと同じだというのか? 違うだろう。スラムの生活とは真逆の生活を送っている。食うものに困らず、仕事にも困らず、着るものにも困らず。そうやって生きてきたんじゃないのか? この地で、この場所で。今までの苦痛を忘れられるくらいには、いい暮らしが出来たんじゃないのか? だが、ここからは違う。今までとは訳が違う。これからは、住む場所さえ与えられるのだ。この地で永住できるのだ。自分たちで勝ち取った家で、これからも暮らしていけるのだ。


 さあ、皆で仕事をしよう。誰かのために仕事をしよう。それが、やがて自分に返ってくる。住居という形で。ならば働こう。一生懸命に働こう。そうすれば、衣食住、全てが困らなくなる。誰かが誰かのために、皆が皆のために、働けば返ってくる。自分の益になる形で。それならば、返す必要があるだろう。与えてくれた人に返すものがあるだろう。自分が出来ることを。皆で支え合う事で、より良い暮らしを手に入れていこう。これはまだ始まりだ。決して終わりではない。まだまだ始まったばかりだ。そして、終わらせてはいけない。受けた恩は、誰かのために。


「――だからこそ、この村を、守っていく必要があるのではないか。皆が皆のために、自分が誰かのために。そうして、恩を循環させていこう。そうすれば、皆が困ることはない。ここで皆が死ぬまで暮らせるのだ。そして今日、そんな村に名を付ける。この村は、マチラセ村。皆が作った村である。足りなければ、補えばいい。自分が出来る事で、補っていけばいい。だが、それでも出来なかった時、私を頼れ。皆の希望を叶えるために、何とかしてみせよう。皆が築き上げてきたものを、私が支えて見せる。遠慮なく言って来い。ここはマチラセ村。私の領地の1つである。ならばこそ、何とかしてみせよう。故に、皆も頑張って支えてくれ。ここが皆の故郷である。今日はこれからも仕事があるだろう。今日もいつも通りの仕事をしようじゃないか。皆の故郷を、皆が支えてくれ。以上だ」


「「「「「わああああああああ!!!!」」」」」


 いい演説じゃないか。ちゃんと出来たじゃないか。期待以上だったよ。もっと簡素な演説になると思っていたからな。ここまで出来れば十分じゃないかな。少なくとも、この声が答えだ。皆の心に響いたんじゃないのかね? そうじゃなければ、こんな歓声は起きないはずだ。今日も安心して働けるだろうさ。先を示せたんだからな。未来はちゃんとある。未来は掴めるんだ。そういう演説だったとは思うぞ。さて、これで俺のハードルが上がってしまった訳なんだが。


 戦意高揚の演説をどうしよう。某少佐の真似でもいいか? コンラートのように出来る気がしない。ここまでの演説を出来る気がしない。どうすれば、心に響く演説になるんだろうな。長ければいいというものでもないんだ。内容が伴わないと、悲惨な事になる。さて、どうしてくれようか。

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