39. キラ
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あっという間に日が過ぎ、皇太后の生誕祭一週間前になる。
準備は順調に進んでいて、城の中も飾り付けや客人などで賑わいを見せ始めている。
特に魔女に関しては興味の対象らしく、度々面会を求められるが全て皇太后と皇帝が対応してくれている。なので、魔女と知れ渡っている私とミリーはあまり表立って外出できなくなっている。
城の中でさえも顔を隠すように魔術師のローブを羽織りフードを被って移動している。
この日もローブで隠しながら調剤室へ行こうと廊下を歩いていると、前方から歩いてきた人にぶつかりそうになる。
「あ、すいません」
フード越しに前を見ると見覚えのある人が立っている。
「こちらこそ、申し訳ありません。壁の装飾に目を奪われておりました」
人好きのする笑顔を浮かべ私を見る。深い栗色の髪に灰色の目をしている。
彼の名前はキラ。苗字は無い。パート2の攻略対象だ。
私の後ろに控えていた衛兵が前に進み出て、間に入ってくれる。
「ここは許可のあるもの以外立ち入り禁止だ。お前は誰だ?」
衛兵がキラに詰問する。
「広くて迷い込んでしまったようです。お許しください。演舞会場を探しておりました」
「それなら下の階だ。後ろの階段から降りて右に行けば分かるだろう」
「ありがとうございます」
去り際、キラが振り返り私を見て笑う。
絶対間違えたんじゃない。どうしてここへ?
私は調剤室へは行かず、皇帝の執務室へ向かう。
執務室へ着き中へ目通りの許可を申し入れると、すぐに中に通される。
部屋には皇帝と殿下以外にもたくさんの人がいて、みんな忙しそうだ。間も無く開催される皇太后の生誕祭に向けて詰めの協議に入っているのだろう。
「アグネス、何かあったの?」
殿下が心配そうな顔をして側に来る。
「シオン様、お忙しい所申し訳ありません。先程、廊下でキラに会いました」
「帝国入りをしたのは確認していたよ。今日は演舞の練習があるはずだが、アグネスに会うなんて。何もされなかったかい?」
「はい、直ぐに衛兵が間に入ってくれて、道を教えると去って行きました」
「アグネス、生誕祭が終わるまで危険だから、もう部屋から出ないで。僕も一緒にいるから」
皇帝が立ち上がりこちらへ来る。
「シオンは生誕祭の準備があるだろう。心配なら私の部屋の近くにアグネスを移そう」
「では私も移ります」
皇帝の提案に素早く殿下が答える。
「いいえ、私に危険はないと思います。彼はターゲット以外は傷付けません。それに警戒しすぎると逆に怪しまれます。できるだけ部屋から出ないようにしますので大丈夫です」
キラは暗殺者だ。ゲームの中では平気だったが、実際に会うと底知れぬ怖さがあった。
殿下達はキラの動向を把握しているようだ。私は安心して執務室を辞して調剤室へ向かう。
ダナーへの定期便があり、今日はどうしても薬を作らないといけない。
調剤室へと入るとミリーがいる。
「ミリー、なんの薬を作っているの?」
「ハリーが咳をしていたから喉の薬を作っているの」
ミリーはようやくハリーの黒炎より大きな黒炎を作れるようになり、二人は付き合いだしたようだ。
「そう。良かったわね」
「え?何が?」
「ふふ、なんでしょう?」
「もう、そんなんじゃないわよ」
ミリーは真っ赤になって薬を持って出て行く。
初々しいな。
私は毛生え薬を作る。なんか虚しい。
それから魔女研究所へ行く。
真理子の本を読んでからは、ほぼ毎日通い詰めている。
真理子はとにかく膨大な資料を残していて、その魔力に対する考察にはかなりの時間をかけていたのだろうと頭が下がる。研究者の魔女。一番縁遠い組み合わせのように感じるが、真理子だからこそ魔法や魔力を科学的に解明できたのだろう。ファンタジーとして解明する必要はなかったかもしれないが。
「アグネス、ちょっとこれを見て」
カミラはすっかり研究が板についている。白衣を着たら似合いそうだ。
カミラの差し出す紙を見てみる。
「これは...」
紙に書かれているのは、精密なロボットの設計図だ。私はこのロボットを知っている。
どうしてこれがここに?
このロボットもゲームの攻略対象者だ。
魔法の世界にロボット。かなりインパクトのある設定だったため当時話題になった。紙の右上にK'ケイ'と書かれている。
突然異世界から訪れるKに、この世界の人々は戸惑い攻撃するが、Kには傷一つつけることができない。異世界に来て孤独なKに主人公が寄り添い、Kの優しさに次第に周りも態度を軟化させていく。
Kは真理子が作ったの?そんな技術が今の日本にあるのか?もしかすると真理子は私がいた日本より未来から来ていた?
そして、何のためにロボットを送り込むのか?
「形は人間だけど体は機械でできているみたい。何だか不気味よね」
「これはロボットですね。日本で見たことがあります。人間の補助や手伝いをしてくれるのです」
「そうなの。日本は発展しているのね」
「魔術や魔法が無いので科学技術が進歩したのだと思います」
設計図以外を探したがKに関するものは見つけられなかった。
明日は皇太后の生誕祭が開催される。ここ数日、私はできるだけ大人しく部屋にいるようにしている。今日も私の部屋でサラとミリーと集まってお茶を飲んでいる。
「いよいよ明日ね。上手くいくかしら」
「サラが暗殺を止めるのでしょう?」
「え?私はもうゲームのイベントには関わらないから何もしないわよ」
「冗談よ。私も何もしないわ。明日はただアルタニア様の誕生日をお祝いするわ」
「もう、焦らさないでよ。明日は街でもお祝いのお祭りがあるから、教会の子供達と出かける予定なの」
サラは毎日教会へ行き、子供達に勉強を教えている。
「私もハリーとお祭りに行きたかったけど、警備があるから行けないの。でも休憩時間に一緒にご飯を食べる約束をしてるのよ」
「はぁ、惚気ちゃって。私だって黒炎が作れるのよ」
「だ、駄目よ。ハリーはもう私と付き合ってるんだから」
「ふふ、分かってるわよ。私は当分、恋愛はパス」
明日、私は殿下と共に宮廷の広間で開催される誕生日式典に参加する予定だ。
皇太后は私を魔女としてみんなに紹介して、魔女の地位を高めたいと言っていたが、殿下と私は断固として反対した。
しかし、殿下はまだオルベルト国の王太子であり末席というわけにはいかないらしい。それを考えると少し憂鬱だ。
式典当日、私は朝から侍女二人がかりで着飾られる。正式な国を挙げた式典なので正装は当然なのだが、最近ではずっと楽な服ばかり着てたのですごく疲れる。夜までこの服を着ると思うだけで辛い。髪は肩より少し長くなったけど、アップにするのに苦労していて申し訳ない。
ノックが聞こえて侍女が扉を開ける。振り向くと殿下も正装で現れる。前髪を無造作に後ろに流し、豪華な刺繍が施された黒の燕尾服を着ている。思わず見惚れて言葉を無くしていると、殿下が側に来て私を抱きしめる。もっとよく見ていたいのに。
「アグネス、とても綺麗だ。君を誰にも見せたくない」
「わたしもシオン様を誰にも見せたくないと思いました。とても素敵です」
ますますぎゅっと抱きしめられるが、コルセットと相まって苦しい。肩を叩くと、ようやく離してくれる。
「ごめん、着崩れてしまうよね。ああ、でも心配だな。こんなに綺麗だと狼に狙われる」
「ん?殿下の言っている狼ってもしかして...」
「誰のことだと思ったの?」
「...いいえ、何でもありません。私は狙われないので大丈夫です」
「ふぅ、ますます心配だよ」
殿下は私の頬に手を添えてため息をつく。
なんでた。
殿下の方が女性陣を虜にしていきそうで心配だ。




