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36. 黒い炎

読んでいただき、ありがとうございます。

誤字脱字報告いつもありがとうございます!

 私はまた調剤室を借りて薬を作っている。サラも誘ったが面倒臭いと断られたのでミリーと二人で来ている。セシルはすっかり体が元気になり、剣術を習ったり、字を習ったりしている。

 ミリーはよく薬を作っているらしく、もう私が教えることはない。


「セシルのために薬を作れるようになっておきたくて。あの子には私のために辛い思いをさせたから」

「あなたのせいじゃないわ。心無い大人が悪いのよ。でも調剤を覚えるのは良いことよ。魔女の力が及ばないことも補ってくれるわ。

 そういえば、ミリーはハリーとどうやって出会ったの?」

「ええ?セシルに剣術を教えてもらっているから訓練所へ行った時に。なんでそんなことを聞くのよ?」

「ふふふ、なんででしょう?」

「もう!今からセシルの訓練を見に行くけど一緒に行く?」

「セシルにも会いたいし、もちろん一緒に行くわ」



 城を出てすぐ隣に騎士の訓練場がある。沢山の騎士が訓練をしている端の方でセシルが剣を振っているのが見える。


「セシル!頑張って!」


 セシルはこちらを見て笑顔で手を振る。あんなに弱って生気なく横たわっていた姿が嘘のようだ。元気になって本当によかった。


「やあ、見学かい?」


 私達に気づいてハリーがやってくると、ミリーは頬を赤らめている。


「ハリー!訓練ご苦労様。セシルの様子を見に来たの」

「セシルは覚えもいいし体幹もいい。いい騎士になれると思うよ」

「セシルが聞いたら喜ぶわ。ハリーの教え方もいいのよ」


 もう熱々ね。私はお邪魔だったかも。


 視線を訓練所の奥へやると魔術師団が見える。紫のマントが翻り凄まじい氷の柱が天に突き上げ、次の瞬間、氷は砕け散りスターダストが舞って七色に光る。とても綺麗だ。


 水の上位魔術だ。私はとてもできない。


「あれはナリスですね」


 私の視線に気がついてハリーが言う。

 ナリス・マクミラン。彼も攻略対象だ。

 一人会えると続けて会えるものだな。


「アグネス嬢は彼に興味があるのですか?」


 じっと見つめていたからハリーが誤解している。


「綺麗な魔術だから見惚れてしまっただけです」

「そう、なら私の剣術もぜひ見てほしいですね」

「私も見てみたいわ」


 後ろから声が聞こえて振り返ると、サラが歩いてくる。


「サラも訓練を見に来たの?」


 ミリーが牽制するが、構わずサラはハリーに話しかける。


「ハリーは今から剣術訓練をするの?」

「ご希望とあればお見せしますよ」

「是非見たいわ、お願い」


 サラがハリーと連れ立って歩いて行くのを、ミリーと後をついて行く。ミリーはかなり不機嫌だ。サラは一体どういうつもりだろう。もうすぐ帰るのに、もしかしてハリー狙いじゃないよね?


 ハリーは近くの建物へ入って行く。中は剣の訓練所になっていて、一段高い四角い闘技場に模擬剣をつき合わせた騎士が闘っている。その闘技場の下に私達を案内して、ハリーは模擬剣を掴むと近くの騎士に声をかける。声をかけられた騎士も模擬剣を持つと、闘技場にいた騎士は勝負がついたのか降りてくる。


「危ないからここから見ていて」


 ハリーと相手の騎士が舞台に上がり、二人が剣を構えて向き合う。


 相手の剣が閃き光を放ちながらハリーへ撃ち込まれる。風の上位魔術の雷を剣に纏わせているようだ。帝国の騎士や魔術師は質が高い。

 ハリーはひらりとそれを避けながら、脇腹を狙うが相手も辛うじてそれを避ける。ハリーは自分の剣に炎を纏わせ足元から掬い上げるように剣を振ると、剣の軌跡に沿って炎が舞い上がる。相手は剣を振り炎を霧散させると、剣からバチバチと電気が迸る。


 舞台の周りに炎などの魔術が漏れないように結界が張ってあり、見学している私たちのところまでは届かないようだ。目の前で起こる綺麗な剣戟に目を奪われる。訓練というより剣舞を見ているようだ。

 次第に相手が押されているのか動きが鈍くなる。ハリーは剣を右手で持ち左手に黒い炎を灯す。相手はそれを見て驚いている。

 あの黒い炎は何?

 ハリーが剣を左から横薙ぎに切り込み向かって行く。それを相手が剣で防ごうとした時、ハリーは左手で相手の剣を掴む。剣は黒い炎に包まれ消えてなくなり、ハリーの剣が相手の喉元へ突きつけられている。


 鋼の剣が燃え尽きた?みんなが呆然とする中、相手の騎士の声が響く。


「隊長!いいところを見せたいからって模擬剣を破壊しないでくださいよ!」

「ふふ、またアベルに怒られるかもしれないな」

「凄いわ!今のがなんでも燃やし尽くしてしまう黒炎ね!」


 サラがはしゃいだ声で言う。

 黒炎は炎の上位魔術で、ゲームにも出てきたが本当に扱える人を見たのは初めてだ。


「そう、黒炎は燃やせないものがない。それでお願いがあるのですが、魔女の能力で黒炎を消してみてほしいのです」

「黒炎を消す?どうして?」

「私は感情の抑制ができない状態になると無意識に黒炎が出てしまうことがあるのです。それは危ないでしょう?」


 それは確かに危ない。今までどうしてたんだ。


「試してもらえませんか?」


 私達は顔を見合わせる。するとミリーが意を決して前に出る。


「私がやります!」

「私もやる!」


 サラも負けじと前に出る。


「ありがとう。では一人ずつ。ミリーからお願いできるかな?」

「はい!」


 ミリーは得意げにサラを見て闘技場へ上がる。サラはムッとした顔をしている。



「ミリー、危険なのであまり近づき過ぎないように気をつけて」


 そう言うとハリーは左手に黒炎を出す。

 どこまでも黒い漆黒が怖い。


 ミリーは小さな水の竜巻を出して黒炎にぶつける。しかし竜巻は掻き消えた。次に大きな氷の塊を出し黒炎に乗せるが、これも掻き消えた。少し考えてから今度は風を巻き起こし黒煙の周りを取り巻くように竜巻を起こす。竜巻の勢いに黒炎が上に伸び舞い上がる。そのまま天井へ着くかと思ったが竜巻は掻き消えた。


「ダメね。次は私よ」


 サラが闘技場へ登り、ミリーはがっくり肩を落とし降りてくる。

 サラは手に大きな炎を出し、それを黒炎へ向け放つ。だが炎は黒炎へ吸い込まれる。サラは今度は雷を放つが、また吸収される。


「あれ?目には目を、火には火を、だと思ったのに」

「次はアグネスよ」


 私は闘技場へ上がる。


 目には目をか。


 私は両手のひらを上に向ける。次第に思い描いたものが形を作っていく。

 それを見てハリーは目を見開き驚いている。


 私は手のひらに現れた黒炎をハリーの黒炎に近づける。するとハリーの黒炎が私の黒炎に吸い込まれ大きくなる。私はそれを確認すると手のひらの黒煙を消す。


「凄い!アグネス!その方法があったのね!」


 ミリーが早速手のひらを上に向けている。しかしいつまで待っても黒炎は出てこない。


「あれ?どうして?」


 サラも同じように手に集中しているが出ないようだ。


「なんで出ないのよ!」

「サラ、ブラックホールを思い描いてみて」

「ブラックホールって何よ?」

「...知らないの?」

「知らなきゃダメなの?」

「......ハリー様の黒炎は恐らく燃やすのではなく何もかも吸収しているのだと思います。だから同じものを作り吸収しました」

「吸収?しかし、火の上位魔術なのになぜ?」

「大爆発の後に何もかも吸い込む漆黒が現れることがあるのです」

「できたわ!」


 サラの手のひらに黒炎ができている。


「思い出したわ。星が死んだら爆発してブラックホールになって、何もかも吸い込むんだったわね」


 ハリーは手に黒炎を作り出しサラの黒炎に近づけていく。しかしサラの黒炎がハリーの黒炎に吸収されてしまう。


「あれ?どうして?」

「ハリー様のより大きな黒炎を作らないといけないようね」

「そんな!もう一度」


 しかしまたサラの黒炎はハリーの物に吸い込まれる。

 ミリーは上手く思い描けないのか形にすることができないようだ。私も原理はよくわかっていないが。


「アグネス嬢、お願いがあります」


 ハリーは思い詰めた顔で私を見る。


「はい、なんでしょう?」

「私と、結婚してもらえませんか?」

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