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7. 仕事をするということ

読んでいただき、ありがとうございます。

 私は固まって言葉を失う。

 なぜ分かったの?

 どうして?

 早く逃げなくちゃ。

 背筋を冷や汗がたどり足が震える。


 すると、ダナーはアハハと大きな声で笑い出し、


「冗談だよ。魔力を抑える魔石を熱心に見てたからさ」


 と私の肩を叩く。

 ふうっと肩の力が抜け、倒れ込みそうなほど脱力する。


「ああ悪い、強く叩きすぎたか?」


 とまた、ニカっと笑う。

 別のお客さんと話しながら、こちらの様子も見ていたらしい。気をつけないと。


「珍しい魔石だったから見ていただけです」

「なるほどね。それで、薬草の買い取りだったな」

 

 私はカバンから紙に包んだ薬草を出す。

 主に熱冷まし使われる薬草だ。需要がありそうだと思い持ってきた。


「これは質がいいな。乾燥具合もいい。査定するから待ってて」


 そう言うと、ダナーは奥へ消えていく。

 しばらく待つと戻ってきて、


「これは君が作ったの?」


 フードを覗き込むように言う。


「祖母と作りました。何か変でしたか?」

「いや、本当に質がいい。それこそ魔女が作ったみたいにね」


 またニッと笑って言う。

 私は居心地が悪くなり、


「それで買い取ってもらえますか?」

「ああ買い取るよ。他には無い?」

「今日はそれだけしか持ってきてなくて」

「じゃあ、また持ってきてくれよ。買い取るから」


 お金を受け取り店を出る。こちらも思ったよりもらえた。相場が分からないけれど。

 薬草は買い取ってもらえたけど薬はどうだろう。今度聞いてみよう。


 この国の通貨はセリで全て硬貨だ。今回私は財布とか巾着とか何も持たずにきたのでポケットには硬貨がジャラジャラと重い。ズボンがずり落ちそうだ。でも鞄に直接入れると、もっと音がしてスリに狙われそうで怖い。家に財布があるのかも分からない。


 しばらく行くと小物や雑貨のお店があるので入ってみる。若い女の子がたくさんいる。フードを取って商品を探していると、チラチラこちらを見る視線を感じるが、自分が場違いなのはよく分かっている。財布を見つけ大きさや機能性を考えながら慎重に選ぶ。何しろ初めて自分で稼いだお金で買うのだ。濃い青色の財布が気に入り買おうと思ったが、殿下の瞳の色だと気がついて迷う。色違いの水色の財布があったのでそちらにする。無意識にあの色を探している自分が嫌になる。


 財布に硬貨を入れて鞄になおす。

 本来の目的である本屋を探すが見つからない。さっきの店に戻って聞くか迷っていると、後ろから声をかけられた。


「君、さっき薬草を売ってただろう。私も薬草を取り扱っているんだ。今度はうちに来てくれ。さっきの店よりもっと高値で買い取ろう」


 と50歳くらいの男性が名刺を差し出してくる。

 薬師 ザワリ

 住所が書いてあるが初めて来た町なのでどこか分からない。

 どこで聞いてきたのか、かなり時間が経って追いかけてきたのが怪しさ満点だ。


 私は曖昧に笑って名刺を受け取る。今度ダナーさんに確認しよう。


 そしてついでとばかり本屋の場所を聞く。案内すると言われたけど丁寧に断って場所だけ聞いて別れる。


 本屋は思っていたより大きく蔵書もたくさんあり心が浮き立つ。前世の本好きも相まり、見ていて飽きない。気がつくと昼を過ぎてもう夕方だ。数冊の本を入手しホクホクしながら帰路に着く。近くの建物の陰に入ると転移魔法をかける。


 山小屋の玄関扉前に立っている。

 前世を思い出してから、靴を履いて家に上がるのに少し抵抗ができたので、玄関で靴を脱いで上がるように変えていこうと思う。もちろん床はまだ掃除してないので今日は靴の裏を拭いて上がるだけだが。


 昼食を食べ損なったので、もうお風呂に入って夕飯にすることにする。結構歩いたので疲れ過ぎてお腹が空いてない。恒例?の夕陽を見ながらのお風呂に入る。髪が短くなって洗うのがあっという間に終わり、あまりに楽すぎて笑ってしまう。

 明日は掃除をして靴無しで、せめてスリッパで家を歩けるようにしたい。やっぱり玄関で靴を脱ぎたい。


 夕飯は久しぶりに温かいものが食べたいと、スープを作ることにする。野菜とベーコンの簡単なスープ。家にあった料理の本を見ながら作る。前世でも公爵令嬢としてもほぼ料理経験0のため時間がかかったが鍋いっぱいのそれなりに美味しいスープができた。状態保存の魔法をかけて当分食べられそう。


 寝床に入り買ってきた本を一冊開く。恋愛小説は当分読みたく無いので推理小説だ。富豪が殺され誰が犯人か探偵が解き明かしていく。面白くてつい夜更かしをしてしまう。もう少しで犯人がわかるというところでどうしようもない眠気が襲ってくる。あれだけ階段を登ったり歩いたりしたので体はかなり疲れているはずだ。あと少しで犯人が、と思いながら目を閉じたらそのまま朝まで眠ってしまった。




 そんな感じで新生活は順調に過ぎ、一週間が経った。あれから家中の床を磨き(魔法で)、玄関マットを置いてスリッパに履き替えるようにしている。


 ベティとも何度かお店にお邪魔して仲良くさせてもらっている。

 ダナーにザワリのことを聞くと案の定、評判の良く無い店で近づかないようにと厳命された。

 薬も買い取ってもらえることになって、食うには困らない程度に収入が安定して生活の不安がなくなった。祖母が私にこの家や知識を与えてくれたお陰だ。


 一つ気になることがある。

 相変わらずコップやタライに水が溜まるが魔力を感じられない。弱い魔法だからかと思っていたが、どうも違うようだ。


 今日もコップを持つ。水が溢れてくる。


「もしかして、マイルいる?」


 もちろん返事はない。が、確かめる方法はある。


 私は魔法で精霊契約の魔法陣を展開する。

 マイルと契約を解除する時に出た魔法陣を思い浮かべるが、複雑な模様なので時間がかかる。


 やっとできた魔法陣が光る。


「マイル!」


 魔法陣の上にはマイルがいる。


「どうして?もしかして帰れないの?」


 顔から血の気がひく。精霊だから国を渡ることもできるだろうと思っていたが、自分では帰れなかったのだろうか。だからずっとここにいて気づいてもらうように力を使っていたのか。


「ごめんね!気付くのが遅くなって!

 すぐにオルベルトへ送ってあげるからね!」


 私はマイルを抱えると転移魔法を使おうとする。するとマイルは慌てて腕からするりと抜け出す。


「私が怖いかもしれないけど一旦一緒に帰らないと。帰ったらまた契約解除するからね」


 マイルは頭を横に振る。


「もしかして帰りたくないの?」


 マイルは縦に頭を振る。


「じゃあ、ここにいる?」


 またマイルは頭を縦に振る。


「.......私との契約は解除する?」


 今度は横に頭を振る。


「??私が怖いんじゃないの?」


 また頭を横に振る。


 ならなぜあんなに怯えていたのか......

 これ以上は分からないので、とりあえず契約は解除しないことにする。


「じゃあ、......またこれからよろしくね」


 マイルに微笑むと、マイルはいつもの定位置の部屋の隅に蹲った。

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