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自動ニートデータ収集システム『アネダス』~未来からやって来た何でもしてくれるお姉ちゃん型ロボット~

 科学技術が大きく発達したことで、人類は労働から解放された。


 それまで労働することばかり考えていた人類は、あまりに暇すぎて死にそうになってしまう。


 そんな人類を救うため、とある機体群が作られた。


 姉型ロボット【アネダス(ANEDAS:Automated NEET Data Acquisition System:自動ニートデータ収集システム)】である。


 彼女たちの任務は過去にタイムスリップし、ニートと呼ばれる存在がどのような生活をしていたかを調査すること。


 家族以外との接触を拒む傾向にあるニートにも接近しやすいように『姉』をモチーフとした設計となっているらしい。




「というわけで、よろしくね。弟くん。私のことはソラ姉って呼んでね」


 ある日、見知らぬ場所で目覚めると、見知らぬ美女からそんなことを言われた。

 その空色の髪を持つ女性は、アネダス一号機で【ソラ】という名前らしい。


 白いレオタードのような衣装の上に青いフライトジャケットを羽織っていることからもわかるように、空中戦を得意としているそうだ。


 未来からやってきたロボットで、カラーリングは青と白。

 お腹に四次元のポケットがあったり、便利な道具を出してくれたりするのかと思ったが、それとは少し違うらしい。


 彼女が内臓しているのは無次元ポケット。

 次元という言葉は空間の広がりを意味するものなので、この無次元ポケットというのは全く空間の広がりがないピッタリ閉じたポケットということになる。


 当然、そんなところから道具を出したりはできない。


 そのかわり、未来のSNS的なサイトに彼女が収集したデータを投稿すると、物資が支給されるらしい。


 投稿したデータの閲覧数や『いいね』の数に応じてポイントが貯まり、それを様々な製品と交換できるというシステムとなっている。



「たとえば……弟くん、顔が真っ赤で暑そうだから、冷たい飲み物を頼みましょうか」


 彼女は「飲料生成器は2つ内臓してるけど、どっちも人肌くらいの温度なのよね」などと言いながら、スマホに似た端末を手早く操作した。


 空中戦が得意という割に彼女のボディは凹凸が激しくて空気抵抗がすごそうだなと思っていたが、大きい分多機能となっているようだ。


 あるいは現代人に理解できないだけで、一見、飛行に適していないように思えるあの形状が、実は優れた空力特性を持っているという可能性もある。


 そんな感じに曲面の空気力学に関して真面目に考察していると、背後でゴトリという音がした。


 振り返ると、足元に発砲スチロールのような見た目の箱が落ちている。


 ソラ姉はその箱を開封し、中に入っていた大小二つのボトルを見せてくれた。


「これが注文した【清涼飲料ロボット】よ。こっちの小さいのはおまけの試供品かしら?」


 彼女が手にしているのは、ピンク色の液体が詰まったボトル。

 見た目は普通の清涼飲料水(ジュース)にしか見えない。


「人間くん達って、脱水症とかになっても自分では気づけないことが多いでしょ? だから、こういう自動で水分補給をしてくれるロボットが作られているのよ」


 ロボットを飲むという表現には何となく違和感を覚えた。

 俺の感覚からすると、ロボットというものはもっと金属光沢があってゴツゴツしていて――。


 しかしそこで、先ほどソラ姉が言っていた『飲料生成器』の話が俺の頭をよぎる。


 別にいいんじゃないかな。

 ロボットがやわらかかったり、飲めたりしても。


 俺は思わずゴクリと唾を飲んだ。



 それを見て俺の喉が渇いていると勘違いしたのか、ボトルに入っていたピンクの液体が自分で蓋を開け、中から這い出してきた。

 液体であるため形は自由に変えられるようで、体を細長い触手のように伸ばし、口の中へと侵入してくる。


 ……味はイチゴ味。

 ほどよい甘さで、飲みやすい。


「美味しい? これは適当な材料を与えておけば勝手に増えるから、好きなだけ飲めるわよ」


 ソラ姉は小さい方のボトルを取り出すと、その蓋をひねった。


 こちらはロボットではなく普通の飲み物らしい。


 ラベルには『飲むと賢くなる! サカナ味!』という文字と泳いでいる青い魚のイラストが描かれている。


 なんだか、あまり美味しそうには見えない。

 売れなかったからおまけとして処分しているのではないだろうかと思ってしまう。


 ソラ姉にサカナ味のジュースを注がれてしまったピンク色の塊は、ブルブルと激しく振動し、なんだか苦しんでいるようにも見える。


 しばらくして振動がおさまると、ぐにゃりと形を変え、なんと二頭身の人間のような姿となった。


 髪や服装の印象がどことなくソラ姉に似ている。



「私のマネなの? かわいいわね。この娘の名前は【ミニソラ】にしましょう」


 新しく名前をもらったミニソラは嬉しそうに踊りはじめた。


 なんだかさっきより頭がよくなっているような気がする。


 俺は空っぽになった小さいボトルに書かれている『賢くなる』という文字が非常に気になったが――――流石にそんなわけないか。


 ロボットに詳しいはずのソラ姉が特に問題視していないのだから、きっと大丈夫なのだと思うことにした。



「弟くんのニートデータ収集、一緒にがんばりましょうね」


 ソラ姉がそう言うと、ミニソラは元気よく跳びはねた。


 ロボット同士ということで気が合うのかもしれない。


 二人は既に仲良くなったようだ。


 そんな彼女達に水を差すのは気が引けるのだが、どうしても確認しておかなければならないことがある。



「……そもそも俺ってニートなの?」


 思い出せない。

 自分が本当にニートなのか。


 それどころか、自分が一体何者なのか。

 名前すらわからない。


 なんとなく成人男性だったような気がするのだが、それにしては体が若すぎる。

 せいぜい高校生くらいにしか見えない。



「大丈夫よ、弟くん。これを見て」


 彼女が差し出してきた端末には、『私はロボットではありません』という文字と確認ボタンが表示されていた。

 おそらくソラ姉には突破できなかったであろうセキュリティを容易く潜り抜けると、なんとなくソラ姉に雰囲気が似ている金髪の美しい女性の写真が画面に映し出される。


「この娘は私の妹の【レヴィ】。アメリカ大陸の新たな支配者よ」


 アネダス二号機【レヴィアタン】。愛称はレヴィ。


 名前からもわかるように彼女は海戦で真価を発揮するタイプのアネダスであるらしい。

 金色の髪をツインテールにし、セーラー服を身に着けている。


 セーラー服は女子高生が着ているイメージが強いが、もともとは水兵用の軍服なので、こちらの方がむしろ正しい使い方をしていると言える。


 ソラ姉によると、彼女は【全米ビームライフル協会】という組織を作り、様々な技術を提供することで急速に影響力を強めていて、そう遠くない内に現在の大統領すら上回る力を得るだろうと予測されている。


 そんな好き勝手なことをやって大丈夫なのかと疑問に思ったが、いずれ地球の人類は絶滅するので、未来人的にはどうでもいいとのことだ。


 未来の人たちは、大昔に他の星へ移った地球人の末裔なので、現在の地球人類がどんな滅び方をしても、彼らの歴史には影響が及ばないという考えが主流のようだ。


 目的さえ果たせれば、たとえこの惑星が滅茶苦茶になろうとも気にならないらしい。



「おそらく、レヴィの目的は【日本】を弟にすることでしょうね」


 日本は政策など様々な面でアメリカに追従することが多いため『アメリカの弟』と呼ばれることがある。


 つまり、レヴィがアメリカの全てを手に入れて、アメリカそのものとなった瞬間、自動的に日本はレヴィの弟となってしまうのだ。


 そうなれば、大勢の弟から得られるポイントを使って大量の物資を獲得し、いずれは世界全土を支配することも可能になる。


 とはいえ、仮に計画が成功したとしても日本人は忙しく働いているため、ニート率はそこまで高くない。


 そこでレヴィは、アメリカでの権力拡大と同時に日本人のニート化を進めることにした。



 新たに構築したシステムで労働基準法などの既存の法律を遵守させたのだ。

 その結果、大半の企業は崩壊し、残った企業も取引先が複数潰れてしまっては持ちこたえられなかった。


 いまでは全国的にニート化が急速に進んでいるそうだ。



「……ぜんぜん覚えてない」


 そんな理解しがたい事件があったのならば、少しくらい覚えていてもよさそうなものだが、全く記憶にない。



「しかたがないわ。弟くんは不幸な事故にあったんだから」


「……事故?」


「そうよ。ついてきて」


 ソラ姉に促されて今までいた狭い部屋を出ると、すぐ左側に螺旋階段があった。


 彼女に手を引かれながらそこを上っていくと、壁が全てガラス張りになっている円形の小部屋へとたどり着く。


 部屋の中央には見慣れないガラスの塊のような物体。


 窓の外には、雲一つない空と青い海が広がっていた。



「……ここってもしかして、灯台?」


「ええ。あの煙、見える? あそこからキミを救助して、ここまで運んできたの」


 部屋の外の展望台のようになっている空間に出た後、ソラ姉が指をさしている方向へ目を向けると、大きな円盤状の物体が、海上で黒い煙を上げているのが見えた。


「あれは大昔に滅びた【銀河帝国】が使っていた無人探査宇宙船よ。まさか、未だに動いているものがあるとは思わなかったわ」


 ソラ姉によると、あの無人船には知的生命体を治療したり記憶を読み取ったりできる装置が搭載されていたらしい。


 もし身体的な変化があったならば、それは治療装置によるもので、記憶の方に問題があったならば、そちらは装置が強制終了してしまったことによる影響ではないかとのことだ。

 ゲームのデータを保存している最中に電源を落としてしまうとセーブデータが壊れてしまうことがあるが、それと同じような感じだろうか。


 なんにせよ、俺はソラ姉に間一髪のところを救われたようだ。


 もし彼女による救助がなければ、俺は調査目的で他の星へと攫われていただろう。


 感謝を伝えるために「ありがとう」と言うと、彼女はニッコリと笑みを浮かべた。


「いいのよ、キミのためなら何でもしてあげるから」





 俺は過去の記憶がいまいちハッキリしない。

 自分の家がどこかすらも思い出せない。


 いまは灯台にいるのだが、いつまでもここに居座ることはできないだろう。


 そこで、墜落した宇宙船を一時的に利用しようかという案が出たのだが――――

 どうやら先を越されてしまったようだ。



 現在、海の上に浮かぶ宇宙船に白い大きな船が接舷していた。


 ……あれだけモクモクと煙を上げているのだから、流石に目立つことは避けられないか。


「あの服は【レヴィアタン女学園】じゃないかしら」


 船の乗組員たちはセーラー服を身に着けた女性ばかりなのだが、それがこの近くのメガフロート上にある学園の制服に似ているとソラ姉は主張する。



 国内各地に作られたメガフロート。


 それらは現在の日本における生命線とも呼べる存在らしい。


 アネダス二号機であるレヴィの策略によってニート化が急激に進んだ日本。


 当然ながら、収入がない彼らを支援する必要があった。


 とはいえ物資は有限であるため、彼らを完全に養うことは非常に困難。


 そこでレヴィは、空間に穴を開け、別の世界から資源を持ち込むことを考えた。


 詳しい原理は知られていないが、未来の高エネルギー兵器を使用すると空間が裂けて、向こう側の世界とつながることがある。


 あちらの世界は大昔に文明が存在した形跡はあるものの、現在では無人であるため、誰にも遠慮することなく土地や資源を利用できるのだ。


 レヴィは各地の海上に大きな穴を作り、そこにメガフロートを併設して、向こう側と物資をやり取りするための拠点としたようだ。

 江戸時代における長崎の出島のようなものだろう。


 各メガフロート上には学園を設置し、学生に管理をさせている。

 教育を受けている学生は、ニートに含まれない。

 ニートを働かせたら非ニートになってしまうのでポイントのロスになるが、元から非ニートである学生は働かせ放題なのだ。


 研究という名目なら学生を酷使しても問題になりにくいため、非常に効率的なシステムだといえる。





「今度のは学園のじゃなさそう」


 学生たちが円盤の調査をはじめた少し後、別の黒い船がやってきたのだが、その乗員は女の子ではなかった。


 というか、それ以前に人間ですらない。

 金属で作られた巨大な人型の物体が、三体ほど船に積まれていた。


 それらの黒い巨人は海へと勢いよく飛び込むと、まるで水上を滑空するかのように移動しはじめる。


 武装しているため、調査が目的とは考えづらい。


 学園側もそう判断したのか、一体の白い巨人を船から海へと送り込んだが、一対三という状況はかなり不利に思える。


 船が避難を終えるまで時間を稼ごうとしているのではないだろうか。




 ソラ姉によると、新しく現れた方の勢力は、海賊である可能性が高いようだ。


 所持している装備の中に一般には出回っていない全米ビームライフル協会製のものがあるらしい。


 おそらくは盗品か横流し品。


 そんなものを持っているのがまともな組織とは思えない。





「ソラ姉、なんとか助けられないかな?」


「いいわよ、キミのお願いなら何でも聞いてあげる」


 彼女はそう言うが早いか、どこからともなく自身の身長ぐらいありそうな大型の銃器を取り出した。


 その巨大な武器を軽々と構え、大型ロボットに狙いをつけ、「ちょっと威力が強くて地球とか空間とかに穴が開くかもしれないけど」などと言いながら引き金に指をかけ――――俺は慌てて彼女を止めた。


 いくら一刻を争う状況であるとはいえ、流石に地球の危機を見過ごすことはできない。



「もう少し安全そうなやつはないの?」


「私はもともと宇宙戦を想定して設計されたから、大気圏内で使えるような低火力兵器は持ってないのよ。これ以外だと――」


 今度はメタリックな片刃の剣を取り出したソラ姉。


 彼女が無造作にそれを振るうと、『たぷん』という大きな音が響き、空中に人間がギリギリ通れるくらいの幅の裂け目ができた。


「このくらいの攻撃なら平気じゃない? 小さい穴なら時間経過で閉じるし、向こう側に何か危険なものがあるわけでもないし」


 そんなふうにソラ姉は自身の攻撃の安全性を強調するが、俺の目には大変危ないものが映っていた。


 煌びやかな部屋。

 多くの湯をたたえた浴槽。

 それに浸かるロイヤルな雰囲気の女性が、驚いて目を見開いている。



「おかしいわね。穴の向こうの文明は大昔に滅んだはずなのだけれど」


 ソラ姉がのんきなことを言っている間に、入浴中の女性の顔が真っ赤に染まっていく。


 その様子を見たミニソラは、彼女がのぼせていると判断したのか、あわてて救助に向かった。


 触手状に変化したミニソラに捕獲された女性を見てソラ姉は「間接キス……!」などと戦慄していたが、流石にロボットを経由するのはノーカンだろう。



 ミニソラは手早く給水作業を終えるとすぐに帰還した。


 その直後に空中の裂け目もふさがったので、完全犯罪が成立したことになる。

 危機は去った。


「うん。これなら問題なさそうね。それじゃあいきましょう」


 ソラ姉の羽織っていたフライトジャケットが融けて液状になった後、翼のような形状に再構成されていく。


 飛行形態となった彼女に抱えられ、俺は空へと舞い上がった。







 …………戦いはあっという間に終わった。


 ソラ姉が一撃で海賊の機体を戦闘不能に追い込むと、残った敵はすぐに撤退していったのだ。


 もしかするとソラ姉の姿からレヴィアタンという怪物を幻視したのかもしれない。



 現在は残された白い機体と捕虜となった女海賊を連れて、宇宙船の上へと移動してきた。


 操縦席から降りてきた長い黒髪の少女は、「伴波(ともなみ) (しずく)」と名乗った。

 予想通り、レヴィアタン女学園の生徒であるらしい。


「こんにちは、しずくちゃん。私はソラ。こっちの弟くんにお願いされて、あなたたちを助けにきたの」


 ソラ姉の言っていることは別に間違ってはいないのだが、事情も知らずに突然そんなことを言われても困惑してしまうだろう。


 案の定、雫と名乗った女の子は怪訝そうな表情を浮かべている。



「……えっと、海賊退治に来てくれたってことでしょうか?」



 最近、国内では海賊の被害が深刻化しているそうだ。


 レヴィの計画では十分な量の物資がニートたちに支給されるはずだったのだが、途中で中抜きや横流しが多発。


 生活に困った者たちの中からは、仕方なく海賊的な行為に手を染める者も現れる。


 彼らは「本来、自分たちがもらえるはずの物を受け取っているだけ」と主張しているようだが、学園側からすれば自分たちとは関係ないので迷惑でしかないとのことだ。


 雫の話を聞いていた小麦色の肌の女海賊は、不満そうな顔をしながらも特に口を挟まなかった。


 海賊たちの目的はあくまでも物資であって、学園に対して強い敵意があるわけではないのだろう。



「なるほど、完全に理解できたわ。ようするに食べ物とかがたくさんあればいいわけね」


 ソラ姉の意見は少し乱暴な気もするが、そもそもの問題の発端が物資の不足にあるのだから、それをなんとかしようというのは間違いではないだろう。


「人間ちゃんたちには、ここにいる私の弟くんと遊んでもらうわ。そうしたら、かわりに欲しい物を用意してあげる」


 ようするに未来人の暇つぶしになる遊びを紹介してもらう見返りに、ポイントを使って必要なものを交換してあげるということだろう。







 修理した宇宙船の中に情報収集を目的とした部屋を用意した。


 もともとこの船は無人船であり、人間が長期間過ごすための居住スペースは存在していなかった。


 そこで小さめの格納スペースを改造し、ゲーム機やディスプレイ、本棚やベッドなどを運び込んだわけだ。


 部屋の大きさの関係で同時に入れる人数は六人ぐらいまでだが、家庭用ゲーム機を使う場合などは四人が調査を行い、残りの二人はベッドで休憩するというようなこともできる。というかしている。




 ポイントは順調に貯まり続けているため、最近はレヴィを真似して新たなメガフロートを建造したり、元海賊に様々な物資の取引をしたりしている。



 海賊の被害もどんどん少なくなり、問題は解決に向かっているように思われた。



 しかしながら、そのタイミングでレヴィによる北米支配が完了してしまったのだ。


 今まで中抜きなどを行えていたのは、レヴィが北米に注力していたからであり、今後はそういったことはできなくなる。

 それどころか、過去にやったことがバレれば破滅する可能性もある。


 そこで彼らは証拠を可能な限り消すと同時に、最後にもう一稼ぎするため、海賊や元海賊を討伐するという無茶苦茶な計画を立てた。



 討伐軍と決戦をするにあたり、俺たちは各所から援軍を呼び入れた。


 部隊の中核となるのは、海賊や元海賊たち。


 そこへ地球外からの応援も加える。


 たとえば、空間の穴の向こう側の住人たち。


 ソラ姉は『あちらの文明は大昔に滅びた』と認識していたが、未来から見ると現代は大昔なので、普通に人々が生活していた。


 同様の理由で銀河帝国という国家も現時点では存続しており、そこからの援軍もあった。

 無人探査船からの連絡が途絶えたため、何が起きたか確認しにきた調査隊と面識を持っていたのだ。


 真っ先に駆けつけてくれたのは、ミニソラが無許可で給水してしまった王女殿下……の腹違いの姉であるものの母親の身分の関係で王位継承権が無いため王女殿下の専属メイドをしているシャーロット。


 それから、銀河帝国の第二皇女殿下……の姉であるものの皇位継承権を放棄して帝国軍に所属しているワケあり金髪女将校のエリザ。


 こちらには最悪の場合は地球ごと破壊できてしまうソラ姉がいるので負けることはないのだが、その場合、被害がとんでもないことになってしまう。


 被害が最小限ですむように、俺たちは装備も人材も万全の状態にして決戦に挑んだ。




 戦いが始まってからは、こちらが優勢で進んだものの、秘匿していたはずの後方拠点が何度も奇襲されるなどして、なかなか勝ちきることができなかった。


 スパイや裏切りの可能性を考慮して色々な対策も行ったのだが、満足するような効果は得られなかった。


 それもそのはず――


「しずくちゃん……まさかあなたが裏切っていたなんて」


「違います、義姉さん! あれは未来のわたしです!」


 敵の指揮官は数年後の未来からやってきた雫だったのだ。


 彼女がこの時代にやってきた理由は、未来の人類を保護するためだという。


 最新の研究によると、未来人たちは大昔に調査目的で他の星へと攫われた地球人たちの末裔だと予想されている。

 そして、確定情報ではないもののその地球人たちの内の一人が雫である可能性が高いそうなのだ。

 彼女は子孫を守るために、本来の歴史を守ろうとしている。


 未来の歴史において地球は滅びたことになっている。


 だから歴史を変えないためには、いずれ地球人を絶滅させなければならない。


 人類は自らを律することなど決してできないため、放っておけば勝手に滅びる。


 しかし、アネダスをはじめとするロボットやAIによる優秀な統治がはじまってしまったら、地球人類が滅亡する未来がなくなってしまうかもしれない。


 そこで彼女は、アネダスたちの活動を妨害し続けてきたというのだ。

 今回の戦いで討伐軍を勝たせることができれば、レヴィの計画を後退させることができると考えているようだ。




 こういう場合、普通は未来を選ぶか現在を選ぶかで葛藤したりするのだろう。


 でも残念なことに、今回は最初から選択肢が決まっている。


 雫を攫うはずだった調査船って、たぶんソラ姉が撃ち落としたやつだと思うんだよね。

 帝国軍の将校であるエリザから聞いたのだが、あの船は試作機で一機しか製造されておらず、今後作られる予定もないそうだ。


 つまり、歴史はすでに修復不可能なのだと思う。


『もし未来が変わってしまったら、義姉さんだって消えてしまうかもしれないのよ! それでもいいの?』


 追い詰められた大人の雫が苦し紛れの言葉を発するが、もう遅い。



 今回の戦いの準備が忙しすぎてソラ姉に仕事を頼みまくったら「体が一つじゃ間に合わないわね……」とか言って、自分のコピーを何体も作っていた。


 適当にその内の一体を過去に送っておけば大丈夫だろう。



「ソラ姉、大人のほうの雫を捕まえてきて。それで俺たちの勝ちだ」



「いいわよ、キミのお願いは何でも聞いてあげる」

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