その後 4月バカの話
僕の彼氏は石くんといって、僕より背が高くて、僕よりかっこよくて、頭はちゃいろい。周りからは不良と言われることもあるけど、優しくて穏やかな人だ。
けど。
たまに、思うことがある。
僕といて石くんは楽しいのかな?と。
僕は石くんのことが好きで、一緒にいると楽しい。お互いちゃんと合意して付き合っている僕たちだけど、石くんも、僕といて楽しいって思ってくれてるかな。
もしそう思っていなかったら、いつか別れを切り出されてしまうかもしれない。それはまずい。
「というわけなんです」
「ンだよ、そんなことかよ。死んだようなツラして歩いてっから、ペットでも死んだのかと思って心配したじゃねーか」
春休みのある日、街中を歩いていたら、石くんのクラスメートのモヒカンさんに会った。
今日も立派なモヒカンのモヒカンさんは、僕と目が会うなりずかずかと歩み寄ってきて、がしっと腕を掴み、引きずるようにして僕を近くのコーヒーショップに連れて行った。そしてコーヒーを奢ってくれて、なんでだろ?と不思議がる僕に、「悩んでんだろ。話せ」と身を乗り出したのである。
僕は、モヒカンさんはなんで僕が悩んでいることを知っていたんだろう、すごいなあと思った。そして話したのが、冒頭の内容だったのである。
「心配しなくても、みっちゃんはハニーにラブラブだろ。いつも安らかじゃねーか。んーでもハニーは、もっとスリルショックサスペンスにして、みっちゃんを胸キュンさせたいわけな」
モヒカンさんの言うことは、たまに僕にはよくわからないことがある。
目を白黒させていると、じゃあさ、とモヒカンさんが人差し指を一本立てた。にやっと笑った顔が、何か企んでるようなかんじだ。
そうして言われた提案は、とても魅力的なように感じたので、僕は目を輝かせてモヒカンさんにお礼を言ったのだった。
翌日は、石くんと二人でお出かけすることになっていた。行き先は、とりあえず映画で、あとは適当だ。
待ち合わせ場所にやってきた石くんは、まるでモデルさんのようなオシャレな服装だったので、僕はつい見惚れてしまった。こんな人が僕の彼氏だなんて、嘘みたいだ。僕は思ったままに、「かっこいいね」と感想を伝えた。そんなのわかりきってたかな。
それはそうと、それでは、作戦開始である。
僕の姿をじっと見つめたあと、何か言おうと口を開いた石くんを遮って、僕は言った。
「お、おせーよ石。んじゃ、行くぞこらぁ」
石くんが、無言のまま目を点にした。
僕は恥ずかしくなって赤くなったり、急に呼び捨てにして怒ってないかなと心配で青くなったりしながら、石くんに背を向けて歩き出した。ポケットに手を突っ込み、ガニ股に。
そう、これぞモヒカンさん直伝の作戦。
今日がエイプリルフールであることを利用した、『ドキッ!まさかの安島が不良化!?作戦』である。
飽きられるのが怖いなら、飽きさせないようにすればいい。
なんかおもしれーことやれ!
というのが、師匠・モヒカンさんの提案なのだ。
石くんは不思議がるような顔をして、僕の隣に並んだ。足が長いから、ちょっとの差はすぐ追いつかれてしまうのだ。
「安島、どうした」
そして、そりゃそう言うよね、というツッコミをされてしまった。
無性に恥ずかしくなるけど、我慢して僕は不良ぶり続ける。恥ずかしくて石くんの方を向けない。
「ぼ、俺は不良なんだよこら。あんまり怒らせっと、ボコボコにすんぞこらぁ」
「安島」
「ああん?」
ぽん。
と、僕の頭に、石くんの手のひらが乗った。
つい石くんの顔を見上げてしまうと、石くんは口をうにうにさせて、笑いを堪えるような、むず痒そうな顔をしていた。その表情が全てを物語っているような気がして、僕はますます恥ずかしくなった。
「安島。なんだかわかんねーけど、やめとけ。顔真っ赤にして悪ぶってんの、なんかのプレイにしか見えねえから」
プレイって。
急に出てきた単語に、あらぬ想像が脳裏を過ぎり、僕の羞恥心メーターが振り切れる。発熱しているかのように顔が熱い。
顔を両手で覆って冷やしていると、「それと、今日の服似合ってんな」と、石くんが優しく微笑んだ。
僕の彼氏は石くんといって、僕より背が高くて、僕よりかっこよくて、頭はちゃいろい。
周りからは不良と言われることもあるけど、優しくて、穏やかで、僕は大好きである。
ちなみにその後ごはんを食べている時、これがモヒカンさん(佐藤くんというらしい)の入れ知恵だと知った石くんは途端に不機嫌になった。安島に喋りかけんなっつったのに、と独り言を言ったあと、
「頼むからもう佐藤と口聞かねえでくれ。アレはおまえのためにならねーよ」
と嫌そうな顔で言ったのだった。
僕はいい人だと思うんだけどな、モヒカンさん。




