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31. 新たな学校生活

読んでいただき、ありがとうございます。

 目を覚ますと夕方だ。いつの間にか眠っていたみたいだ。カリカリと扉をラッキーが引っ掻く音が聞こえる。母が扉を開けるとラッキーが中に走り込んでくる。


「ラッキー、今日はお姉ちゃんは具合が悪いから、お母さんとお散歩ね。さあ、行くわよ」


 母が首輪と紐を持つが、ラッキーは私のベッドの足元をじっと見つめている。


「お姉ちゃんが元気になったら連れて行ってもらおうね」

「ごめんね、ラッキー」


 母がラッキーを抱っこして連れて行く。

 何を見てたんだろうと足元を覗き込むが何もない。


 だいぶ熱も下がり気だるさが取れてきた。

 まだフラフラするがなんとか起き上がり台所へ行く。コップに水を汲もうと持ち上げると水が溜まっていく。


「え?!マイル?」


 辺りを見回すが姿はない。


「マイルいるのね?私と一緒に来ちゃったの?」


 やはり姿は見えないが、この水はマイルしか考えられない。

 精霊の契約は魂の契約だと聞いたことがある。私の魂に引っ張られ、こちらに連れて来られてしまったのか。


「マイル、ごめんね。あなたまで連れて来てしまって。でも私には帰る方法が分からないの」


 精霊は確か大地の力を元に生きているはず。この世界の大地の力で大丈夫なのか?


「マイル、私はどうしたらいい?どうしたら帰れるの?」


 涙がとめどなく出てくる。マイルがいてくれる安心感からか、でも帰れない悲壮感からか。




 しばらく泣いて落ち着いてきた頃に、母が帰ってきた音が玄関から聞こえる。慌てて顔を洗い誤魔化す。


「もう起きて大丈夫なの?夜ご飯食べられる?」

「うん、多分もう大丈夫。ご飯も食べるね。汗かいたからシャワー浴びてくる」


 お風呂に向かいシャワーを浴びながら、泣いている場合じゃないと自分を奮い立たせる。




 次の日、目が覚めると熱も下がっていたので学校へ行くことにする。テストはなんとか解けたと思う。昨日のテストの分は後日受けることになり辛い。


「なあ、火事にあったらしいな。大丈夫だったのか?」


 夏目が話しかけてくる。


「うん、隣の家が火事になったんだけど、うちは大丈夫。その後、熱が出たから昨日は一応休んだんだ」

「そうか、大変だったな。無事で良かった」

「心配してくれたの?ありがとう」

「当たり前だろう。また勉強教えてもらわないといけないしな」

「最悪」

「ははは」



 テスト最終日、午前のテストの後、昼からみんながクラブに行く中を、別室で一日目のテストを受ける。

 こんなに頭を使ったのは久しぶりというくらい頑張った。

 テストは辛いけど気が紛れて良かったかもしれない。何もしないでいると、どうしようもない苦しさに押しつぶされそうになる。


 夜にまた"君影"のアプリを起動する。もう何回目かわからない。

 殿下の顔を指でなぞる。今、殿下は何をしているのだろう。



 それから一週間が過ぎた。

 テスト結果は思ったより良くてホッとした。

 このまま日本で生きるなら来年は受験だ。

 そう思うと帰れない怖さが押し寄せる。


 ただただ平穏な毎日が過ぎて行く。

 マイルのために庭に花をたくさん植え、部屋にも鉢植えをたくさん置いている。効果があるかは分からないが、毎日コップに水が溜まるのを確認して安心している。

 ラッキーが私の足元をじっと見ている時があるので、もしかするとラッキーにはマイルが見えているのかもしれないと思う時がある。


「学園祭の買い出しに行ってくるね。お昼ご飯は外で食べるから」


 朝ごはんの食器を洗いながら母に言う。日本に戻ってからお手伝いもするようにしている。

 二週間後に学園祭があるので、今日はそのための買い出しを文化祭委員の夏目と佐藤さんと行く。二年生は展示だ。


「帰り遅くなる?夕ご飯にお豆腐買って来てほしいんだけど」

「そんなに遅くならないと思うよ。豆腐買ってくるね。行ってきます」


 もし今、私が君影の世界に戻ることができたとしても、家族は私がいなくなり悲しむだろう。

 でも、君影の世界で私がいなくなったことを、

 あちらの家族が悲しんでいるかもしれない。


 駅に着くともう二人が待っている。


「おはよう!待たせてごめんね」

「時間通りだよ。行こうか」

「おはよう、渡辺さん」


 電車で大型ショッピングセンターへ向かう。休みの日なので家族連れで賑わっている。クラス展示はプラネタリウムなので電球や黒い布など結構な量になり、学校へ送ってもらうことにする。


「昼ご飯はどこで食べる?」

「その前にお手洗いに行ってくる。渡辺さんも行かない?」

「そうね。じゃあ行っておこうかな」


 お手洗いに着くと佐藤さんが手を合わせてくる。


「お願い、渡辺さん!夏目君と二人にしてほしいの!」

「え?どうしたの?」

「あのね、私、夏目君のことが好きなの。だから、」

「ああ!そういうことね!分かった!ごめんね気が利かなくて。私は用事ができたから先に帰るって夏目君に言っておいて」


 私は相変わらず恋愛には鈍いらしい。二人がうまくいくことを祈る。


 駅に着き電車が来るのを待つ。やがて電車が駅に滑り込んでくる。

 もし電車に飛び込んで死んだら君影の世界に行けるのかな?

 そんな思いが頭をもたげてくるが、ただ死んでしまうだけかもしれないと思いなおす。


 帰りに駅前にある大きな本屋へ行く。何か君影の世界に帰る手がかりになるものはないかと探す。

 アプリの紹介記事が載った雑誌があり、"君影"パート2も載っている。その雑誌を買うと、近所のスーパーで豆腐を買って帰る。


「早かったのね。お昼ご飯は食べたの?」

「はい、豆腐。食べてこなかったんだ。何かある?」

「素麺でいい?」

「うん、私が作るよ」


 素麺を食べながら買ってきた雑誌をめくる。

 サラと皇帝の絵が載っていて、魔女と皇帝のシンデレラストーリーと書いてある。サラは時空を操る魔女で、皇帝を影で助けながら次第に惹かれあっていくらしい。


 時空を操る。私を送り返したあの魔法も時空魔法だろうか。パート2のアプリは一週間後に公開されるらしい。

 雑誌をめくっていくと、異世界という単語が目につき手を止める。ある神社で行われる年に一回あるお祭りで、鳥居が異世界と繋がると書いてある。たくさんの人が訪れ鳥居をくぐるらしい。毎年何人か行方不明になっているとまことしやかに書かれている。


 神社の繋がる異世界なんて妖怪がいそう。私の知っているあの異世界とは違うだろうけど、行ってみようか。日にちは来月の十五日で約三週間後だ。隣の県だけど電車ですぐ行ける。できることは何でも試してみようと予定に入れておく。



 週が明け、放課後に展示の製作が始まる。買ってきた物を確認して、みんなで電球に色を塗ったり、電飾ワイヤーで繋いだり忙しい。


「渡辺、話があるんだけど。ちょっといいか?」

「何?夏目君」


 夏目に連れられ人気のない廊下の端に連れていかれる。佐藤さんのことかな?そういえば今日、佐藤さんは休んでいる。


「昨日、何で先に帰ったんだ?」

「あぁ、ごめんね。急用ができたんだ。買い物は終わってたからいいかと思って」

「急用って?」

「え?あの、お母さんに買い物を頼まれて」

「急ぎの買い物だったのか?」

「いや、うん、そうだね」


 やけに食いついてくる。夏目は、はぁとため息をつく。


「本当は佐藤さんに頼まれたんだろ?」

「え?...分かってたの?」

「昨日、佐藤さんに告られた」

「そう」


 佐藤さんの行動力が凄い。それでどうなったのか?


「...好きな子がいるからって断ったよ」

「そうなの?」


 だから佐藤さんは休んでいるのか。辛いだろうな。


「俺の好きな子が誰か気にならない?」

「え?誰なの?」

「はぁ、全然気がついてないな」

「...私そういうの疎いみたいなの」

「俺が好きなのは...渡辺だよ」


 夏目が真っ直ぐに私を見て言う。


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