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46. K

読んでいただき、ありがとうございます。

誤字脱字ありがとうございます!

 ホームルームに夏目は現れなかったが1限目には戻ってきた。目が赤く腫れている。


 一回離れようと言ったが、教室は同じだし席も隣同士だ。でもあと一か月で一学期も終わり、二月期からは文系理系で半分以上は授業が分かれる。そうすればケジメをつけられるはずだ。


 私は授業に集中しようと必死に前を向くが、どうしても意識は右に向く。


 彼がここで生きていたことは良かったと思うし、ここで幸せになってほしいとも思う。

 しかし、私が彼に関わることはもうない。

 思ったよりも自分の心が静かで、まるで湖の底に沈んだ船のようだ。暗い湖底で静かに横たわる。



 学校が終わり帰路に就く。夏目はあの後、話しかけてこなかった。

 このまま、これが普通の毎日になったら気持ちは楽になれるのかな?


 家に帰り部屋のドアを開けるとKがいる。

 忘れてた。

 自分が思っていたより一人になりたかったみたいだ。


「ただいま」

「おかえりなさい、香織」

「今日は何をしていたの?」

「本を読んでいました」


 私の本棚を指差す。本棚にはラノベや推理小説などKが興味を引くような本はないはずだ。


「何を読んだの?」

「これです」


 差し出された本は私が一番好きな恋愛小説だ。


「...そう。面白かった?」

「はい。とても為になります」


 なんの?と聞きたかったが我慢する。


 夜に今日の宿題をしているとKが見ている。


「K、この問題分かる?」

「はい」


 Kの説明はとても丁寧で分かりやすい。ついでとばかりに、他の科目も教えてもらう。どれもKは完璧だ。さすが真理子の作ったロボット。


「ありがとう。すごく助かったわ」

「お役に立てて嬉しいです」

「充電は順調?」

「それが、思ったよりもできていません」

「そうなの。ここではダメなのかもしれないわね。どこかに移動した方が、」

「いいえ、ここが一番いい場所です」

「...そう」


 まあそう言われれば仕方ない。



 翌日は快晴だ。だが私の心は晴れない。また一週間後にはテストが始まる。

 ちらりと隣を見ると、夏目は一心不乱に計算式を解いている。数学のテスト勉強か?まあ勉強に打ち込むのはいいことだ。




 ハッピーの散歩をしながらマイルは元気にしているだろうかと思う。

 私と契約解除し、殿下もあっちで死んだからもう契約は切れている。やっと自由になってホッとしているだろうか。


「香織」


 振り返るとKがいる。もちろんロボットの姿ではない。Kには人間に変身する能力もある。今の見た目は本当に人間としか思えない。


「その服は...また兄の?」

「ああ、ちょっと借りた」


 口調まで違う。

 こうやって私がハッピーの散歩に出る度に、この時代を見てみたいと付いてくる。いつもの散歩コースを周り、何の変哲もない街を歩く。ハッピーはKが気になるのか足元で仕切りに匂いを嗅いでいる。


 二人で家に帰り着く。そろそろ透明シールドを張ってもらわないと、そう思った時、家の門の前に夏目がいるのに気づく。


「渡辺!」


 夏目も私に気づきこちらへ来ると、Kに向き合う。


「夏目君、どうしてここに?」

「渡辺に話があってきたんだ。この人は?」

「この人は......Kよ」

「渡辺のお兄さん、ではないよな」

「君も仲間か?時空を渡ってきたな?」


 夏目がKの言葉に驚いている。しまった。こんなところで夏目に会うとは思わなかったので、口止めをしていなかった。


「あっちから来たのか?誰なんだ?」

「彼はKよ。真理子が作ったロボット」

「ロボット?...本当に?人間みたいだ」

「今は姿を変えているから」

「どうしてKがここに?」


 家の前で話しているから、お母さんが気がついて出てこないか不安だ。


「ここではゆっくり話せないから、明日学校で話しましょ」

「いや、俺も渡辺に話があるんだ。今から俺の家に来ないか?」

「夏目君の家に?」


 夏目は遠い親戚に引き取られたと言っていた。確かお母さんの従兄弟で、仕事で海外にいるらしい。


「ああ、俺しか住んでいないからゆっくり話ができる」


 一瞬迷うが誰かに聞かれるわけにはいかない話なので仕方がない。


「わかったわ」

「俺も行こう」


 ハッピーを家に入れると私たち三人は夕暮れ時の街を歩いて行く。意外と私の家のすぐ近くの高級マンションが夏目の家だったことに驚く。


「ここだったの?こんなに近くで全然会わなかったね」

「俺はよく渡辺を見かけてたよ」


 私が気がつかなかっただけなようだ。

 玄関を入ると流石高級マンション、床は大理石のタイルで玄関からすごく広い。


「おじさんは年に数回帰るだけなんだ」


 部屋もすごく広い。案外片付いて掃除もされている。

 夏目がお茶を淹れてくれるのを手伝う。コップはバラバラだ。おじさんは独身だからか揃いのものはないらしい。


「それで?どうしてKがここにいるんだ?」


 ダイニング椅子に座り落ち着いたところで、夏目が切り出す。


「Kは私がこっちに来た痕跡を追ってきたの。私を仲間だと思ったみたい」

「本当にロボットなのか?まるで人間みたいだ」


 Kが姿を変える。途端に硬質な金属のロボットになる。兄の服がチグハグだ。


「...本当にロボットだ。真理子は凄いな」

「真理子は今未来にいるの。だけど未来の話はできないみたい」

「それで、何で一緒に犬の散歩をしてたんだ?」

「あー、それはね、今うちにいるから」

「なんだって?」


 夏目が眉間に皺を寄せてKを睨みつける。


「なんで?」

「私のエネルギーが無くなり帰れなくなりました。エネルギーが溜まるまで香織の部屋に置いてもらっています」

「部屋に?」


 夏目が信じられないと私の顔を見る。


「か、家族にバレるわけには行かないでしょ?それにKはロボットだし」

「でも男だろ?」

「はい」


 余計な相槌をKが打つ。


「たった一週間だし」

「すいませんが、もう少し充電に時間かがかかりそうです」

「え、そうなの?後どれくらい?」

「二週間くらいかかるかもしれません」

「そんなに?」

「わかった。ならKはここに住めばいい。俺は一人だし誰に遠慮することもない。渡辺も助かるだろう?」


 夏目が意外な提案をする。


「そうだけど、いいの?」

「ああ、俺もその方がいい」


 Kを見ると、Kも私をじっと見ている。


「私もKはここの方が、のびのびできると思うわ」

「......わかりました」


 なぜか長い沈黙の後、Kが頷く。


「よろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」


 夏目が満足気に笑うのと対照的にKは肩を落としている。


「それで、夏目君の話って何?」


 よく考えたらもうテスト三日前だ。散歩から帰ったらすぐに勉強するつもりだった。最近はKに教えてもらって、だいぶ捗っていたが、これからは自分で考えないといけなくなる。早く帰らないと。


「実は、向こうの世界に帰れるかもしれないんだ」

「......今、なんて?」

「だから、またシオンとして向こうで生きられるかもしれないんだ」


 私は血の気が引いて行く。これほど拒否反応が出るなんて。私の沈黙をどう捉えたのか夏目は話し続ける。


「こっちでも一度死んだけど、死ぬ少し前に戻って生きてるだろ。それと同じことが向こうの世界でも起こるかもしれない。だから戻る手段をずっと探してたんだ」

「...そう」

「前に渦が現れたのはマイルの力だけじゃなく、多分あの神社も関係していたと思う。あの神社の方角は昔から鬼門と言われて、魔に通じる門があると言われていらしい。それに他にも調べてみたら、あの日は太陽の活動が活発で磁波が乱れていた。異世界に通じやすかったんじゃないかと思うんだ」

「確かに太陽の磁波の乱れは異世界に通じやすくなります」


 Kが同意する。夏目は計算式を出してきてKに見せている。


「前に真理子の本を見た時に、宇宙の磁波の流れが書かれていたんだ。その流れに乗れば向こうに帰れるんじゃないか?最近また太陽フレアが大きくなって磁場が乱れているから」

「帰れるかもしれませんが大変危険です。向こうから呼ぶ力かこちらからの動力がないと宇宙を彷徨うことになるかもしれません」

「それなら大丈夫だ。俺の精霊ゼルが案内してくれる」

「ゼルとは死んだ時点で契約が切れてるでしょ?」


 精霊とは魂の契約だ。もう繋がりは消えているはず。


「それがゼルもこっちに来ているんだ。こっちで生き返ったからついてきたのかもしれない」

「そんな。じゃあマイルも?」

「マイルの力は感じない。元々アグネスの追跡をする時だけしか力を使えなかったし」


 見えないが夏目の周りに視線をやる。やっとマイルは自由になれたと思ったのに。


「だから渡辺、一緒に向こうの世界に帰ろう」



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