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5. 引きこもり

読んでいただき、ありがとうございます。

 翌朝、目にかかる日差しで目が覚める。

 寝れるか心配してたのがバカらしくなるほど朝まで爆睡できた。自分の図太さに呆れるほどだ。


 昨日は晩に着いたので気持ちも暗くなってしまったが、日の光を浴びて気持ちが上向いている。

 さぁ、今日から一人で頑張らないと。


 早速、顔を洗おうと木のタライに水を入れようとする。魔力を集めようとすると、タライに水が溢れてくる。


 ……?

 あれ?


 もしかするとタライに魔法がかかってるのかしら?

 バシャバシャ顔を洗い歯磨きしてスッキリする。


 顔を拭きながらキッチンの壁にある扉を開く。

 外から見るとこの扉は部屋の端についているので横の庭に出るはずの位置にある。だが、空間魔法で扉の奥には食糧庫が広がっている。状態保存の魔法もかかっているため、食糧は入れた時のまま新鮮だ。

 食糧庫には棚がいくつも並び、野菜やくだもの、肉、パン、牛乳、沢山の食べ物が詰め込まれている。三ヶ月は食べるものに困らないだろう。魔女狩りの名残で、世間から遠ざかっても生きていけるよう知恵が絞られている。


 私はパンと牛乳を取ると、テーブルに座り神に祈りを捧げる。パンをちぎりながら食べ牛乳で流し込む。公爵家でとっていた食事とは雲泥の差だが、前世の記憶からすると普通の食事といえる。

 そのうち、料理もしないと。


 今日はとりあえず、一人暮らしスタート記念でものぐさしてもいいわよね。誰も咎める人もいない。


 ゆったりした時間に目を細める。今までの生活ではあり得ない過ごし方だ。


 この家は何度も祖母と来ていたが、泊まったのは初めてだった。壁にかかる薬草を見る。あれをすり潰して薬を作ったこともある。祖母から教えてもらったのは魔法だけではない。祖母はマリアから教わったと言っていた。魔法は便利だけど万能ではない。怪我や病気は治せない。それを補う方法も沢山学んだ。妃教育よりずっと有用だったのでは?


 しばらくボーとして過ごす。

 でも頭に浮かぶのは昨日の出来事や殿下の顔。あれだけ泣いたのにまだ整理できない気持ちを持て余す。呪いは発動しているのだろうか。それを確かめる術もない。


 この家の中は一応知ってるつもりだが、もう一度確認しておこう。

 やっと重い腰を上げる。


 まず玄関を入ってすぐキッチン。左の壁際コンロと流しがある。ダイニングテーブルに椅子が4つ。流しの横に食糧庫の扉。

 正面の窓の横にも扉があり、空間魔法によるトイレとバスルームに繋がっている。


 キッチンの右の扉を開けると寝室。昨日寝たベッドと、小さい書き物机と椅子がある。入って右側には三つ扉がついている。一番手前の扉はドレッサー。こちらも空間魔法で寝室と同じくらいの広さがあり、中には様々な衣装がある。こちらも魔女狩りの名残で変装用など多種多様な品揃えだ。

 真ん中の扉は薬草などの調剤室になっている。たくさんのガラス瓶が並び中には乾燥した葉や木の実、よく分からないものもある。こちらも空間魔法と状態保存の魔法がかかっているのでいつでも新鮮な材料になる。

 そしてもう一つの一番奥の扉は、開けると地下に続く階段が現れる。開けると同時に灯りがつくが長い階段は遥か下まで続いている。祖母によるとどこに続いているかは、下りる人によって変わるらしい。ちょっと怖い。私は降りたことはない。祖母もなかったらしい。寝室にこんな扉つけないでほしい。とりあえずこの扉は封印すると言うことで納得する。


 玄関から外に出る。改めて外から山小屋を眺める。木で作られた簡素な1階建ての小さな建物だ。周りは畑になっている。少し花も植えたいな。果物の木もいいかも。


 そのさらに周りは木が生えて森になっている。


 私が住んでいたオルベルト王国は大陸の西の端にあり、ここは隣の国イスタン王国の東の端にある森の中だ。オルベルト王国はイスタン王国の西側にあるため、かなりの距離がある。ここなら私が見つかることはないだろう。


 森といえば魔獣がいる。この森にも魔獣がいるらしいが、マリアによる強い結界が張られているため私は見たことがない。この家から遠く離れると見ることがあるかもしれないが、転移魔法が使えるので森の中を歩くこともないだろう。魔法を使えば魔獣を倒すのは容易いだろうが、怖いからできれば戦いたくない。


 畑を見て回る。カモミールやラベンダー、香草や薬草が風に揺れている。この畑も魔法で成長が促進され常に収穫できる状態で維持されている。

 魔法って便利すぎない?


 家の裏に回るとリンゴの木が一本植っていて、いくつも真っ赤な実がなっている。思わず見惚れるほど真っ赤だ。一つもいで水で洗おうとするとどこからか水滴が落ちてきてリンゴにかかる。


 …


 ゴシゴシ服で擦りリンゴに齧り付く。

 蜜たっぷりの甘いリンゴだ。


「マイル?いるの?」


 …


「そんなわけないわよね」


 タライといい、今の水滴といい、偶然?


 探索も終わったので家の中に入る。

 しばらくはこの家から出ないで過ごそう。

 変装して近くの街まで出るのも楽しそうだが、オルベルト王国の話を聞きたくない。王太子の婚約破棄なんて絶対噂になるはずだ。まあこんな国の端まで噂が届くには1週間以上かかるだろうけど。


 そうすると次の問題はお昼ごはんをどうするかだ。


 改めて食糧庫に入る。りんごを食べたのでかなりお腹いっぱいだが、パンを取るとハムとチーズとレタスを挟み、即席サンドイッチを作る。前世の流行歌を歌いながら紅茶を淹れてゆったりとした時間を過ごす。


 そうしていると夕方になる。ボーとしてると一日経つのが本当に早い。

 昨日お風呂に入らなかったので今日は早めに入ってしまおうと湯船にお湯を張る。空間魔法によるお風呂は壁が一面窓になっていて、今まさに沈んでゆく夕陽を眺めることができる。湯船に腰掛けながら山の端に消えてゆく夕陽を見て、また寂しさが込み上げてくる。朝は平気だったのに、日が落ちてくるとどうしてもセンチメンタルな気持ちになってしまう。


 お風呂から上がり髪を乾かしながら水を飲もうとコップを持つと、また水が溢れてくる。

 このコップももしかして魔法がかかっているの?

 昨日はマイルが入れてくれたと思っていたけれど。


 マイルは無事に仲間のところへ帰れただろうか。考えたら私について遠い異国まで連れてきてしまった。

 妖精だからすぐに帰れるよね?


 夜ご飯もサンドイッチを食べて歯磨きをする。今日一日あっという間だったなぁと考えながら紅茶を飲む。こんな一日を過ごしたのは初めてかもしれない。いつも追われるように過ごしてきた18年だった。


 寝室に入りベッドに潜り込む。何か本が読みたい。この家にある本は薬草図鑑と簡単な料理の本だけだったはずだ。本を街まで買いに行くかどうか悩む。


 あ、そういえばお金がないわ!


 公爵令嬢である私はお金を持ったことがない。買い物に行くといつも従者が支払うからだ。前世の私からしたら、なんて贅沢と思うが、貴族の風習ともいえるので仕方がない。


 どうやってお金を稼いだらいいのか。

 とりあえず売れそうなものは、薬草か。

 薬も作れるけど信用がないのに買い取ってもらえるのか。

 裏の木のリンゴは売れそうだけれど。


 のんびり引きこもろうと考えていたけれど、突然生活がかかってきて焦りが出る。三ヶ月は食糧があると思ってたが、それからどうしたらいいんだろう。パンの値段もわからない。


 祖母は私なら一人で生きていけると言っていたけれど、魔法を表立って使えない以上、お金を稼ぐには魔法を使わずに稼がなければならない。

 とりあえず薬草を売りに行くか。


 早くも予定変更で、明日街へ行くことにする。


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