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48. 夏休みに

読んでいただき、ありがとうございます。

誤字脱字報告いつもありがとうございます!

 夏休みになっても私達は相変わらず毎日会っている。

 今日は夏目の両親のお墓参りの日だ。朝から電車を乗り継ぎ、バスで千葉の山奥まで来ている。


「ここから少し山を登るんだ。香織、大丈夫か?」

「うん、山登り用にジーンズとスニーカーにしたから大丈夫」

「お墓から見る景色が綺麗なんだ」

「うん」


 石段を登っていくと左右にたくさんのお墓があり、お参りの人も多く訪れている。どんどん登って一番上の段にあるお墓にたどり着く。

 "夏目家の墓"

 お墓をきれいに拭いて水を替え、お花を供える。普段は管理人の人が掃除してくれていて雑草も生えていない。二人で線香に火を灯し手を合わせる。


「お父さん、お母さん、長い間来れなくてごめん。今日は紹介したい人を連れてきたんだ」


 夏目が私を見る。思わぬ言葉に戸惑うが、私もお墓に向かい挨拶する。


「初めまして。渡辺香織です。よろしくお願いします」


 お墓に向かって手を合わせ頭を下げる。なんか緊張する。


「俺はお父さんとお母さんがいなくても元気でやってるよ。だから心配しないで。香織がいるから寂しくないしね」

「わ、私も夏目君といると、落ち着きます」

「落ち着く?」

「うん。私らしくいられるっていうか」

「じゃあ、俺も香織といると落ち着く」


 夏目が私をお墓に誘ったのは、両親に紹介するためだったのか。


「香織、後ろを見てみて」


 振り返ると千葉の街並みが遠くまで見渡せる。テーマパークも見えて、下から涼しい風が吹き上げて汗をなぞっていく。


「ほんときれいな景色ね」

「うん。夜になると夜景もきれいなんだ」

「夜、お墓に来るのは怖いかも」

「結構人が来るんだよ」


 私は絶対に遠慮したい。


「夏目君、帰りに寄りたい所とかない?せっかく千葉まで来たんだから」


 夏目は中学まで千葉にいたので、知り合いもいるはずだ。私だけ先に帰ってもいい。


「いや、会いたい人もいないし、もう帰ろう」

「友達もいいの?」

「俺、バイトばかりしてたからほとんど友達と遊んだことがないんだ」

「そうだったの」


 母子家庭だったからお母さんを助けるために中学からバイトをしていたのか。そんな苦労をしてたなんて今の夏目からは想像もできなかった。それに比べて私は家族に恵まれて幸せなんだなと思う。


 またバス、電車を乗り継いで横浜まで帰る。

 帰りに夏目の家に寄って二人で簡単なご飯を作る。夏目は料理も上手だ。


「夏目君は料理も上手だし、いい奥さんになれるね」


 チャーハンはぱらっとしてて本当に美味しい。


「じゃあ、俺が家でご飯を作って香織が帰ってくるのを待ってるよ。いやそれじゃあダメだな。やっぱり香織は家で俺を待ってて。俺が帰ってご飯を作るから」

「ん?それじゃあ、夏目君ばっかりじゃない。私も働いて一緒にご飯を作るのは?」

「香織は危ないから家にいてほしい。ああ、早く二人で暮らしたいな。大学に入ったらここで二人で暮らさないか?」


 何が危ないのか?


「ダメだよ。おじさんの家でしょ」

「おじさんは年に数回しか帰らないし、ほとんどここには泊まらないんだ。独身だし、もう海外から帰ることはないから、このマンションも俺の好きにしていいって言ってくれてるんだ」

「それでも、うちの親も許さないだろうし」

「じゃあ、今から香織の両親に挨拶に行くよ。将来結婚させてくださいって」

「ちょ、ちょっと待って、落ち着いて。なんでそんなに焦ってるの?」

「今までのことを考えると、また何か起きそうな気がして不安なんだよ」


 そんなことを言われると私まで不安になってくる。


「もうきっと大丈夫だよ。私達はここで死ぬまで幸せに過ごすんだから。ね?」


 その時、部屋の真ん中がボゥと光り出し、見ると途端にすごい光になり目を瞑る。

 夏目も私の頭を抱きしめ顔を伏せる。


 しばらくして、目を恐る恐る開けると、頭の上で夏目の声がする。


「K...」

「え?K?」


 私は夏目の腕から頭を出すと、部屋の真ん中にKが立っている。


「K!戻ってこれたの?」

「K、心配かけやがって!」


 私と夏目はKに駆け寄る。


「夏目、香織、お久しぶりです。私を心配してくれたんですね。ありがとうございます」

「あんな別れ方したら心配するに決まってるだろ。今までどうしてたんだよ」

「私の体は一度無くなりましたが、真理子が私の記憶データのバックアップを取ってくれていて、新しい体にインプットしてくれたのでまた戻ってこられました」

「......無くなった?」

「...無くなったって、なんでだ?」

「それは言えませんが、もう大丈夫です」


 私と夏目は顔を見合わせる。何があったか聞きたいが教えてくれないのだろう。


「そうか...まあ、戻ってきてくれて嬉しいよ」

「うん、無事に、...戻ってくれて嬉しいわ」

「ありがとうございます。それより、お二人にお話があるのですが」

「なんだ?」

「夏目はシオンでよろしいですか?」

「え?ああ、そっか、前に話してたな。そうだ。俺はシオンだ」

「そうですか?もしかすると香織はアグネスではありませんか?」

「え?そうだけど、どうして?」


 私がアグネスだと話したことはない。というか、なぜアグネスを知っているのか?


「私はこの体に生まれ変わってから、真理子と共に真理子の元いた世界に行きました。そこでサラと出会いました」

「サラに?!」

「はい。サラはあなたを探しています。あなたを見つけて連れ戻してほしいと頼まれたのです」

「...どうして?」


 なぜサラが私を探しているのかわからないが、もう私は戻るつもりはない。


「シオン王太子が生きていると伝えるように頼まれました」

「なんだって?!」


 私も夏目も目を剥く。夏目はここにいる。そんなはずない。


「エルランド帝国がオルベルト王国へ攻め入り制圧しました。オルベルト王は拘束され牢に入れられています。暫定的にオルベルト王国はユリウス王子によって統治を許されています」

「そんな...」


 淡々とKが話すが、内容が内容だけに驚きしかない。


「制圧した際に帝国軍が、意識が戻らず寝たきりのシオン王太子を発見しました。しかし、かなり弱っていて危険な状態だということです」

「どうして、俺は死んだはずじゃ......」

「あちらに戻るなら私が動力になりお二人をお連れします」

「......」


 長い沈黙の後、夏目が重い口を開く。


「俺は帰らない。もうここで暮らすと決めたんだ。シオンには戻らない」


 しかしその顔は苦しそうだ。まだ捨てきれない家族への思いがあるのだろう。


「夏目君、行こう」

「香織」

「行ってケジメをつけてこよう」

「ケジメ?」

「そう、ここで幸せになるために、向こうで悔いを残さないために」

「でも、また何かあるかも。もう香織と引き離されるのは嫌だ」


 私は夏目の手を握りしめる。


「今度は必ず私があなたを守ってあげる」


 夏目は苦笑いをして私を見る。


「それは俺のセリフだろ」

「あら、魔女は強いのよ」

「香織は強いよ。俺よりずっと。芯が通ってていつもしっかり前を見てる。俺はその眼差しに憧れてるんだ」

「そ、そんなことないけど」


 夏目は私の手を見ると、ぎゅっと握り返す。


「そうだな。ケジメをつけてくるか」

「うん、一緒に行こう」


 Kが私たちの手の上に手を添える。


「私も二人を守ります」

「ありがとう、K」

「K、俺たちを連れて行ってくれ」

「はい、わかりました」


 Kが私たちの手を握る。


「着くまで決して手を離さないでください」


 頷くとKの体が光り始め、私達の体の周りに光の渦が生まれる。キラキラ光りながら回りとてもきれいだ。まるで魔力みたいと思った瞬間、渦が凝縮して真っ黒になり、星が瞬くきれいな空間を飛んでいる。


 やがて真っ黒な世界から、ぼんやりと景色が見えてくる。次第に色がつき出し鮮明になっていく。またキラキラ輝く渦が現れ煌めきながら消えると、私達は再び君影の世界に来ていた。

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