転生しました
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硬いパンをスープでふやかしながら食べる。……主食が黒パンという時点で察するところがあるんだが、これでも貴族の生まれなんだ。ライ麦を使ったパンであることは想像できるだろう。これは別に小麦が育たない訳でもない。普通に小麦も育つんだけど、小麦は輸出しないといけないんだ。だから普段は収穫量が多いライ麦のパンを食べている。貴族なのにも関わらず、極貧生活をしているのは、うちに金が無いからだ。ここはビューヘルム準男爵領。森の中のごく小さな領地を頂いている貴族である。
アーセルデイレ王国の南の端である、グロドツギの森の一部を領地として、4つの村からなるのがビューヘルム準男爵家である。準男爵家なんてこんなものだと。貴族としては木っ端も木っ端。しかも未開地であるグロドツギの森を開拓して出来た準男爵家なんて、本当に忘れられていてもおかしくない程度の貴族家なんだよ。そんな貴族家の六男として生まれたのが俺だ。名前はアーミン。この度6歳になったばかりの子供である。だけど、そんな俺にも何故か別の記憶がある。
前世という奴だろう。前世は日本という国で育った。……普通の大学を卒業し、普通の会社に入り、普通に定年退職して、普通に余生を過ごした。家族には恵まれたが、至って普通の家庭で育ち、そして死んだ男である。それが何の因果かは知らないが、こうして別の世界のアーミンとして生きている。まあ、俺の時代に流行った転生って奴なんだろうな。よくその手の作品を読んだりした。面白いと思ったものだ。だが、自分が転生するなんて思ってもみなかった。その手の話は読み漁れるくらいにはあったんだ。俺も好きで読んでいたさ。もしもこんなことが起これば、自分はどうしようかと考えたこともある。だが、考えただけで、本当にこんなことが起きるなんて思っても居ないだろう? 普通はそんな事は起きないと思うものだ。でも起きてしまった。それはどうしようもない事ではある。
だが、転生したら誰しもが考える事だろう。俺は主人公で、特別な力が用意されているのだと。そう思ったこともあった。だが、所謂お約束といった事は無かった。ステータスも見れないし、魔法だって使えるのかどうかも解らない。そもそも神様に会ってチートなんて貰っていない。ごく普通の少年に転生してしまったのだ。
確かに貴族であることは認める。だが、どんな貴族かといえば、下から数えた方が早いだろう序列の貴族家だ。しかも六男である。どう考えても予備の予備でもない。なんでこんなに子供を作るのかは知らないが、田舎貴族あるあるという奴である。そう言う事しか娯楽が無いんだろうな。確かに周囲は森だ。娯楽も何もありはしない。そんな訳でよろしくやっていたんだろうとは思う。
だがいくらなんでも、この小さな領地に六男四女の兄弟が必要なのかという所も考えた方が良い。そもそも人口も大した事がない。この領都、と言っても村なんだけど、村の人口は精々300人程度だ。他にも村が3つ程あるが、1つを除いて同程度と言う事は解っている。
貴族教育として、領地の事を勉強させられるからな。まずは言葉や文字を教えられ、それを覚えたら領地の事を教わる。……六男である俺にも必要な事なのかとは思うが、必要なんだから教えるんだろうな。まあ、かなり悲惨な状況なんだけど。もうちょっと何とかやり様があるだろうとは思う訳だ。
そもそも立地が特殊なんだよな。アーセルデイレ王国の南端である、ヨナターク子爵家の更に南端。グロドツギの森に領地を構えているんだから。グロドツギの森は、何故だが知らないけど、植物の成長が異様に早い事で有名らしい。そんな所を5代前のビューヘルム準男爵が開拓をしたらしいんだよ。だからここが領地になっている訳。
そんな所を領地化するんじゃないって事もあるんだけど、利点があった訳だ。植物が異様に育つ。これがメインだな。これで麦の栽培を盛んにやれば、一大穀倉地帯が出来ると考えたんだろう。まあ、よくあることだ。そんな事は無理なのに。
そりゃそうだ。麦の成長が早いのは良い。小麦やライ麦を育てることは良いんだが、他の植物も異様な早さで成長する。つまり、切り株を放置しておけば、2年後には無かったかのような状況になるんだよ。そこに木が生えてきてしまう。そんな状況で、まともな開拓も出来る訳がなく。何とか4つの村を作ったのはいいが、それ以上は無理だと言う事で、今に至っているんだ。
そして何よりも、塩の入手がし難い。ヨナターク子爵領からある程度は離さなければならなかったとは思うが、まさか片道3日もかかるような場所に村を作るなんて思わないだろう? 当然だが、人が生きていくためには塩が必要不可欠となる。それを輸入できれば良いんだろうが、ヨナターク子爵領からしか入手が出来ない。しかも片道3日もかかる場所だ。当然だが魔物も襲ってくる。そんな場所に行くのはいいが、得られるのは小麦のみ。商人にしても旨味が少ない。
確かに開拓したのは大きなことだ。立派な事だとは思う。だが、塩の入手が出来ないような場所を発展させるのは難しい。それは余りにも無謀だ。ここらへんに有望な鉱山でもあれば別なんだろうが、山地ではなく森である。森で採れるものは、基本的には木材だな。それは外周部分でも事足りるんだ。わざわざ内部の木材を輸入しないといけないような状況にはならない。
つまりは、小麦しか輸出品がないんだ。それを塩と交換するのがやっとなのだ。だから、庶民は、貴族も含めて収穫量が倍以上も違うライ麦を食べている。小麦が1トン採れるところを、ライ麦なら3トンは採れる。そのくらいの生産量の違いがあるんだ。だから、輸出分に小麦を、食べるためにライ麦を育てている。……そんな状態らしい。
恐らくは最初は小麦だけを作っていたんだろうな。それが人口が増えてきて、徐々に食料が足りなくなってきた。それがライ麦を育て始めた理由だろう。塩は何としてでも買わないといけない。しかし、ライ麦では高くは買ってくれない。商人が買うにしても限度というものがある。何往復もしなければならない土地に、魔物が襲っている可能性のある土地に、何度も何度も行くのはリスクでしかない。それはなんとなくだが解る。
はっきり言って、今の状態で詰んでいる。産業が何も無いのであれば、詰んでいるような状態なんだよ。そんな貴族家の六男として生まれた? 何の罰ゲームだ。生まれ変わるのであれば、もう少しまともな貴族家に生まれたかったよ。こんな終わりかけの領地に生まれるなんて、運がないとしか思えない。
それでも、この村の平民よりはマシなのかもしれない。そもそもこの村から出て行かなければならない日がやってくる。それは、危険な道のりだ。魔物が襲って来るかもしれない中で、3日間も移動をしなければならない。今以上に塩が手に入らない以上は、この村を出て行くしかない。そして、外で仕事を探して生きていかなければならない。それを思えば、まだ貴族として生きられるだけマシなのかもしれないとは思う。
ただ、何かしらの改革は必要になるんだろうとは思うな。このままじゃ駄目な事は解り切っている。今のままでは駄目なのは解り切っている。何とかしてこの状況を変えていかなければならない。だが、六男である俺が何をどうしたら変えられるのか。それが解らない。今はただ、流れに身を任せて、成り行きを見守るしかないとは思う。