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ひと月の恋人  作者: たま
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ある日の帰り道




近頃、日が沈むのが本当に早くなった。

少し目をあげれば、空にはうろこ雲が、近くには大きく、遠くなるにつれて小さく広がっている。


暗くなりかけた道を、いつもは一人で帰っていくのだが、最近は違う。

実は一週間前から、僕の隣にもう一人、歩く人がいるのだ。


いまも僕の隣を歩いているその人は、僕とは全然違う見た目の人だ。僕よりずっと背が高くて、髪の毛はちゃいろ。ピアスが開いていて、おしゃれなアクセサリーをいっぱいつけている。僕のと同じ白シャツに学ランなのに、全然違う服みたいに、着こなす人。


石 光彰くん。

同じ高校に通う同級生だ。


こっそり、ちらりと見上げると、石くんは空を見ていた。きれいなうろこ雲を見ているのだろう。

僕とおんなじだ。僕は少し嬉しくなって、こっそりと微笑む。


石くんは、不良だと言われている。

よく先生から怒られているし、それに対して怒鳴りはしないけど、よくない態度をとっているのを見たことがある。一緒につるんでいる人たちも、見た目や態度がよくはない人たちばかりだ。

対して僕はというと、大人しくて目立たなくて、運動も勉強もそんなにできない、実にふつうな奴だ。


じゃあ、なぜそんな僕が、不良な人と一緒に帰っているのか。


答えは簡単、罰ゲームなのだという。


一週間前の放課後、昇降口を出たところで、石くんが僕を呼び止めて、言ったのだ。

仲間内で賭けをして、負けたのだと。ひと月のあいだ、悪いが騙されたふりをして、自分と付き合ってくれないか、と。

僕は石くんと喋ったこともおなじクラスになったこともなくて、ただ不良の人だということは知っていたから、本当に驚いた。


そして、頼む、と頭を下げる石くんに僕が頷き、この関係は始まったのである。



僕たちは、無言のまま歩いていく。

僕たちの帰り道に、会話はほとんどない。ただゆるやかに、時間だけが過ぎる。


一緒にこうして時間を過ごすことが一週間になり、僕は気づいたことがある。


それは、石くんはきっと、優しい人だということ。


この関係が始まるときも、正直に罰ゲームだということを教えてくれた。

それに、石くんは普段は怖い言葉遣いもする人だと聞いているのに、僕と一緒にいるときは、それをしない。

そして何より、ひびりな僕が、石くんといるときは、穏やかな気持ちのままでいられるのだ。むしろ、安らぎのような気持ちまで覚えるくらい。これは直感的なものだけれど。

だから、きっと、石くんはいい人なんだと思う。


やがて、僕の住むアパートに辿り着いた。門の前で立ち止まり、石くんを見上げる。



「じゃあ、また明日」



僕がそう言うと、石くんは何も言わず頷き、腕を回して僕を抱きしめる。背の高い石くんの身体に僕の身体はすっぽりと包み込まれる。弱くもなく、強くもない力加減で抱きしめた後、石くんは手を外し、



「また明日」



と言って、去っていく。

罰ゲームの決まりなのだそうだ。毎日一緒に帰ること。別れ際は抱きしめること。

誰も見ていない罰ゲームを、律儀に実行しているし、こうして逆方向なのに送ってくれる。僕は、やっぱり石くんは優しいと思う。


去ってゆく後ろ姿が小さくなるまで見つめて、僕はアパートに入った。




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