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9. 突然の訪問者

読んでいただき、ありがとうございます。

 突然玄関からした音に、まどろんでいた意識が一気に浮上する。

 恐る恐る起き上がり、ベッドから足を下ろす。

 結界も隠蔽魔法もかけてあるはず。

 でもあの音は何?


 立ち上がり寝室のドアにゆっくり近づく。

 ドアを開ける前にあちらからドアが開く。


 そこには顔を血濡れにした殿下が立っている。

 あまりの事に言葉が出てこない。


「アグネス、やっと見つけた」


 殿下は目を細めて笑い、手を伸ばす。

 ビクッと身を引く私を見て、殿下は「あぁ」と言ってポケットからハンカチを出し血濡れになった手を丁寧に拭くとまた手を伸ばす。


 私は殿下の手を見つめて、


「殿下、お怪我を?」


 もっと他に聞くべきことがたくさんあるが、出てきた質問がまずそれだった。


 殿下は優しく笑って、


「心配してくれるのかい?これは魔獣の血だ。僕は怪我をしていないよ」


 と優しく私を抱きしめる。血の匂いが鼻をつく。久しぶり感じるたくましい腕に、混乱の極みに突き落とされながら、なんとか言葉を紡ぐ。


「殿下、どうしてここへ?」


 殿下は僅かに身を離し、


「二人の時はシオンと呼んでくれないのかい?」


 私の目を覗き込んで場違いな質問をしてくる。動揺している私の方がおかしいのかと思うくらいだ。


「シ、シオン様、どうしてここへ?」


 とりあえず話が進まないので名前を呼んで同じ質問をしてみる。


「君を捕まえるためだよ。どうして僕から逃げたんだい?こんなに心配させて」


 愛おしそうに私の短くなった髪を手ですく。


「髪を切ったんだね。この髪型もとても似合ってるよ」


 もはやどう突っ込んでいいのかわからない。私はされるがまま殿下が髪をすくのを見ている。


「どうしてここがわかったのですか?」


 これだけは聞いておきたい。


「ふふ、本当は教えたくないけど、、どうしようかな、、」


 いたずらっ子のような笑みを浮かべて首を傾げる殿下は、そんな仕草も様になっている。

 すぐに答えてくれなそうなので他の質問をする。聞きたいことは山ほどある。


「私をパリスター修道院に送るのですか?そのためにずっと探してたのですか?なぜそこまでするのですか?そんなに私が憎いのですか?」


 すると殿下は目を丸くして私を見つめると、


「そうか、アグネスはそう思っていたんだね。だから昼間も逃げたのか。誤解させたのは僕だから仕方ないけれど、僕が君を離す訳ないじゃないか」


 そして今度は強く抱きしめる。黒い服だから気づかなかったが、殿下の服にも魔獣の血が染み込んでいるようだ。私のネグリジェに血が染み込んでいくのを感じる。


「あの家は気に入った?」


 突然殿下が言う。


「あの家?」

「卒業式の後に行っただろう?僕たちの家だ」

「僕たちの?...」


 あの王宮にあった林の中の家だろうか。


「どうしても陛下にアグネスとの結婚を認めてもらえなかったからね。聖女を王妃にしても、アグネスを他の男に渡すくらいなら、アグネスを殺して僕も死ぬって言ったんだ。そうしたらあの家で二人で暮していいと許可をもらったんだよ。もちろんリリア嬢とは白い結婚だよ」


 途中物騒な言葉が聞こえたような気がする。

 それにあの家は中から出られないようになっていたように思うのだけれど。


「リリア様はそれで納得してるのですか?」

「彼女が欲しいのは僕ではなく将来の王妃の位だよ」


 リリアの最後のあの顔を見て、とてもそうは思えないけど。


「では、パリスター修道院へは行かなくていいのですか?」

「元々行かせるつもりはなかったよ。ハイドレン公爵を納得させるためにあんな猿芝居を打ったんだ。彼は卒業式には来ていなかったけれどね。君を愛人のような立場にするのを彼は許さないだろうから、修道院へ送ったように見せて、あの家に連れて行ったんだ」

「猿芝居...」

「ディラン達はもちろん、君の友達も手を貸してくれたよ」

「.......な、なぜ私には何も言ってくれなかったのですか?」

「君はすぐ顔に出るから芝居は難しいと思ったんだ。でも僕も君に睨まれて辛かったんだよ」


 あまりの言いように絶句する。これでも王太子妃教育で鍛えているはずなのに。


「でも君は消えてしまうし、国中を探し回って頭がおかしくなるかと思った。こんなことなら王太子位など返上して君と逃げればよかったと何度も後悔した」


 さっきよりも強く抱きしめられて苦しい。この状況を喜んでいいのか悲しむべきなのか、気持ちが散れ散れになる。ではゲームのシナリオは?ゲームは関係なかったの?


「でも一ついいことがあったよ。

 アグネス、君は魔女だったんだね」


 殿下は仄暗い笑みを浮かべる。

 私は瞠目し殿下を見つめる。


「この家を見ればわかるよ。強力な結界と隠蔽魔法がかけられている。僕でもすぐには見つけられなかった。あのまま魔獣にやられてしまうかと思ったよ」


 するりと私の頬を手の甲で撫でながら、


「もっと早く気づいていれば他にやりようがあったのに。でもこれで陛下への交渉材料ができた」

「ど、どうするつもりですか?」


 殿下は美しく微笑むと目を細める。

 悪い予感しかしない。


「そういえば、さっきの質問だけど」

「さっきの?」

「アグネスをどうやって見つけたか」


 そうだった。まだ答えてもらってなかった。


「マイルだよ」

「マイル?マイルがどうしたのですか?そういえば今日はずっといなくて...... 」

「マイルは僕とも契約してるんだ」

「え!そんなことできるのですか?」


 殿下はふふっと楽しそうに笑う。


「これは王族の秘密なんだけど、精霊に二重契約をさせると契約者同士がどこにいるか探索することができるんだ。僕の精霊ゼルもラナンと二重契約をしている。王族は誘拐される危険があるから、この秘術を使うんだ」

「マイルにここを教えてもらったということですか?」

「そうだね、マイルの力を使ったというか。常に君の位置を把握していたいからね」


 常に?なんか表現がおかしいような気がする...


「でも君が消えてからマイルの力でも君を辿れなくなってしまって。最近やっとまた君の気配が探知できるようになって寝る間も惜しんで駆けつけてきたんた」


 そしてまたギュッと私を抱き締める。


「マイルは今どこに?」

「今は多分疲れて寝てるんじゃないかな?ずっと力を使わせていたから」


 一度契約を解除したからその間は私の位置が分からなかったのか。マイルが怯えていたのは私ではなくて殿下だったのでは?


 殿下は徐に私の前に跪き、私の手を取り甲に口づけをする。


「アグネス、君を愛している。僕には君しかいない。僕と結婚してください」


 真剣な目で見上げる殿下に、どうしようもなくときめいてしまう。

 やっぱり殿下が好きなんだと実感してしまう。


 あれ?そういえば、殿下が私を愛しているということは、あの呪いは殿下と私を結ばれないようにしていたということ?


 手をキュッと掴まれ、返事をしていなかったと慌てる。


「あの、私もシオン様を愛しています。あなたと結婚します」


 もう顔が熱い。真っ赤になってることだろう。

 殿下は素早く立ち上がると、私を抱きしめた。


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